『ピーピピッピー』
サッズが出て行った後、扉のところからライトを見ていた小さな小さな影。
それは一匹のひなチョコボだった。
ライトが近づくと、それを待っていたかのようにひなチョコボはどこかへ飛んでいく。まるでライトのことを案内するみたいに。
追い駆ければ飛空艇の傍にあった茂みだった。そしてそこにはひとつのトレジャーボックスがあった。
ライトがそれを開いた。するとその中には…今まさに求めていた魂のかけらが入っていた。
「えっ?こんな近くに?」
あたしは思わずそう言ってしまった。
でも、あんなに探し回っているサッズがこんな見落としをするとはどう考えても思えない。
すると、その考えは案の定だった。
『あらあら?これは奇遇でございますこと。解放者様』
ライトの背後から聞こえてきた明るい声。
ああ、やっぱり?なんて。
ライトも察しがついていたのか、声がした瞬間にため息をついた。
『白々しい芝居はやめろ』
ライトは振り返りながら言う。
振り返った先にいたのはお察しの通りルミナだった。
『おおかた、ここにいたのも偶然じゃないんだろう』
『つまりこの私がドッジくんの魂を此処に隠したって言いたいわけね?』
『いい読みだ』
ライトは今見つけた魂の欠片を此処に置いたのはルミナだと睨んでいた。
というか、あたしもそう思った。だってこんなところで見つかるのはあまりに誰かの意図を感じすぎるもの。
でも、どうやらその読みはルミナいわく外れだったらしい。
『その読み外れ。でも偶然じゃないのは当たり。ここで会ったのは、貴女を見張っていたからよ。貴女がサッズを救えるのかどうか心配で』
『ドッジではなく、サッズをか』
『どっちもね。坊やの魂はあんな有様。パパの魂は潰れかけ。貴女も気づいたでしょ、解放者さん』
ルミナの言う通り、サッズの魂も潰れる寸前だろう。
ギリギリのところでなんとか耐えてる…そんな感じなのは明らかだった。
ルミナの真意はわからないけど、サッズとドッジくんの助けになれたらというのはこちらの総意だ。
だからライトはドッジくんの魂を探すべく、その手掛かりを探しに歩いた。
その末、詳しい話を聞くことが出来る人を見つけたんだけど…。
『ちょっこり〜ん!』
それは、ライトにとっては多分?はじめまして…って言うのちょっと違う、のか?
あたしにとっては少しだけ見知った顔…なのだけれど。
チョコボのような姿の女の人。
その人が、魂についての情報を詳しく知る人物だった。
『ライトニングさん。サッズおじさまに会ったみたいね?』
『お前は…』
ウィルダネスの駅でライトに声を掛けてきたその人。
ちょんちょこりんりんとなかなか独特のテンション。
その姿にあたしは思わず声を漏らした。
「あ」
「ナマエ?知ってる人?」
「えっ…あー…」
声を漏らせば、当然ホープの耳には届く。
でも知っているのか尋ねられると…いや、知ってるんだけども…。
首を傾げる彼に対し、あたしはそれより更に首をひねった。
「えーっと…まあ、多分?」
「…は?」
「いや、知ってるっちゃー知ってるんだけど…んー、まあ…知ってる?」
「僕に聞かれても…。というかなんでそんな煮え切らない答え?」
「…いやまあ、会ったことはあるんだけどさ」
確かになんとも微妙な答え方してる。ごめん。
勿論あたしにもその自覚はありますとも。
でも真面目な話、本当に知ってるっちゃ知ってるっていうのが正しい答えだった。
だってあたしもそんなに詳しく彼女のことを知っているわけじゃなかったから。
会ったことはあるけど、ちょっとよくわからない人…そんな感じ。
でもまあして言うなら、敵じゃないというのは、間違いないと思う。
確か、前に教えてくれた名前は…。
「チョコリーナ…」
バサッと羽を広げて、以前教えてくれた名前を思い出す。
そう。不思議と初めて会った時から敵じゃない気がするって、そんな風に思えた。
あとは、まあ…予感というか、もしかしたらっていうのはあるんだけど…。
それはちょっと根拠に乏しいからなあ…と。
『再会らしい再会では無かったな。サッズは酷く追い詰められて、ろくに話も出来なかった』
ライトもとりあえずの危険はないと判断をしたのだろう。
なによりサッズの手掛かりは惜しい。だから彼女に話を合わせ、話を聞いてみることにしたようだった。
