モノキュラスの入団審査


聖宝の情報の共有を条件に盗賊団に入るか否かを問われたライト。
入った場合に何か支障があるかと言われればそれも特になかったし、ライトは入団審査を受けることを承諾した。





『決意したみたいだね。では、審査の内容をご説明しよう。砂漠の巨大な砂嵐を見たよな?』





彼の言う大きな砂嵐とは。

確かに砂漠の中には大きな砂嵐があった。
ライトは集落に向かう途中、その砂嵐は一度目にしていた。
というか本当なら集落に向かうにはその砂嵐の場所を通るのが一番の近道なんだけどそれがあったから遠回りさせられる羽目になったのだ。

で、まあそれはいいとして…だ。
じゃあ肝心な審査の内容とは何なのか。

アドニスはに笑顔でこう言った。





『あの嵐のせいであれこれ不便で困ってるんでな。砂嵐を止めて頂きたい』





………。

間。
いや、意味が良くわからなくて。

砂嵐を、止める。





「……いや!なんだそのむちゃぶり!?」

「凄い間があったね」





理解しようとして、でも考えたところでやっぱり意味はそれしかなくて思わず大きな声が出た。
ホープに何か突っ込まれたけどいやいやだっておかしいでしょ。





『嵐を止めろとはな。これは巫女や祈祷師の審査か?』





当然、ライトもその無理難題にはそう言い返した。
むしろ若干白い目だ。お前何を言ってるんだ的なあれだ。

でもアドニスの話にはまだ一応続きがあるらしい。





『最後まで聞きな。例の嵐は自然現象じゃあない。神の怒りといか言う、まあ一種の妖術だ。近くにある石碑の力を発動出来れば術は解けて砂嵐は消えると言う』

『そこまで知っているなら自分で嵐を納めたらどうだ』





ライトの指摘はもっともだった。

だってこの人さっきこの砂嵐に困ってるって言ったもの。
なのに原因がわかっていて放置する理由とは。

アドニスは首を横に振った。





『普通の人間には絶対無理さ。俺も含めてな。そんじゃあせいぜい頑張ってくれ。神の怒りの石碑の傍に魔物がいる。魔物を倒して石碑を発動する鍵を手に入れな』





審査の内容説明はそれで終わりだった。

まあ思う事は色々あるけれど、とりあえず砂嵐の前に行ってみなければ何も始まらない。
ライトは集落を出て、例の神の怒りといかいう砂嵐が巻き起こる場所へと足を運んだ。





「うわあ、近くで見るとやっぱでかい…」





ライトが移動したことでモニターに映った砂嵐にあたしは圧倒されて口を開けた。
でも確かに移動もすることなくずっとここで渦巻いてるのって自然現象では無いよね。

ライトもしばらくその渦を見上げていた。

するとそこに何か光が走った。
違和感に振り向くとそこにいたのは堅い甲羅を持った魔物。






「あ!魔物だよ、ライト!」

「アドニスの言っていた魔物ってあれでしょうか?石碑の鍵、持っているのかな」

『倒せばわかる。鍵らしいものを持っていれば正解だ』

「倒せばわかる…相変わらずカッコイイねえ」

『これで、盗賊の同類だな』





そんな会話を交わし、ライトは背に携えた剣に手を伸ばした。
そして魔法を剣を駆使しいつものように軽やかに魔物を片付けてしまう。

まあ魔物との戦闘に関してはそう心配はしていなかったけど。

問題は本当に鍵を持っているのかどうか。





「どう、ライト。鍵っぽいのありそう?」

『ちょっと待ってくれ…今見る』





尋ねれば、ライトは魔物が消えた場所に歩み寄り少し腰をかがめた。

そして砂の中からひとつ小さな何かを拾い上げる。

それはパズルのピースのようなものだった。
いや、パズルのピースよりかは全然大きいけど、形的にって話。





『これが、石碑を動かす鍵?』

『そうとも。石碑を発動するクルクスだ。だけど、誰でも使える品じゃない』





ライトが鍵らしきものを見ていれば、その後ろから男の声がした。
それはアドニスの声。彼も此処に来たのか。そしてその鍵の事も多少なりとも知っているみたい。





『伝承によれば神に選ばれた者だけが…』





そう言いながらアドニスが振り向いた先には石碑があった。
不思議な色をした石碑。そしてそこにはライトが拾い上げた鍵…クルクスと同じ形が刻まれていた。

ライトはクルクスをその石碑へと翳す。
するとクルクスは光を放ち始めた。

ホープは急いでその光を解析した。





「光に害は無いようです。解放者に反応しているのかもしれません」

「神に選ばれた者って…解放者ってこと?」





ライトは輝くクルクスを手に石碑へと近づいて行った。
その様子にアドニスは驚きの声を上げる。





『まさか、本当に解けるの!?』





石碑とライトの手の中にあるクルクスが共鳴する。
カッとより一層輝きが増した時、アドニスは砂嵐を見上げた。

するとその瞬間、強い力が解き放たれた様にひゅんっ…と嵐はそこから姿を消す。

その光景を目の当たりにしたアドニスはあまりの光景に圧倒され、感心していた。





『すごいな…君は本物だ。誰にもできなかったことを…。…クルクスを発動させやがった。なるほど、首領の言っていた通りだな。君は不思議な力を持っている』

『首領?そいつは私を知っているのか?』





ライトは少し怪訝な顔をした。

首領。
アドニスの口から出た新たな人物の存在。





『君が駅に現れた時から首領は君の力を見抜いていたよ。細かい事は首領に会って聞くと良い。流石は首領だ。やはりあの人はちょっと違う』





ライトが駅に現れた時から?
あの瞬間からライトに目をつけていたって?

アドニスの口調から彼はその首領という人物に惚れ込んでるみたいだけど。
流石とか、あの人は違うとかね。





『入団審査は合格か?』

『首領に会ってと言ったじゃないか。不合格なら会えると思う?入団おめでとう。モノキュラスは君を大いに歓迎するよ!』





アドニスはそう言うと嵐の消えた道を通り、集落の方へと駆けていった。

とりあえず…入団審査は合格。
首領に会える、か。





「首領だってよ、ライト」

『ああ』





嵐が収まり少し静かになった砂漠。
そこで自分の発動された石碑を見つめていたライトにあたしはそう声を掛けた。





「集落へ戻り、盗賊団の首領に会いましょうか、ライトさん」

『…そうだな』





ホープに言われ、ライトはアドニスと同じように砂嵐の消えた道を通り集落へと歩き出した。

その道中、話題はやっぱりその盗賊団の首領についてだった。





「ライトが駅に現れた時からってさ、その人いったい何者なの」

「うーん…解放者だと見抜かれていたって事でしょうかね」

『さあな』

「えー?駅に現れた瞬間に?それこそ本当に何者って感じじゃん。千里眼か何かの使い手かよって感じ?」

「あはは、そうなると、それこそその人もクルクス使えそうな勢いだね。まあ冗談はさておき…ライトさん、一応聞きますけど心当たりはなんて…」

『盗賊の知り合いなんて全くないな』

「ですよね」

「むしろライトとっ捕まえる立場だよね、警備軍だったんだし」

『まあ招かれているんだ、会えばわかるさ』





なんだか結構好き放題言ってしまった。

でも本当にどんな人なんだろう。
盗賊団なんて癖のある人多そうだし、それを束ねてるとなると相当のやり手…なのかな。

でも確かにライトの言う通り、会えばわかる…か。

怖い人なのか。屈強とか…。
色々と想像しながら、あたしは砂の上を歩くライトの姿を見ていた。



To be continued

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