「この作戦には舞台関係者の協力が必要です。講演の責任者に話を通すのが早道でしょうね」
スノウに会いに行くためにちょっと強引な強行作戦を行う事に決めたあたしたち。
時間は有限。決めたからには早速行動しなければ。
責任者は舞台が見渡せる場所にいるだろう。
作戦実行の為、ホープの指示通りにライトはこの講演の責任者を探した。
『この講演の責任者だな 』
『そういうあんたは?』
『今夜の舞台は思いきり豪勢にしてくれ。花火の量を増やして盛り上げるんだ。宮殿にいる太守にも届くようにな』
『だから、あんた誰?』
『太守の古い友人だ』
この講演の責任者の名前はサザック。
あたしはあまり劇に詳しくないけど、その道では有名な演出家なのだという。
白黒チェックの服に身を包み、予想通り高い場所から指示を飛ばしていた彼に、ライトは早速声を掛けて交渉した。
『寝込んでいる奴を心配している。見舞いの花の代わりに、派手な花火を贈ってやりたい』
『そんなことしてみろ。大騒ぎになるぜ?』
『ああ、楽しい騒ぎになるだろうな。どうせもうすぐ世界は終わる。今更お行儀良くしてなんになる?』
『言ってくれるな、あんた。確かにユスナーンは半分シ界に食うわれているようなもんだ』
『私が花火を用意する。今日の上演に間に合わせるぞ』
『俺は責任取らねえぜ?それでいいなら乗ってやろう。花火の事なら舞台裏のスタッフに聞いてみな。俺は演出を練り直しておく。飛びっきり派手にな』
正直今夜の講演の演出を変えろなんて話だから、ちょっと無謀かもなって気もしてた。だって今日の今日の話なわけだし。
だけど責任は取らないとは言っているものの、サザックさんの反応はそう悪いものでは無かった。
やっぱこう、芸術家はこう直感で動いたりする感じなんだろうか?
いやでも、普通にライトの交渉が上手かったっていうのもあるかもしれない。
すらすらと交渉の言葉を話していくライトに、あたしは思わず感心してた。
「ライトすげー…。説得上手だ。よくあんなにスラスラと上手い事出てくるなあ…」
「ああ、ナマエだったらえーっとえーっとってテンパりそうだよね」
「ホープくん、お黙り。あたしは作戦練ってからいくタイプなのよ」
「あははっ、はいはい。でも否定はしないんだね」
ホープに笑われた。
この野郎。その白いほっぺたつねり上げてやろうかと一瞬思う。
…確かに否定は出来ないのが痛いんだけど。
あたしたちがそんな風に話している一方で、ライトは花火師さんとの交渉に入っていた。
花火の量を増やして欲しいという頼みに花火師さんは『そんな話は聞いてないぞ』と、ややゲンナリしたように頭を抱えた。まあそれが普通の反応だと思う。
しかし、急な変更でも対応するのが自分の仕事だと話に乗ってくれた。良い人である。
でも、今ここにある火薬は必要量のみだ。だからユスナーンの街中の何か所かで時報の為に上げられる花火を他の花火師から集めてきて欲しいとライトがその役目を買うことになった。
時報の花火ならその時間になったら打ち上げられてしまう。
急いで回り切る為、ライトは一度神託のエリアを飛び出し職人たちを探していった。
『だいぶ集まって来たな。あと少しというところか』
街を回り、順調に花火師さん達から花火を集めていくライト。
抱える量もそこそこな数になってきて、あと数個あれば十分な数だろう。
そんな時、あたしはモニターの中にとあるチラシを見つけた。
「あ、ライト。そこのチラシ見て」
『チラシ?』
あたしの声にライトは壁に貼られているチラシを見てくれた。
なんか今、ちらっと花火って言葉が見えた気がして。
ライトに確認して貰うと、そこにはやはり花火の文字があった。
“チョコボガールズに合言葉を言うと、魔法の花火をプレゼントなのだ!合言葉は《食べちゃうにゃん》だよ”
チラシに書かれた文章。
なるほど。なにかのキャンぺーン的なもので、これを言えば花火が貰えると。
それを見てホープは「へえ」と呟き、あたしは良いものを見つけたとパンっと手を叩いた。
「おお!これよくない?」
「チョコボガールに合言葉を言えば花火がもらえるんですね」
「タダで貰えるならおあつらえ向きじゃない?そいえばさっきチョコボガールさんの前通り過ぎたよね?」
「ああ、美食のエリア、駅前広場、闘技場付近で見かけてるね」
「ホープナイス!ねね、ライト!行ってみようよ」
『…ふざけた台詞だな』
「ええー。でも聞くだけ聞くのはタダじゃない?」
『ナマエ。お前楽しんでないか?』
「気のせい気のせい〜」
『………。』
モニター越しにギロリと睨まれた。こわっ!
