「うーん、やっぱティファのおやつは絶品ですなあ。んふふ…しあわせ〜」
「ふふ、ありがと。そんなに幸せそうに食べてくれると作り甲斐があるわ」
はむ、とスプーンを口に含めば甘い味がふわっと広がる。
カウンターを挟んでのティファとの会話。
穏やかな、まったり出来る午後のティータイム。
…だけど、実際…心の中はちょっぴり穏やかでも無かったりする。
あれから、あたしはちょっと色々と考えていた。
マリンから、クラウドとティファが最近仲良しじゃないと聞かされた。
それを聞いて、気にしてみてみると…確かに会話の数は減っているような印象を受けた。
そしてその後…その変化を、あたしも身を持って知っていくことになる。
《クーラウド》
《………。》
《クラウド?クラウドってば!》
《え…あっ、悪い、なんだ…?ナマエ》
《……うん》
思い出したのは、最近のクラウドとのやり取り。
話しかけてみると、クラウドの反応が遅かった。
まるで、上の空みたいな。
笑う門には福来る!!
…頭の中で繰り返して、めげずにたくさん話しかけた。
だけどそれでも…クラウドの様子はどこかおかしい。
ぼんやりと、ずっと何かを気にして…考えてるみたいな。
「ナマエ、眉間にしわ寄ってる」
「う…」
「…クラウドのこと?」
むむ、と難しい顔してたんだろう。
ティファに指摘され、ツン…と眉間を突かれた。
あたしはティファの顔を見上げ、ふう…とひとつ息をついた。
「クラウド…上の空だなあ、と」
「…まさか、ナマエにまでなんて…ね」
ティファもまた、息をついた。
クラウドとティファが仲良しじゃない。
マリンにそう言われたことを、あたしはティファに話した。
それを聞いた時、ティファは今みたいなため息をついた。
事の始まりは、マリンがクラウドが自分の話を最近聞いてないと言ったことだった。
クラウドの性格的に、多分そんなに子供が得意な方ではないと思う。
だけどマリンはいい子だし、話しかけられて無視するようなことは絶対にしないし、クラウドなりにマリンを可愛がってるのは見えていた。
…だから、クラウドが上の空になるというのは…つまり、何か変化があったという事。
そしてそれに気が付いたティファも、次第にその変化を感じ取るようになる。
そこから少し、気まずくなって…。
でもマリンは大人の変化に敏感な子だ。
心配させないように、ティファはクラウドに積極的に話しかかるようになる。
クラウドもすぐにその意図を察し、調子を合わせはする。
だけどマリンは鋭い。
つまりそれがマリンの言っていた「やってられない!」に繋がるらしい。
…なんというか、色々裏目裏目に出た感じだと思った。
「ねー、クラウド。今日の配達、一緒についてってもいい?」
そんな日々の中のある日、あたしは配達に出ようとしているクラウドに声を掛けた。
クラウドは少し驚いたように振り向く。
「え?」
「んー。今日、一日暇なんだ。だからクラウドのお手伝いをと!」
にこーっと、目一杯の笑顔で言ってみた。
でも、本当こんな笑顔を浮かべてしまうくらいには傍に居たかった。
ちょっとでも時間があるならクラウドと一緒にいたい。
クラウドのために使いたい。
いたってシンプル。それがあたしの素直な気持ちだ。
だけど…クラウドの方は、ちょっと戸惑いを見せていた。
「…それは、別にかまわない…けど」
「けど?あれ、なんか問題あり?」
戸惑いがちの顔。
戸惑いがちの声。
…気にならないかと言われると…いや、結構気になるけど。
でも笑みを崩さぬまま首を傾げてみる。
するとクラウドが首を横に振った。
「…いや、そんなことないけど。ナマエが良いなら」
「うん!じゃあお手伝いするよ!」
あたしは頷き、バイクの後ろに跨った。
前にあるクラウドの背中。
いつもそうしていたみたいに、彼の腰に手を回してぎゅっとしがみつく。
でも…なんだかその感覚がとても久しぶりに思えて。
いや、実際久しぶりだったんだろう。
「最近なにかとバタバタしてて、こうやって話すの久しぶりだね」
「…そうだな」
ストライフ・デリバリー・サービスの仕事が増えて…。
そうなった矢先、あたしが長めの討伐任務に出ちゃったりして…。
でも、電話とかで話してた。
その時だって…クラウド、クラウドって、なんの引っ掛かりもなく呼べてた。
どんな話しようとか、そんなこと…別に考えなかった。
だけど今は…ちょっと考えてる気がする。
クラウドのことは大好きだ。
それは変わらない。一緒にいられる今が、どうしようもなく嬉しい。
じゃあなんでそんなこと考えるのかって。
それは、クラウドはどう思ってるのかなって思ったから。
あたしは…クラウドに幸せになって欲しい。
そのためなら、きっと何でもする。
自分が傍にいて、クラウドを幸せに出来る可能性があるなら…いくらでも尽くす。
自分に出来ることは、何でもしてあげたいと思う。
他ならない、クラウドだから。
「ねえ、クラウド」
「…うん?」
声を掛けて、でもふと…言葉が止まる。
クラウドの過去は、正直に言うと…重いという概念に分類されるのだろう。
あたしはクラウドじゃないから、彼の気持ちの全てなんかわからない。
…だけど、想像したそれは…第三者から見ても、決して生易しいものでは無い。
そして…加え、あたしたちは目の前で…大切な彼女の存在を失った。
あの時の感触は今でも思い出せる。
気が動転しながらも彼女を抱きしめ、懸命に回復魔法を唱え続けた。
あの日…あの瞬間…。
もっともっと、出来たことがあったんじゃないだろうか。
ああしていれば、こうしていれば。
そんなこと、何度も何度も考えた。
だけど結局後の祭りだと、そんなことはわかってる。
でも後悔し続ける。
だって、もっともっとたくさん話したいことがあったから。
そして…後悔してるのは、あたしだけじゃなく…彼も同じなのを知っていた。
もっとも、その大きさや形は…クラウド自身にしかわからない。
あたしの後悔だって、きっと…あたしにしかすべてはわからないだろう。
だからって、放っておけというのはノーで。
大好きで大切だから、ちょっとでも一緒に考えたり、悩んだりしたい。
「…ナマエ?」
黙ったあたしを不思議に思ったのだろう。
クラウドがあたしの名前を呼ぶ。
あたしはクラウドの背中でふるふると首を振った。
「んーん、なんでもない!」
ただ…。
あたしは、クラウドを幸せに出来るだろうか。
クラウドを笑顔にしてあげることは出来るだろうか。
力不足じゃないかな。
あたしだってたまには色々考えることだってある。
でも、ねえ…クラウド。
あたしはクラウドが大好きだよ。
クラウドが望む限り、傍にいて、力になりたいと願ってる。
…クラウドは、あたしが傍にいること…望んでくれてる?
クラウドの背中に頬を付けて、そんなことを思った。
To be continued
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