手にした時間を | ナノ
「じゃあな」





低い声。
背を向けた動きに合わせて赤いマントがひらりと揺れた。

エアリスへの報告を済ませ、一番にその場を後にしようとしたのはヴィンセントだった。





「待て!待て!」





手を伸ばし、その赤いマントを掴んだ手。
慌ててユフィがヴィンセントを追いかけた。





「こんな別れってあり?みんな一緒に戦った仲間じゃない」





腰に手を当てて、不満そうにむくれるユフィ。

まあ、確かにユフィの意見にも一理あるとあたしは思う。

いやそれにしてもユフィから「仲間」なんて言葉が聞けるのはやっぱり嬉しいもんだなー、と思う。
こういう時に出た言葉は、偽りの無い本音に決まってるから。

って、勿論ユフィの事は仲間だと思ってるけど!
でもやっぱり嬉しいのは…わかるでしょう、とだけ、ね?

ユフィは止まらないヴィンセントを追いかけて、回り込んでじっと顔を睨むくらいの勢いで見てる。

うん。やっぱちょっとは寂しいかもしれない。
だからあたしも駆け出した。

呼び止めるように「ナマエ」っていうクラウドの声が聞こえたけど、「ちょっとだけ」と笑った。





「ヴィンセント!」

「あー!ナマエ!ナマエもさー止めてよコイツ!」





ユフィに加勢を求められた。

でもごめんな、ユフィちゃん。
あたしは加勢しに来たわけじゃないのです。

ていうか無理。





「いやユフィ、ヴィンセントを止める自信はあたしには無い」

「…なんだそれ」

「ユフィもわかってるくせに?」

「…………。」





指摘したらユフィは黙りこくった。

そう、もうユフィだってわかってるんだ。
ヴィンセントが何を考えて、何を思ってるのか、ちゃんとはわからないけど。

…想像するに、ルクレツィアさんになにか言いに行くのかな?

とりあえず、止めったって止まらないだろうなっていう感じがする。

じゃあつまり何をしに来たといえば、お見送りってことだ。





「元気でな」





そんな意図を察したのか、ヴィンセントはそう言葉を残してくれた。

優しい台詞。
だからあたしは手を上げて見送った。





「うん!またね、ヴィンセント!」





赤い背中に手を振った。
そしてバサッと消えた背中を見つめ終え、あたしはユフィの肩を叩いた。





「じゃ戻るか、ユフィ」

「なんか本当簡単だよね」

「まあいいじゃん。またね、って言葉を聞いちゃったからにはまた会う義務があるしね」

「義務なの、それ?」

「あったりまえだ。義務以外のなにもんでもないね」

「うわー、超強引ー」





けらけらふたりで笑いあう。
そんなくだらない話をしながら、ユフィと元来た道を戻った。

でも実際のところ、ユフィも最後の「じゃあな」で、ヴィンセントが少しもこっちのこと気にしてないんじゃないかとかそういう思いは消えたみたいで満足したらしい。

皆は泉のところでこっちの様子を眺めてた。
戻ってくるとクラウドと目があって、迎えてくれた。





「おかえり、ナマエ」

「えへへー、ただいま、クラウド!」





そんなクラウドに、なんかにやけた。
ああ、もうクラウド好きー!

