「はーい!じゃあ今日はここまで!お疲れ様でした!」
ソードをホルダーに収めながらそう言えば「ありがとうございました」なんて声がいくつも返ってきた。
始めてみた剣術の稽古は、それなりに生徒さんが集まった。
モンスター退治の方は相当な事がない限り依頼が来ることはないから、そこまで何かあるわけじゃないけど、自分的には結構楽しんでお仕事出来てたと思う。
「い、ま、か、ら、か、え、る、よ〜っと」
終わり際、携帯をいじってメールを打つ。
何か作って待ってるから帰る頃に連絡してと言われたティファと、今頃配達の仕事に出てるクラウドにひとつずつ。
クラウドの始めたストライフ・デリバリー・サービスはなかなかの大盛況で、クラウドは結構忙しくしていた。
モンスターは勿論、ライフストリームの噴出で分断されちゃった道とかがあって、世界を駆け巡るって言うのは簡単にできる事じゃない。
だからクラウドの仕事は求められている仕事だった。
頑張ってね、と最後に一言添えて送信ボタンを押す。
メールを打ち終え携帯をポケットに手を差し込もうとすると、間抜けなことに手が滑って携帯が転がってしまった。
「あ…っ」
慌てて拾おうと下を見る。
すると、落とした携帯に一足早く伸ばされた手があった。
え、と思って顔を上げれば…そこには意外すぎる人物が映ってた。
「お嬢さん。落し物ですよ、と」
「え…、ええ!?」
映った赤毛に軽い口調。
にいっ、と笑うその笑顔にあたしは思わずでっかい声をあげてしまった。
「レノ!?」
そこに立っていたのは意外すぎる人物。
それはタークスのあの赤髪スーツ、レノだった。
なんであんたがここにいる!?
驚くなって方が到底無理な話だ。
でもそんなあたしとは対照的に、奴は楽しそうな顔をしていた。
「お?お嬢さん可愛いなあ。俺とお茶でもどうですか、と」
「行くわけあるか」
スパンと一刀両断。
…なんだこいつ。
なんかムカついてきたぞ。
冷たい口調で言葉を返せば、奴はひょうひょうと肩をすくめた。
「つれないぞ、と」
「当たり前です」
なんっかよくわかんないけど、すっごい冷めていくよテンションが。
くそう。クラウドにメール打ってルンルンだったのにぶち壊しよってこんにゃろう…!
でも、冷めたテンションのおかげで見えてきたものもある。
………本当にレノだ。
最後に会ったのは、シスターレイを暴走させていた宝条を止めに行った時…。
あの線路上出会ったのが最後だったと思う。
「…無事だったんだ」
「まあな。ナマエも元気そうでなによりだぞ、と」
好きでもないけど嫌いでもない。
あたしが抱くタークスの印象はそんな感じ。
だから、あの一件以来無事だったっていうのは素直に安心してたと思う。
「ルードもイリーナもツォンさんも皆元気にしてるぞ、と」
「そうなんだ。それは何より…かな?」
ルーファウスがあんなことになって、リーブさん以外の神羅の面子のことって…あれから本当にわかってなかった。
そんなに詳しく聞く気もなかったし、レノも教える気はなさそうだった。
だから簡単なやり取りだけ交わした感じだった。
「ところで…、と」
「!」
トン…、
耳に聞こえた軽い音。
顔の横にはレノの右手。
すっごく近い、目の前に映る顔。
…なんでこうなった。
なぜだかレノに壁際に押しやられた。
俗に言う壁ドンか。
すごいね。こんなにときめかないとは。
「…なに」
「いやあ、お前なんか綺麗になったな〜っと思ったんだぞ、と」
「たぶん気のせいだけどありがとうって言っとくよ」
「本当につれないんぞ、と」
ますます顔が近づいてきた。
あたしはキッと目を鋭くさせた。
「ああっ!!近い!うざい!離れろ!」
「口が悪いぞ、と。けど…まあそこも魅力のひとつだよな。なあ、ナマエ、俺と一緒に来ないか、と」
にいっ、と笑うレノの顔。
ああ、なんか久々だこの感じ。
「気にいった」だの「惚れたか」だの、前からそんなことばっかり言うよねコイツ。
はあっ、とデッカイため息が出た。
「…本気で言ってない癖に」
ぼそっと言ってやれば、レノは目を丸くした。
いっつもいっつもいっつもそうだ。
レノはからかいのつもりでこんなことばかり言う。
大方、あたしのリアクションがデカイから面白がってたって感じ?
