君の隣に


AF500年、新都アカデミア。

パラドクスにより歪んだ道なき道を進み、やっと辿りついたアカデミー本部の正面。
そこであたしたちはホープが率いる部隊に助けられ、準備されていた飛行戦車に飛び乗るように指示された。

ホープいわく、頼れる人を連れてきたとか何とか。

飛び乗った飛行戦車を操縦するその人。
それは確かに、この上ないほど信頼できる、まさに頼れる人でした。





「サッズさん、なの?」

『おうよ!あんときゃドッジが世話んなったな!』





風を切り、勢いよく進んでいく飛行戦車。
セラがおずっと尋ねれば、外部についているスピーカーからノリのいい声が聞こえてきた。

凄く懐かしい、久しぶりの声。

あたしは飛行戦車の屋根をパシパシ叩いて呼びかけた。





「もー!サッズー!すっごい久しぶりだよー!今まで何してたの?」

『ああ、本当に久々だよなあ!まあ、こっちも色々あってな。ひとまずは元気でやってるさ!お前さんとホープの奴も元気で何よりだぜ!』





返ってきたのは、あの陽気な声。
本当に…すっごく懐かしい声だった。





「知り合い?」





親しげに話すあたしやセラを見て、ノエルが尋ねてきた。

そうだ。この旅を始めて、この人とは一度も再会出来なかった。
となれば、ノエルは勿論初対面ということになる。

セラとあたしは、ノエルの問いに笑って頷いた。





「うん!」

「そ!仲間だよ!ルシだったとき、一緒に旅してた人!」





その再会は、純粋に嬉しいものだった。

サッズ・カッツロイ。

あたしやホープ、ライトやスノウと共にルシにされた最年長の男の人。

小さい息子がいるからか、よくあたしやホープを気遣ってくれてたっけ。
普段はおどけて空気を軽くしてくれる。だけどいざと言うとき物事を冷静に判断してくれる。

一番人生経験豊富な、頼れる素敵なお父さんだ。





『積もる話は後だ!あの野郎にぶちかませ!』





サッズの声に前を見れば、彼方へと飛び去ったはずのカイアスのバハムートが目の前に現れていた。

混沌の力が渦巻いてるみたい。
言うなれば、そう…カオス・バハムート。





「未来を決める戦いだよ」

「うん。熱い展開だね、負けられないよ!」

「ああ!いくぞ、カイアス。あんたに習ったやり方で、あんたを止めてやるからな!」





ふたりが武器を構える。
あたしは、補助魔法の詠唱を始める。

AF10年。ヤシャス山でホープは皆が消えてしまったと言っていた。

だけど、また今こうして同じ目的を抱いてる。
それぞれ戦い方は違うけど、確かに同じ未来を望んでいるのだ。

すごく不思議。
それだけで、自分も応えたいと…心の底から思うことが出来る。





「シェルガ!!!」





叫んだ魔法。
光輝くベールが身を包み、バハムートが放った魔法を食い止める。





「はあっ!!」

「うらあ!」





その隙に、二人がカオス・バハムートにルインを飛ばした。

光の玉は、バハムートの近くで破裂した。
だけど、掠ったくらいだろうか…?命中はしなかった。

ビュンッと羽ばたきルインを避けたカオス・バハムートはこちらに向かって飛んできた。
そしてその姿を人の姿…カイアスにへと戻し、あたしたちの飛行戦車の上へと軽く降り立った。





「どうやら気づいていないようだな」





そして、彼が目を向けたのはセラだった。
カイアスはセラを瞳に捉え、脅すように言葉の揺さぶりをかけてきた。





「君は、ユールと同じように時が視えてしまう者だ。時を変えて未来を救っても、君の命は、」

「知ってる」





だけどセラはその言葉を遮った。

むしろ動揺したのは、あたしやノエルの方だったかもしれない。
そんな中でセラは、誰よりも強い目でカイアスに言い返した。





「時を変えれば、未来が視えて…私の命は削られていく。それでも…それでも私、未来を守る!」





カイアスの言葉の意味を、時詠みの真実を…あたしたちはこの旅の中で知った。

命を蝕む、時詠みの力。
いつの間にか、その力を授かってしまったセラ。

だけど、彼女の意志は…眩しいほどに強かった。





「立派な覚悟だな」





剣を構え直したセラの姿に、カイアスは相成れぬ存在だと判断したのだろう。
鋭い視線がセラを射抜き、カイアスもまた剣を構え直す。





「まず、君から殺す!」





カイアスはセラをターゲットとして捉えた。
素早くセラに向かってくるカイアス。





「きゃっ!!!」





カイアスはセラの剣を勢いよく弾き飛ばした。
その衝撃により、セラの身体は甲板に倒れ込んでしまう。

好機を逃すまいと、カイアスはセラに剣を振り下ろそうとする。

だけど、事はそう簡単に運ばせはしない。





「カイアスッ!」

「そんなの許さない!」





咄嗟にノエルがセラを庇い、振り下ろされる剣をノエルも剣で受け止める。
あたしはその直後にブリザガを放ち、命中はさせられなかったけど、避けさせたことによりカイアスを二人から引き離す事には成功した。