でもそんなことを思ってたら、不満の声が飛んできた。





「おいこらクラウドー!ナマエだけかよ!あたしも戻ってきたんだけど!?」

「え、ああ、悪い…ユフィ。目があったから。なあ?」

「うん!」

「…なんかムカツクわー。大空洞からずっとコレか。このバカップルめ…」





けっ、とユフィが呆れたように首を振った。

ば、バカップル…。
別にそんなこと無いと思う。

けど、ちょっと嬉しいから敢えて突っ込まないあたしは相当まじでクラウド馬鹿が悪化している自覚がある。うん。





「おいユフィ、ほっとけ、そいつらは。さて、俺様もそろそろ行くかな」





そう言いながら、次に別れを切り出したのはシドだった。
ほっとけ…ってのがなーんか気になるけど。





「おう、そうだな。俺もだ」





それにバレットも便乗する。
そこから流れは分かれの方に動き出した。

皆、それぞれの場所に会いたい人がいる。

決戦前日、クラウドが皆に言った《戦う理由》。

あたしたちはきっと自分の為の戦っているから。
自分、大切な誰か、何か。

確かめてきた大切なもの、きっと皆、気になっているはずだから。





「なんかさー、みんな、あっさりしてるよね」





別れの雰囲気に、またユフィが口を尖らせた。
そんなユフィにシドは歩き出しながら答えた。





「その気になりゃあ、いつでも会えるだろうが」





皆、頷いた。
ユフィも「そだね」と、しぶしぶながら。





「ナマエ、星、今度一緒に見ようね!」





別れに頷きながらも、あたしの足元に来てそう言って来たのはレッドXIII。
セフィロスと対峙した時、あたしはレッドXIIIに星が見える穴場を教えてほしいと頼んだ。





「うん!コスモキャニオンは綺麗に見えるもんねー」





あたしは彼の頭の赤い毛を撫でながら頷いた。

たぶん、レッドXIIIもちょっと寂しいのだとは思う。

あたしも寂しいし。
でもドンチャン騒ぎして別れを惜しむ、ってのも何か違う気がした。





「ああ!そうだ!コレ、どうする?」





その時、バレットが急に声を張り上げてギミックアームに手を伸ばした。

それは光に透ける球体。
淡い輝きを放つマテリアだった。

バレットがクラウドにマテリアを差し出すのを見ると、ハッとしたように短髪少女の目が光った。





「ちょっと待った!」





大きな声。
でもちょっと珍しく今更じゃんか、って思った。

だってあのユフィが。
マテリア大好き物欲最強のユフィちゃんが。

いやあ…ユフィも成長したもんだ。
なんて、しみじみした気がする。

これ、成長って言うのかは知らんけど。





「マテリア全部、いや、半分でもいいからくれない?ウータイへ持って帰って大事に保管するからさ。そりゃ。ちょっとは使うけど」





両手を合わせ、クラウドに懇願するユフィ。

ちょっと申し訳なさそうに見える。
うん、マテリア根こそぎふんだくってウータイに逃げてった時より見れば、やっぱこの子成長したかもしれない。

…お姉ちゃん、ちょっと目頭熱くなりそうだよ。

皆あんまり触れないけど、あたし、これでもユフィよりお姉ちゃんですからね。





「正直、皆の目的とか、過去とか、あまりわかってなかった。今でもわかってないのかもしれない。でも、あたしは皆と一緒に戦ったでしょ?それはマテリアの為じゃない。少しでも役に立ちたいと思ったから。仲間だって思ったから。ねえ、思い出してよ。あたしが何度、皆のピンチを救ったと思う?」





ユフィの言ってることは正直よくわかった。

あたしはわりと最初の方からいるけど、皆の目的とか過去とか、わかってないのは同じだったから。
でも皆を大好きになったから、大切だったから、自分に出来ることがあるならしたいと思えた。

それに…確かに、ユフィには助けられたこと…あったし。





「うん、何度も助けてくれたよね」

「え?」





あたしが口にする前に、ティファがユフィに言った。

でもユフィは何故か戸惑ってた。
…おいおい、何で自分でピンチ救ったとか言っといて戸惑ってんだし。

まあ、旅、という括りの中ではそういうシチュエーションは無かったかもしれない。
でもユフィはいつも元気で、落ち込みそうな時とか、見てると元気になれた。

あたし、不安を吹き飛ばせるように笑おうって思ったの、ユフィと一緒にいる影響も大きかったのかもしれないって思うから。





「どう思う、バレット」

「うーん…確かにユフィは良い仲間だ。でもマテリアの事は全然別の話じゃねえのか?」

「別じゃない!同じ、同じ話!皆はセフィロス倒せば終わりかもしれないけど、あたしにはウータイ復興と言う大きな夢があるの。そのためにはマテリアは欠かせないの!」

「復興ねえ…」





バレットに意見を求めたクラウド。
別な話だというバレットに、説得に走るユフィ。
それを目を細めてみるシド。

そういやユフィは飛空艇の中でクラウドに書類のサインをねだってた気がする。
戦いが終わったらマテリアは全部ユフィの物、って証明する書類。

「酔うから乗り物の中で字は読みたくない」と言ったクラウドの気持ちが痛いほどわかってしまうユフィはそこですぐに諦めてたけど。

アレ、結局どうなったんだろう?
あたしは全然へっちゃらへーだから書類読ませてもらって「何コレー!」って爆笑したのは覚えてるど。

クラウドとユフィにちょっと恨めしい目で見られたのも…。
でも酔わないモンは酔わないんだから、ねえ?