ライトの眼光に思わず身が竦む。
いや、まあ確かにちょっと面白そうってのはあるけどね。
これ企画した人もすんげえ台詞考えたもんだと。
しかし花火が貰えるのは事実の為、ライトは渋々ながらチョコボガールの元へと歩いて行った。
『ちょんちょこー合言葉はわかるかなー?』
チョコボを模した帽子や羽根飾りに身を包む、ちょっとセクシーなチョコボガール。
ライトが歩み寄ると彼女は振り向き、ニッコリ笑ってそう質問してきた。愛らしいお姉さんである。
が、しかし。
対照的にライトの顔は眉間にしわが寄っていた。
『…言わないと駄目なのか?』
物凄く嫌そうである。
だけど決まりは決まり。
チョコボガールは合言葉を待って、ライトをニコニコと見上げている。
そんな視線と、花火を手に入れなければならない確かな事実。
流石のライトもそこで折れた。
『たっ…食べちゃうにゃん』
……おお…。
物凄く嫌々に言ったライト。
そんな彼女の台詞を聞いたあたしは、心の中でそんな反応をしてた。
『いやあーこれをあげるから許してー!』
チョコボガールはそう言うと、チラシの約束通りに花火を渡してくれた。
それを受け取ったライト。目的の品は無事に手に入れられた。
しかし、ライトのその顔には少しの喜びも無かった。
そして、そんな反応を見ているとついつい…。
というかマズイ。なんかじわじわ効いてきた。
「花火を入手できました。やりましたね、ライトさん」
「これで充分だよ、きっと!やったね、ライト」
『………。』
そうライトに声を掛けたホープとあたし。
でも、ダメだった。
ふたりしてその声はどことなく笑いが堪えられていなかった。
当然、ライトにはぎろりと睨まれた。だからお姉さん、怖いですって。
まあとにかく、これで花火は揃っただろう。
ライトはサザックさんに報告すべく、再び神託のエリアへと足を戻す。
その道すがら、ホープは作戦の次の準備を口にした。
「次は、上映中の舞台へ上がる準備ですね」
『爆破の瞬間舞台に乗り込む。それだけだろう』
単純な話だとライトは軽く言う。
しかしホープはいやいやと首を横に振った。
「爆破してからじゃ遅いんです!あらかじめ、舞台の上にいて貰わないと」
『舞台にいろだと?役者でもあるまいし』
確かに、舞台にいるのは役者さんくらいか。
ライトはきっと何気なくそう口にしただろう。
だけどその一言にホープは頷いた。
「ですからライトさんには、役者になってもらいます」
『なっ…』
「へっ?」
さも当たり前のように言うホープ。
その言葉にライトはギョッとし、何気なく話を聞いていたあたしもきょとんとしてしまった。
え。あ、ライトに役者さんさせるの…?
いや、あたしも適当に舞台に潜りこむんだろうな〜くらいでそんなに深いこと考えてなかったから。
『っ出来るか、そんなこと!』
当然、ライトの反応と言えば断固拒否だった。
うん。知ってた。
しかしホープも譲らない。
「出来る出来ないの問題じゃないですよ」
ぴしゃっと言い切るホープ。
あ…その台詞そこで言うのね…。
というか、そっちは覚えてんのかアンタ…。
…って、まあ感情の希薄なホープがそこまで考えているのかはよくわからないけど…。
とりあえず、その台詞を言われてしまえばライトも弱い。
『……やるしかなければやるだけか』
観念したライト。
しかしその背中はとても重そうだ。
そんなライトにホープは笑った。
「バックアップは任せてください。台詞や演技の段取りは、通信で合図します」
『…まったく、頼れるナビゲーターだよ』
やれやれ…と言った感じでライトは言う。
確かにホープのナビゲートって的確だよなって思う。
隣で見ててそれはかなり感心してる。
演技のアシストも、ぶっつけ本番で舞台に立つと言うなら心強い限りではあるんだろう。
「では、台詞を確認しましょうか。人々を救えるなら、命など惜しくはありません!」
『人々を救えるなら、命など惜しくはありません』
「わーお、棒読み〜い…。で、ホープは結構ノリノリ?」
ちょっと演技掛かって大袈裟に台詞を呼んだホープに対し、復唱するライトは抑揚無しだ。
ちらりとホープを見れば、彼はあたしに向かって「へへっ」と軽く笑う。そしてライトの背を押した。
「本番を期待してます。ライトさんならアドリブで対応できますよ」
あたしもそうなんだけど…ライトへのこの絶対的な信頼感ってなんなんだろうね。
なんかライトならいける…っていう謎の自信と言うか。
ライトからしてみたら好き勝手いいやがってって感じだろうけど。
でもなんとなく、やっぱり彼女に対しては憧れみたいなものがどこかしらにある気がしている。
こうしてしぶしぶながら、ライトはサザックさんの元へと出演交渉に向かった。
『待たせたな。花火の準備は終わったぞ』
