「…ナマエ?」
「えっ!?」
ひずみから飛び出した。
よっしゃ!って勢いよく走り出そうとしたら名前を呼ばれた。
聞き覚えのある男の人の声。
ちょっと驚いたけど、あたしはすぐに振り返った。
だってそれは味方の声だったから。
「カイン!」
竜の鎧に長い槍。
そこにいたのは、同じコスモスの戦士であるカインだった。
カインは強いし、判断力もある。
結構頼りにしてる、そんな仲間だった。
「ひずみの中にいたのか?」
「え、あー…まあ、諸事情でさ…」
「諸事情?まあいいが…、なにかあったか?酷く焦っているように見えるが」
「う、うん…ちょっと…色々あって…」
「色々…?」
訝しげな顔。
いや…仮面でよく見えないけど。でも多分…そんな感じ。
カインは何かを考える様に黙った。
その末、手を差し伸べてくれた。
「…俺に協力出来ることがあれば手伝うが」
「え」
それは素直に嬉しい申し出だったと思う。
そこでやっぱり…改めて思った。
やっぱ、コスモスの戦士の皆の事も大切。
皆とクラウド。
あたしは欲張りなんだ。
だから…目一杯を、望みたい。
「ありがとう、カイン!でも今は大丈夫!けど、そのうち相談するかも!」
「…そうか」
「うん!今は急がなきゃ。守りたい、大事な人がいるから」
「…………。」
今はとにかくティファに会わなきゃ。
だからあたしは手を振ってカインに背を向けた。
でもその瞬間、目の端にあった水たまりがキラ…と光ったのが見えた。
「………!」
それを見たあたしは一気に地を蹴った。
直後、響いたのはザンッ…という地に何かが突き刺さった音。
「……カ、イン…?」
あたしは振り返って彼の名を呟いた。
そこにあったのは、地に突き刺さる槍。
持ち手には仲間のはずの…彼の腕。
「…避けられたか」
「……な、」
その時、頭に嫌な言葉が浮かんだ。
―――――裏切り者。
「……っ」
違う…!そんなわけない…!
あたしは慌てて浮かんだ言葉を振り払った。
《俺はみんなを信じるよ》
よく…わからない。いつ聞いたのかは…思い出せない。
でもそれは、クラウドが言っていた言葉だ。
あたしは、その言葉を聞いた時…凄く嬉しかった。
そのみんなの中に自分もはいってたから。
だから…、裏切りなんて言葉は…。
「あっぶなかったー…!もう、なにしてんのさ、カイン!」
だから笑った。
そんなあたしの態度に、カインは少し戸惑いを見せたみたいだった。
でもまたチャキ…と矛先をこちらに向けて来た。
「…すまんが、眠ってもらう」
「うーん、悪いけどあたし今さっきまでひずみの中で爆睡してたんだよね。だから睡眠時間は十分足りてますって感じ?」
言い返しながら、どうしようか悩んだ。
これは…ちょっとまた槍、飛んできそうかも…。
理由はよくわからない…。
でも何かあるんだと思う…。
だってカイン、今すまんがって言ったし。
「なんでこんなことするの?」
「…………。」
駆け引きとか、あたしは苦手だ。
だからストレートに聞いた。
でもカインはだんまり、答えてくれない。
それどころか…。
「うおおおお?!!?」
びゅん!!!…と勢いよく槍をブン投げて来た。
うわちょ…あっぶな…!
間一髪でよけたけど、結構ビックリした。
でもつまり…。
…これは、本気か…。
本当…こんなとこで、油売ってる場合じゃないんだけどな…。
「…あたし、今急いでるの」
「ああ、聞いたさ」
「じゃあ邪魔しないで欲しいな」
「悪いが、そうはいかん」
見逃してくれそうには無かった。
それにカインは強い。冗談抜きで。
あたしひとりで負かせるのか…正直、難しいところだ。
避け続けるのも限度ってものがある。
だからあたしはソードに手を伸ばした。
「眠れッ」
「…ッ!」
ガキン!!
カインが降りおろした槍をソードで受け止めた。
く…、腕がぴりぴりする…!
だけどなんとか耐えて、カインを睨んだ。
「カイン!何でこんなことするの!」
「知る必要はない」
「っなにそれ…!」
皆、教えてくれないんだね。
カインも、クラウドも。
あたしもティファに…秘密、作っちゃってたし。
どいつもこいつも…本当、どうしようもないな!
「理由教えてってば!カイン!理由も無しにこんなことしないでしょ?!」
「…………。」
キン…!
なんとか槍を振り払った。
…駄目だ。やっぱカインは強い…。
そもそも…あたしはカインを倒せない。
ううん、ちょっと違うか。倒す気なんか無い。
本気になって剣を振る事なんて…出来ない。
だけどそんなあたしとは逆にカインは全力でやってくる。
迷いと本気の差は、戦いにおいては致命的。
「…う…っ!!」
一瞬の隙が生んだ出来事に、あたしは傷を負わされた。
右肩からドクドクと赤が滲み出す。
そのまま喉に槍の棒を押し付けられ、押し倒されてしまった。
「…かはっ…げほっ…!」
「…終わりだな」
押し付けられた喉に咳込む。
そのまま見降ろされた。
……それは負け、という意味と同じだった。
「………カ…イ……ン…」
体中に鈍い痛みがあった。
もう…逃げられない…。
あたし、ここで終わり…?
そう過ったら、頬に冷たさが伝った。
「……は…っ…」
喉を押さえつけられたことで、声が掠れた。
クラウド…って呟いたつもりなのに、全然声になってなかった。
…もう…会えない…ってこと…?
なんか…。…なんて、呆気ないんだろう…。
「ナマエ…、お前は今、守りたい、大事な人がいると言った」
その時、カインがそう囁いた。
そっと見上げたら、いつも仮面で隠してる素顔が見えた。
横たわった今の状態だと下からその素顔が少しだけ覗けた。
歯を食いしばって、凄く辛そうな顔してる。
…自分から襲っておいて、なんて顔してるんだろう…。
「…そう思える…、思われる相手がいるのなら、お前は次に行け…」
「…つ、ぎ…?」
訝しく尋ねた。
意味分かんない…。
どういう意味だろう…。
次の戦いって…、…次なんて…。
……だけど、その表情に嘘があるようには思えなかった。
やっぱりなにか理由があるんじゃないかっていうか…。
そんな風に、思えた気がして。
それに…あたしはもう、きっと駄目なんだと思う…。
だってこの肩じゃ…戦えない。
肩から血、流し過ぎたのかな…。
はは…もう寝ないって言ったのに、意識…遠くなってきちゃったよ…。
悔しいけど…自分のことだからわかる…。
だからあたしは、力になってもらう事にした。
「…カイン……お願い……」
「…!」
「…ティファの、こと…守って………たすけて」
掠れる声を出しながら、浮かべた。
……あーあ…。
あたし、ティファにいっぱい嘘ついちゃった…。
クラウドのことも、すぐ戻るって言ったことも…。
「……ごめ、ん……って」
何をどうすれば良かったのか、最後になっても正解は見つからない。
すうっ…と消えていくのが凄くわかる。
本当さっきまで寝てたのに、また、こんなに眠い…。
なんか…あたしってば、何の役にも立ってないような…。
何もしないまま…ただ消えるだけとか…何なんだ。
はは…、苦笑いしか出来ない感じ…。
「…守りたい者、大事な者は…次の戦いで守ればいい…。守ってみせろ…」
まどろむ中で聞こえたカインの最後の言葉。
……だから…次って、なんなのさ…?
全然、わっけわかんないよ…。
「………。」
…クラウド…何しようとしてるの。…無事なのかな…?
やっぱ、全然わかんない…。
だけど…大切だから。大事だから。大好きだから。
だからせめて、最後に祈る。
どうか、どうか…。
クラウドとティファが、未来を掴んでくれますように。
そう願いながら意識を手放した。
…さよなら。
To be continued