あたしがそんなことを考えてたら、クラウドはユフィに提案をしていた。





「なあ、ユフィ。こういうのはどうだろう。マテリアは全部ユフィにやる」

「やった!」

「でも、俺が保管する」

「ええと…子供だまし!」





ユフィはキッとクラウドを睨んだ。
でもクラウドは首を振った。





「違うんだ。俺たちのマテリアはほとんど戦いの道具だろう?ウータイの役にはほとんど立たない。だから治療に役立つものは皆で分け合って、残りは俺が預かる。危険なマテリアの扱いに一番慣れてるのは俺だと思う」

「確かに戦いの道具なんていらないけどさぁ…」

「だろう?」

「あれば安心するじゃない」

「それじゃあこうしよう。ユフィがウータイに帰ってマテリアが無くて不安だって思ったら連絡をくれ。その時にまた考えよう」





結局、クラウドはマテリアは自分で保管するという考えでもう固めてあるみたいだ。

確かに下手に扱えば、マテリアは簡単に凶器になってしまう。
クラウドが持っててくれるのが、一番いいかもって思う。





「わかったよ。あたしのマテリア、クラウドがちゃんと預かってね」





ユフィは納得した。
その後、あたしたちは回復や治療系のマテリアだけ分け合い、それぞれの帰路へと別れることになった。

でもその前に、あたしはポーチに手を突っ込んで中を確かめた。
手に触れたのは、ころん、という二つの球体。





「ユフィ、レッド」





それを取り出し、あたしはユフィとレッドXIIIを呼びとめた。





「なんだよ」

「なに、ナマエ」





振り向いた彼らに、あたしは駆け寄った。
そして「はい」と、それぞれにひとつずつ、その球体を差し出した。





「え、コレって…」

「回復と、雷のマテリア」





戸惑いを見せたユフィの言葉にあたしは答えた。

回復と雷。
それは、あたしが旅を始めるずっと前から持ってたマテリア。

だからクラウドが預かるどうこうの話では無く、これはあたしの所有物だった。





「あたしのマテリア。マテリアって、成長しきると新しいマテリアが生まれるでしょ?これはそれで生まれたマテリア。だからケアルとサンダーしか使えないけど、あげる。貰って」





ユフィに回復、レッドXIIIに雷。
そっと手渡せば、やっぱ戸惑った顔してた。

なんかそれがおかしくて、あたしは笑った。





「あははっ、なにその顔。これはあたし個人の気持ち。やっぱりまあ、ちょっと寂しいからね。確かに会おうと思えばいつでも会えるけど、ずっと一緒だったのに、しばらくお別れなのは確かだし。だから…まあ、なんか形をね。…お礼ってのも、あるんだけど」

「お礼?オイラ達に?」

「なんだよ?」

「色々!」





適当に誤魔化した。
でも、感謝の気持ちは忘れない。

何かあると、君たちはいつも、傍にいてくれたから。





「…あげたからには、そのあと何に使おうと自由だけど。それなりに大事にして欲しいかな、なんて」

「「…………。」」





そう言うと、ユフィとレッドXIIIはそれぞれのマテリアを見つめた。

そして、頷いた。





「…そんなの、大事にするに決まってんじゃん」

「…オイラだって」

「……ありがと」





くれた言葉に、ふっと微笑んだ。

さあ…じゃあ、本当にしばらくのお別れだ。





「じゃあね、皆!」





ずっと一緒にいた仲間たち。
再会を願って、あたしは大きく両手を振った。



END
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