消えた前向きな笑顔


ディアボロス。
それは、あたしの唯一無二の友だ。

心で繋がっている。
まさに、そんな言葉がしっくりくる存在。

そして、ライトにとってのオーディンが彼女だけの永遠の騎士であるとの同じように…。

あたしはずっと、悪魔に守られていた。

気が付いたら、なんだか凄くホッとした。
だってそれは紛れも無くあたしの味方でいてくれるものだから。

そして、ルミナは言った。
あたしの信じているホープを信じればいい、と。

そう言ってもらったことで、感じていたモヤもう少し…晴れた。

でも、拭いきれてはいない。
むしろ、新たに浮かんだ疑問すらある。

ディアボロスはあたしに今のホープを信じてはいけないと言う。
ルミナは今のホープはとっくにホープじゃなくなってると言った。





「ナマエ。ライトさん、ウィルダネスに転送完了したよ」

「…うん」





目の前にいる、そう声を掛けてきたホープ。
あたしは頷いた。

偽物…そう言われると、なんとなくしっくりはこない。
でも違和感はそこに置かれたまま。

あたし、どうすれば…どうしたらいい。
世界の終わりが確実に近づく中で、あたしは…そんな思いを抱えたままだった。





『残りの巨大な歪みはひとつだな。そいつを探すぞ』





モニターからライトの声がした。

本来の目的。…こっちも、大詰めなんだよね。
あたしはゆっくり気持ちを切り替える様にモニターを見上げた。

観測された大きな歪みは全部で5つ。
それも残りは最後の1つとなった。

最後の1つが観測されているのはウィルダネス。

ライトはその魂を解放すべく、広大なウィルダネスの大地へと再び降り立った。

ウィルダネスは以前もそこそこ探索はしてるけど、今回はまた少し捜索範囲を広げてまだ見ていない部分にも足を運んだ。

そこは人が滅多に足を踏み入れることのない荒れ果てた土地。
だから人々の魂を解放する使命を考えれば後回しになってしまうのも通りだったわけなんだけど…。

でも、そんな土地に赴いたのはどうやら正解だったらしい。

訪れて早々、ライトはそこでちょっと気になるものを見つけた。





『なんだこれは、飛空艇…?』





目の前にある、何か大きな機械のような物。
ライトはそれを見上げ、そう呟いた。

緑色の、大きな何か。
ライトが呟いた通り、それは確かに飛空艇に見えた。





「飛空艇ですよ。ここでは墜落した飛空艇が数多く見つかっています。世界が混沌に覆われた、500年前の惨禍の痕跡でしょうか」





ホープがライトに情報を伝える。

500年前の…痕跡。
世界が壊れてしまった時の…。

それを聞いて、思い出す。
いや、なんとなく見覚えがあった。

それが、少し鮮明になった気がした。





「ねえ、これ、軍の…アカデミーの飛空艇、だよね?」





記憶を辿り、ホープに確認するように、そしてライトに教える様にそう口にした。

世界が壊れた日、アカデミーは戦いを終えたあたしたちを迎える様に飛空艇を飛ばしてくれていた。
AF500年で一緒に戦って、ヴァルハラに飛び込んだあたしたちを待っていてくれたのだ。

すると、ホープはまたひとつ別の情報を教えてくれた。





「ウィルダネスの東部…チョコボをチョコボイーターから助けた辺りかな。あの辺りには昔栄えた都市があった」

「…新都、アカデミア」





ホープの話を聞き、あたしはひとつの都市の名を口にした。

新都アカデミア。
そういえば、チョコボを探していた時に通った瓦礫の道…。
今考えるとあれはアカデミアの建物の残骸…。

時を超える旅の中、アカデミアは結構印象に残っている場所だ。

AF500年では最後の決戦の場所でもあった。

でも、それ以前に本当に単純な意味で印象深い場所。
そう…ただ単純に立ち寄る機会が多かったのだ。

AF400年の新都アカデミア。

ホープがいることで情報も纏めやすかったし、有り難い事にホテルを用意してもらえたりしてかなり助かってた。
加えて栄えた街だったから旅のアイテムを揃えるにも不便が無い。

なんというか、色んな意味で旅の拠点とするのに適した場所だったのだ。





「アカデミア…あんなに栄えてたのにな」





知っている土地の荒れ果てた姿はやはり寂しいものがある。




《やっほ、ホープ〜!》

《ナマエさん!》




アカデミー本部に戻ってきて、人工コクーンの建設のためにパネルに向き合うホープの背中に声を掛ければパッと笑顔で振り返ってくれた。

戻ってくるたび、あの瞬間が楽しみで…なんて、そんないらん事を思い出した。

でも、やっぱり懐かしい。
あの頃って、想い描く未来がすごくハッキリしててそれに向けて本当に前だけ見てた、って感じするもん。

そんな、明るい思い度を思い出していたから…この先にあった再会は、ちょっと衝撃的だった。





『墜落した飛空艇か』

「改造されてますね。人が住んでいるようです」





進んでいくと、瓦礫の中にひとつだけ形を保ち、綺麗にされている飛空挺があった。
明らかに人の手が加えられている証拠…というか、むしろそれは家のように改造されているように見えた。

