《放して――!嫌だ!助けに行く!》
誰かに腕を掴まれた。
あたしはその手を振り払って走り出そうとした。
でも、その腕を掴んだ誰かに頬を叩かれた。
冷静になれって怒鳴られた。
誰かはわからない。
でも、あたしの心配をしてくれてるのはわかった。
だけど…それでもあたしは、引きずられながらも手を伸ばしてた。
青い波…。大きな揺れ。
溢れていく、その何かに向かって…。
まだ取り残されているふたりに向かって…。
《いやあああああ!!クラウドッ!!ティファあああ!!》
大切なふたりが、青い中に呑まれてしまう。
手を伸ばしても、届かない。
…待って…、いやだ…!いや…!!
「いやあああああああああッ!!…、!?」
凄く大きな声が出て、飛び起きた。
…というか…それで完全に目が覚めた。
あ、れ…あたし…眠ってた…?
でも今はそんなのどうでもよかった。
だって今、何かすっごく嫌な予感がした。
だから急いで辺りを見渡した。
だけど、誰もいない。
誰もいない、静かな場所。
「……ここ、どこ…?」
見渡した時、ふと思い出した。
そっか…。
あたし、クラウドに眠らされたんだっけ…。
《さよならだ、ナマエ…》
耳に残ってる最後の言葉。
まどろみの中で離れていったぬくもりは…やっぱり夢じゃなかった…。
だから何か…変な夢、見たんだろうか…。
…そういえばクラウド、解放されたひずみが近くにあるからそこにいろって言ってた。
ここ…ひずみだ。
そうだ、解放されたひずみの中だ…。
スリプルであたしのこと眠らせて、たぶん此処に運んでくれたんだ…。
流れを整理していくと多分…そういうことに、なるんだと思う。
「…クラウド…」
ひずみの中は凄く静かだった。
たったひとりきり。
ひとりの声しかない。
でも、その静かさが少し冷静にさせてくれた。
「…さよならだ、って……なんなのさ」
最後のクラウドの言葉を呟いた。
いや、それだけじゃない。
さっきのクラウドの言葉、意味不明だった。
戦いは終わらない。
この世界は巡ってる。
…まるで……色んなこと知ってるのに、わざと教えてくれないみたいだった。
《…好きだ…ナマエ…、どうしようもないくらい…あんたが好きだ…》
耳に残る、大切な台詞。
それはまだ自分たちの世界にいた時の…凄く凄く大事な思い出だ。
前にも言ってくれた優しい言葉。
クラウドが気持ちを伝えてくれた時のこと。
あたしも、クラウドにちゃんと気持ちを言えた時に囁いてくれた…大事な記憶。
そんな台詞に、今回はもうひとつ…言葉が足されていた。
《…会えて、良かった》
思い出しながら、あたしが唇に指は這わせた。
すぐ眠らされちゃったから…反応、あんま出来なかったけど…。
うう…なんか思い出したら体が熱くなってきたよ…。
……って、だからそうじゃなくて。
…なんで、いきなり…。
しかもその直後にサヨナラって…。
「…………。」
ここは、本当に静かだった。
…クラウド、何する気なんだろう。
戦いは終わらない。世界は巡ってる…。
言葉の意味は全然わかんないけど…。
でも、俺が何とかするって言ってた…。
お前たちは、俺が守るって…。
「…本当、何する気なんだろ…」
なんだか色々考えてたら、物凄く嫌な考えが浮かんできた。
さっきのクラウドの行動と言葉。
照らし合わせていったら…その全部が、なんだか不吉なこと示してる気がした。
好きって言ってくれた…。
会えて良かった…、さよならだ…って。
「あ…れ…」
がたがた、と急に手が震えた。
やだ…なんだろ、これ。
寝てる間に変な夢見たから、かな…。
必死に叫ぶ夢。
クラウドとティファがいなくなっちゃう。
青い何かに景色が呑まれていく…そこにはまだ、ふたりが取り残されているのに。
…そんな夢。
「…………夢?」
なんとなく、違和感があった。
…本当に、夢?
