光にすべてをゆだねる様に



白い、綺麗な手。
ゆっくりゆっくり、優しい光の中から伸びてくる。

あたしとクラウドは無意識に、その手に応えるように手を伸ばしていた。

すると、景色は変わった。
剥がれるように黒い世界が消える。

現れたのは揺れて、崩れる洞窟の景色。





「ナマエ!クラウド!」





そして、差しのべられていたのはティファの手だった。

崩れゆく地面に立つあたしとクラウドを呼び、懸命に手を伸ばしてくれているティファの姿。





「ティファ…ッ、うわあ!?」

「…っ!」

「ナマエ…!クラウド!」





慌ててティファに駆け寄ろうとしたら、急に足場の揺れが酷くなって思いっきりバランスを崩した。

ちょ、ちょ、ちょ…!
まずい…っ!

もう、完全に立ち直れない。
ふらり、と体が乱れる。

もう…だめ…。落ちる…!





「ナマエッ!」

「クラ、…んぎゃあ!?」





我ながら、なんて色気のない声かと思った。

でも仕方ない。
だってバランスの崩れた体を、腕を掴んで引いてくれたのはクラウドだった。

助けてくれたのは凄く有難い。
でも彼は何を思ったのか、あたしの足の下に手を差し入れ、抱きかかえると一目散に走り出した。

その状態は、所謂…姫抱き。

ずっと前、確かジュノンに行った時もこんなことがあった。
あの時も物凄く恥かしかった。でもそれは、今だって変わらない。

しかもクラウドは更に追い打ちをかけてきた。





「ナマエ!俺の首に手を回せ」

「うえ!?」

「早く!」

「は、はいいっ…!」





とんでもない要求。
でもクラウドの気迫に負けて、あたしはクラウドの首に腕を回して抱きつくような形をとった。

も、もうどうにでもなれええー!!

揺れと恥かしさで、もうわけがわからなかった。
だからあたしは目を閉じて、ただ無我夢中にクラウドに抱きついた。





「……っ」

「くっ…!」





抱えられる力が強くなったのを感じた時、クラウドが地を蹴りジャンプしたのがわかった。

耳のすぐ傍で聞こえた踏ん張る様な声。
ぷらぷらと宙ぶらになる感覚を覚えて、そっと目を開けるとクラウドはあたしを抱えたまま、ティファのいる崖にぶら下がっていた。

下は…完全に崩れて、ライフストリームの海と化していた。
それを見たら、背筋が震えた。

クラウド…、必死に守ってくれたんだ…。





「無事か、ナマエ?」

「クラウド…」





しかも、真っ先にあたしの心配。

あたしは顔を見る際に緩めた手をもう一度クラウドの首にやり、金色の髪に頬をうずめた。

クラウド…、クラウド…。





「……ありがとう…」

「ああ…」





伝わる体温に生きてる事を実感する。
あたしたち、ちゃんとここで生きてるんだ。





「ナマエ!掴まって!」

「ティファー!」





ティファが差し出してくれた手を掴んで崖の上に上がる。
そのあとふたりでクラウドのことも引きあげた。

とりあえず、安定した足場は確保…と。





「…わかったような気がする」





ふう、と安堵の息を吐くと、クラウドがそう呟いた。
あたしとティファはその言葉にきょとんとする。





「星からの答え…約束の地…そこで……会えると思うんだ」





ゆったりとした優しい声。
その言葉を聞いたあたしとティファは微笑んだ。





「うん。会いに行こう」





答えたティファに合わせる様に、あたしは頷いた。
クラウドもそれを見て、頷き返してくれた。

そこでクラウドは気づいた様に辺りを見渡した。





「そうだ、みんなは?」

「あ!そうだ!」





クラウドの言葉にぱん!と手を叩く。

そうだそうだ。
皆先に歩いて行っちゃったけど、大丈夫なんだろうか。
さっきので色んなところが崩れちゃったし。

でもそんな心配は無用だったらしい。
すぐにどこからか纏まった声が聞こえて来た。





「おーーーい!」





大きな声に顔を上げれば、あたしたちのちょうど向かい辺りに当たる崖から皆が手を振っていた。





「あ!みーんなー!!」





あたしは両手を広げてブンブン振り返した。

おお!全員いる!
こっちがそう安心したように、向こうもこっちの無事を確認して息をついたみたいだ。

でも安心ばっかりしてられるわけでもない。
ここでずっと、ぼーっとしてるわけにはいかないのだから。





「これからどうするんだ?」

「もうじきホーリーが動き出すんだろ?そうなったら、ここは…」





バレットが聞くと、レッドXIIIが尾を垂らして答える。
そしてか細い糸を掴む様な声でシドが上を見上げた。





「あ〜あ…運命の女神さんよぉ…何とかなんねぇのかよ〜」





その瞬間、グラグラグラ…ッと洞窟内を揺れが襲った。





「ひっ!?」





あわわわわわわ…!
揺れてる、揺れてる、揺れてる…!

