モグと再会を果たした小さな里。
ライトはモーグリ達に見送られながらそこを後にした。
まだウィルダネスには大きな混沌がひとつ残っている。
それがどこにあるのか、まだわからない。
だけどライトは一度この土地を離れた。
その理由は、まだひとつ訪れていない場所があったからだ。
『砂漠…だな』
そう呟いたライトの目前に広がっていたのはその言葉の通り一面の砂。
デッド・デューン。
4つの地域に分かれているノウス=パルトゥスで今まで解放者が訪れていなかった最後の土地。
そこは、人の気配の殆どない寂れた砂漠の世界だった。
『珍しいな、旅人さんか?』
駅のホームを出ると、砂の上に汚れも気にすることなく座り込む男がライトに声を掛けてきた。
格好的に多分この人は駅員さんだ。
ただ、この駅は見たところライト以外は誰も使っていない様子。
だから駅員としてもする仕事がないのかな。
このやる気の無さからはそんな様子が伺えた気がした。
『お生憎だがこの砂漠には見るべき名所なんて無いぞ。でかい遺跡があるにはあるが到底観光向きじゃない』
人が来ることが珍しいのだろう。
やる気はないけれど、この場所について色々と教えてくれた。
この砂漠には名所などなく、あるのは大きな遺跡のみ。
その遺跡は魔物たちの巣窟。
でもその中には幻の宝が眠っているという。
死者の魂を呼び集め、あの世への扉を開くと器。
その名も、聖宝。
救世院や盗賊団は、その聖宝を何十年もかけて探しているのだとか。
そしてその遺跡は今や盗賊団の縄張りと化しているという。
ひとまず、気になる情報は聖宝と遺跡。
このふたつだろう。
「聖宝…なんか凄い大層な名前だけど、救世院も探してるとなるとただの値打ち物ってわけじゃないのかな?」
「どうだろうね。ライトさん、集落を探して住民に話を聞いてみましょう。聖宝や遺跡の情報が手に入ると思います」
『ああ』
とりあえずも目的も定めた。
こうしてライトは駅を発ち、砂漠の中へと歩き出す。
一方で、箱舟でも情報収集スタートだ。
ホープは目ぼしい情報を探しながら、ライトに注意を促した。
「これは推測ですが、この砂漠の住民はほとんど全員宝を求める盗賊じゃないでしょうか。宝探しですとか、よほどの理由でも無い限りわざわざこんな砂漠に住まないですよ」
「あ…そっか。言われてみればそうかも…」
ホープの指摘になんだか凄く納得してしまった。
そうか。
確かにこんな一面の砂漠はとても住むに適しているとは言えない。
そのままホープはパネルを叩いて聖宝について調べてる。
あたしはそれを横から覗き込んでみた。
「聖宝…なんか情報あった?」
「うん、まあ…それなりには」
「お。流石」
「ほら、どうぞ」
「うん?」
ホープは情報が見やすいように少し席をずらし、目ぼしいところを指で突いてくれた。
じゃあ厚意に甘えまして…って事で、あたしはその情報にざっと目を通した。
すると、なんだか目を引く単語がいくつかちらほら。
あたしはホープの顔を見た。
「祭具…?死者の魂?」
「うん。色々気になるね」
「うーん…でも詳しい事はわからないって感じ?」
「だね。そこはやっぱりライトさん頼みかな。ライトさん、聖宝について調べて見ました」
ホープは調べた情報を大まかに纏め、ライトにも説明をした。
聖宝。
それは、死者の魂を招く祭具だという。
それ以上の情報は何とも言えない。
でももうひとつ確かなのは、救世院は聖宝にかなり強い関心を持っていると言う事。
具体的に言えば、聖宝を手に入れようと何度も捜索隊を派遣しているみたい。
それと、この場所を根城にする盗賊団も探し回ってるけど、それでも手に入る事は無くて現在に至る…と。
ライトが接触を図ろうとしているのは後者の盗賊団の方だ。
「まもなく集落ですね。オアシスで一服したいところですが、警戒を怠らないでください。集落の住人は、多分全員盗賊です」