なんだか…ただの夢じゃない気がする…。
全然覚えてないけど…、もしかしたら…元の世界の記憶の一つ…なのかな。
…そうだとしたら、とんでもなく物騒な記憶だな…。
「……………。」
体育座りして、ぎゅっと膝を抱えた。
なんか…急に凄く怖くなったから。
それと同時に、少しだけ…気づいたことがあった。
…あたしは、元の世界に帰ることを望んでいた。
色んな事覚えてないけど、でも微かに…感じるものがあった。
本当に…全然覚えてない。記憶は無い。
でも、そこには必死になって守ろうとしたものがあるような気がした。
そういうものがあるはずなのに、思い出せないのはもどかしかった。
…何より、記憶が無いって言うのは…凄く怖かったし、クラウドとティファのことだって全部思い出せたわけじゃなかった。
カオスを倒せば、元の世界に帰れるかもしれない。
だからそれはあたしたちコスモスの戦士にとっての希望だった。
でも、主を失った戦士は消えゆく定め。
カオスを倒したら、クラウドが消えてしまう。
クラウドと戦いたくなかった。
消えちゃうのなんて言語道断だし。
きっとティファだって思い出したらクラウドと戦うことなんか出来なかったと思う。
顔合わせたのに戦うことをしなかったみたいだし…それは確実だ。
ティファにも辛い思いさせたくない。それも事実だった。
…そう。気づいたのはそこ。
あたし…ティファにはどうしても辛い思いをさせたくなかった。
《こんなの……見たくない》
ティファの肩が震えている。
理由はわかんないけど…あたしは、そんな光景を見たことがある気がした。
力が抜けたように膝をついて、泣き崩れてしまう姿を。
《私…どうしていいか、わからなかったの…》
涙を流して目を腫らして、悲しげに呟く姿を。
状況とか理由とか、全然わからない。
だけど…凄く重たいもの抱えて、苦しんでいたような気がする…。
だから…少しでも…。
変に重たいもの、抱えさせたくなかった。
どっかにそう言う思いが、あった気がする。
だからクラウドの事、言った方がティファの為になるんじゃないかって思っても…なかなか踏ん切りがつかなかった。
「…………クラウド……ティファ……」
あたし、ふたりのこと大好きなんだ…。
ふたりはここに存在している。傍にいる。
ちゃんと、生きている。
帰りたいけど、でも。
記憶にある、大切なふたり。
ふたりが無事っていうのが、一番の大前提だった。
「……クラウド…」
最後にさよならって言ったクラウド。
…もしかして自分を引き換えにしてでも何かしようとしてる?
これから何が起こる?
クラウドは何をしようとしてる?
もしかしたら…もう事が起きたあとかもしれない…。
「……っ…!」
ぞわっ…とした。
やだ…、こんな不安な気持ち…なんでなるんだよ…。
…多分、寝てる間に変な夢見たからだ…。
そうだよ、きっとそうだ。
そのせいだよね…。ただの夢だよね!
そうだよ…きっと、大丈夫…!
…でも、やっぱりどっかで予感が拭えない。
あたし、どれくらい寝てたんだろう?
ティファだってきっと心配してる。
何をどうすればいいかとか、今も全然わかんない。
ああ、全然わかんないよ…!
でもあたしは…なによりクラウドとティファを守りたい…。それは絶対だから。
クラウドは守るって言ってくれたけど、守られるだけなんて性に合わないもん。
とにかくティファに会って、それで全部話そう。
そしたらきっと…一緒に考えてくれる。
本当はもっともっと…早く話すべきだったのかもしれない。
だけどもう、ウジウジしてる場合じゃない。
今はなりふり構ってる状況じゃない気がした。
クラウドとティファと一緒にいたい。笑いたい。
ただそれだけなんだから。
そんな日がきっと来るって信じたい。
反省はあとでやる。
文句だっていくらでも聞く。
だから今は…!
「クラウド…!ティファ…!」
あたしはひずみから飛び出した。
焦る心のままに、とにかく。
To be continued
ミディールのとこと、クラウドが自我崩壊するとこです。
珍しくマイヒーロー絡みな感じ。
読んでなくても大丈夫なようには書いた…つもり。