「ティファ」
「あ、カイン」
掛けられた声に振り向くと、そこには竜騎士がいた。
ひとりで真実を知り、戦い続けた…孤独な人。
私は小さなきっかけから彼に助けられ、行動を共にすることに決めた。
傷だらけになってもなお、ひとりで進もうとする彼を…放ってはおけなかった。
「そろそろ行くぞ。皆、お前を待っている」
「そっか。わかった。今行くね」
ライトニング、ヴァン、ユウナ、ラグナ、そしてカインと共に…私は歩いていた。
カインは話してくれた。
仲間だからこそ、話したくなかった真実を…。
この世界の真実と、今起きていることを。
モーグリを探してくると走っていったナマエは…いつになっても戻ってこなかった。
もしかして…カオスの戦士に襲われたんじゃ…。
嫌な予感が過った私は、ナマエを探しに走り出した。
でも、襲われてしまったのは…私だった。
アルティミシア…彼女に襲われた私は、カインに助けられた。
カインは…仲間であるコスモスの戦士達を眠らせて回っていた。
自分が裏切り者とされてもいいと諦め、ただひたすらに槍をふるっていた。
カインが教えてくれたのは…この世界の戦いは、幾度となく繰り返されているという事実。
敗れれば、その神の戦士は記憶を奪われ蘇り、また戦いに走る。
…コスモスは敗れ続けた。
容赦の無い人形、イミテーションが沸き続ける今回の戦いにも…もう勝ち目はない。
私たちの希望である、コスモスが授けてくれたクリスタル…。
それが手に入らない限り、私たちは勝てない。
クリスタルは…どんなに願っても現れない。
時間も…あまりにも足りない。
だから私たちは次に賭けた。
次の戦いで、皆がクリスタルを手に出来る様に。
イミテーションの湧き出る、次元の扉を破壊しに。
それはきっと…次の勝利に繋がるはずだから。
「ねえ、カイン。ナマエのこと…眠らせたのよね?」
「ああ…」
歩きながら、私はカインに尋ねた。
ナマエが戻ってこなかった理由…それは、カインに眠らされたから。
カインはナマエと、刃を交えた。
「ナマエに怪我、させたのね?」
「…肩を少々、な」
「もう。私の親友に何てことするのよ」
「…ナマエは強い。向こうに迷いがあったから俺に勝機は味方したが、それでも手ごわいのでな」
「ふふっ…そうね。ナマエ、ああ見えて強いものね」
頬を膨らませ、じっと睨んだ私に、カインは少しうろたえていた。
その少し可笑しくて、私は小さく笑った。
「…ナマエは、守りたい、大事な人がいると言った。そして、お前を助けてほしいと、俺に願った」
「自分に武器を向ける相手にお願い事するなんて、ナマエってば凄いのね」
「フッ…そうだな」
「でも…そっか。ナマエ、私のこと心配してくれたのね。…それは、素直に凄く嬉しいわ」
ナマエの存在は、私にとって凄く大きかった。
元の世界の記憶がほとんどない私には…唯一の、元の世界の記憶。
「ナマエは…次の戦いに行くのね」
「…ああ」
「…うん、なら、よかった…。ナマエが全てを終わらせられるように、私は頑張れる」
次の戦いでは、ナマエは私がいたこと…忘れちゃうのね。
でも、思い出す事の出来た元の世界の記憶は消えない。私自身の事は、覚えててくれる。
なんだか少し、ほっとした。
でも…ねえ、ナマエ?
ナマエ、私に何か…隠してたよね?
ナマエ、嘘つくの下手なんだもん。
たまに目、泳いでたし。なんとなく気づいてたよ。
でも、それでも聞かなかったのは…私は貴女を信じていたから。
言えない理由がきっとあるのだと、そう思っていたから。
私の為なのかもしれないと…、そう感じたから。
もしかしたら…自惚れかしら?
でも…。
「私はナマエが大好きだから…頑張るわ」
ぎゅっと触れたグローブ。
君が…希望を掴めるように。
「あーティファ!やっと来たか!」
「ごめんね、ヴァン」
皆が迎えてくれた。
この6人で進み続けて、どのくらいになったのだろう。
でも…肌に感じるものがある。
「奴らの気は確かに強まっている。次元の扉は近いはずだ。どれだけのイミテーションがいるかわからん。だが破壊に失敗すれば希望が失われる」
カインが言った。
その通り、肌に感じる禍々しい気が強くなってきてる。
それは…確かに私たちが進めている何よりの証拠だった。
「生き返るとか元に戻って戦うとかほんとにおとぎ話の世界だぜ。俺たちはそんな世界のルールに巻き込まれちまってるわけだ。…俺たちの他にも戦士はいてずっと前からそういうことが続けられてきた。ここでそれを断ち切ってやる。照れるくらい格好いい話だよな。いや照れるぜ」
ラグナが照れながら頭を掻いた。
生き返って戦う…。
色んな戦士たちが繰り広げ、続けてきたことを…私たちが断ち切る。
その言葉を聞いてもうひとつ…私は思ったことがあった。
「ねえ、戦いが終わったらカオスの戦士はどうなるのかな?コスモスのみんなが自由になれるならカオスの戦士も自由になれるのかな」
思い浮かべた、金髪と青い目。
カオスの戦士なのに、敵なのに助けてくれた…彼。
クラウド…。
やっぱり…彼の名前を思い出すと、何だか不思議な気持ちになる。
クラウドは、私を知らないと言った。
ナマエのことも知らないと。
ナマエも、クラウドなんて名前は知らないと言っていた。
…私の思い過ごしかもしれない。
そう言ってしまえば、それだけの話…。
「……ゴメン、言ってみただけ。今は敵のことまで気にしてられないね」
口に出して、すぐに首を振った。
だって、皆にはどうでもいい話だろうし…私にだって確証は無い。
だから、心に仕舞った。
ねえ、クラウド。
貴方は無事なのかな?
貴方も次の戦いを生きるの?
もしそうなら…ナマエの事、頼めないかな。
もしもナマエが危ない目にあったら、また、ヒーローみたいに…。
ふふ、まるでナマエの真似ね。
でもクラウドは、カインとは違って本当に敵のはずの…カオスの戦士。
敵に向かってこんな願いを抱くなんて、どうかしてるかもね。
でもやっぱり気になるのよ…。
だから…私は祈る。
ナマエとクラウドが、自由になれるように。
To be continued