積み重なっていく想い


世界の終わる日。
忘却の禊を止めようと大聖堂に向かったあたしたちの元へ駆けつけてくれたノエル。
彼は敵を押さえ、あたしたちに道を開いてくれた。

必ず辿りついて、大切な人達を救う。

ノエルに会ったことによって、その気持ちはより強いものへと変わった。
彼の想いも、必ず未来に届けるために。

あたしとライトは大聖堂の奥へ奥へとひらすらに走った。
駆け下りていく階段は長く長く続いていた。

どんどんどんどん深い地下へと降りていく。

でもその途中、あたしとライトはちょっと異様な光景を目にすることになった。





「えっ…ライト、あれ」

「誰が倒した?先客がいるのか」





進む道の途中、あたしたちが目にしたのはいたるところに転がるいくつもの魔物の亡骸だった。
誰かがあたしたちより先にここを通って倒した?考えれる可能性として一番しっくりくるのはそれだ。

だとするとライトの言う通り、一体誰が倒したのだろう。

その答えは更に進んだ先でわかった。





「あっ!」

「なるほど。あいつか」





階段の途中の少し開けたフロアで響いていた戦いの音。
駆けつけたあたしたちの目に飛び込んできたのはキマイラと戦うファングの姿だった。





「よう、ライト。遅かったじゃねーか」





足音が聞こえたのだろう。
そしてこんな日にここまで進んでくるのはライトしかいない。

ファングはキマイラに槍を叩きこみながらそう軽く声を掛けてきた。

あたしは、そんな戦うファングの姿を見て胸をぐっと掴まれた様な感覚を覚えた。
これは凄くシンプルな感情。懐かしいと言う想いだ。

ノエルに会ったこともあって、皆に会えるという事が尊く思えてたまらない。





「ファング…っ!」





そんな感情に突き動かされるまま、あたしは彼女の名前を呼んだ。

するとファングは一度大きな一撃をキマイラにいれ、キマイラが怯んだ隙に少し距離を取ってこちらをチラリと見た。

目が合う。あたしを見たファングの瞳は大きく見開かれた。





「あ!?ナマエ!?」

「うん…!ファング!」





ファングはあたしの名前を驚いたように口にした。
久しぶりに名前を呼ばれて、なんだか嬉しくてあたしは笑って頷いた。

するとその直後、キマイラが再びがファングに向かって爪を振り下ろしてきた。

だけどそこは流石なものでファングはその攻撃をいとも簡単にいなしてむしろもう一撃を華麗に突き立てた。

まさにお見事、って感じだ。
そんな様子を見れば、ライトもふっと軽く笑みを零した。





「その余裕なら援護はいらないな」

「そう言うなって。付きあえよ。一緒に野郎をブッ絞めよーぜ!おら、ナマエもよ!」





ファングはそうあたしたちに言ってきた。

その時隣にいるライトの顔を見れば、その表情には笑みが浮かんでいた。
なんだか楽しそうな感じ。

ライトは剣に手を伸ばした。





「仕方ないな。行くか。ナマエ、わかっているな?」

「…、あはっ、うん!勿論!」





ライトはあたしにそう声を掛けるとファングと共にキマイラをブッ潰すべく駆け出して行った。
一方で頷いたあたしは、そんなふたりに向かい掌を向けて魔法を唱えた。

ふたりはアタッカーだ。
あの旅をしていた時から、一二を争う攻撃の要。

そんなふたりに真っ先に送るのは、その攻撃力の引き上げ効果だ。





「ブレイブ!!!」





頼むよふたりとも!!
攻撃力を上げたふたりは、その勢いを更に増していく。

きっとこのふたりは息も合うのだろう。
相変わらずのコンビネーション。

そこからはそう時間も掛かる事無く、キマイラは一気に沈められた。





「わー!さっすが!お見事〜!!」





そう息も乱さずしなやかに戦闘を終えたふたりにあたしは思わず拍手を贈った。

するとファングがこちらに近づいてきた。
そして目の前まで来ると、コンッと軽く拳で頭を突かれた。





「バーカ!」

「あたっ…、えへへ」

「へへ、久しぶりだなぁ、ナマエ!」

「うん!」





ファングは小突いた拳を解くと、わしゃわしゃと頭を撫でてくれた。
ああ、本当に本当に懐かしい。この掌が、懐かしてたまらないのだ。





「えへへっ!ファング〜!!」

「…とっ」





なんだかあの頃に戻ったような感じ。
頼もしいお姉さんに甘えるような。

考えればもう、1000年も前のこと…なんだよね。

あたしはその勢いのまま、思わずファングに抱き着いた。
するとファングも笑いながら受け止めてくれて、また優しく頭を撫でてくれた。

ああ、本当に本当に懐かしい!

けど、残念だけどいつまでもこうしてはいられないね。

さて、じゃあここからは真面目は話だ。
あたしはファングから体を離すと、その笑みを抑え、彼女を見上げた。





「ファング。あたしたちもね、ヴァニラのこと止めに来た」

「忘却の禊について、どこまで知っている?」





あたしが話を切り替えたことによりライトもそれに合わせてファングにファング自身が状況をどの程度把握しているのかを尋ねた。





「前も言ったろ。死んでも浮かばれねー連中を綺麗さっぱり消そうって儀式だ。死者は無に還り、苦しみから救われる。ヴァニラの命と引き換えにな」





ファングは答えた。
あたしたち自身、儀式についてはファングから聞いて知った部分もあったし、概要はこれで間違っていない。

でもどう止めるかという部分であたしたちとファングの意見は違ってる。
あたしたちの場合は、どちらかと言えば止めるというよりはヴァニラを正しい方へ導くが正しいのだろう。

もっとも、それを教えてくれたのは死者…その代弁者たるレインズさんだったから、ファングが知らなくても無理はないんだけど。





「ファング。あたしたちもね、儀式は止めるの。でもその代わり、ヴァニラには別に出来ることがあるんだ」

「は?」

「ヴァニラは自分の真の力を知らされていない。あいつには他の誰にもない救いの力がある。ヴァニラが呼びかければ、死者たちも生まれ変われるんだ」





あたしとライトはファングにそう説明した。

死者たちを嘆きから救う為に、彼らを消す必要なんて無い。
だって彼らだって、生まれ変われる。

それを聞くと、ファングの顔色も変わった。





「なんだと?じゃあなんで救世院はこんな儀式を。救える魂をわざわざ消す必要もそのためにヴァニラが犠牲になる必要もねーだろ!」

「…これは、死者を楽にする儀式じゃない。生者が楽になるために儀式なんだ。死んでいった人々の存在を無にして、その想い出さえを忘却することで、過去を否定することによって、あらゆる因縁のしがらみから、人の心を解き放つ。それが、救世院の計画だ」

「よーするに、過ぎた事は忘れて楽になろうって話じゃねーか。そんなくだらねー儀式のためにヴァニラを死なせられるかよ」

「そうだよ。こんなの死者たちだって望んでない。これをヴァニラに伝えなきゃ。救いたいと願ってるのに、これじゃ真逆だもん。あたしも、ヴァニラのこと死なせたくない。全部繋がって、叶うよ」





あたしたちは進むべき先を見つめた。
扉がある。

きっと、もうすぐだ。

そしてその時、凄く感じた。
仲間と、その想いは重なっているのだと。

ノエルも、ファングも。

だからきっと…。
なんだか不思議と、心強さが増した気がして。

これはきっと、セラも…それに、ホープも。
ふたりも望んでいるもの…。

改めて、決意が固まる。

こうしてファングも加え、あたしたちは再び足を進めたのだった。



To be continued

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