そもそもレノって女の人の扱いとか慣れてそうだもん。
知り合って間もない頃からこんな感じだったし…あたしなんかを相手にする方が変ってもんだ!
「へえ…、気づいてたのか」
「…あったり前でしょ。っていうかいい加減離れろっての!」
ぐいっ、と肩を押して体を引き離す。
するとレノは大人しくはなれていって、でも小さく笑った。
「はは、でも結構タイプなのは本当だぞ、と。ルード好みの黒髪や清楚な古代種のお姉ちゃん、元気あふれる忍者っ子より、俺はナマエが一番好みだぞ、と」
「うっわ、趣味悪…」
「…ちょっとは照れるとかないのかよ、と」
ティファよりエアリスよりユフィより、あたしが好みってだいぶ頭おかしいと思う。
だって3人とも女のあたしから見ても凄く可愛いのに。
でも、照れるなんてあるわけない。
「ふんっ、クラウド以外には興味ないね」
クラウドの台詞を借りてみる。
そして、ツーンとそっぽ向いてやった。
まあ…趣味が悪いのはクラウドにも言えることだけど…。
ともかく!あたしは絶対にクラウドが一番だから、だから他の誰に何を言われようとそんなん知ったっこっちゃないね!
そんな風に適当にあしらうとレノは「へえ…」となぜか感心のような様子を見せた。
「一途なんだな」
「当然」
「クラウドより良い奴なんて沢山いると思うけどなあ」
「クラウドに勝る男の人なんていません!」
「そこで言い切るか…」
レノは感心…というか、唖然…か?
なんかそんな感じの顔された。
まあ、誰に何と言われようがクラウドが誰より一番なのは事実だ。
…ていうか、あたしクラウド以外の人好きになったことないしな。
ずっと昔から、いつだってクラウドが一番好きだ。
「言い切るよ。クラウドが一番です」
「…ふうん」
「なに?」
「いんや?ま、一途な女は嫌いじゃないぞ、と」
「はあ?」
またわけのわからんことを…。
訝しさと同時に思いっきり嫌な顔してやったのにそんなの屁でもなさそうにレノは笑ってた。
「…レノ、頭湧いてんの?」
「通常運転だぞ、と」
「嘘つけ」
「来られたら拒みはしないぞ」
「安心しろ、行かないから」
「まあ取り合えず番号の交換な」
「え?ああああああッ!?ちょ、勝手になにしちゃってんの!?」
そう言えばレノがあたしの携帯持ってたの忘れてた…!
取り返そうとした時には既に遅し。
レノは軽々あたしの妨害を避けながら器用に携帯をいじり、勝手に自分の番号を登録してしまった。
「ほれ、完了だぞ、と」
「うっわ…!携帯投げるな!」
ぽいっと投げられ慌ててキャッチ。
ていうかなんだ…!
なんなんだ、この展開!
「なんかあったら連絡してこいよー」
「誰がするか!!」
「そういうなって。まあ登録しといて損はないだろ、と」
「いやいや得もないからね!」
増えている項目を見てなんだかなあ…という気持ちになる。
使うような状況…無いような気がするんだけど…。
「じゃあな、愛しのナマエちゃん」
「黙れ馬鹿ー!」
くつくつ笑いながら去っていくレノ。
あたしはベーッと思いっきり舌を出してやった。
「…ま、いっか」
ウータイの時みたく、何があるかわからない…もんね。
いや、もう出来れば面倒事は御免だけど!
普通の日常、普通の生活。
あたしは皆とそれを掴むの。
さあ、だから、早く帰ろう。
嬉しいんだか何だかよくわかんない再会。
返されたポケットにちゃんと携帯電話を突っ込んで、あたしはのんびり帰路についた。
To be continued
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