神との戦い


あたしはライトと共に未知の先へと足を踏み入れた。
全能の神が作る…新しい宇宙へ。

本当に、本当に最後の戦いへ…。





「ここは…」






扉を潜った先は…不思議な空間だった。
月並みな言い方だけれど…本当に、見た事の無い景色。

何も無い…。
でもその中にひとつ、ぽっかりと浮かぶひとつの球体…多分、あれは、新しい星だろう。

そして、あたしとライトが進むためだけに設けられた、ただひとつの道がある。
その先に続くのは、輝ける強大シルエット…。
それは初めて目にする…万能の神ブーニベルゼの姿だった。

そしてそのシルエットの中心には、ひとりの少年の姿が浮かんでいる。

…よく知っている、少年の姿。





「……。」

「……。」





ライトは黙ったまま歩き出した。
あたしも、何も言わずにそれに続く。

神へと続く、たったひとつしかない道。

その道の終わりは、神の目の前だ。

道の端まで来たあたしとライトは、じっと先を上げた。
そこに浮かぶ、少年を。

神にその身を奪われた、彼では無い…彼を。





「見よ。今まさに生まれいずる、新しき星を。再び生まれ変わらんとする、数多の魂を」





ホープの声がした。
でも、ホープじゃない。

彼の体で話す、神の声。

それは大好きな声だった。とてもとても、あたしが一番好きな声。

でも大好きな声なのに、全然違う。
感情の無い…冷たい声。





「されど、新生の時ははるか遠のいた。あの新しき星は、滅びねばならぬ」





そんな声で、神は言った。

今そこにある新しき星を見よと。
それは人々が生まれ変わるための、新しい世界だった。

しかし、神はその星を滅ぼすと言う。





「創っておいて、もう壊すとはな」





その言葉にライトはわざと棘をつけて返した。
あたしもライトと同意見。だからじっと、睨むように神を見ていた。





「そなたらが招いた事だ。そなたらが禊を阻んだがゆえ、あれらの魂は悪しき魂に囚われている。新しき星、人の魂、ともに清めの炎に融けよ」

「そしてまた天地創造をやり直し、人間を造り直すのか。記憶も絆もすべて忘れた、過去の無い人間を」

「新たな世界にふさわしい人の姿だ。嘆きも恨みも忘れはて、純粋な歓びのみがある」





神が言うのは、禊の時、司祭が言ってた言葉のままだった。
これが神の意志…。死者の魂を悪しき魂と言う…。

…胸糞が悪い。

あたしはギリッと拳を握りしめ震わせた。





「そんなものは人間じゃない。人の形をしただけの人形だ。ブーニベルゼ。神様は最後まで人間を理解出来なかったな」





ライトが突きつけた。
そんなものはお門違いの歪んだ考えだと。

でも、神の耳には届かない。

そしてその時、ホープの姿の背後にあるシルエットが…色濃くなっていくのが見えた。
神の…ブーニベルゼの本来の姿が見えてくる…。

そして同時に、響く声が…二重に重なって聞こえるような。





「いかにも。神には人の心は視えぬ。それを認めているからこそ、こうして卑しい人のみを器としたのだ」





人の何倍もある姿…。
ブーニベルゼはそう言いながら、その大きな指先ひとつをホープの顎に添えた。

そしてクイッ…とその顎を上へと上げさせる。





「…っ」





その光景にあたしは思わず息を飲んでしまった。

もう、ホープの体はブーニベルゼのもの。
こんな卑しい人の身…どうとでも出来るという現れ。






「この肉体を種子に還し、書き換え、造り直し、育て上げ…」

「っ…ホープ!!」





ブーニベルゼはホープの体を幾度となくその手を叩きつけて傷つけた。
為す術も無く、ただ痛めつけられる。

そんなホープの姿にいてもたっても居られなくなって、あたしは思わず声を上げた。

その声を聞いたからかはわからない。
でもその瞬間、ブーニベルゼはホープを痛めつけるのをやめ、その代わりにぐったりとしたその体を、首を、腕を、まるで操り人形のように光の糸で吊るしあげた。

操り人形…。
実際そうなのかもしれない。

この体は神のものだと、そう、まるであたしたちに見せ付けているかのよう。





「不浄なる血肉から成る身体を神を宿す器と成した」





ホープが子供の姿をしていた謎が解けた。

169年前、ホープを幽閉したブーニベルゼはホープの身体を造り直した…。
自らが宿るための器とするために…。

だからホープには…混沌が視えなかった…。





「神の愛と誉れとせよ。人の心を読んで慈しむために、神は惨めな人の身に降りて、人を知り人を想う、現人神となろう」





視えないから、その心を読むために人の身…ホープの身体を利用した…。

ブーニベルゼはそう言うと、その瞳の視線をぎろりとあたしに向けてきた。

ぞわりとする。でも絶対、逸らさない。
あたしは向かい立つようにその視線を睨み返した。





「女神の力を継ぐ者よ…。そなたはこの器を愛しているのだろう。神に従えば、この身体で、この声で、とわに愛を囁き続けよう」

「あたしは、ホープの器だけを愛してるわけじゃない!!!」





吐かれたその言葉に、恐ろしい程に嫌悪した。

確かにその手も、声も…全部、ホープのものだ。
だけどそれをあたたかく、愛おしく感じたのは…。

本当に、こいつはなにも…人のことを理解で出来ていない…。

怒りで吐き気さえした。





「ひとつ聞く。その身体の、ホープの心はどこへやった」





あたしが神を睨んでいると、今度は隣にいたライトが一歩前に出てそう言った。

ホープの心…。
それは最後の日を迎えたあの時、あたしたちの前から消えて…見えなくなってしまった。

するとブーニベルゼは、操り人形と貸しているその身体の支えを緩ませをふわりと宙に泳がせた。
そしてゆっくりと落ちていくホープの体を手のひらで掬い、ぐしゃりと一気に握りつぶした。





「忘れたか。神に人の心は視えぬ」





そう言いながら開かれた拳の中…。
そこにはもう何も…、あとかたもなく無くなっていた。

胸が、痛い…。
ホープの身体とともに、自分の心まで握りつぶされた様な感覚を覚えた。





「女神の力を継ぐ者よ。そなたの心は混沌に融けず、失われる事が無かった。まるで何者かが守護しているかのように」

「……。」

「失われぬ心…奪えぬ感情…。だからこそ、女神の候補をふたつ据えた。そなたが機能しなければ解放者を、解放者が機能しなければ女神の力を継ぐ者を」





ブーニベルゼは語る。
あたしを、箱舟に置いていた理由。

あたしの心は、ディアボロスが守ってくれていた。
ゆえに神はあたしを自由には出来なかった。

だからこそ、ライトを女神の代わりとして立てる事を考えた。

ライトにはセラと言う人質を取り、魂を集めさせる解放者としての任を与えつつ、その身を神へと近づけさせた。
その輝力を聖樹を介してあたしとリンクさせ、ふたりの力を同時に高めさせながら…。

あたしが駄目ならライトを、ライトが駄目ならあたしを。

用意周到。
つまりはどちらかを、女神の代わりとして仕立てあげられれば良かった。

でも、その女神の候補はふたりとも神に牙を剥く。





「…はー…」





あたしは、胸の痛みを抑える様に息を吐いた。

今目の前にある現実は、途方もなく辛くて、苦しくて。
だけどその痛みは確かな決意へと変わっていく。

もう、何も迷うことなんかない。





「ブーニベルゼ…少し迷っていた。もしもお前が人を救う神だったら、倒していいのか…迷っていたが、躊躇う理由はなくなった」





ライトも同じことを思ったようだった。
だからライトはそう言い切り、剣を構えてブーニベルゼに向けた。





「うん…倒さなきゃ、人の未来のために」





あたしはライトに頷いた。
するとライトもあたしを見てふたりで頷き合う。

ブーニベルゼは神を倒すというあたしたちを冷めた目で見下した。





「神を倒せるとでも?」

「死神なら滅ぼせるさ!お前が私を、私たちをそう鍛えたんだ」

「悪いけど、奇跡はあたしたちの得意技なの。出来る出来ないの問題じゃない、やるしかなければやるだけだよ」





神を倒せると思っているのかというブーニベルゼに、あたしたちは迷わず答える。

あたしは、仲間の言葉を借りた。
ファングと、そしてホープと一緒に糧にした…今、隣にいる彼女の言葉を。





「然り、解放者、女神を受け継ぐ者、そなたらを新たな女神とすべく幾多の試練を与えてきた。心にやその力を解き放ち、最後の試練に挑んでみせよ!」





すると、それを聞いたブーニベルゼは迎える様にその両腕を大きく広げた。
そしてその両手にコクーンとグラン=パルスの…それぞれの神の力を召喚する。





「絢爛なるパルスよ、悠遠の彼方より来たれ。燦然たるリンゼよ、玄奥の最中より来たれ。新しき女神らよ、輝ける神の全き光で祝福しよう。全霊をもって称えるごとくにそなたらを打ちのめして迎え、とこしえに愛でよう」





神の歪んだ寵愛…。
そんなものはいらない。

ただ望むのは、大切な人達が笑う…そんな未来。

はじまる…。
本当に、本当に、最後の戦い。

あたしは、自分の手がちっぽけだって…よく知ってる。

だけど。

絶対に打ち勝って、そして絶対に探す。
絶対に、またあの手を掴むよ…ホープ。

そう心に誓い、神との戦いが今、はじまった。



To be continued

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