世界の最期へ


万能の神ブーニベルゼ。
奴はあたしとライトの目の前で大切な仲間たちを奪い去って行った。

そして、はじめてこの目にしたその神の姿は…とても、とてもよく見知った少年の姿をしていた。

…ホープ。
最後の日のはじまり、消えてしまった彼。

正直、動揺した。

神は、ホープを消したのではなく…その小さな体を器としたのか。





「ライトニング様〜!ナマエ〜!」





あたしたち以外の存在が消えたこの深淵の間に、可愛らしい声が響いた。
見ればそこにはパタパタとこちらに飛んでくるモーグリの姿があった。





「モーグリ、お前…」

「モグ!」

「モグは最後までお傍にいるクポ!」





今朝、箱舟を訪れてあたしたちの身を案じてくれたモグ。
そして今、この最後の時も傍にいるためにここまで追いかけてきてくれた。





「モグ…」

「クポ…ナマエ、大丈夫クポ?」

「うん…大丈夫。来てくれてありがと」





モグはパタッとあたしの傍に寄ってきてくれた。
だからあたしは手を伸ばして、その白い体をきゅっと抱きしめた。

生き物の、誰かの生きているぬくもり。

それを感じると、なんだかちょっとホッとした。
もう世界が終わると言っても、ううん、未来を望んでいるからこそ…そのぬくもりは尊かった。





「解放者を迎える試練の道が開いたクポ!聖なる像は、神の元に繋がっているクポ!」





モグの話を聞き、あたしとライトはこの広間の一番奥にある扉を見た。
聖なる像が建てられた、一番奥の扉を。





「ブーニベルゼはあの向こうか」

「クポ!神様が新しい宇宙を作ってるクポ!」

「新しい宇宙…新しい世界を作ってるんだね…」





穢れなき魂を転生させるための新しい世界。
そこへの道が、あの扉から繋がっている。

…ううん、穢れも何もない。
それは、すべての人々が生まれ変わるための世界だ。

ヴァニラが導いてくれた魂たちも含め、この世界に生きた人々が目指す星。

そのための最後の戦いの舞台…か。





「人智を超えた神の領域か。踏み込んでしまったら、もう帰ってはこれないな。これが最後の戦いか…」

「ライト…」





ライトはぐっと拳を握り、そう呟いていた。
あたしはその顔を見つめた。

あたしは、この人の背中を守りたいから。





「しっかり準備するクポ」

「悪いなモーグリ。最後の最後まで付き合ってくれて」

「お役にたてて感激クポ!」

「それに、ナマエ…」

「…ライト」





ライトはモグにお礼を言ったあと、その視線をあたしに向けてくれた。
あたしもその声に応えるようにライトと視線を合わせた。





「ライト。あたしはついていく。一緒に戦うよ。魔力、凄く高まってるのわかるから…。きっと、手伝えることはあると思う。だからあたしは、みんなの分も貴女の背中を守るよ」

「フッ…随分背負ったな」

「あははっ、だね。うん。でもね、皆もそう願ってるって思うの。それにあたし自身、ずっとずっと昔から思ってた事だから。ライトの力になりたいって」

「……。」





なんだか凄く素直になれる。
もうすべて終わってしまうから、かな。

でも間違いなく本心だから。

昔、出会ったころ…ルシとして旅をしていた時、貴女はあたしとホープを守ってくれた。

そして皆も、ここに駆けつけてくれたのは、仲間の力になる為。
ライトの力になるためでしょう?

…ホープだって、ライトの力になりたいといつも願ってた。

だから今貴女の傍にいられるあたしが、その想いを引き受けるのは当たり前だ。
きっと、支え切るにはちっぽけだけれどね。





「神の元に出向く前に、まず…解放者を迎える試練とやらをやってくる。ナマエ、少し待っていてくれ」

「試練、あたしも手伝えないかな」

「解放者を迎える、だからな。なに、すぐ終わらせて来るさ」

「…気を付けて」





この広間には四隅にも扉があり、そこにはそれぞれ4つ、解放者の試練が用意されているらしい。
神の元に行く前にライトはそれをこなすべく、まず、ひとつめの試練に向かっていった。

