あの日と重なる言葉


全ての画廊を回ったライト達は聖殿門へと戻っていた。
集めたクルクスを使えば、聖殿門を開くことが出来るはず。

いよいよ、目的の聖宝のお目見えだ。





『この聖殿門が開いたら、聖宝とご対面だ』

『ああ、何があるかわからない。油断はするな、ファング』

『ハッ、誰に言ってんだ。こっちは長年盗賊やってんだぜ』





ライトはクルクスを聖殿門にかざした。

扉は反応する。
そして、重たい音を響かせて聖宝への道が開けていく。

その瞬間、こちらの方でも強いエネルギーが観測された。





「聖殿門の先に強いエネルギー反応があります。ファングさんの言う通り、聖宝とのご対面ですね。聖宝を守る罠が無いとも限りません。用心してください」





ホープの注意を聞くと、ライトは聖殿門の奥へと進んで行った。ファングも同様に。

聖宝の間。
結構広い。聖宝だけの為に用意された空間だ。





『いよいよだな』

『ああ、開いちまった。もう後戻りは出来ねえ』

『どうした?』

『別に。どーもしねーよ』






ずっと探し求めていた聖宝にやっと手が届く。
緊張でもしているのだろうか?ファングの様子が少し強張っていた。

聖宝。部屋の一番奥に眠っていたそれは、箱の様な形の祭具だった。

不思議な力…。
いや、異様とまで感じられる力を放ち、それは空間に浮かんでいた。





『あれが聖宝…。死者の魂を呼ぶ匣か。この重たく冷えた波動…間違いねーな。やっと見つけた』





ファングはそれをじっと見つめ、ゆっくりと近づいて行った。
その間、ホープは聖宝を出来る限り解析し、ライトにその情報を伝えてた。





「まだ分析しきれませんが、不思議な力を秘めているのは確かですね。人間にはこんなもの造れません。神の力を借りたか、あるいは神が自ら創造したものです」

『!…ホープ、探れ。何か異常は?』





説明の途中、ライトはハッと何かの気配を感じたように聖殿門の方へと振り返った。

そこで察知する。
何か、大群が押し寄せてくる反応だ。





「ホープ!何か来てる!集団!迫ってくる!」

「っ、ライトさん!います!近いです!武装した集団!混沌に紛れて、接近を見落として…」





ホープよりあたしの方が気が付いたのが早かった。
センサーの反応が遅れた理由は混沌に紛れていたから。

状況は刻一刻を争う。
ライトは最低限の情報だけ聞くと、ホープの言葉を止めた。





『わかった。もういい。ファング、どうやら救世院が…』

『悪く思うな、ヴァニラ!』





武装した聖宝を狙う集団なんて救世院しかありえない。
ライトは振り返り、ファングにそのことを伝えようとした。

でもその時、ファングは聖宝に向かい槍と振りかざし、やっと見つけた聖宝を破壊しようとしていた。

ライトは咄嗟にファングの腕を掴んだ。





『ファング!なんのつもりだ!ずっと探していたんじゃないのか!』

『こいつは誰にも渡さねえ!使っちまったらヴァニラが死ぬんだ!』

『ヴァニラが!?』





ファングはライトの腕を振り払った。





「ヴァニラが、死ぬって…」





初めて出た事実。
あたしも思わず呟いた。

でもそこで、ずっとわからなかったファングがヴァニラと離れた理由と結びつきそうな気がした。





『いいか、こいつは呪いの匣だ!彷徨う死者の苦しみを綺麗に消して無に還す!代わりに使ったやつは死ぬ!ヴァニラはこいつを使う気だ!死者たちに償おうと!』





ヴァニラはずっと苦しんでいた。
自分達のせいでいくつもの命が失われたことを。

だから自分を犠牲にして死者を救おうとしている。
ファングはそれに反対した…。

多分、解放者たるライトは救世院の側かもしれないという可能性から今ここにくるまでライトには言わなかったのだろう。

そこまでわかったその時、聖宝の間にバタバタと大勢の足音が響いてきた。





『てめえらに渡すかよ!』

『よせ!』





救世院に渡る前に聖宝を壊そうとファングは再び槍を聖宝に向けた。
でもその瞬間、槍を弾き返す様に聖宝から強い力が放たれた。その衝撃はライトとファングの体をも跳ね飛ばすほど。





『聖宝の探求ご苦労であった。聖女もさぞやお喜びになるであろう』






弾き飛んだ二人は綺麗に着地した。
でもそこに近づいてくる救世院の捜索隊。





『聖女に変わってお礼申し上げる』





そう言って捜索隊のリーダー核の男がフッと笑い、何かを合図した。
するとその瞬間、その背後から現れた巨大な蛇の様な魔物。

魔物はライトとファングを足止めするように二人の周りを囲った。

その隙に救世院の捜索隊は聖宝へと走っていく。





『何が聖女だ、下衆野郎ども!ヴァニラを死なせる気だろうが!くだらん儀式の生贄によ!』

『聞き捨てならんな。我ら救世院への侮辱は神への冒涜にも等しい大罪だ。神の裁きを受け、死を持って償え!』





魔物の咆哮が響く。
今にも襲い来る。もう戦うしかない。





『奴らに聖宝は渡せねえ。だからよライト…助けてくれねーか』





槍を構えながら、ファングはそうライトに願った。

その言葉を聞いて思い出した過去がひとつ。
あれは、アークだ。アークでファングがバハムートと対峙した時のやり取り。





《私は、救いに縋る気は無い。ファルシの思惑に乗る気もない。使命と最後まで戦いたい。だからファング…助けてくれないか?》





ライトはファングにそう言ったのだ。
そしてその時ファングが返した言葉は…。





『今更聞くな。いくぞ、ファング!』





今更聞くな。
ライトは小さな笑みを見せ、あの時ファングが言った言葉で返した。

ちゃんと覚えている。
あの日の絆を、ちゃんと。





「ライト、ファング…」





そうして敵に向かっていくふたりの背に、じわっとあたたかな思いを感じた。

でもだからこそやっぱり引っかかる事があった。
スノウを助けに行くとき、ホープはライトの言葉の真意に気が付かなかった。





《なあ…ホープ、ナマエ。私の背中を守ってくれるか?》

《ええ、勿論。いつだって守りますけど?》





あの時の寂しさ…。
ううん、違和感が拭えない。

あの言葉はホープにとっても、大切な物だったはずなのに。

前だけ見てろ。背中は守る。
あれは、ホープにとっての勇気そのものだったでしょう?

あたしはちらっとホープを見た。
今の君はきっと、今のライトとファングのやり取りの意味にも気が付いていない。





『ふたりで支え合えば勝てる!』





ライトはそう言って剣を構え、共に魔物へと向かっていった。

その姿は、遠い過去と何一つ変わらない。
今、はっきりとそう感じた。



To be continued

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