もう、誰一人として大切な人を失ってなどなるものか。

セラとノエルは自分を守ってくれる。
だからあたしも、セラとノエルを絶対守る。

ノエルはそのままカイアスを追いかけ、再びカイアスと剣を交えた。

あたしはセラのもとに走り、彼女の肩に触れて起こすの手伝う。





「セラ、立って!」

「うん、ありがと、ナマエ」





起こしたセラと共に、カイアスとぶつかるノエルの背を見つめる。

ノエル…すべてを知った上で、カイアスとぶつかるのは…どんな想いなんだろう。
ふたりは一歩も引かず、ギリギリと剣を震わせていた。





「仲間を守るとなると強いな。流石守護者だ」

「あんたもそうだろ!ユールを守るのが仕事だろうが!」

「すべてはユールを救うためだ。呪われた運命に縛られた、魂をな」

「魂だと?」

「これまで何人ものユールに会ったはずだな。時詠みの巫女は時代を超えて転生を続ける存在だ。その意味がわかるか。ユールはただ死ぬだけに生まれるのだ。時を視る力はあっても、時を変える事は許されず、この世に何も残せないまま若くして死ぬ。やがて生まれ変わっても、無為に死んでいく。無意味な転生はここで断ち切る。どんな犠牲を払ってでも構わん。運命も、時すらも滅ぼして、ユールの魂を…解放する!」





そう叫んだカイアスは、勢いよくノエルの剣を吹き飛ばした。

剣ごとはじけ飛ばされたノエルの身体。
ここは空の上、落とされたら一巻の終わりだ。





「嫌っ!」

「ノエル!!」





あたしとセラはノエルを追う。
ノエルは何とか体制を立て直して甲板の上に上手く着地した。





『ナマエ!ノエル!セラ!つかまれぇい!』






その時、コックピットのサッズから指示が飛ばされてきた。

それは飛行戦車が急激に傾くことを意味していた。
その影響によりカイアスの身体は飛行戦車から放り出される。

今、カイアス体制崩した?

放り出されたそのチャンスをあたしたちは見逃さなかった。





「ブレイブ!!」





あたしは急いでノエルとセラにブレイブを贈った。
それとほぼ同時、セラとノエルはカイアスに飛び掛かり攻撃を当てる。

サッズが体制を立て直し、宙に浮いたふたりの身体を飛行戦車が上手く受け止めた。

直後、空にはヴァルハラに通じる時空の穴が生じ始めた。





「空が…世界が裂けるだと?」





目の前に起こったとんでもない光景に、ノエルが息をのんだ。

あまりに目まぐるしい展開。
あたしも、今起こっている光景には目を奪われた。

世界が裂ける…。
その表現は、まさにだった。

あり得ない光景。
空に、大きく大きく開いていくこの世のものとは思えない次元の扉。





「昏き翼よ!」





すると、追い詰めたはずのカイアスは落下しながら召喚魔法を発動させた。
そして再び、カオス。バハムートへと姿を変える。

翼を得たカイアスはそのまま、その時空の穴の中へと飛び込んで行ってしまった。

同時に、その穴からは大量の魔物が溢れだし始めた。





『支援攻撃を開始!』





だけどそこへアカデミーの援軍の飛行戦車が現れ、次々とその魔物たちを撃ち落としていってくれた。

またそこにはホープを甲板に乗せた一機の飛行戦車もあり、あたしたちの飛行戦車と並行するように追いついてきた。





「ホープ!」

「カイアスを追いましょう!」





風に強くなびく髪を押さえながら名前を呼ぶと、ホープはそう声を張り上げた。

そっか。
一緒に戦うつもりで追いかけてきてくれたのか。

だけどそんなホープに、セラは首を横に振った。





「ホープくんは残って!」

「しかし…!」

「ヴァニラとファングを、お願い!」





セラは微笑んだ。
そして彼に、クリスタルで眠るふたりのことを託した。

ホープは少し迷いを見せていた。

あたしもセラに頷き、ホープに向かって叫んだ。





「ホープ!ふたりに何かあったら、タダじゃすまないからね!」

「ナマエさん…」

「ふたりのこと、よろしく!」

「……わかりました」





少し悩んだ末、ホープはそれを承諾してくれた。
そして次には明るい声とつくり、笑みをこちらに向けてくれた。





「終わったら祝賀会です!遅刻は駄目ですよ!」

「了解!さよならはお預けだ!」

「帰ってくるよ!お姉ちゃんも一緒に!」





ノエルは拳を強く握り、セラは笑ってホープに応える。

最後に、ホープはあたしの名前を呼んでくれた。





「ナマエさん!」

「うん!」





聞こえてるよ、とあたしは彼に頷き手のひらを挙げる。

ホープは一度少し苦しそうに目を閉じた。
だけどすぐに開いて、真っ直ぐ見つめて言ってくれた。





「待ってますから!貴女の事を!」





ホープはその言葉と共に、握った拳をこちらに差し出した。

それは、左手だ。
グローブに隠れて見えないけど、その下にはきっと…揃いの輪が輝いている。

ホープは、待っててくれる。
それは…いつかみたいな曖昧な言い方じゃない。

もう、揺るがない。
あたしの帰る場所は、君の隣だ。





「うん!行ってきます!終わったら、しーっかりと迎えてよね!」

「勿論!ちゃんとただいまって言ってくださいよ!」





あたしも左手を彼に差し出す。

繋いだ手。
放さないと約束した手のひら。

さあ…決戦だ。
飛行戦車は穴の上へとやって来た。





「飛び込むぞ!」

「うん!」

「りょーかい!」

「クポポポー!」





ノエルの声に頷き、あたしたちは次元の穴へと一気に飛び込む。





「御無事で!」





落ちていく身体。

行きつく先は、どこだろう。
ううん、どこだとしても、前だけ見る。

落ちていく中で、あたしは胸に手を当てた。
そして、最後に聞いたホープの声をぐっと胸に刻みつけた。



To be continued

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