「待たせたな!」
「ヒーロー参上か」
「500年ぶりにな!」
聖宝が発動されそうだったピンチの瞬間。
そこに駆けつけたヒーロー。
ライトがお決まりの言葉を掛ければ、ニッと笑って笑顔を見せる。
天井から現れたのはスノウだった。
魂の解放された彼の顔にはすっかり明るさが戻っていた。
そこにあるのは、かつてのような眩しさ。
それが凄く懐かしい。
だからまた、あたしは嬉しさがこみあげるのを感じた。
そしてその感情のままにスノウの名前を口にした。
「スノウ!」
「うお!ナマエ!?おう…よかった、無事だったんだな!」
「うん!」
あたしは笑顔で頷いた。
きっと、スノウに負けないくらいの。
だって、スノウは知っていたはずだから。
あたしが消えた時のこと。
彼の事だから、きっと心配してくれたはずだから。
だから無事をちゃんと伝えなきゃって思った。
「魂の光だよ」
そしてその時、ファングに支えながら立ち上がったヴァニラがそう呟いた。
今も死者たちの魂は、この場を彷徨っている。
聖宝が消えた今、もう消し去られる事は無い。
今度は彼らを、新しい世界に導かなくてはならない。
「はじめるね」
「死んじまうぞ」
「一緒なら、大丈夫」
ヴァニラは心配するファングに微笑みながらゆっくり膝をつき、胸の前で手を組んで祈り始めた。
するとファングもヴァニラの後ろに膝をつき、後ろからヴァニラの手を両手で包むように握りしめた。
「死んでも離さねーからな」
「うん」
ふたりは共に、祈って死者たちに呼びかけた。
魂たちを、新しい世界に導くために。
最後の鐘が鳴り響くとき、古き世を離れ、天の箱舟を目指して。
それは新しい世界に生まれ変わるための希望。
生ける者、死せる者、共に新しい世界へ。
そうふたりが導いた時、魂たちの光が眩い光を放った。
それは希望を知った、そんな輝きに思えた。
「すべての魂は解き放たれる。お前もな」
「ありがとう、ライトニング」
ライトが声を掛けると、ヴァニラはそっと笑みを返した。
そして力を消費した身体にはその反動があったのか、ヴァニラとファングはふたりでその場に倒れこんでしまった。
その際、ふたりからは輝力が溢れ、ライトの中へと注がれていった。
それはふたりの魂が解き放たれた証拠だった。
そしてその瞬間、辺りに鐘の音が響き渡った。
「はじまっちまったな、終末がよ。この鐘が終わるとき…」
『時は終わり、償いも終わる』
鐘の音を聞いたスノウの声に答えるように少女の声がした。
この声は…。
その瞬間、ふたりの少女があたしたちの前に現れた。
「ユールに…ルミナ?」
あたしは少女たちの名前を口にした。
そこに現れたのは時詠みの巫女ユールと、先ほど別れたルミナだった。
ルミナはライトを見ていた。
『あなたが何より欲しいもの、返してあげる。ここにいる、あの子をね』
ルミナは胸に手を当て、ライトに向かいそう言った。
ライトが何よりも欲しい、あの子…。
そんなもの、考えるまでもなく一つしかなかった。
でも、ルミナの中にいた…?
わからなくて頭を悩ませれば、ユールがその答えを教えてくれた。
『ルミナは、あなたが創った棺。あの子の想いをとどめる函』
「あの子と言うのは…」
ライトは尋ねた。
いや、わかってはいるはずだ。
だけど、きっと確証が欲しくて。
頭に浮かぶのはたったひとり…最愛の妹、セラの顔だけだから。
『あなたが解放者として目覚めた時、セラはいなくなっていた』
『あなたの中にいたセラは、ブーニベルゼに切り捨てられた。でもそのままじゃ、セラの魂は混沌に融けてしまうから』
「お前が、守っていてくれたのか?私に代わって…」
ルミナは頷いた。
そしてルミナはゆっくり、遠くを見ながら言った。
『私たちは、神様の手から零れ落ちたもの。神の手で切捨てられたセラを、守るためだけに私は在った』
「ルミナ…お前は」
『あなたがちゃんとしていたら、いなくてよかった!ただの、入れ物…。私が私として生きた時間は、これで終わり…』
ルミナは最後に少し感情を露わに、強く、そして寂しげにそう呟いた。
そして最後のその一瞬だけ、あたしはルミナと目が合った。
ルミナはすぐに逸らしてしまったkれれど…。
待って…いや、何か…まだ…。
何か引っかかる…まだ、ひとつ。
《…ナマエ…たすけて…》
ルミナ…大聖堂に入る前、きっとそう言っていた。
その言葉が何故か引っ掛かって…。
「ルミ…!」
だから呼びかけた。
でもその瞬間、ルミナとユールは消えてしまった。
そしてその直後に一瞬だけ、ライトやルミナと同じ薔薇色の髪が揺れた。
『お姉ちゃん!』
「セラ…」
たった一言。
お姉ちゃんとだけ口にし、消えてしまったセラの姿。
終末の鐘が響き渡る。
その時、ヴァニラとファングも意識を取り戻し、全員でひとつの光を見た。
「最後の鐘が、終わるとき…」
「神が、目覚める…」
ファングとヴァニラがそう口にした瞬間、カッと強い光が部屋の奥から満ちた。
「来るぞ!」
スノウがあたしたちを庇うように両手を広げて前に出てくれる。
そしてその背中の向こうに、その光の中に、小さな人影を見た。
光と共に襲い来るのは突風の様な衝撃。
あたしたちはそれを耐えながら、その光の中にある人影を見ようとした。
けど…。
その時、あたしは目を見開いた。
「え…」
思わず漏れた声。
見えた人影。いや、実はその時、一瞬見間違いかとも思ったんだ。
けど、いや…あれは…。
光の中に見える、銀色の髪…小さな、少年の体。
「輝ける、至高の神…お前が、ブーニベルゼ…!?」
そう言ったライトの声にも、少し困惑が滲んでいるように感じた。
あれは…あの姿は…。
そこに、神としているのは…。
「解放者よ、女神の力を受け継げし者よ…」
ゆっくりと手を上げながら、そう語りかけてきた声。
そこには抑揚が無かった。だけどそれは間違えるわけもない、彼の声。
「ホープ…!!」
困惑で出なかった声が、やっと出た。
口にしたそこにいる彼の名前。
でもその時、スノウ、ファング、ヴァニラの姿が光に包まれ神の元へと強制的に引き寄せられた。
為す術も無い。瞬時に奪われる。
その光は、小さな掌の上へ。
「預かった」
光を握り締め、そしてまた抑揚無くそう言う。
「来たれ解放者、女神の力を継ぐ者。新しき世界の始まりを共に迎えよう」
言い残された言葉。
それを最後に、神はその場から姿を消した。
…神?
そう、神だ…。
だけどあの姿は、見間違うはずもない…彼の、ホープの姿をしていた。
To be continued
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