ビビったあたしは頭を抱えて縮こまった。





「ナマエ、こっち来い」

「は?わっ、」





すると急に腕を引かれて、すぽっと何かに収まった。
それはクラウドで、彼はあたしを庇う様に被さってガードしてくれた。

くくくくクラウドさん…!!!
さらっと何ををを…!!!
もう色んなドキドキでちょっと頭やばかった。

でも続くのはガラガラガラ…という完全に何か落ちてきてます、みたいな音。

な、なに落ちてきてるの…!?

若干目を細めて上を見上げれば、そこに見えたのは自然の洞窟に似つかわしくない人工の銀色。





「……あ…」





ビーナスゴスペル…。
…女神の福音、ってやつだろうか。

その銀に描かれていたのは麗しき水着の女神様。

こ、これは…。





「運命の女神さん、微笑んじゃった…?」





ぱちぱち、数回まばたきしながら夢じゃない事を確かめる。
それは揺れで幸運にも落ちてきた、飛空挺ハイウインドだった。





「流石だぜ!おら!てめーら!さっさとこっからおさらばしようや!」





意気揚々とハイウインドに駆け出すシドに続いて、あたしたちは飛空艇に乗り込んだ。

でも、恐怖は続いた。

乗り込んだ瞬間、と言っても過言じゃない。
その瞬間、ぶわっと洞窟内を白い光が一気に包んで大放出した。


それは、抑えが無くなり発動したホーリー。


ホーリーが発動したのは願ってもいないこと。
でもハイウインドはその噴出に巻き込まれて、どばん!と一緒に洞窟の外に吹っ飛ばされた。

勿論、操縦なんか利かない。

つまり艇内、皆が転がり合ってすさまじい事になっていた。





「うわあああああああ!?!?!?」

「ぐっ…、ナマエ…!」





あたしは必死こいて、ハイウインドの手すりにしがみついてくれてるクラウドの手を握ってた。
クラウドがあたしの手を掴んでくれてる、とも言うが。

これ最悪転がって頭ぶつけてお陀仏じゃない?!
そんなの絶対いやだー!!!





「シドー!!なんとかしてよおおおおー!!」

「うるっせー!!言われなくてもやってるってんだよ!!」





情けない声でシドに助けを求めたら、怒鳴り声を返された。
頑張ってシドの方に目を向ければ、シドは揺れに耐えながらエマージェンシーと書かれたレバーに手を伸ばしていた。





「ちくしょーッ!!!」





力を振り絞ってシドはレバーを引いた。

すると艇内に変化があった。
ぐわん!と言う大きな揺れが起きたものの、そのあとは軽くなったように揺れが安定してくる。

本体を捨て、脱出艇のみになったハイウインドはそのまま大空洞を離れていった。





「こ、こわかった…」

「立てるか?ナマエ」

「う、うん。大丈夫。クラウド…」





落ち着いて、バクバク言ってる心臓を押さえてへたり込んでるあたしに、いち早く立ち上がったクラウドは手を差し出してくれた。
それを掴んで立ち上がると、あたしたちは窓に手をついて外の様子を伺った。

