手にした時間を | ナノ
「ちょっとお小遣い稼ぎしたいです」




お昼時。皆でテーブルを囲んでいるこの時間、そう告げたあたしにクラウドとティファはきょとんとした顔をしていた。





「お小遣い稼ぎって?」

「うん。あのさ、最近この辺にモンスターが出てるの、知ってる?」





ティファに聞き返され、あたしは頷きながら答えた。
それは最近ミッドガル周辺で噂になってる、ちょっと厄介なモンスターの話。





「腕に自信があるなら退治してもらえないかって頼まれてさ」

「…なんでナマエに依頼が来る」

「ほら、あたしスラムでモンスター退治してたじゃん?基本は七番街だったけど、ごくたまに他のとこでもやってたから。その時の知り合いの人にお願いされたってワケ」





簡潔に説明したら、なぜかクラウドは眉間にしわを寄せた。

…なんか怖いな、その顔。
怒ってるのか、クラウドさん…。

別に変なこと言ってるつもりは無いんだけど…。

思わずちょっと頬をかいた。





「謝礼金も出すからって。実はちょっと欲しいものがあってさ」

「欲しいものってなんだ?それなら俺が、」

「ううん。それなりの値段するものだし、あたしが本当に個人的に欲しいものだから、自分で買いたいんだ」





買ってくれる、と言いかけたクラウドに首を振った。

それはちょっと前に外をぶらぶらしてた時に目に留まったものだった。

見つけた瞬間、うわ…コレ欲しいかも…ってビビッときちゃったと言うか。
ああ、クラウドもフェンリルと出合った時こんな気持ちだったのかもしれない。





「…でも、何でよりによってモンスター退治なんだ」

「なんでって言われても…、あたしの唯一の特技って言うか…戦闘、不得意じゃないし。困ってるってんだからほっとくわけにもいかないじゃん。怪我人出ても大変だし」

「それは…」

「あとね、護身程度に武器の使い方を覚えたいって人もいてさ。教えて欲しいって声も掛けられてるんだ。教えるのとか得意じゃないけど基礎くらいなら何とかなるかなって。まあモンスター退治も依頼さえあればこれからも受けていくのもいいかなって思うし」





剣を教えるのは毎日とかじゃなくて、軽く空いてる時間に教える程度。
簡単な習い事、って感じかな。

それに加えて依頼があった時のみ討伐にも出る。

クラウドは配達、ティファはセブンスヘブン。
あたしも簡単なお仕事をやるのもいいんじゃないかな〜っていう気持ちが沸いてたっていうのもあった。





「これくらいなら今まで通りお店のことも、クラウドの配達の電話とか伝票整理も手伝えるし。結構よくないかな?あ、でもモンスター退治の日は、店の準備手伝えなかったりするかもだけど、ティファ、いい?」

「私は大丈夫だけど…、クラウド?」

「…………。」





ティファはちら、とクラウドに目を向けた。
あたしもクラウドに目を戻すと、彼は相変わらずなんかおっかない顔をしていた。

…な、何でそんな顔してるんだ。





「く、クラウド…?」





なんでそんな怖い顔してるの。
そう思いながら彼を呼ぶと、クラウドは小さく息をついた。





「…稽古はいい。自分の身くらい守れた方がいいからな」

「退治は駄目なの?」

「…退治は、じゃあ俺も行く。そっちの方が効率もいいだろ」

「いや全然よくないでしょ。クラウドは配達行かなきゃでしょ」

「……休業しよう」

「始めたばっかで何言ってんの!?依頼来たんでしょ!受けたんだからやんなきゃ駄目でしょ!?」

「……。」

「いや、だからその顔怖いよお兄さん…」





なんかクラウドが変だ…。
でも反対されたままにしちゃうっていうのは気分よくない。

どうしたもんかなあ…。

うーん、と悩んでいると、そこでティファが見かねたように助け舟を出してくれた。





「クラウド、いいじゃない。ここら辺の敵はあまり強くないし、ナマエはずっと退治やってたんだもん。一人での戦闘も十分強いわよ?」

「けど…」

「心配なのはわかるけど、信用してあげたら?」





ね、とクラウドに微笑むティファ。

心配…だって。
いや、まあそれはわかってたけど。

こんなに頑なになるほどされるとは思わなかった。

ティファはそれだけ言うと、食器を重ねてマリンと一緒にキッチンのほうに行ってしまった。

クラウドとふたりで残されちゃったよ…。

まあ…せっかくだし。
その機に、あたしはクラウドに尋ねてみた。





「心配してくれたの?」

「…しないわけ、ないだろ」





なんか、あっさり言われてしまった。
うわあ…微妙に照れる…!

クラウドはそう言うと、す…とあたしの頬に手を伸ばした。





「怪我でもされたらと思うと、気が気じゃない」

「うーん…でも、ティファもさっき言ってた通り、基本的にここらの敵強くないし」

「どんな小さな怪我でも…だ」

「そんなに柔じゃないよ、あたし」

「わかってる…」

「大丈夫!ちゃちゃっと片付けちゃうって」





ニッ、と笑えばやっと、クラウドは折れてくれた。





「わかった…。無茶だけはするなよ。危ないと思ったらすぐに逃げろ。絶対賭けなんかにも出るんじゃないぞ」

「了解しました!」





心配は素直に嬉しいし、考えてくれてるって思っただけで有難いことだ。
だからもう一度「ありがと、クラウド」とお礼を言えば、クラウドは少し苦笑いしながらだけど頷いた。





「でも、本当に何が欲しいんだ?」

「んー?」

「その、まあデリバリーも始めたし…プレゼント、しても…」

「あれ。バイクパーツにつぎ込むんじゃないの?」

「いやそれは…」

「あはは!冗談だってば!」





後ろめたさを掘り返せば、クラウドは眉を下げた。

コレはやっぱ意地悪だったかもしれない。
でもやっぱ笑っちゃうよね、バイクにお金つぎ込んでたとか。
本当に子供みたいなんだもん。





「…おい、何笑ってるんだよ」

「いや、ごめ…ちょっと思い出し笑い…」

「………。」

「…く、はっ…ふふふっ」

「……ナマエ」





やばい、堪えらんなくなってきた。
それに比例してクラウドのご機嫌が傾いていく。

ああ、なんとか落ち着かなければ…。
いやでもだってクラウド、可愛すぎるじゃん…!





「あははっ、ごめんってば!でも、本当に自分で買いたいからさ」

「そう、なのか?」

「うん!買ったらクラウドに一番に見せるよ」

「…わかった。楽しみにしてる」

「約束ね!」





こうして、あたしの小さなお仕事が決まったのでした。



END
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