『手に入れたのね。ドッジくんの魂のかけら』
ドッジくんの魂を目覚めさせるため、世界中に散らばる5つの魂のかけらを集めていくことになったライト。
既に入手したものがふたつ。
そしてたった今、デッド・デューンの砂漠で倒したサボテンダーの亜種…?みたいなやつを倒してそこからまたひとつ。
その3つめのかけらと手にした直後、ライトの背後からルミナの声がした。
『サッズに魂の箱を与え、そそのかしたのはお前だったな』
ライトは振り返り、いつものように小さな嫌味をチラリ。
もっともそんな台詞、ルミナはへともしないけれど。
『そそのかすなんてあんまりね。サッズが可哀想で助けてあげただけよ。たったひとりの家族ともう一度会いたい。その想い、よくわかるでしょう、お姉ちゃん』
『…セラのことを言っているのか』
軽く煽る様に言うルミナにライトは少しだけ顔をしかめる。
セラのことを言っているのは誰の目から見ても明らかだった。
ライト自身、家族を想うサッズの姿に重ねる部分はあったのかもしれない。
『そうそう。期待してたら残念だけど、魂の箱じゃセラは救えないから。セラを助ける方法は、自分で見つけてちょうだいな』
『言われなくともそうするさ。誰にも頼るつもりは無い。特に、お前にはな』
にっこりと笑ってあおりを続けるルミナにライトは淡々と返した。
魂の箱はセラを救う事には使えない。
ドッジくんにだけ使える物なのかだろうか。
まあその辺りは考えるだけ仕方ない、か。
でもチョコリーナも魂の箱は必要なものだと言っていたし、箱が重要であることは間違いないと思ってる。
「サッズさんが可哀想で助けただけ、か」
「あっやしー!…って?」
「どうかなあ…」
ホープが呟いたからあたしは彼を見て首を傾げる。
するとホープは椅子の背もたれにぐっと沈み、ふうっと小さく息をついた。
「まあ…確かにルミナのことだから何か真意があるんじゃないか、とかは思っちゃうよね」
「うん。まあ今はそれしか手掛かりもないし、縋ってみるしかないのは事実なんだけど」
ルミナを信じても良いのか。
確かにルミナが絡むと何か裏があるんじゃないかって思えてしまうのは否定できない。
でもじゃあ彼女が人を想う事が無いのかって言われると、それはあたしは違うと思うんだけど…。
とにかく、今はかけらを集めることが先決。
ライトは足で、あたしとホープはそれらしい情報を探し、ひとつずつかけらを探していった。
砂漠のサボテンダー。
シ界で生まれる力のかけらソウルシードを扱う魔材屋。
そして、ユスナーンの闘技場。
テレポの力があるから解放者にとって世界中を回るのはそう手間のかかる事では無い。
でもサッズからしたらそんな簡単にいく話じゃないよね。しかもたったひとりきり、当ても何もない状態。
疎遠になってからも、何百年それが続いた…。
想像するだけで気が遠くなって、苦しくなるような話だ。
『これで最後か…』
ライトは闘技場で勝利し、商品となっていた魂のかけらを手に入れた。
これで5つ目。魂のかけらはこれで全部揃ったことになる。
今回はただこれだけの為に時間を費やし、かけらを探した。
サッズが見つけられなかったこともあって、結構時間は喰ったかな。
なんにせよ、揃ったのだからこれで一安心ではある。
じゃあサッズの所に向かおうかとした時、また、その声は聞こえてきた。
『ごきげんよう』
『いきなり現れるな。何の用だ』
いつもいつも、ひょうひょうに突然現れるルミナ。
ライトは少し面倒くさそうに振り返った。
かけらが全部集まった事を見計らって、もしかしたらそんなタイミングなのかもしれない。
『サッズおじさまのことが心配じゃない?助けたくて仕方ないって気にならない?』
『気に掛かるのは事実だな』
ルミナが口にするのはやっぱりサッズのこと。
気に掛かるというのを、ライトは否定しなかった。
それを聞いたルミナはニコッと作り笑顔を見せた。
『さっすが解放者様。可哀想なサッズ。もうずっと長いこと笑ってないの。なんとか笑顔を取り戻してあげたくて時々おうちを訪ねてるんだけどね』
『説得力の無い話だ。お前の様なのがサッズを助けようだと』
『傷つくなあ、その言い方。これでも一生懸命やってるよ?サッズにプレゼントした魂の箱だって手に入れるのすっごく苦労したんだけど?』
ルミナのサッズの為を想って動いている。
あたしは、その言葉が100%の嘘では無いと思ってる。
ルミナも本当にサッズのことを考えて動いているって、そう言う気持ちはあると思う。
それは、あたしが接していて感じることがあるから。
でもルミナってライトに対しては特に捻くれてると言うか…。
ホープもそんな姿しか見てないし。
そうすると信用なんて字は浮かびにくいよね…とは思う。
『あれで本当にドッジを救えるんだろうな。あの箱にかけたサッズの希望が裏切られたら、あまりに残酷だ』
『私が残酷じゃないと思う?』
ライトが箱の事を尋ねれば、ルミナは含みを見せる様にそう薄く笑った。
…ああ、またそう言う風に言う。
はー…と、あたしは小さくため息をついた。
あたしだって、ルミナの真意がどこにあるのかはわからない。
だけど流石にそんな裏切りをするようには思えないんだけど…。
ただ、ルミナはその言葉を最後にまたいつものようにふっと消えてしまった。
ライトは顔をしかめる。
そこにホープは声を掛けた。
「ライトさん、ドッジくんのかけら5つとも揃いましたね。早速サッズさんの家に向かいましょう」
『魂の箱でドッジが目覚めてくれればいいが、ルミナがくれたものだからな』
「期待しすぎない方がいいかもしれませんね」
ライトは歩き出す。
でもその際に交わされるふたりの会話はやはり疑心は拭えないということ。
『だが、サッズにとっては唯一の希望だ。笑顔を失くしてしまうほど思い詰めているサッズが希望を奪われてしまったら、生きる力さえ失ってしまうかもしれない』
もしもこの魂のかけらや魂の箱が何の意味も無さないものだったとしたなら。
確かにそれはサッズの希望を打ち砕くことになる。
何百年も抱えた苦悩と、やっと手にした希望が絶望に変わったなら。
…ルミナだって、それはわかってるはず。
だから、そんなことするかな。
もしするとしたなら、そうすることに何か意味や目的があるから…かな。
「…ルミナは確かに悪戯とかもする。でも箱を見つけて来たり、自分も此処まで突っ込んできてて無意味って流石に無い気がするの。何もない、意味のないことはしないっていうか。だから多分、集めた事で何も起こらないって言うのは無いと思うんだ」
なんとなく、そう自分の意見を言ってみた。
根拠なんて無い。
それはただの勘だけど…。
でもね、やっぱり一番願っているのはドッジくんが目を覚ましてサッズが笑ってくれること。
「あの旅の中で、一番笑顔でいてくれたのは…サッズだったよ」
ライトやファングが突き進んでいく中で、どしっと後ろで構えて、大丈夫だって笑ってくれる。
場を和やかに、明るくしてくれる気遣いが優しかった。
笑っていようって、そう気に掛けてくれる人だったから。
きっと、サッズのそういう気遣いに皆助けられてる部分、大きかったと思う。
だから今度はこっちが助けたい。
そしてまた、大丈夫だって笑ってくれたなら…またこちらも、頑張れるような気がした。
To be continued
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