手にした時間を | ナノ
「セブンス・ヘブンで一生ただで飲み食い出来る権利?」





ある日、開店準備のためにあたしがテーブルを拭いていたときのこと。
カウンターの奥で電話をするティファが、向こうの相手に訝しるように聞き返した。


……一生ただで、飲み食い…?


聞こえた台詞に首をひねった。

なんだそのへんちくりんな権利は…。
そんな要求をしてきた相手、クラウドにあたしも少し疑問を覚えた。





「ティファ、OKしたの?」





布巾片手に、電話を切ったティファに尋ねた。
するとティファは「あ、聞いてた?」と言いながら頷いた。





「うん。だって、クラウドがそんなこと頼んでくるの珍しいし」

「…引き換えに、もんのすごーく欲しいものがある、と?」

「そういうこと。ナマエもわかってるんじゃない」





ティファはそう言いながら食器を洗い始めた。

クラウドが何かを頼んでくるなんて、凄く珍しいことだった。
だから、そういう想像に達するのは容易だった。

現に、夜になって帰ってきたクラウドは…あるものを持ち帰ってきた。





「うおおおおおっ!!!」





その、あるもの。

見た瞬間、あたしは奇声を上げてしまった。
ていうか叫んだ。そりゃもう思いっきり。

それはそれは、目を輝かせて。





「凄い凄い!かっこいー!!」

「…そうか?」

「うん!」





うわあっと感動するあたしに、クラウドも案外満更でもなさそうだった。
セブンス・ヘブンで一生ただで飲み食い出来る権利と引き換えにクラウドが手に入れたもの…それは見たことの無い型の、大きな黒いバイクだった。





「わー…、凄いカッコイイー…。正直バイクのこととか良くわかんないけど、コレ、クラウドのなんだよね?」

「ああ、飲み食いの権利と交換で譲ってもらったんだ」

「そっかー…すごーい…!」

「さっきから凄いしか言ってないな?」

「いやでも凄いし。なるほど。これはティファにお願いする価値あるわ」

「…だよな?」

「うん!」





あんな変な交渉してまで欲したあたり、クラウドは相当このバイクを気に入ってるみたいだ。
だからあたしが「凄い」と褒めるたび、なんだか嬉しそうだった。

まあクラウドが喜ぶから褒めてるんじゃなくて、あたし自身も本当に凄いと思ってるんだけど。

それ以来、クラウドは少しでも時間が出来るとバイクの整備をするようになった。
あたしは最近ティファの手伝いをするほうが多かったから、どこで知り合ったのかよくわかんなかったけど、エンジニアの人に改造を頼んだりして。

あたしはそれをマリンとか、マリンと同じくらいの近所の子と一緒になって眺めてた。





「クラウド、楽しそうだね」

「まあ、な。ナマエはよく眺めてるけど、つまらなくないのか?」

「全然!あ。でもバイクより、楽しそうにしてるクラウドを珍しがって見てる部分のほうが大きかったりして?」

「そんなに楽しそうか、俺?」

「うん。物凄く。あははっ、でも案外整備とか見てるのも楽しいよ。あたし、結構こういうの見るの好きみたい」

「そうか」





例えば、コレは極端だけどプラモデルとか。
何かが徐々に出来上がっていく様を見ているのは結構楽しかった。

こうしてクラウドのバイク・フェンリルは少しずつクラウドの望む姿に改良されていった。





「…ナマエ」

「…ん?なーに?」

「…今夜、少し時間があるからどこか行かないか?店も、今日はそこまで混まないだろ?」

「え!ほんと?」

「しっ…、みんなには内緒だ」

「はーい…!」





それと、近所の子達がみんなクラウドのバイクに興味を持ってるからこっそりと…後ろに乗せてどこかに連れて行ってくれることも、本当に、本当にたまにだけどあった。

後ろに跨って、クラウドの腰に手を回す。
気恥ずかしくて慣れなくて。だけどすっごく嬉しくて。

少し熱を持った頬は、バイクのスピードによって生まれる夜風が冷ましてくれる。





「あはっ、本当飲み食いの権利万歳だよ。いいもん貰ってきたね、クラウド!」

「なんだ突然?」

「えへへ…っ、んー!夜風、きもちーね…」





こうして、フェンリルはクラウドの元にやってきたのだった。



END
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