あたしはモグと一緒にそれが終わるのを待っていた。

でも、少し丁度良かったかもしれない。

実は色々と考えとか、整理したいことがあって。
だからあたしはその間、モグにも話を聞きながら、最後の答えあわせをしていくことにした。





「ねえ、モグ。あたしちょっと引っ掛かってるっていうか疑問に思ってる事がいくつかあって…ちょっと聞いてみても良いかな」

「クポ。モグが答えられることなら喜んでクポ」

「ありがと」





モグは伝言を預かっていたくらいだし、こういう試練のことも知ってるから、なにか答えが見つかるかもしれない。
しん…とした広間の中、あたしはモグと少し話をした。





「あのさ、あたしさっき魔法使ったら凄い威力になってたんだよね。それってさ、やっぱり神様のせい…だよね。ライトが解放者として力を得る度に、あたしも強くなってるような気がして…」

「クポ…神様はナマエにユグドラシルの一部を埋め込んだのクポ。ライトニング様が得た輝力の恩恵をナマエも受けられるように。だからナマエも、神様に近しくなってるのクポ。そして、女神様の力もより引き出されてるクポ。だからきっと魔法を使ったらドカーンだったのクポ」

「神に近しく…それと、女神か…」





女神エトロが力を与えた者…。
よく、そう言われる。

ブーニベルゼがあたしを手元に置いたのも、きっとそれが要因だろうって。

でも、終末を迎えた今も…その実感はあまりないけれど。





「ねえモグ。モグは女神があたしに渡した女神の力ってわかる?今まで敵や、いろんな人に言われた。でも全然実感なんてないの」

「女神様の力クポ?ナマエはルシだった時、烙印の進行がそこまで早くなかったとか、シ骸にならなかったって言ってたクポ。それとライトニング様の記憶を忘れなかったこと。それは女神様の力クポ」

「え?生まれ育った世界が違うから皆より悲観しなかったことと、時間の流れ方がこの世界と違うからって思ってたけど?」

「大元の理由そうクポ。だから女神様の力はその助長クポ。わかりやすく言えば混沌が溢れずあのまま時が流れてもナマエはライトニング様のことを忘れなかったと思うクポ」

「…じゃあ、もともとあった切っ掛けを手伝ってくれてたってことか」

「そもそも女神様はナマエにそこまで強力な力を与えるためじゃなくてそういう小さな奇跡を起こすために力を渡したのクポ。今は、全能の神様の力で一気に引き出されているけどクポ…。でも、一つだけ鍵があって、ナマエの心が満たされた時、その力が一気に目覚めるようにしたのクポ。きっと、元の世界に帰れるように」

