「はい。セブンスヘブンです。…え?クラウドですか?」
クルクル、バトンのように叩きを回しながら出たお店の電話。
でも、その宛てを聞くとあたしの手はぴたりと止まった。
珍しい。いや、もしかしたら初めてなんじゃないのかな?
それはクラウド宛ての電話だった。
「クラウドー。クラウド宛ての電話だよ」
「俺?」
あたしはカウンターに座っているクラウドに受話器を手渡しに行った。
電話を代わったクラウドは相手と少し話をする。
そして電話を切ると立ち上がった。
「ちょっと、出かけてくる」
「え?」
座っていたクラウドの代わり、子機を戻してあげようと電話を受け取った矢先に言われた言葉。
あたしはそれにきょとんとした。
用が出来たと言うなら、理由は今の電話で間違いない。
これまた珍しいなあ…。
シンクの掃除をしていたティファもあたしと同じように思ったらしくて、クラウドに問いかけた。
「どこへ行くの?」
「…なんて言ったらいいかな」
ティファの問いに、クラウドは少し困ったような顔をした。
フェンリルを手に入れてから、クラウドが材料調達に行ける範囲は広くなった。
最近はすっかりお店は繁盛してたから、あたしはティファの手伝いをするほうが多くてクラウドと一緒に材料調達に行く機会は減ってた。
だから全然知らなかったけど、その帰り道にミッドガルへの届け物を頼まれることがよくあったらしい。
「今の電話、よく野菜を分けてくれる家の主人なんだ。それで、どうしても今日中に届けたいものがあるって」
そう言ったクラウドは、まるで白状でもしてるみたいな顔をしていた。
なんか、ああ、バレてしまった…的な。
何でそんな顔をしてるのやら。
あたしはティファと顔を合わせた。
「どしたのクラウド?やましいことでもあるの?」
「本当よ。どうしてそんな顔してるの?」
「いや…黙っていて悪かった。勝手な事をして」
クラウドは言った。
どうやらクラウドはその配達をする際に手間賃を貰っていたらしい。
しかもそれを全部フェンリルの改造につぎ込んでいたとか。
その事が、あたしやティファに後ろめたかったのだ言う。
つまりはそういうことだった。
「「………。」」
それを聞いて、あたしはティファと再び顔を見合わせた。
なんつーか、うん。
多分、あたしとティファ、今まったく同じことを思ってる。
その証拠に、噴いた。
「あ、あははははっ!!なにそれクラウド!ははっ、もうやめてよ、おっかしーなー!!」
「ふふっ、本当!もう、あははっ、まるで子供ね!」
「な、なんで笑うんだ…」
爆笑したあたしとティファに、クラウドは困惑してた。
いや、でもマジでティファの台詞はぴったりだと思った。
これじゃクラウド、子供みたいだ本当に。
「なるほど…、全然気にしてなかったけど、フェンリルの整備お金掛かるもんね。そういう事か、納得……ふっ、あははははっ、もう駄目おかしすぎる…!」
「そ、そんなに笑うことなのか…?」
「ご、ごめっ…、でも待って…本当ちょっと可笑しくてさ…!」
「………。」
爆笑し続けるあたしに、クラウドはなんとも言えない顔をしてた。
うん、そろそろこの笑いとめないと、さすがにクラウドが可哀想かもしれない。
でも何かいつも頼りにしてたクラウドが、妙に可愛く見えちゃったんだもん、これは仕方ない。
けど、そろそろ抑える努力はしよう。
あたしは笑いを止めるために、すーはー…と深呼吸した。
「別に隠さなくてもいーのに。それ、クラウドが頑張って稼いだお金なんだから」
「…そう、なのか?」
「じゃないの?ねえ、ティファ?」
「ふふ、そうね。まあ、その話は後でしましょ?クラウド、依頼してきた主人さん、待ってるよ?」
「あ、ああ、じゃあ行ってくる」
依頼を受けたのだから、待たせるわけには行かない。
クラウドは慌てたようにお店を出て行った。
走っていくバイクの音を聞いて、あたしとティファもお店の準備を再開した。