『息子のドッジが何百年も寝っぱなしだもんね。あの親子の事は、あたしもとっても心配してるの。力になってあげたいけど、あたしには頼ってくれないのよね』
『ドッジが目を覚まさないのは身体から魂が抜けてしまったせいらしいな』
『そうなの。しかも5つに分かれて世界中にバラバラに散らばっちゃってるの。それがおじさまの集めている魂のかけらよ』
『5つの魂が揃ったらあの子を起こしてやれるのか?』
『もひとつ魂の箱というものがいるけど、これはサッズおじさまが持ってるわ。だからあたしたちに手伝えるのは5つのかけらを集めておじさまに渡す事ね』
『そういう事情だったか。お前に聞いてよかった。サッズには聞きそびれていたんだ』
『お役にたてて良かった!』
あたしたちがすべき事、出来ることが彼女の話で見えてきた。
世界中に散らばったドッジくんの魂を集める、か。
サッズが見つけられなかったところを見ると相当骨がいるってことなのかな。
でもその時、それを教えてくれた彼女からもうひとつ朗報があった。
『あと実はね、かけらのひとつはもう見つけてあるの。名前は笑顔のかけら。おじさまに渡したいんだけど、それは物質じゃないの。だから、貴女に預けることも出来ないのよね』
『それをサッズに渡す方法は無いのか?』
『あるわよ。でもちょこっと必要なものがあるの。ある鍵が必要なのよ。鍵の名は想い出のコイン!ある人にもらったとっても大切な品物よ!でも大切な品物なのに…落っことしちゃったの!』
きゃーっ!とショックそうに羽根で顔を隠す彼女。
なんでもその大切なコインはウィルダネスからデッド・デューンに向かう大街道のどこかで落としたと思われるのだとか。
さてさて、となればさっさか探しに行くか〜なんて普段なら思うところ。
でも今回はちょっと違った。
「あ、ライト。コインってもしかしてさ」
「ええ。ライトさん、拾った場所も確か大街道でしたね」
あたしはふと心当たりを口にした。
するとホープもそれに頷いてくれる。
『コイン…もしかして、これのことか?』
それを聞いたライトも思い出したようにひとつのコインを彼女に差し出した。
さっきサッズと会う前、ライトは大きな歪みを探してウィルダネスのあらゆる場所を歩き回った。
そのコインはその時見つけたもので、場所も確かに大街道のところだった。
差し出されたそれを見た彼女は目を見開いた。
『ちょこちょこ!?さっすが解放者様!もう見つけてあるなんて!』
『これでいいのか?』
『大正解!ちょっこりーん!ありがとう!』
どうやら探し物は既にライトの手の中にあった。
コインを受け取った彼女はにっこりと嬉しそうに笑う。
これでサッズ親子の笑顔の為に一歩前進できる。それが心から嬉しいみたいに。
『じゃあ、約束通り魂のかけらのひとつを渡すわね!』
『人に渡せるものなのか?笑顔のかけらは物質では無いと言っていたが』
『ええ。それはあたしの心の中にあるの。今から取り出して貴女に預けるわ』
魂のかけらは彼女の心の中にある…。
彼女がそう言うと、胸元から光が溢れ出し、それはライトの手の中へと移動した。
『はい。どうぞ。これが、笑顔のかけら』
『ああ、確かに受け取った。あとは私に任せてくれ』
『ありがとう!あたしも、おじさまに恩返しできたかな?』
そう言う彼女の顔はホッとしているように見えた。
そんな顔を見ればライトもそろそろ気になるだろう。
彼女と、カッツロイ親子がどんな関係であるのか。
『恩返しか。そろそろ聞かせて欲しいな。お前、サッズとはどういう関係だ。ドッジの魂のかけらが、どうしてお前の心の中に』
『うふふ…それはまだ秘密!かけらが5つ揃ったら、おじさまのところに届けてあげてね。そん時は、私も駆けつけるから!』
結局、今のところ彼女はライトに自分の正体を明かす気は無さそうだった。
教えてくれたのは、チョコリーナという名前くらい。
でもそれは何か意図があるとかではなく、ただ何となくちょっと面白いからとかそんな感じな気がする。
しかし、彼女は確実にライトニングという人間を知っているのだ。
だから彼女は目の前にいるライトを見てニコニコと再会を喜んでいた。
To be continued
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