「エアリスー!」
一番乗りで駆け寄った泉。
あたしはそこに、花束だったものをふわり…と投げた。
ひとつひとつに別れ、落ちていく花たち。
ぴたん…と波紋を生んで、泉に落ちて。
花びらが泉を泳いだ。
「おいおいおい、随分と豪快だな」
「ええっ、そうかな?」
後ろからたくさんのみんなの足音が聞こえて、振り向いたらシドが泉の花を見て顔をしかめた。
ふわっ…と舞った花びら。
落ちていく様は…こう、綺麗だったと個人的には思うんだけど…。
「綺麗だったよねえ?」
おっさんより女の子の意見だよ!こういうのは!
エアリスなら同意してくれるはず!…と信じてあたしは泉に声をかけた。
忘らるる都。
古代種の地であるこの場所は、エアリスが命を落とした場所…。
戦いの終わりを、あたしたちはエアリスへ報告に来た。
共に歩いて戦ったみんなと一緒に。
「やっと、終わったね…エアリス」
あたしがそう小さく呟いたのを最後に、その場には静かになった。
静かに、みんなそれぞれの言葉でエアリスに語りかけていた。
ティファは、泣き崩れてしまっていた。
「ごめんね、ごめんなさい」と小さく繰り返して、涙を流してた。
エアリスが死んでしまった時…一番大泣きしたのは、あたしだった。
クラウドが抱きしめてくれて、泣くことを許してくれて、そしたら止まらなくなったから。
泣けるだけ、泣きはらした。
明日からまた頑張れるように。
エアリスが好きだと言ってくれた、笑顔でいられるように。
エアリスの願いを、叶えられるように。
我慢することなく泣いたのは、あたしにとっては良かったと思う。
泣くだけ泣いたら、その分前を向けた気がした。
たけどティファは逆だったような気がする。
ティファも泣いていた。あたしとユフィと寄り添って、3人で泣いた。
悼む余裕がなくて、その悲しみは憎しみに変わって、前に歩いてた。
だからその分、ティファは今泣いているのかもしれないと思った。
いろんな事が終わって、見つめ返すことがたくさんあって、涙が流れてくるのかもしれない。
あたしも泣きはらしたからって、そのあと思うことがなかったかと言え別の話ではあるけど。
エアリスを残したまま先に進むなんて…とも思わなかったわけじゃないし。
でも北の大空洞で、エアリスの声を聞いた気がした。
頑張って、って言ってくれた。
大好きだって、笑っていて、って。
その時、やっぱり間違ってなかったんだって確信出来た。
ホーリーを助けるように現れたライフストリームを見たときも、エアリスの顔が浮かんだ。
エアリスはやっぱり応援してくれていた。
それに、まだ一緒に戦ってくれたんだって。
だからあたしは「終わったよ」ではなく「終わったね」と口にしたんだ。
「報告、たくさんあるよー」
指先を泉に触れさせて、あたしはそっと囁いた。
そして、その先は心の中で伝えた。
ねえ、エアリス…。
クラウドがね、好きだって言ってくれたんだよ。
あたしも、好きだって返せた。
それにさ、やっぱりクラウドがあのお兄さんだったんだって。
初恋の、あのお兄さんだった。
凄いよね、ミラクル起きちゃってるよね。
こんなことってあるんだね。
あたし、恥ずかしくって全然認めなかったけどさ…。
エアリスはずっと…背中を押してくれてたよね。
あたしが見てるクラウドを信じればいいと教えてくれたのはエアリスだった。
でも…結果的に、クラウドは今ここにいてくれるけど。
あたしはクラウドを助けられなかった。
《しっかりして、クラウド!》
《…ナマエ…。俺…俺は…》
セフィロスの幻の中で…呼びかけても、どんどんクラウドに全然声が届かなくなっていって。
最後にはクラウドが崩れていくのを見ていることしか出来なくて。
結局、クラウドの心は…壊れてしまった。
《でも、大丈夫。クラウド、今、ちゃんと…ここにいるから。クラウドが壊れてしまわない様に。…お願い。ナマエ…ちゃんと、クラウドの事…見てて》
古代種の神殿で最後に…エアリスはそう言ったのに、あたしは結局守れなかったの。
…だから…。
「…ごめんね」
口にした謝罪。
お願い、叶えられなくて…ごめん。
でももうひとつ。
これも、ちゃんと言わせて。
「ありがとう、エアリス」
あたしは、貴女に出会えて本当に良かった。
END
prev next