「…元の世界に帰る為の力…」





あたしをこの世界に呼んだ女神様。

女神が力を与えたって、爆発的な力を使うっていう想定ではなかったらしい。
ただ要所要所でその恩恵は受けていた。

そして女神はあたしが役目を果たしたのち、元の世界に帰ることが出来るように力に仕掛けを施した。

ヲルバ郷の碑石にも書いてあった。

心が満たされた時、ひとつの望みを叶える…。

この世界で生きることを決めて、もう何百年も経った。
だから元の世界に帰ることなんて、正直もう頭から抜け落ちてしまっていたと思う…。

でも、まだ、願いを叶えることが出来るまでに心が満たされていないんだろう…。
この戦いが終わったら、満たされるのだろうか。





『セラの贈り物だよ』





ライトが4つの試練を終えると、それぞれの扉にあった像から光が放たれた。
その光は部屋の中央にある祭壇にへと注がれる。

ライトは携えていた剣をその光に当てた。

するとルミナの声が聞こえ、見ればその剣は何か強い、不思議な力を纏っていた。





『取り戻して。それで、失ったものすべて。お姉ちゃんならきっと出来る』





ルミナの言葉はセラの代弁だった。
今までルミナの言葉には半信半疑なところもあった。

でも今回は本当に、本当にセラの言葉だろう。





「そうか。すべて取り返すさ。お前と一緒に。世界の終わりに、最後の血を流そう」





ライトは剣を振りかざしその使い心地を確かめていた。
セラの贈り物…授かったその力は、必ずライトの力になる。





「ライトニング様とナマエにはわかってたクポ?ノエルもファングもスノウもみんな来るって」





モグはあたしたちに尋ねてきた。
最後の日、何も言わずともこの場に集ってくれた仲間たちについて。

あたしがライトを見ればライトもこちらを見ていて顔を合わせる形になる。

確証な無かったけど、でもきっと、予感みたいなものはあったのかもしれない。





「未来を知っていたわけじゃないさ。あいつらを信じていた。それだけだ」

「あは、そうだね。みんな黙って終末を迎えるようなタマじゃないよ〜。…でも、やっぱり駆けつけてくれて実際に顔が見れたのは、嬉しかったなあ…」

「想いは受け取った。神が創る新たな世界を人の手に必ず奪い取る。万能の神だろうが、必ず倒す」





ライトはそう言って扉に目を向けた。
最後の戦いの場所…神のいる、決戦の地への扉。





「この先に踏み込んだらもう戻れないクポ!こうなったらモグもお供するクポ!」





モグはパタパタとライトの傍に寄ってそう意気込んだ。
でもライトはその意気込みをゆっくりとモグに返した。





「モーグリ。ここで待っていてくれ。お前には灯火になって欲しい。混沌に彷徨う魂を照らしてくれ」

「クポ…」

「ふっ…お前は目立つからな。きっとセラはお前の輝きを目印に帰ってくる。笑って迎えてやってくれ」

「お任せクポ!!」





ライトは微笑んだ。
その微笑みを見たモグはライトの願いを聞き入れた。

キラキラと輝くモグのポンポン。
確かに、この輝きなら良い目印になるかもね。

クルッと宙で回ったモグにあたしはなんとなく笑みが零れた。

こうやって、ちょっと心穏やかになれるのはきっといいことだ。

そして、ライトはあたしにも言った。






「…ライト。前だけ見て。あたし、貴女の背中を守る」

「…ああ、礼を言う。だが、お前にはもうひとつ仕事があるだろう?」

「えっ?」





あたしにもうひとつ、仕事?
ライトの言葉に小さく首を傾げる。





「私はあとひとつ、魂を解き放つ。その魂を捕まえるのは、お前の仕事だ」

「……。」




ライトはそう言いながらあたしの肩を優しく叩いた。

…ああ…うん、そうだね。

解放者が救う、最後の魂。
解き放たれたその魂を抱き留めるのは、あたし…。

うん…。人任せじゃない。
その役目は、あたしでありたい。





「うん。探して、ちゃんと捕まえる。手、離さないって…ずっと昔に約束してるから」





あたしは己の掌を見つめた。

お互いの、頼りない手。
何度も何度も、励ますように握った。

そして、互いの存在を、確かめあうように。

離さないって、誓ったから。





「全部、全部取り戻す…!」





失いたくないものがたくさんある。
失ってなるものか。

思い出したのは、コクーンでの最終決戦の時。

ねえ、皆は視たんだよね。
皆が楽しそうに笑ってるヴィジョンを。





「あたしは皆が笑ってる未来が欲しい。だから戦う。絶対に掴み取る!」

「…ああ、掴んでみせろ」





ライトはそう言ってあたしの肩から手を離し、くるりと扉に向き直った。

心強い、決意の感じる背中。

でも、その時あたしは少しだけ違和感を感じた。
今…目、合わせてくれなかった…?

ライトは扉に手を掛けた。





「輝ける神ブーニベルゼ。たかが人間ごときの力でお前を倒せはしないだろうな。けれど私は人ではなくなる。神の手で造りかえられた私は、死を導く者となって、お前を混沌に連れていこう…」

「ライト…」





ライトはぐっと拳を握りしめた。

もう、何か声を掛けることなどできない。
必ず倒す。その決意を確かに感じて、それに水を差しそうで。

もう、前だけ見る。

…あたしも。





「行くぞ、ナマエ」

「…うん!」





扉が開く。
ライトとあたしは、神の待つ世界の最期を見届けに向かった。


To be continued

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