集落が近づいたころ、ホープがもう一度ライトに注意を呼びかけた。
『身ぐるみ剥ぎに来るかもな。それならそれで好都合だ。返り討ちにして情報を吐かせる』
「わーお、さらっと男前〜…」
身ぐるみ剥ぎに来る盗賊を返り討ち…って、相変わらず豪快である。
あっけらかんとそう言ってのけるライトにあたしは思わずそんな風に呟いてしまう。
いやだってちょっと姉さん相変わらず頼もしすぎるでしょうと。
「自分をエサに情報収集ですか?ライトさんらしいやり方ですけど、無茶はしないでくださいね」
ホープのその言葉を最後に、ライトは集落へと足を踏み入れる。
無法街ラフィアン。
そこはホープの忠告通り、盗賊ばかりのちょっと物騒な集落だった。
集落の大部分はひとつの大きな建物の中にあった。
なんでも先史時代の遺跡の一部だそうで、砦の様な少し独特な雰囲気をしている建物だ。
『上品な場所では無いのは確かだな。うさんくさい連中の根城。いわば魔窟だ』
「そんなところ前にして返り討ちとか言っちゃうライトはやっぱり凄すぎると思うよー」
例えが凄い。魔窟て…ってやっぱ思うじゃん。
まあそれくらいに腹の中が見えないと言うか、ひねくれた雰囲気を感じたってことなんだろうけど。
ライトは臆する様子も無く建物の奥へと進んで行った。
『やあ、この集落を訪れるのは初めてのようだね。案内役はいらないか?』
通路を歩く途中、明るい声でライトに話しかけてきた男がいた。
赤い服を着た盗賊…彼の名はアドニスと言った。
『好都合だ。ちょうど探していた。聞きたい事がある』
情報を欲していたライトはそれを好機と捉えた。
確かに話を聞くことの出来る役を探していたのだからこれは好都合ではあるのだけど。
ただ、向こうもただの善意でライトに声を掛けたわけでは無いはず。
まあそこはライトも百も承知のことだろう。
『質問が決まっているとは準備がいいね。何が聞きたい?』
『砂漠に眠ると言う聖宝。お前も盗賊なら詳しいだろう?』
流石身ぐるみはがしに来たら返り討ちにすると言っていただけのことはあって、ライトは回りくどくはいかずにストレートに聖宝の事を聞いていた。
『ふむ。俺が何者かはわかってるってことか。救世院とは関係無さそうだが、聖宝を探す目的は?』
『お前に話す必要はあるのか』
『ははっ!全然ないね。まだ仲間でもなんでもない。君は何も言わなくていいし、俺も何も教えない』
うーん、なんか浅い腹の探り合いというか。
ただいまの会話を聞いていて気になるところが一つあった。
「まだ、仲間でもなんでもない…って」
「まるでこれから仲間になる可能性があるみたいだって?」
「…やっぱ、そう聞こえるよね?」
呟いたら、ホープが反応してくれた。
いやだって仲間って単語が出てくるってさ…。
そしてその予想はこの直後に見事的中する。
『聖宝について知りたかったら、我々モノキュラスの一員になって頂く。つまり、盗賊になれって事。ただし、誰でも受け入れるわけじゃない。入団審査を受けて貰うよ。それが嫌なら回れ右して帰るんだな』
アドニスは穏やかな口調でライトにそう言った。
盗賊団の名前はモノキュラスというらしい。
そしてそこに加わるチャンスをライトに与えると…。
入団審査があるとは言ってるけど、これってライトが使えそうだって思われたってことなのかな。
だとしたらこの人の人を見る目は確かの様な…。
それとも、まったく別の理由があるのかな。
『モノキュラスの入団審査、受ける気になったかい?』
聖宝の情報が手に入るなら、それもいいのかもしれない…なんてちょっと思うけど。
ライトはどう考えるのかな。
読めない笑みを浮かべるアドニスを前に、あたしはライトの答えが気になっていた。
To be continued
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