『よし。舞台の特殊効果は万全のようだな。へへへ、あんたの希望通りド派手な舞台になるぜ。神様の像がぶっ壊れてもおかしくないくらいのな』
サザックさんは変わらずに先ほどと同じように舞台を見渡せる場所にいた。
ライトが報告すると彼はニヤリと笑いながら舞台道具の大きな神の像を見上げた。
…まあ、まさにその像を倒すのが目的なんですけど。
ライトはそこで舞台へ上がるための交渉に打って出た。
『そんな危なっかしい舞台に上がるのはおめでたい役者だけだな』
『あんた、何が言いたいんだ?俺の役者たちに文句でもあるのか?』
『心配してやっているんだ。ご自慢の役者が花火で吹っ飛んだらどうする。危険な演出をこなせる代役が必要だ』
先程と同様、口が上手いなあと思う。
よくもこんな風に話を持っていくことが出来るなと。
役者さんを危険にさらすのはサザックさんにとっても確かに痛手。
彼は難しそうに顔をしかめた。
『そりゃそうだが、急に代わりの俳優なんて…』
『代役は、ここにいる』
悩んだ彼に、ライトはすかさずそう言った。
まるでバラの花びらでも舞いそうなくらいの良いポーズを決め、清々しいほどの主張である。
…ああ、やけくそだな。
それを見たあたしはそう思った。
『はっ!?…そうか。最初からそのつもりか!派手な舞台を用意したのは自分が出演する為か!』
まさかの立候補にサザックさんは声を上げて目を丸くした。
そして、なんだか色々納得していた。
いやまあ、花火集めてたのはただ単に柱をぶっ壊そうとしてただけだけど…。
なんだか微妙に勘違いされていて、ライトは何かを耐える様に微妙に拳を震わせていた。
あー…うん。
だけど結果はオーライだから必死に耐えてる様子。
そう。それを聞いたサザックさんの感触はそう悪くなさそうだった。
『清々しいほど図々しいな!実に傑作!まさにクソ度胸!あんたなら解放者の役を任せても良い』
解放者本人ですけど〜という突っ込みは置いておく。
とりあえず、前向きな返事は貰えた。
平然として見せてるけど、ライトも内心ほっとしているのかもしれない。
『出演交渉は成立だな』
ライトはそう言った。
ああ、良かった。あたしもそう思った。
だけど、サザックさんはまだ首を縦には振らなかった。
彼にはまだ、ライトを舞台に上げるのに条件があるようだった。
『おおっと待った。ひとつ条件がある。本気で舞台に上がる気なら、主演女優として恥ずかしくない衣装を持ってこい』
『普段使っている衣装でいいだろう』
『駄目だな。いつもの女優は着る衣装はあんたのイメージには合わない。衣装が似合わん役者など俺の舞台には上げられない。自分に相応しい衣装くらい自分で選んで持って来い。いや、勝ち取って来てもらおうか』
『衣装を勝ち取るだと?』
『闘技大会だ。あんたに似合いそうな衣装が大会の商品になってる。大会を勝ち抜いて獲得して来い。これはオーディションでもある。危険な舞台で演技をこなす実力があるなら大会なんて楽勝だろ。さあ、闘技大会で勝利して解放者役の衣装を手に入れろ。この条件がクリア出来たなら、今夜の舞台はあんたが主役だ!』
ユスナーンの南西の方に勇猛のエリアというものがある。
そこには闘技場があり、毎晩闘技大会が行われているという。
その景品に衣装があり、それを勝ち取ればライトの出演交渉は成立…か。
ライトは相当腕が立つ。
多分、大会に勝つこと自体はそう難しい話では無いのだろうとは思う。
しかし、これで舞台に立つのは決定的となった。
いやまあやるしかなければやるだけなんだけどね。
「うーん…チョコボガールの事に関してはあたしも煽ったしアレだけど、なんかちょっとライトに申し訳なくなってきたかも」
モニターを見ながらそう呟く。
食べちゃうにゃんに舞台出演。
まったく気乗りじゃないだろうに、ちょっと気の毒と言うか。
評判の舞台の主演女優とか、もし自分がやれと言われたら気が重すぎるし。
それを聞いたホープも小さく笑った。
「ははっ、スノウに会いに行くためにはこうするしかないからね」
「そりゃまあそうなんだけどね…」
「じゃあナマエもあの合言葉言ってライトさんをねぎらう?」
「いやどういう事よ。意味わかんないでしょ。おちょくってんのかって拳骨喰らうよ」
「あははっ!残念。僕はちょっと聞きたいけどな」
「…いや、意味不明」
下らないやり取りに笑うホープ。
あたしはそんな彼の頭を軽く小突いた。
ともかく、衣装を手に入れられればスノウの宮殿に乗り込む手筈は揃う。
サザックさんの提示した条件を飲むべく、ライトは勇猛のエリアへと向かうのだった。
To be continued
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