「おい!ちょっとこれ見てみろ!」
そう言ってバレットが持ち出したのは酒瓶、ヒーターに、いくつかの果物。
あたしたちはミッドガルの周辺で聞き込みをしたり、その情報を必要としている人に話したり、困りごとのある人の手助けをしてしばらく過ごしていた。
この日も、そんな日のひとつに過ぎなかった。
「わ、果物おいしそー。食べていいの?」
「おい、全部食うなよ。まあ見てろって」
あたしが果物を見て目を輝かせると、バレットはそれを制して片手だけで料理っぽいことをし始めた。
なんというか…、片手だけのわりには器用な気がする。
このお酒や果物は、今日バレットが解体を手伝ったお礼に貰ったものらしい。
その時は何を作ってるのかさっぱりだった。
でも2週間ほど経ってから、その正体がコレルのお酒であることがわかった。
「どう、クラウド、ティファ?おいしいの?」
そのお酒を口にしたふたりに尋ねてみた。
クラウドは一般論として、ティファはバーやってたわけだし。
そんなにお酒を飲むほうじゃないあたしはふたりの感想を待ってた。
「うん、少し強いかもしれないけど美味しいかな」
「ナマエも飲んでみるか?」
「うーん、じゃあ少しだけ」
クラウドが注いで渡してくれた小さなグラス。
「ありがと」とお礼を言い、口をつけてみれば強めのアルコールが広がった。
うおう…。さすがバレットが作ったお酒って感じ。
美味しいけど、たくさんは飲めねー…。
そんなことを思いつつ、あたしはグラスを片手に腰掛けた。
「コイツを飲んでると思い出すぜ…。村にいた頃をよ…」
故郷のお酒を浴びるように飲むバレット。
その姿を見て、よくあんな勢いで飲めんなー…とか思った。
ごくごくごくごく。
まあ見た目からして強そうだよねえ、バレットは。
でもなんだか幸せそうに昔のことを思い出してるみたいだから、変な口は挟まないで置くことにした。
飲みすぎて井戸に落ちちゃった失敗談。
今は亡き奥さんにプロポーズした時も飲みすぎてわけわかんなくなってたとか。
そんな愉快な話を聞いて、お酒の効果もあってみんなで笑った。
ティファも、それにクラウドも珍しく声を出して笑ってた。
「あははっ、クラウドがそんなに笑ってるの珍しーね」
「ははっ、たまにはな」
「たまにと言わずいつも笑えばいいのに。すっごくいいよ〜?」
にへら〜と笑った。
ああ、なーんかすごく楽しいかもー。
バレットの思い出話も爆笑だったし、クラウドの笑顔とか良いもんみたわー。
ティファも今はすごく楽しそうだし。
そうだなあ、簡単に言っちゃえばご機嫌だった。
「ナマエ、顔赤いな。ちょっと酔ってるか?」
「んー、そうだねー。いい気分かもしんない」
相変わらずへらへらしてた。
あー、やべ。なんかわくわくしてる。特に意味もなく。
「クラウドー、お酌してあげる!」
にへっ、と笑ったままクラウドにお酒を差し出した。
するとクラウドもグラスを寄越してくれた。
「ああ、頼む」
はーい!とか、自分でも超わかるくらい機嫌のいい声が出た。
そのままトトト…とクラウドのグラスにお酒を注いでいく。
すると、それを見ていたティファがくすり、と笑った。
「クラウド、ナマエのお酌がそんなに嬉しい?顔、緩んでるよ」
「そう、か…?」
クラウドはそんな反応。
ティファは「うん。すっごく」と頷いてまた笑った。
あたしはクラウドが嬉しいなら何でもいいです。
あたしごときのお酌で喜んでくれるならいくらでも注ぎますとも!
「け、見せつけてくれるぜ」
すると更にそれを見ていたバレットがそう言いながらお酒を飲み干した。
いつ崩れてもおかしくないなんて噂されてるミッドガルのプレートの下。
瓦礫にまみれた景色だけど、その夜は笑いが絶えなかった。
END
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