手にした時間を | ナノ
「相変わらず静かなとこだねー」





見渡した村に、そう口を開いたのはナマエだった。

俺とナマエとティファとバレットと。
あの旅を終えて、全てを終えて…俺たちは今ニブルヘイムにやって来ていた。

ナマエはひとり元気だった。
奥にそびえるニブル山を見て、以前の登山時の苦痛を思い出しているのか「にっくきニブル山めー!」とか吠えてるのは少し面白い。
バレットが「うるせえよ」と頭をひっぱたくのが見えた。

正直…ナマエのその声は、有難かったかもしれない。

少しでも、気が紛れた気がした。
それはきっと…俺も、ティファも。





「来ない方が良かったな」





そう呟いた俺に、隣にいたティファが小さく頷いたのがわかった。

ここに来る前、俺たちはバレットの故郷であるコレルにも行っていた。
その時バレットは「来るんじゃなかった」と口にしていた。

そんな気持ちが、今少しわかった気がした。





「過去に引き戻されそうだ」





そう言葉を続ければ、ティファも「…そうね」と静かに言った。

今なら鮮明に思い出せる…。

あの火事の、熱さ。
炭になって崩れていく家々。

切り裂かれたティファにザックス。
ジェノバに語りかけるセフィロスの黒い背中。

ここへ来たことは、嫌な記憶を思い出しただけ。
頭を痛くするだけだった。





「クラウド、ティファ」





その時、名前を呼ばれて顔を上げた。
なんとなく…はっとさせられたような気がする。

映ったのは、ナマエの笑顔だった。





「もういこっか」





小さな白い手。
右にティファの手を、左に俺の手を。

ふたつを引いて、握りしめる。





「…………。」





引かれた手の感触に触れたとき、俺は感じたような気がした。

ああ、俺はここにいる。
ナマエも、ここにいるんだ…と。

過去に引き戻されそうな思いが、一瞬に和らいだ。





「…ナマエ」

「んー?なーに、クラウド」





呼べば、ちゃんと返って来た。
また、名前を呼ばれた。

そう言えば…真っ暗な中、ティファとライフストリームに溺れた時、俺はこの声を聞いた気がした。
あれは、もっともっと切羽詰まった様な声だったけど。

ティファにも聞いたら「私も聞いた」と答えてくれた。

必死に叫ぶ、ナマエの声。

後で聞いたら、呑まれていくミディールを前に、ナマエは本当に叫んでくれたらしい。
止めるシドを振りほどき、走ってミディールに戻ろうとしたと聞いた時は「なにしてるんだ!」とティファと一緒に怒ってしまったけど。

ナマエまでライフストリームに落ちるなんて冗談じゃない。
止めてくれたというシドには感謝の気持ちを覚えた。

…勿論、心配をしてくれたという事実は…素直に嬉しかったが。

それに…あの声は教えてくれた気がした。
ライフストリームを抜けた先に、場所があるのだと。

この声は…手を差し伸べてくれる気がするのだ。
明るいうつつへ、光を…気づかせる。





「ああ、行こうか」





だから俺は…あんたの笑顔が好きなんだ。

ナマエが傍で笑ってくれるなら、俺は…。
ここからの未来を探せる気がした。

笑ってくれる場所を、探したいと思えた。



END

prev next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -