「うふふふふー。しあわせー。やっぱティファのパンケーキ最高〜」
フォークに刺したふかふかの黄色。
甘いクリームと、甘酸っぱいフルーツが堪らない。
「ふふ、喜んでもらえて光栄です」
頬を押さえてニマニマするあたし。
それを見て、流し仕事をしながらティファは微笑んだ。
「マリン、あーん」
「あーん」
クリームを絡め、こぼれない様に手を添えながら隣にいるマリンの口に運んであげる。
これはお昼ご飯を抜いてしまったあたしのちょっと遅めのランチ兼おやつだ。
それを分けてあげ「おいしいよね」と聞けばマリンは「うん!」と嬉しそうに頷いた。
あー、マリン!
やっぱかーわーいーいー!!
隣で綻ぶ小さな女の子にきゅんとした。
「えへへ、今日父ちゃんに電話したらナマエとパンケーキ食べたんだって教えてあげよっと!」
「うん。いいじゃんいいじゃん。バレットは親馬鹿だからどんどん電話しなー。なんか買ってくれるかもよー」
「ほんと!?」
「ちょっとナマエ…マリンに変なこと吹き込まないで」
「えへ」
軽く舌を出して笑った。
でも、愛娘からの電話。
バレットは絶対喜ぶと思うのは本音。
離れている娘の様子は、いつだって気に掛けてるはずだから。
『俺はな、自分の人生に落とし前をつけてえんだ』
数日前、バレットはそう言ってこの場所を出て行った。
セブンス・ヘブンを開いて、ちょうど一週間くらいした時だったと思う。
『落とし前って…、それなら私だって』
『ティファはここで出来るじゃねえか。奪うだけじゃない。与えることも出来るって証明してみろ』
戸惑うティファにバレットはそう言った。
実のところ、あたしとクラウドはそのちょっと前にバレットからそれらしい話は聞いていた。
だからバレットが話を切り出したときも、落ち着いて聞いてられた。
セブンス・ヘブンはティファの場所。
ティファもバレットも、出来ることや自分の納得できる形はそれぞれ別のところにあるんだと思う。
『ちゃんとここんちの子供になるからね!』
去っていく父の背中にマリンはそう叫んだ。
『しっかりな!家族で力を合わせてがんばんだぞ!』
そしてバレットは少しかすれた声でそう返した。
ここんちの子…家族…。
完全に話の内容に置いてきぼりを食らってたあたしとクラウドとティファは、顔を見合わせていた。
でも、慰めあって、励ましあって、助け合って。
こういう今のあたしたちの関係を表す言葉として《家族》という表現は凄くぴったりな気がした。
『家族、だね』
『うん!』
『そーだね!』
ティファの呟きに、マリンとあたしはすぐに頷いた。
『クラウドも家族に入れてあげるね!』
マリンはクラウドの手に両手を伸ばして掴むと、そう笑った。
『それは有り難いな』
そんなマリンに、クラウドはそう答えた。
これからも色んなことがあるだろうけど、皆で乗り越えてく。
あの日からあたしたちは《家族》になった。
「ねーえ、ナマエ。ナマエはクラウドのどこが好きなの?」
「んぐふっ!?」
ぼんやり浸るようにあの日のことを思い出していたら、いきなりマリンから爆弾投下されてパンケーキが詰まった。
んっぐぐっ!くるし…!!
慌ててグラスに手を伸ばしてジュースを流し込む。
ぶはッ…ビックリした。
ぶはッとか全然可愛くないけど…。
って、あたしに可愛さを求めちゃいかん!
言ってて虚しい…、やめよう、うん。
「どしたの、マリン。いきなり」
「だってナマエはクラウドのことが好きなんでしょ?」
「へ。う、うん…そうだね」
「クラウドもナマエのこと大好きなんだよね!」
「だいっ…え、えーと、だと、いいなあ…」
「いいな、じゃないでしょ。何言ってるの」
最後はジュースを継ぎ足してくれてるティファに指摘されてしまった。
いや、だって「うん!そうよ!」とか言ったら何か厚かましいじゃないか…!
そんなこと言ったら、また何か言われちゃいそうだから黙っとくけど。
とりあえず、今クラウドが留守にしてくれてるのは有り難かったかもしれない。
「クラウド、ナマエの初恋のお兄さんに似てるんだよね?だから好きなの?」
「え?あ、あー…そっか、マリンにはちゃんと話してなかったよね」
いつだったか、マリンに初恋のお話した気がする。
確か今みたく「好きな人いる?」ってマリンが興味本位で聞いてきたんだっけか。
そのあとすぐクラウドと会ったから、興奮気味に「そっくりなの!!」とか話したかもしれない。
いやはや、懐かしい限りである。
でも、何か言い方を考えないとマリンはたぶんものすごい勢いで食いついてくるはず。
出来るだけオブラートに包みつつ…どう説明しようか。
そう少し悩んでた。
でもそんな唸りも一瞬で無駄になった。
「マリン。そのナマエの初恋の人ね、凄いんだよ。クラウドがその人だったんだから」
「あっ、ちょ…!」
「え!」
理由は単純。
どこか楽しそうなティファに、先に告げられてしまったからだ。
しかも超ドストレートに。マリンの興味を引くように。
おかげで物凄くキラキラした瞳を向けらるはめになった。
「なにそれ!もっと教えて!」
「いや、そんな食いつかなくていいから」
「ふふ、マリンも女の子よねー」
「ティファ…絶対こうなるってわかってたでしょ…」
「うふふっ」
マリンはこういう話がだーい好きなお年頃だ…。
ティファめ。うふふじゃないよ!確信犯だよ、絶対!
マリンの純粋無垢な瞳に見つめられたら逃げらんないじゃないか…!
でも…ティファもマリンも…楽しそうだった。
だからまあ、ティファも楽しそうなら、いいかな…と思う部分もあった。
「初恋は叶わない、なんて言うけど…アレって迷信だって証明しちゃったのよね、ナマエは」
「なんか大袈裟じゃない…?それ」
最後の一口をはむっと入れて、ちょっと顔をしかめた。
ああ、でも、確かに初恋は叶わないってよく言うかもしれない。
…迷信でよかった…!
ちょっと心の中で、いやかなりそう思った。
…確かにあたしの中にあるあのお兄さんは特別で、大切な思い出だ。
でも今ここにこうしていることとは、全然別の問題なんだと思う。
「ねえ、じゃあナマエはクラウドの顔が好きなの?クラウド、確かに格好いいよね!」
「うん。格好いいね。でも違うよ。それだけじゃない」
クラウドのお顔は確かにドストライクだ。
美人さんだよね、クラウドって。本当に。
綺麗な顔、してると思う。
でも、本当にそれだけじゃない。
クラウドの優しさに、あたしは何度も触れた。
クラウドはいつだって助けてくれた。
あたしの生きる意味は、クラウドがくれたもの。
「言葉じゃ、ちょっと説明できないかも。単純に好き、だけじゃなくて…感謝とか、尊敬とか、そういう気持ちもあるから」
多分…、言葉では言い表せないくらい色んな感情があるのかもしれない。
「でも、好きなんだよね?」
楽しそうなマリン。ティファも変わらず。
もう、ここまできたら否定することもないけど。
ていうか今は何だかむしろ清々しいかもしれない。
うん…ここまできたら…ね。
「うん、大好きだよ!」
あたしはそう、笑って言えた。
END
prev next