「…なんじゃ、このメール」
ぱた、と開いた携帯に映し出された文章。
あたしはそれを見て、ううん?と首を捻った。
《クラウドとティファがあんまり仲良しじゃないの》
差出人はマリン。
内容はあたしと彼女の大切な家族のこと。
あたしは今、少し遠くの街に足を運んでいた。
その理由は、とある魔物退治の依頼を受けたからだった。
しばらく家を空けることになり、みんなとはしばらくメールや電話でのやりとりばかり。でもわりとこまめに話してた。
マリンからのメールは今日何があったとか、元気にしてるかとか、可愛らしい内容の物ばかり。
だけど、その中の一文…。
そこにあったそんな言葉に、あたしはまた首を傾げた。
「クラウドとティファが、仲良しじゃない…とな」
携帯を顎に当てながら、また唸った。
クラウドとティファ。
ふたりとも、自分のするべき仕事を見つけ、それなりに充実した日々を送り始めてるように思えた。
ティファの方は、持ち前の接客技術でセブンスヘブンの評判はかなり良かった。
クラウドのデリバリーサービスも、なかなかの盛況を見せている。
特に、クラウドのほうなんて朝と深夜以外はほとんど家にいないくらい。
それでも、あたしは「おはよう」と「おやすみ」は言うように努めたし、離れている今だって必ず毎日電話を入れるようにしていた。
…あたしがクラウドの声を聞きたいだけ、とか言ってはいけない。いや否定はしないんだけど。
もちろん、ティファともこまめに連絡は取ってたし、ふたりともそう変わりはないように見えた。
…だけど、そういえば…ふたりとも「変わりない」と言うだけで、そんなにクラウドはティファの事を、ティファはクラウドの事を…教えてくれなかった、気がしないでもない。
《ナマエ、早く帰ってきて》
マリンの最後の一文が、なんとなくそういう意味を含んでいるような。
あたしはごろんと宿のベットに寝ころびながら、カチカチとマリンに返事を返した。
明日帰るから、お土産楽しみにしてなー、なんて。
このメールを打ったとき、正直あたしは…そんなに深いこと考えてはいなかった。
「はろー!みなさん、ナマエちゃんがお帰りになりましたわよー!」
あくる日、宿を出たあたしはすぐさまにエッジへ帰ってきた。
急いで帰ってきたつもりだったけど、着く頃には結構いい時間になっていた。
ばあん、と開いたセブンスヘブンの扉。
迎えてくれたのは、マリンとティファの笑い声だった。
「ナマエ!おかえりなさい!」
「おーう!ただいまあ、マリン!」
「おかえり、ナマエ。怪我とかしなかった?」
「ぜーんぜん!むしろ、元気すぎて大変だね!」
久しぶりに顔を合わせて嬉しくなった。
あたしの今回の討伐任務は、少し長めの仕事だった。
といっても厄介な敵というわけではなく…こう、数の問題だ。
雑魚敵大量発生!!…的な。
もちろん油断は禁物だけど、別にそんなに気を張らなきゃならないものでもなくて。
だからあたしはへらへらと軽く笑みを返した。
…だけど、その時、ちょっと気が付いた。
ティファの顔に、ほっとした感情が浮かんだこと。
ティファも戦闘に多少の腕はあるのだから、今回の任務がそう難しいものではいことは百も承知しているはず。
…じゃあ、そのほっとした顔は…?
《クラウドとティファがあんまり仲良しじゃないの》
ふっ…と。
その時、あたしの頭にはマリンからのメールの一文が浮かんだ。
「…マリン、マリン。メールの話、クラウドとティファが仲良くないってどしたの?」
あたしはマリンにちょいちょいと手招きし、店の死角の部分に呼び寄せた。
マリンはちょこちょこと駆けてきて、あたしの小声に合わせるように小声で話を教えてくれた。
「あ、それね…ティファとクラウド、無理に話してる気がするの」
「…無理矢理…」
何でも…ある日、ティファはお客さんから聞いた笑い話をクラウドに話した。
それを聞いたクラウドも「それはやってられないな」と言葉を返した。
だけど、その話は以前もしたことのある話だったらしくて…。
それに気が付いたマリンは「やってられない!」と指摘して怒ったのだとか。
…なんかいまいち理解できてない部分もあるけど、要はクラウドとティファはマリンの前で無理矢理会話を繋ごうとでもしたということか。
「ナマエ?帰ってきたのか?」
「あ…」
その時、クラウドの声が聞こえた。
クラウドが呼んでる。
どうやら仕事を終えて帰ってきたらしい。
クラウドの声を聞きつけたマリンは「おかえりなさい!」と、ぱっと駆け出した。
久々にクラウドに会える。
あたしも単純なもんだ。
クラウドの声が直接耳に届いただけで凄い嬉しくなってる自分がいた。
「ただいま!あーんどお帰り!クラウド!」
だからあたしもマリンに倣って、すぐさまクラウドのもとに顔を出した。
クラウドも「お帰り。それと、ただいま」と返してくれて、同時に顔を見れたことでやっぱり嬉しくなった。
その日の夜は、ティファが用意してくれたケーキを食べながら皆で話をした。
あたしは、魔物退治の任務での出来事を色々と皆に話した。
皆、笑って聞いてくれて、あたしは久々の日常にほっとしたような気がした。
…だけど、あたしが一番話してる…ってのは、まあいつもの事なんだけど。
クラウドとティファがあたしを挟まずに話してる光景は、確かにあまり無かったような気がした。
「…仲良くない、かあ…」
さて、あの幼馴染み組に何かあったのだろうか。
唸って首を傾げたところでよくわからないんだけど。
トイレに行くと立った席に、あたしは「うーん」と呟く。
そしてそのついでに、クラウドの仕事の調子はどうなのかと、何気なくクラウドの仕事机を覗いてみた。
そこには、繁盛していることが伺える結構な量の伝票が置いてあった。
「…あ」
その時、何気なく手に取ってパラッとめくった伝票。
それなりに量がある中から、その伝票を引き当てたのは…ある意味凄いことだと思う。
むしろ…運命って本当にあるんじゃないかって思っちゃうくらい。
依頼者…エルミナ・ゲインズブール
荷物…花束
届け先…忘らるる都
それは、あの時の気持ちを思い出すのには…十分なもの。
いつでも微笑む彼女の姿…。
「へー…この依頼、あたしも一緒に行きたかったなー」
この依頼を見て、あたしはそんなことを思う。
久々にエアリスに色々と話したいことがある。
あたしも花束を持って、また、ばあっと空に広げて泉に投げるの。
そう…あくまで、あたしはそう思う。
だけど…クラウドはどう思うんだろう。
今、こうして穏やかな日常を過ごしていて…結構、物事を色んな視野から見られる余裕が出来た気がする。
ただ突き進んでいくしかなかったあの頃と違って、今は…悩んで、一度考える時間を持つことが出来る。
じっくり考えた結果は…。
クラウドは、向き合ってみて…どんなことを思うんだろう?
それが理由なのか、ちゃんとはわからない。
だけど…笑っていてほしいとは思うから。
「笑う門には福来る〜…と」
大好きだから。
自分の好きな人には笑ってほしい。
あたしはそう思う。
END
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