一体誰が。どうしてこんなところに。

ライトはその改造された飛空艇の中に足を踏み入れた。

すると真っ先に目の前に飛び込んできた光景はソファに俯き気味に腰掛けた男の人。
いや、もっと特徴がある。それはその男の人の頭だ。その人の頭はまるで鳥の巣みたいだった。

見覚えがある。ううん、違う。凄くよく知ってる。

あたしはそこにいた人物を見て目を見開いた。





『サッズ…?』





ライトもすぐ気が付いた。
だから彼女は恐る恐る近づきながらその人の名を口にした。





《よう、ナマエ!元気してるか!》






脳裏に浮かんだ笑顔。
明るい声で、いつも気遣うようにそうしてドンと肩を叩いてくれたお父さん。

サッズ・カッツロイ。

そこにいたのはかつて共に旅をした仲間であるサッズだった。





『帰ってくれ』





サッズはちらりとライトを見た。
でも、その反応はあまりに薄い。いやむしろ拒絶だった。

まともにライトの顔も見ないまま、帰れと言うその人。

そこにはかつて皆を支えてくれた最年長の笑顔など欠片も無い。





『ここで会えるとはな…』





ライトは静かに驚きを口にし、様子がおかしいサッズの手掛かりを探す様に部屋の中を軽く見渡した。

すると部屋の端にあるベッドにいた小さな子供の存在に気が付く。

それはサッズの息子であるドッジくんだ。
ドッジくんはライトに反応を示すことなくベットの上で目を閉じたままだった。





『この子は…眠っている?』

『…ああ。世界が壊れたあの日からな。ドッジは何百年も眠ってんだよ。生きてんのは身体だけだ。魂がどっかに行っちまった』





ただの眠っているとは違う。
ライトはそれにすぐ気が付き、サッズもまた頷いた。

それで、思い出した。

そうだ…あたしも目覚めて記憶に少し靄があって…。

でも思い出した。
そう、ドッジくんは…あの日からずっと、ずっと深い眠りに落ちていた。

あたしが神に捕えられてからもう随分と時間が経ったはずだ。
だけど今なお、眠ったままだったのか…。





『そいつは?』





サッズはソファの前のテーブルに置いてあった小箱に手を伸ばした。
それに気が付いたライトはそれは何かと尋ねる。

サッズは気力の無い声のまま答えた。





『魂の箱だとよ。この箱に魂の欠片を集めればドッジは目を覚ますそうだ。嘘か真かわかりゃしねえがな』

『誰に貰ったんだ』

『ルミナ。話は終わりだ。こちとらドッジの事で忙しい』





サッズはそれだけ言い残すとソファを立って外に出て行ってしまった。

それにしてもサッズの口からルミナとは。
ちょっと意外な名前だと思った。

だけど、ルミナが渡したと言うならただの箱では無い、ような気はする。





『ホープ。ドッジの容態について調べてくれ。古い仲間の大事な息子だ』





ライトはドッジくんの傍らに歩み寄り、ホープにそう指示した。





「僕にとっても同様ですよ。調べておきました」





タン、とホープはパネルを叩いた。
有能な事で、ホープはライトに言われる前から既にドッジくんの容態を粗方調べてくれていた。





「ドッジくん、かなり特異な状態ですね。身体には何の問題も無いのに意識レベルはゼロ。夢すら見ない昏睡状態。まさに、魂が身体から抜けた様な状態です。ルミナに貰った魂の箱とかいうものが何の役に立つのかも不明ですが、今のサッズさんは藁にもすがる心境でドッジくんの魂の欠片を探しているんでしょうね」

『手伝ってやりたいが、何の手がかりも無い。サッズに詳しく聞くべきだったな。あの様子では、話してくれなかったかもしれないが』





ライトはそう言いながらサッズの出て行った扉へと視線を向けた。

そんな姿を見ながら、あたしは当時の事を思い出していた。
世界が混沌に包まれたばかりの、あの頃のこと。

あの頃の、サッズの事を。





「…サッズもさ、最初の頃は一緒に戦ってくれてたんだよ。いままで何度も奇跡を起こした。死ぬ気でやれば不可能はないって、いつものあの調子で沢山励ましてくれた。けど、ドッジくんがこうなてしまった。ホープが有名な学者さんに頼んで診て貰ったりもしたの。でも、ダメだった」





今と同じ。色んなものにすがって、手掛かりを探した。
あたしもホープも、スノウもノエルも…。皆で小まめにお見舞いに行ったりして、今度はあたしたちの番だってサッズの事を励ました。

けど、いつの間にか疎遠になってしまっていた。





「…だんだん、サッズはあたしたちから離れてた。多分、心配する気持ちが重くなっていっちゃたんだと思う。心配をかけて申し訳ないって…ね」





鮮明になった記憶。
でもやっぱり、どこか苦みのある記憶。

長い長い500年の間、それも変わってしまったもの…。

でも、無理もないことだと思う。
最愛のひとり息子なのに。

ライトは再びベッドに横たわるドッジを見つめた。

その時、そんな彼女の背を、サッズの出て行った扉からひょこっと覗く小さな小さな影があった。



To be continued

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