父と息子とひなチョコボ


『サッズ。魂の箱を用意してくれ。ドッジの魂のかけら、5つとも揃った』





魂のかけらをすべて集めたライトはその足ですぐにサッズの家へと戻った。

かけらが揃った。
それを聞いたサッズはハッと、やっと顔を少し上げてくれた。





『マジかよ!?あんだけ探しても俺にゃあひとつも見つけられなかったのに…それを、あんたが全部集めてくれたわけか。ありがとよ…感謝の言葉もねえ』





希望が見えたことで、心にも少し余裕が出来ただろうか。
サッズはここではじめてライトの顔をしっかりと見てくれた気がする。

そう思ったその時、突然部屋の中から小さな鳴き声がした。





『ピピーッ!』





ふわっと宙にはねた黄色いもの。
それはあのルシの旅も共にしたひなチョコボの声だった。

鳴き声を聞き、その存在に気が付いたライトはひなチョコボを見て少し首を傾げた。





『そのチョコボ…前はいなかったな』

『家出してたのが不意に戻って来てな。ドッジが買ってたチョコボでよ、名前はチョコリーナってんだ』

『チョコリーナだと?』





ああ、やっぱり。
あたしがそう思ったと同時、多分みんなそこで繋がっただろう。

名前を聞き返したライトの頭には、きっとあの彼女の姿が浮かんだはず。
ちょっこりーん、と言うあの声と共に。





『そんなことよりドッジの魂だ。魂の箱はそこにあるから5つのかけらをそおっと入れてくれ。ばらばらになっていた魂が中でひとつになるらしい。そこから先は、俺がやるからよ』





サッズはそう言い、座り込んでいたソファから立ち上がった。





『箱を開けて、ひとつになった魂をドッジの体に戻すんだ』





ライトは言われた通り、テーブルの上に置いてある箱の中に集めた魂のかけらをそっと入れていった。
最後にぱたん…と蓋を閉じる。この時点では、何の変化も無い。

あたしはその様子を見てホープに聞いた。





「なにも起こらないね」

「これからなのか、あるいは…」

「うーん…ルミナ、こんな変な悪戯しないと思うんだけどなあ…」





あるいはなにも起こらない悪戯か。
そうとも取れかねない状況ではあるけれど、やっぱりそれだと違和感が残る。

サッズは魂のかけらを入れた箱を手に、ドッジのいるベッドに歩み寄った。





『よし』





箱の中で魂はひとつになったのだろうか。
魂を取り出すべく、サッズは箱を開こうとした。

でも…。





『ん?!ふんっ…くっ…なんだ、おいっ…くそっ!こいつ、開かねえじゃねえか!』





サッズは力いっぱいに蓋を取ろうとした。
だけど魂の箱はいっこうに開く気配が無かった。





『もしも〜し?』





そんな時、サッズの背を突く白い指がひとつ。
サッズが振り返ると、そこにあったライトと似た薔薇色の髪。

いつの間にか、ルミナがその場に現れた。





『おい、なんで開かねえんだ?ドッジの魂は甦ったんだろ?』





現れたルミナにサッズは尋ねた。
すると、ルミナは少し呆れたように『はあっ…』と息をついて説明をした。





『魂は甦ったけど、心を閉ざしているみたい。ドッジくんたら怯えてる。サッズの顔が怖いから』





サッズの顔が怖いから…。
それを聞いたあたしは目を丸くした。

いや、うん、あ、そういう理由なんだ…みたいな。





『俺の顔が怖いったって、生まれついてのツラなんだから仕方ねえだろ!』





当然、サッズの口から出たのはそんな台詞。

だけど、聞いてみればちょっと納得も出来るかもしれない。
サッズの顔が怖いから、か。

そう、いくらでも思い出せる。
サッズは周りを安心させようって、何度も何度も笑ってくれていたから。





『おいっ、父ちゃんがそんなに恐ろしいってか!冗談じゃねえぞ!どこがそんなに怖いってんだ!目ぇ覚ませよドッジ!ドッジ!!』





サッズはベッドの傍に跪き、ドッジくんの肩を掴んで何度も何度も揺さぶった。
その様子には傍で見ていたライトも思うことがあったみたい。

いや、あたしも思った。

そしてそれに物申す存在がもうひとつ。





『ピュイ!ピュイ!ピュイー!!』





部屋に響くひなチョコボの鳴き声。
それを聞いたサッズは自分の背後で鳴くその声に振り返った。





『何なんだよ、一体!ピーチクパーチクうるせえなあ!こちとら取り込み中なんだよ!いい子だからお前はそこで大人しくしてろ!…だっ!?』





ピーピーと何かを必死で伝えようとしてるひなチョコボの声にも耳を貸さないサッズ。
でもそんなことじゃこの子はめげない。ひなチョコボはサッズに向かって何度もくちばしでタックルをかました。





「おーっ、いいぞ!いいぞー!いけいけひなチョコボー」

「ナマエ、なんで応援してんの?」

「いや、なんとなく。でも応援したくなった」





ひなチョコボのタックルにひゅーひゅーと声援を飛ばしてみる。
いや、向こうには聞こえてないだろうけどさ。

でもこう、軽やかに突くもんだなあ…みたいな?

