お店を始めることを決めてから、あたしたちは着々と準備を進めていた。
お店の場所は、ミッドガルの東。
そこに出来つつある通り沿いに作ることに決めた。
必要なものはミッドガルから運び込んでいく。
これは今誰もがやっていることだった。
そして、あたしたちが情報収集をしていた時に助けた人たちが、恩返しと言ってお店作りを手伝ってくれた。
「ナマエ、どうかな?」
「うん。だいぶ飲みやすくなったよ」
バレットが大声で指示して、でもその大雑把過ぎる指示をクラウドが小声で修正して。
あたしはそんな光景を見て笑いながら、コレル酒の作り方を覚えたティファが更に飲みやすい様に改良しているのを手伝ってた。
マリンはそんな店作りの空間の皆に可愛がられ、マスコットみたいになってた。
本当、バレットが育てたとか信じられないくらいマリンは可愛いなー。
時折「ナマエー!」って背中に抱きついてくるマリンを抱っこして遊ぶのもあたしは思いっきり楽しんでた。
ティファもよく笑うようになってくれた。
笑った後、ふと…はっとしたように笑顔を消すことはあったけど…。
まるで笑うことさえ罪なのではないかと思っているかのように。
でも、慌しくて忙しくて、悩んでる暇なんてきっと無かった。
だからこの選択はきっと間違ってなかったんじゃないかって、あたしは思えてた。
「あと何日かでオープン出来るかもしれないな」
そんな頃のとある夜、クラウドがそう言った。
「じゃあよ、そろそろ名前でも決めようぜ」
そして、それを聞いたバレットが提案する。
それを切っ掛けに、今日の談話の内容はお店の名前についてになった。
「うーん、お店の名前かー。結構重要だよね」
あたしは笑いながらそう言った。
つけるからには、気に入ったものつけたいもん。
なにかにあやかるとか、意味を込めるとか。
そんな感じで最初はウキウキしてた。
…でも、話し合ってしばらくしたら、なんか前途多難だった。
なぜならば、だ。
「おう、こんなのはどうだ!」
その1、バレットの案。
聞いた瞬間、ずっこけそうになった。
「化け物か!!?」
「ああ!?なんだと!?」
文句を言ったら睨まれた。
いやいや凄まれてもこれはOK出せないだろ…!
いつもの威勢のまま挙げたバレットの店名。
正直ありえなかった。
だからあたしは即突っ込んだ。
バレットの上げる店名は何事だ!?ってくらい物騒なニュアンスなものばかりだった。
意味がわからない。どんなセンスしてるんだ!この人!
「本当よ…。モンスターじゃ無いんだから…」
店主であるティファも頭を抱えて即拒否していた。
だよね、うん。
ぶっちゃけ当然の意見だと思った。
「ねえ、クラウドはどう?何か思いついた?」
気を取り直して、あたしはクラウドに話を振った。
いやあ、あたしクラウドが決めた名前だったら何でもOKしちゃいそうだよー!
盲目は自覚してますとも!だから最初こそそう思ってた。
「そうだな…、俺は」
その2、クラウドの案。
聞いた瞬間、…反応に困った。
「ナマエ?どうだ…?」
「あー…うん、えーっとねえ…」
固まったあたしにクラウドは感想を求めてきた。
クラウドの店名…感想に困った。
でも仕方ない…。あたしは正直に答えた。
「…ごめん、クラウド。つまんない…」
「つま…、」
クラウドがぴしりと固まった。
うん、あたしね…クラウドの事だったら色々ポジティブに脳内変換出来ちゃう様な気がしてたの。
…でも、でも駄目だった…!駄目だったよ…!
クラウドの提案した店名はビックリするくらいつまんなかった。
感想に困るって本当に困ったよ!
だって感想無いんだもん!!
「そ、そうか…」
クラウドはそう言いながら、少ししょんぼりしてるように見えた。
あ、ちょっと可愛い…とか思ってごめん。
でもちょっとフォローできそうにない。
だって本当に味気ないんだもん。
こーゆーのなんていうんだっけな。
すごく適切な言葉があった気がする。
「無味乾燥、ね…」
「ああ!!それ!!」
ティファが呟いた言葉に、あたしは物凄い勢いで頷いた。
そうだ!そう!
無味乾燥!超ピッタリ!
そんなあたしとティファの反応に、クラウドは更にしょんぼりしてるっぽかった。
でもすぐに立ちなおしたようにあたしに返してきた。
「…じゃあ、ナマエはどうだ?」
「え?あー、うん…」
話を振られて小さく頷いた。
実は、なんだかんだ言ったところであたしはひとつも案を出してなかった。
いや…別に無いわけじゃない。
実はひとつだけ、浮かんできた名前があった。
でも…それを口に出すのは躊躇われた。
「あの、さ…ティファは?」
「あ、うん…私はまだ色々と考え中。バレットとクラウドの案ちょっと微妙だし、またゆっくりふたりで考えようか」
「……うん」
とりあえず、頷くしかなかった。
あたしの思いついた名前は、たぶんティファの頭にも絶対浮かんでいるはずのものだった。
でもティファはそれを口にしなかった。
セブンス・ヘブン
それが、過ぎった名前。
でもティファが口に出さなかったということは、たぶん避けてるんだろう。
この名前をもう一度使うことを。
だけど、そんな問題を一気に解決してくれたのは、小さな一言だった。
「ねえ、店の名前、決まった?」
オープン目前になった頃、ティファに尋ねたのはマリンだった。
オープンが近づくことにやることが増えていったティファ。
マリンの質問に、作業をしたままティファは首を振った。
「まだ考え中だけど…何かアイディアがあるなら言ってみて」
ティファがそう聞くと、マリンは悩むことなくすぐに答えた。
「セブンス・ヘブンがいいな」
その言葉にあたしは肩がぴくりと動いたのを感じた。
すぐにティファの反応を伺えば、その瞳は揺れていた。
…ああ、やっぱり…。
なんだか、想像したとおりの反応だった。
「どうして?」
ティファは髪を耳に掛けながら、そっと尋ね返した。
「だって楽しかったよ。セブンス・ヘブンにしたら、また楽しくなるよ。ねえ!ナマエも楽しかったよね?」
マリンはあたしに駆け寄って手を掴んで、嬉しそうにそう言った。
…うん。楽しかったね。
あたしがセブンス・ヘブンに通うようになったのは、セブンス・ヘブンにグラスを増やそうと思って買い物に出てたティファとたまたま出会ったから。
バレットやマリン。
ジェシーにビックスとウェッジ。
それに、クラウドにまた会えたのも…セブンス・ヘブンがあったからだ。
セブンス・ヘブンという場所は、あたしにとってはすごく大切な意味を持った場所だったと思う。
だから、ちょっとマリンに加勢してみることにした。
「ティファ。こないだは言わなかったけど、あたしもセブンス・ヘブンがいいと思ってた」
「…ナマエ」
「すっごい個人的な意見になっちゃうけど、あたしが今ここにいられるのは…セブンス・ヘブンがあったからだから」
あの場所は辛いだけじゃない。
…楽しい空間でもあったはずだから。
「うーん、セブンス・ヘブンか…」
この3人の会話で、ティファは覚悟を決めたようだった。
END
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