手にした時間を | ナノ
やっとオープンしたセブンス・ヘブン。

どのくらいお客さんが来るのかは全然未知数だった。
でも、初日から大忙しの大盛況で、よかったと思うと同時にビックリした。

結局のところ、バレットの考えはどんぴしゃだったみたいだ。

皆、こういう場所を求めてたんだって事。

手に入る材料は限られてるから、凝ったことは出来ない。
でも、子供も入れるようにしたり、お金だけじゃなくて物々交換でも飲めるようにしたり。
そういう工夫を凝らして、提供するこの空間は、必要とされていたと思う。





「ナマエ、今日は行けるか?」

「うん。一緒に行く行く!」





そんな新しい時間が始まって、あたしたちにはそれぞれの役割というものが出来ていた。

ティファは言わずもがな、お店の料理やお酒の準備。
バレットはいつもお店の隅でお酒を飲んでた。たぶん、用心棒みたいなことしてるんだと思う。
クラウドは食材やお酒の原料の調達。

あたしはというと。





「じゃあティファ、マリン!行って来るねー」

「いってらっしゃい、ナマエ!」

「気をつけて。帰ったら料理の下準備手伝ってね」

「おまかせあれっ!」





笑って手を振って、前を歩くクラウドを追いかけた。

あたしの仕事といえば、主にはティファの手伝いだった。
お店の掃除をしたり、料理を手伝ったり。

それと、時間が合えばクラウドと一緒に材料調達にも行ってた。

ざっくり言っちゃえば雑用係だ。
なんでもやりまっせ!なんでも屋復活!なーんて。

主なやることは決まってなかったけど、することは沢山あったし、役に立ってるって充実感とか達成感は凄くあった。

だから、あたしはこのリズムを凄く楽しんでた。





「なあ、ナマエ。これは…、どれなんだ?」

「ああ、これはね…」





材料調達は、ティファの書いたメモに従って収集することが多かった。

その時、クラウドはメモを指さしあたしに尋ねる。
それは知ってて当たり前の野菜や果物。

最初尋ねられたときは「なんでそんなこと聞くの?」って首を傾げた。

理由は単純。
クラウドは、野菜や果物の名前をほとんど知らなかった。

あまりに知らなすぎて、笑ったりもした。

でも考えると、クラウドの人生って結構波乱万丈なんだよね。
なんていうか…青春時代すっ飛ばしてるって言うの?





「これは、あれだよな」

「うん。そうだよ。こないだと同じ」





あたしと調達に来てるときは、クラウドは大抵ひとつひとつ確認しながら丁寧に仕事をこなしていっていた。





「…なんか、悪い」





でも今日は少し、違う。
何故だか突然申し訳なさそうな顔された。






「うん?どしたの?」





別に謝られるような事はされていない。
聞き返すと「いや…」とクラウドは頬を掻いた。





「常識っていうか、俺、あんまりわかってないんだよな。当たり前のことばっか聞いてるんだろうなって思って」





どうやら、クラウドはクラウドで気にしていたらしい。

そういえばシドがいつか言ってた。
クラウドは物知りだと思えば、当たり前のことも知らない、って。

なんかシドって結構人のこと見てるんだなって思った。
ああ、見えてね。うん。ああ見えて。

確かにそれは思った。
でも別に、やっぱり謝るようなことじゃないと思う。

ていうかむしろ、あたしは嬉しかった。





「いいじゃん別に。誰にだってわからないことくらいあるでしょ」

「それは、そうだけどな…」

「それにあたしは嬉しいよ」

「嬉しい?」





何が、という顔をするクラウド。
そんな顔を見て、あたしは笑った。





「だって、約束果たせてるから。クラウドについてどんどん知ってることが増えてく。だから嬉しい気持ちのほうが断然勝ってる」

「…でも、馬鹿みたいじゃないか?」

「むしろ可愛いな〜とか思ってたりして?」

「可愛いって…何も嬉しくない」

「あははっ、良い意味なのに」






ていうかダメだ。あたし今たぶん一般論とか通用しない。

恋は盲目、なんてよく言ったもんだ。
この言葉作った人、天才だね!頭よすぎる!

でもちょっと自分でもこの思考回路はアホだわ〜って思えてくる。

だからクラウドの言葉を聞き返してみた。





「あたし、馬鹿みたいでしょ?」





そう尋ると、クラウドはふっと微笑んだ。





「むしろ、嬉しい気持ちのほうが勝つな」





まったく同じ台詞。
顔を合わせて、ふたりで笑った。

さて、じゃあそろそろ仕事再開だ。

再び足を動かし始める。

それぞれの歩幅は違うけど、クラウドはあたしに合わせてくれていた。
気づいたときは無性に嬉しい気持ちが広がった。





「……。」





ゆっくり歩く歩幅の上。
その視界に映るのは、規則正しく揺れるクラウドの手。

…うーん。
今日はちょっと欲張りしてみてもいいだろうか…?

よ、よし…!あたし頑張っちゃうぜ…!

よくわかんない決意をして、あたしはそろりそろり…揺れる手に手を伸ばした。





「!…ナマエ?」





緊張気味に掴んでみた手。
あたしよりも全然大きな男の人の手だ。

触れると、クラウドは驚いたようにあたしを見てきた。





「ええと…駄目…かなあ?」





うぐ…ここまでやっといてちょっと怖気づいた。
だから恐る恐る聞いてみた。

…あ、なんだか軽いデジャブのような。

これは…あの時だ。
北の大空洞でセフィロスへの恐怖心を和らげる時の。

ふ、ふん!今回は己の欲望のままにだけど何か!?





「…大歓迎、かもな?」

「…へ、あっ…!」





するとクラウドの優しい声が聞こえて、ぎゅっと握り返された。

う、うおおおお…!
に、握り返されましたよ先生!

先生って誰だよなんて聞かないで!こういうのはノリだもの。

ともかく手を繋いでるんだって再確認した事実。

…え、えへへへへへ。
なんか凄いにやけてきて、隠すように少し俯いた。






「ナマエ?どうかしたのか」

「ちょっと待って…、今にやけてるから見ないで欲しいに一票」

「へえ…それは見せてもらわないと困るな。ナマエのこと、色々教えてもらう約束だ」

「は!?い、いやいやいや!」





…ああ、やばい。
なんか嬉しすぎるかもしれない…。

クラウドが隣にいる。
この現実は、あたしにとっては確かな喜びなんだ。

うん、あたしは今…きっと幸せなんだと思う。

まだまだ大変なことは沢山あるし、ティファやバレットは思い悩むこともあるだろうけれど。
あたしは確かに、小さな幸せを見つけ始めていた。



END
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