まあそれはともかくで、これはサッズには必要な荒療治だと思う。





『何すんだおめえ!だーっ!イテテテテ!マジで痛いっての!何だよ!落ち着けって!なに苛立ってやがる、こん畜生!』

『ピーッ!!!』





ひなチョコボは大きく鳴いた。
多分『はあ!?苛立ってるのはどっちよ!』みたいなアレな気がする。

そしてその鳴き声にサッズはちょっと怯んでまた突かれるって目を閉じてた。
小さな体だけど、ホントに結構痛いんだろう。

でも、サッズ以外はひなチョコボが何を言わんとしているかをなんとなくは理解出来ている気がする。
だからそこでライトが口を開いた。





『怖い顔だからさ』

『けっ、あんたまで人様のツラを貶すってか!』

『ほら、とても怖い顔をしてる。苛々と焦って、誰かを怒鳴りつける顔だ』

『怒鳴りつける…?…なるほどな、怖いってのはそういう話か…』





そこまで聞き、サッズもやっとその意味が理解出来たらしい。

今、苛々としている自分の心。
余裕が無くて、怖い顔をしてるという意味。





『仰る通りだ。親が怖い顔して怒鳴りゃあ、子供は怯えて当然だ。忘れてたよ。やばい時でもどっしり構えて余裕なツラで笑って見せて、子供を安心させてやる。それが、親父の務めだった』





多分、それがサッズの親として、大人としての基本姿勢なのだと思う。
だからあの旅の時だって、あたしやホープにいつも笑顔を向けて背を叩いてくれた。

サッズは置いてあった飛空艇のおもちゃを手に取った。
そして、その上にはまるで定位置であったかのようにひなチョコボがすとんと舞い降りた。





『よし、久しぶりにやるか。ねぼすけにも聞こえるように、懐かしいお遊戯をよ』





サッズがそう言った瞬間、ひなチョコボはふわっとまた宙に舞った。
そして、サッズが飛空艇を手にそれを追い駆けていく。

それは、チョコボと飛空艇のレースだった。

その様子に合わせて、サッズが実況を入れていく。

きっと、ドッジくんを交えていつもこうして遊んでいたのだろう。
あたたかい光景。とても優しいお父さんと、ひなチョコボ。

そんな様子には、ライトも思わず微笑んでいた。
サッズの軽快な声に、あたしもふっと。

あたしはその時ちらりと、ホープにも目を向けた。

ホープもモニターを見ていた。
だけどその顔に笑みなどはない。

ただ、見ている。そんな感じ。

…わかってる。なにを期待したわけじゃない。
感情を奪われてる。もう、わかりきってること。

ホープの反応がどうあれ、そこにあるあたたかなもの本物だ。
そして、柔らかな空気に包まれたその時…突然、魂の箱が淡い光を放ち始めた。





『ん…?』

『あっ…』





どんどん強くなる光。
それはやがて、ひとつの塊となってドッジくんの身体に向かい融けるように消える。





『ドッジ…!』





その光景を見たサッズは思わずドッジくんの傍に駆け寄った。
そして、息を飲む。

すると、ドッジくんのまぶたがゆっくりと動き出した。





『…ずるいよ、父ちゃん』





聞こえた幼い声。
サッズの肩が震えた。





『父ちゃんばっかり遊んじゃってさ、僕だって混ぜてよ』





ひなチョコボが枕元に降り、ドッジくんの頬にそっと擦り寄る。
ドッジくんは笑顔を見せてそんなひなチョコボの羽をそっと撫でた。





『ドッジー!!!!』





サッズの目からは大粒の涙が流れ落ちる。
そして目覚めた息子を思いっきり抱きしめれば、その体から光が溢れ、そして解放者の花に消えていった。

サッズの魂は、これで解放されたのだ。





『サッズはドッジを救おうと必死に頑張っていた。けれどもそんな必死さがドッジの魂を怯えさせていた。人を救おうとする真心が、人に伝わるとは限らない。残酷な事よね』





家族の邪魔をしないよう、ライトとルミナはそっとサッズの家から外に出た。
扉から漏れるサッズ達の幸せそうな声に、ルミナは語る。





『貴女が救おうとしているセラにも、』

『伝わらなくて構わない。あの子が救われるなら、私なんて…忘れられても、憎まれても良いんだ』





ライトはルミナの言葉にそう返した。

今、ライトが解放者として動いているのはセラの為。
セラを救う為に彼女は歩き続けてる。

でも、その想いはセラに伝わらなくていいと言う。

それを聞くと、ルミナはふっとその場から姿を消した。

ひとり、ウィルダネスに佇むライトの背。
あたしはそれに、小さく尋ねた。





「ほんとにそれでいいの?」

『どういう意味だ』





訝しげに、ライトに聞き返された。

でも、だってそれは…。

ライトの言うそれは、セラが助かるなら自分はどうなってもいい。
つまりはそういう事だ。

だけど…そんなこと、セラは望まないと思うのだけど。

でもそう言ったところでライトは…。
ライトは、それに…気づかないのかな。

ライト自身を犠牲になんて、誰も望まないのに。





「そういうのは、自分で気がつかなきゃ…意味がない…のかな」

『ルミナみたいなことを言ってくれるな』

「…ごめん」





確かに今の言い方だとちょっとルミナを連想させるような。
でも事実そうだ。

ドッジくんだって、サッズに無茶して欲しいなんて…きっと思わないでしょ?
ライトだって、立場を置き換えればわかるはずなのに。

解放者は歩き出す。
世界にあった大きな歪みは、これですべて正された。



To be continued

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