「ううう…。なんか痛い…」
ああああ…、なんか頭がぐわんぐわんするよーう…。
お酒を飲んで笑った。
その夜の翌日、あたしは朝っぱらから微妙なにぶーい頭痛に頭を押さえてた。
「店を作ってこの酒を売るってのはどうだ?」
そんな一方で、あんなに浴びるように飲んでたバレットは、昨日と打って変わって真面目な顔をしてそう言った。
なんであんだけ飲んで平気な顔してんの!?
あたしはそう思ったけど、それはどうやらちょっぴり論点がおかしいっぽい。
「俺たちが?」
クラウドが驚いたようにバレットの顔を見る。
それでちゃんと流れを汲んだ。
ていうか、話自体は別に聞いてる。
くそ!なんであたしだけ!って、ちょっと理不尽だなって思っただけ。
バレットは、昨日のお酒を売ろうとしてるらしい。
聞き返したクラウドに、バレットは「馬鹿言え!」と首を振った。
「俺たちに接客は無理だ。ティファがやるんだよ」
急に話を振られたティファは自分の顔を指差し「私?」と目を見開いた。
どうやらこっちもビックリしたらしい。
「なんかよくわかんないけど、でも確かにクラウドとかバレットの接客って想像できないね」
あたしはそう意見をこぼした後、ちょっと想像してみた。
うーん、クラウドは愛想が良いとは言えないし、バレットの強面じゃお客がビビるに一票だと思う。
あ、でも待てよ…クラウドは格好いいよね。
顔とか整ってるよね。見てるだけで「えへへー」とかにやけちゃう程だよね。
好みはあるけど、あたしはドストライクだよ!とにかく格好いいよ!
女装してもばれないくらいだし。ねえ?
…と、言うことは。
お姉さま方の常連さんが期待出来ちゃったりとか…って、ちょっと待て!
「あ、あかんあかんあかん!クラウドさん絶対やっちゃあきません!!」
「え、な、なんだ、ナマエ…!?」
「何でケット・シー調なんだよ!そして何を想像したのか知らねぇがうるせえ!ティファだっつってんだろうが!」
やめてくれ!ってクラウドの腕にしがみ付いたら、がん!とバレット頭を殴られた。
ちょ!手加減してるとはいえ、女の子の頭をギミックアームのほうで殴るってどういうことなの!?
結構痛いよ、それ!?マリンの教育に悪いでしょ!!
そんなことを思ながら頭をさすった。
でも「大丈夫か?」ってクラウドが撫でてくれたから、ちょっと嬉しい。
現金だって?うん、知ってますけど何か!
「ったく、いいか。よく聞けよ」
そんなこんなで、バレットは説明を始めた。
なぜお店を出そうなどという考えを思いついたのかについて、自分の気持ちを話していった。
「俺が見たところミッドガルの連中は2種類に分かれる。この街に起こったことをまだ受け入れられずにグジグジしてる連中と、とにかく生きようとして体を動かしてる連中だ。でな、俺にはどっちの気持ちもわかる。みんな問題を抱えていて、どう対処するかの違いだけだろ?ってなわけでな、みんなの問題を解決するのが酒だ」
「なぜ?」
クラウドは聞き返した。
でも当のバレットは首を横に振った。
「わかんねえよ。でも昨日みんなで酔っ払って笑ったじゃねえか。色んなこと忘れられただろ?その瞬間だけはよ」
「まあ、そうだな」
「うん、だね」
クラウドと顔を見合わせて頷いた。
昨日は確かにたくさん笑った。
今はその代償かのように頭痛いけど…。
でも、昨日は楽しかった。
「だろ?だろ?そういう時間が大事なんじゃねえか?な、ティファ、どうだ?」
「うーん…」
あたしやクラウドのわりと好意的な意見を聞き、気をよくしたバレットはそのままティファに声を振った。
でも当のティファはすぐに頷かず、どこか迷っているように返事を渋っていた。
そんなティファを見て、あたしは思い出していた。
旅を始めるよりも前。よく顔を出し、入り浸っていたあのお店の光景を。
「ティファ、やってみろよ。辛かったらやめればいい」
迷いを見せるティファの心を気遣うように、クラウドは優しく勧めた。
ティファはクラウドの顔を見て、また少し考え直すように「うーん…」と唸った。
「辛くねえって。ティファは働いてないと色んなこと考えちまって、なーんも出来なくなっちまうんだから」
バレットが大袈裟に手と首を振った。
辛くないかは別として。
でも言ってることは一理あるかもしれないと思った。
することが無いと色々考えちゃうものだ。
特にティファはそういうタイプだとあたしも思う。
「うん。クラウドの言う通り、駄目だったらやめればいいよ。とりあえずやってみるのもいいんじゃない?手伝えることがあったらあたしも手伝うし」
あたしも勧めた。
全員から勧められればティファの気持ちも流石に動いた。
まだ少し迷いはありそうだけど、お試ししてみる気にはなったらしい。
「そう、だね。…やってみようか」
ティファは頷いた。
その日から、あたしたちはお店の開店に向けて準備を始めることにした。
END
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