でも、そんな中であたしとティファは話し合った。
クラウドのその、配達について。
「クラウド、なんか新しい世界見つけたんだねー」
「ナマエ、寂しい?」
「え、どうして?」
「クラウドが自分の知らない、新しい世界を見つけたから」
「あー…、そゆことか。いやでも嬉しいかな。だってクラウド楽しそうだし。もちろん、クラウドが興味あること、好きなことは知りたい。どんどん増えてく好きなことは、こうやって少しずつでも知っていければいいよ。知っていくことがどんどん増えていくのは、きっと楽しいよね」
「…嬉しい、か。そうね、ナマエならそう思うのかも」
「はい?」
ティファはそういうと、なんでもないわと首を振った。
よくわかんなかったけど、あたしは特に突っ込んだことを聞こうとは思わなかった。
だってティファの顔が。なんとなく穏やかだったから。
「ナマエ、私ね、最近自分の中にある罪の意識とちゃんと付き合えてる気がする」
「え…?」
「いつか、罰せられる日が来るかもしれない。でも、その時が来るまでは前を見てようと思う。奪うだけじゃなくて、与えることも出来るって、自分に証明しながら」
「そっか」
色々と、いい方向に動き始めている気がした。
ティファも、クラウドも。
前にクラウドが言ってた新しい生活っていうの、実現出来てきている気がした。
だから、あたしとティファは帰ってきたクラウドに勧めた。
この荷物の配達を、ちゃんとした商売にするように。
「名づけてストライフ・デリバリー・サービス!ね、どう?」
「ストライフ・デリバリー・サービス…」
「依頼はこのお店で受ければいいし、電話の対応なら私やナマエ、マリンにも出来るわ」
「いやいや、あたしは伝票の整理とかもやっちゃうよ?」
手伝う気満々に、あたしとティファはクラウドに笑った。
でもクラウドは少し考えるような素振りを見せる。
結構名案だと思ってたあたしは、ちょっと意外かも…って思った。
クラウド、すぐに頷くかと思ってたのに。
だって、内緒にして後ろめたさを感じながらも、請け負ってたわけだし。
「ストライフだもん。クラウドの会社だよ?」
「と、言われてもな」
「何でも屋さん改め、だよ。あたしクラウドの部下だし。ねー、ボス?」
「ボスって、凄い久々だな」
「うふふ、だねー!」
自分で持ち出した言葉だけど、なんか懐かしくて笑った。
でもボスって…なんかアレだよね、今考えると。
マフィアじゃあるまいし。
「あ、そうだ。じゃああたし、社長秘書ってことでどうでしょう!クラウドが社長だし!クラウドの秘書ですわよ!」
「なんか、ナマエノリノリだな…」
「えへへ。社長ー、お飲み物入れましょうか?社長〜」
クラウドの言うとおり、なんかノリノリだった。
特に意味もなく楽しくなってきた社長秘書ごっこ。
いや、ごっこでも無いんだけど。
でも、ふざけて「社長、社長」言ってたらクラウドが少し怪訝な顔になった。
…あたしも、言っててなんか微妙な気持ちになってきた。
「なあ…ナマエ、その社長って言うの…」
「みなまで言わないで、クラウド。わかってる…」
「…そうか」
社長って…なんかアレだよね。
連呼してて思ったよ、凄いアレだ。
連想されるのは…あたしの物凄い苦手なあの坊ちゃんだ。
ウェポンの攻撃に巻き込まれたわけだし、あまり悪く言うつもりは無いけど…。
やっぱ苦手なモンは苦手なんだな…うん。
「ま、まあ…何でもいいけど、とりあえず考えてみたら?急いで決めなきゃいけないっていう理由もないし。クラウドが自由にすればいいことだから」
なんか変な空気になったところで、ティファがそうまとめてくれた。
ああ、さすがティファ。
頼りになるよ、ティファ…!
「…ああ、そうだな」
ティファの言葉を聞き、クラウドは一晩ゆっくり考えて答えを出した。
これが、ストライフ・デリバリー・サービスのはじまりだった。
END
prev next