「ねーえ、ナマエ。ナマエはクラウドのどこが好きなの?」
セブンスヘブンの扉に手を掛けた瞬間に聞こえた幼い声。
その言葉に俺の手は固まった。
何故って、開けてしまったら会話が中断されることは目に見えていたから。
……聞きたい。
その時、俺の頭はそんな感情で埋め尽くされていた。
「んぐふっ!?」
ナマエ。話を振られた当の本人は、何かを喉に詰まらせていた。
なんというか…動揺が読み取れる、わかりやすい反応だと思う。
それでもすぐに平常心を戻し、尋ねてきたマリンにナマエは聞き返した。
「どしたの、マリン。いきなり」
「だってナマエはクラウドのことが好きなんでしょ?」
幼いとはどこまでも真っ直ぐだ。
ナマエの動揺を知ってか知らずか、ストレートに続けていく。
でもそんなマリンの無垢な行動を応援している自分がいた。
「へ。う、うん…そうだね」
ナマエは答えた。
まっすぐ見つめる視線に少しだけ戸惑いながら。
…そうだね、か。
その一言を聞けた瞬間、俺は胸の中で何かが疼いたのを感じた。
「クラウドもナマエのこと大好きなんだよね!」
「だいっ…え、えーと、だと、いいなあ…」
「いいな、じゃないでしょ。何言ってるの」
マリンとティファに挟まれている様子のナマエ。
今度の話題は俺がナマエのことをどう思っているのか、ということだった。
大好き、な…。
否定はしない…というか図星ではあるのだが、俺のいないところでそんな話をされるのはなんとなくむず痒いものがった。
なんて言うか…俺って、そんなにわかりやすいのか…?とか、そんな複雑な気持ちになった。
でも、そんな中で「だと、いいな」なんて控えめな答え方をするのはナマエらしいと思った。
いつもは元気なくせに、自分の話になると妙におとなしくなる。
そんな部分も、いいんだが…なんて感じる俺は、相当はまってしまっているのだと思う。
「ねえ、じゃあナマエはクラウドの顔が好きなの?クラウド、確かに格好いいよね!」
「うん。格好いいね。でも違うよ。それだけじゃない」
それからしばらく、そんな話は続いた。
ナマエも少し吹っ切れたように、赤裸々に話し始めていた。
「言葉じゃ、ちょっと説明できないかも。単純に好き、だけじゃなくて…感謝とか、尊敬とか、そういう気持ちもあるから」
ナマエが俺に抱いてくれている想い。
立ち聞きと言うずるい形だけど、素直な気持ちが聞けて…嬉しいと思えた。
マリンが言ったように、俺は…ナマエのことが、大好きなのだ。
…そう、本当に。心底から。
だけど…。
「…完全に入るタイミング、無くしたな…」
ぼそっと呟いた。
扉に手を掛けたまま、かれこれどれくらいになっただろう。
まだ今も続いている会話。
いつ入ったらいいのか、完全にわからなくなった…。
「…少し、歩いてくるか…」
俺は扉から手を離した。
でも、今は気分がいい。
そんな余韻に浸りながら歩くのも、悪くは無いかもしれない。
そうだ。ミッドガルにいたパティシエが開いた小さな店。
そこのお菓子でも買ってこようか。
ナマエはそれが気に入ったようだったから、きっと喜ぶだろう。
ありがとう、と笑うその顔を想像して、俺はのんびり歩き始めた。
END
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