他の皆も同じように、ガラスに集まっていた。





「…真っ赤…」





ぽつりと呟いた。

赤いメテオは、ミッドガル上空に浮かんでいた。
その接近の余波で、ミッドガルにはいくつもの柱の様な竜巻が襲いかかってる。

プレート。ビル。魔晄炉。
ミッドガルは、剥がされていくように激しく破壊されていた。





「……ホーリーだ」





クラウドが先を指さして言った。

ミッドガルを見つめていると、そこに真っ白な光の帯がメテオとミッドガルの間を貫いた。
ホーリーはメテオを受け止める様にその空を白く包んでいく。

でもその衝撃は、更に強大な嵐の渦を生んだ。





「おいおいおい!ミッドガルはどうなるんだ?まずいんじゃねえのか?」





焦った様にバレットが艇内にガン、と拳を落とした。
その様子に、ケット・シーが涙をぬぐうような仕草を見せた。





「みんなスラムに避難してもろたんやけど、このままやったら、もう…」





余波でプレートは崩された。
きっと、このままじゃスラムに被害が及ぶのも時間の問題…。





「きっとホーリーが遅すぎたんだ。メテオが星に近づきすぎてる。これじゃせっかくのホーリーも逆効果だ。ミッドガルどころか星そのものが…」





レッドXIIIが光を見つめがら言った。
メテオとホーリーの衝突の反動で星そのものが壊れてしまうかもしれない。





「あたしたち…遅すぎたのかな…」

「ナマエ…」





レッドXIII見ながら、あたしは肩を落とした。
するとレッドXIIIまでしゅん…とした顔にさせてしまった。

笑う門には福来たる…。
いつものその言葉、一瞬だけ頭をよぎった。

だから目を合わせたレッドXIIIにゴメンの意味を含めて軽く微笑んだ。

…でも、やっぱり思っちゃうものは思っちゃう、かな…。
だってメテオは…本当にすぐ傍まで迫ってきてるから。





「ナマエ、レッドXIII」

「…クラウド…」





その時、ぽふっ…と頭に柔らかい何かが触れた。
見上げれば、クラウドが優しい顔してあたしとレッドXIIIの頭を撫でてくれていた。

まるで悟ってくれたみたいに。

クラウドの手は、あたしの手なんかすっぽり包んでしまうくらい大きい。
男の人の手なんだから、当たり前なのかもしれないけど。

でも、その手は…なんだかずっとずっと温かい…。
自然と綻ばすように安心させてくれる。





「あれは!?」





そんな時、じっと目を逸らすことなく外を見ていたティファが声を上げた。

その声にあたしたちはまた外を眺める。
あったのは、地中のいたるところから溢れだした緑の光…。





「……ライフストリームだ」





見つめたクラウドが呟いた。

命の流れ、ライフストリーム。
緑の光はうねりながら、何本もの光となって星を包んでいく。

うっとりするほど綺麗な光。
でもそれを見つめていた時、あたしは肩がぴくん…と揺れたのを感じた。





「………え…?」





何かに小さく聞き返す。
ガラスに手をついてライフストリームを見渡しながら。

…今、何かを聞いた様な。

なんて言ったかはわからない。
でもなんとなく…その正体は、わかった気がした。

その何か、それが今…少しずつ、少しずつ…。





「…………来る」





光を見つめたまま、あたしは呟いた。

来る。
いくつもの命の光が。

大切な想いが、いくつも溢れてる。





「…………エアリス」





その時、見た気がした。
ピンクの良く似合う、彼女の微笑みを。

緑色の光のなかに、確かに。

ううん、きっとあたしだけじゃない。
ここにいる皆が…、きっと感じ取った。

それを感じたら、何だか心が落ち着いていくのがわかった。

緑の光が、ホーリーとメテオを包み込んでいく。
眩い輝きが生まれて、誰もが目を細めた。





「ナマエ…」

「…クラウド」





肩に、大切な体温が触れた。
引き寄せるように、そっと優しく。

見上げて、眩しさの中で最後に見た優しい金と青。





「…もう、怖くないよ」





あたしは微笑んだ。
落ち着いた、心はもう…穏やかだ。

やれることはした。
あたしたちは戦い抜いた。

後悔するようなこと、ない。

だからもう、あとは…星の答えを、見届けるだけ…。

傍に感じた体温で、もう何も怖くなかった。





「…ね、クラウド…」

「……ん?」





でも、最後にひとつ…今、どうしても伝えたいことがあった。
今、どうしても伝えたかった。

だからあたしは背伸びして、彼の耳元に唇を寄せた。





「……大好き…」





そっと囁いた。

好き。大好きだよ。

星から見たら、とっても小さくてちっぽけかもしれないけど。

でもそれでいいんだ。

この星の上…大切な大切な、唯一無二。
…自分だけの、特別な存在。

届いた声に、光で白く見えなくなっていくクラウドの顔は、優しく笑っていた気がした。

それを見て、あたしも頬が緩んだ。
互いに、ゆるやかに。

その笑顔を最後に、輝きにあたしは目を閉じた。

光にすべてをゆだねる様に。



END


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