ちっぽけでも特別な唯一



ひとひらの真白い羽根が、足元に落ちた。
拾い上げれば、それは流されるように消えていった。





「……セフィロス…」





銀色の髪。青い瞳。
大きな翼を纏った彼は、触れた羽根と同じように…崩れていた。





「……っ…」

「ナマエ……」





酷い疲労感があって、ふらっ…と足が揺れた。
すると背中に支えてくれる手を感じた。





「……クラウド…ありがと」





優しい手にお礼を告げた。
だって、クラウドだって辛いはずなのに。

いや、あたしとクラウドだけじゃない。
此処にいる全員、酷く息が荒くなってる。

でも、全員だ。

あたしたちは…全員生きて、セフィロスに打ち勝つことが出来た。

流れていく。
セフィロスの体が、少しずつ…少しずつ…。

力の抜けた足をガクン、と膝ついて、あたしはその姿を見つめていた。
へたり込んだあたしに合わせるように支えながら膝をついたクラウドもまた、同じように。

消えゆく彼は、鋭い瞳でこちらを見ていた。
目が、あってる…。気のせいじゃ無い。

あたしは、セフィロスと視線がぶつかっていた。

セフィロスは、じっとあたしとクラウドを見ていた。
クラウドに支えられ、抱きしめられるあたしを。





「……貴方は、」





そう、言葉が零れた。
でも自分でも、何を言おうとしたのか…よくわからない。

ただ、なんとなく悲しいと思った。

セフィロスは星にメテオをぶつけて傷を作り、その傷を癒すために集められるライフストリームを自分のものにしようとした。

そして、神に…なろうとした。

自分だけ…。
自分だけが特別に、自分だけがすべてに。

さらり…、
セフィロスの体は、完全に消滅した。





「俺達に出来るのはここまでだな」





その姿を見送ると、クラウドはそう言いながら立ち上がった。





「ちょっと待てよ!ホーリーは!?星はどうなる?」

「それは…わからない。あとは星が決める事だろ?」





立ちあがったクラウドはバレットにそう答えながらあたしに手を差し出し、引き上げ立ちあがらせてくれた。

セフィロスは消えた。
でも、まだ大きな動きは見られない。

抑えが無くなったなら、ホーリーは動き出すはずだけど…。

それはあくまで、あたしたちにとっては、賭けなんだよね。
ホーリーは星にとっての悪しきものを排除する魔法。

あたしたちは…どちらなのか。

何もしないよりはそっちの方が後悔しないから。
だからそれを覚悟したうえで、戦いに来たんだけど。





「さあ、みんな。もう、考えてもしょうがない。不安なんかはここに置き去りにしてさ。胸を張って帰ろう」





やれることはやったんだから。

クラウドの言葉に皆は頷き、疲れ果てた足を引きずり、来た道を戻り始めた。

行きはやっぱり硬かった皆の顔は、どこか緊張の解けたものに変わってた。
それでも思う事は色々あるし、疲れも溜まっていたから静かなものだったけど。





「クラウド、いこ!」

「ああ」





歩いて行く皆に続こうと、あたしはクラウドに振り返った。

ちゃんと返事は返ってきた。

全員、無事だった。
クラウドも、ちゃんとここにいてくれる。

今はなんだか、それだけで充分な気もした。
これが今わかる最良の結末だったから。

一緒に歩いて戻ろう。
そう思ったあたしはクラウドが隣に来てくれるのを待った。

互いに微笑んで、少しずつ。

でもその時、ぴたりとクラウドの足は止まった。





「……クラウド?」





立ち止まったクラウドに首を傾げる。

…なんだろう。
クラウドの表情は歪んだ。

なんだか様子がおかしい。

だから逆にあたしがクラウドに駆け寄った。





「クラウド?どうしたの?」

「……感じる…」

「え…?」

「あいつは…まだいる…、まだ…」

「え!?」





クラウドは頭を抱え出した。
ぐしゃりと掴んで、金髪を乱す。

あいつって……まさか…?

あたしはクラウドの肩を掴んだ。





「クラウド!?まさかセフィロス!?まだいるの!?」

「…わ、笑ってる……」

「クラウド!ちょ、うわあ!?」





肩を掴んで揺すったら、クラウドは急に膝をついて気を失ってしまった。

いきなり体重が圧し掛かってきてビックリしたけど、あたしは一緒に膝をついて倒れ込んだクラウドの体を支えた。

そして、何度も呼びかけて揺さぶった。





「クラウド!?クラウド!!」





どうしよう…!どうしよう…!?
なんで!?クラウド!?

クラウドは悪夢を見ているかのように、酷くうなされていた。





「…セフィロス……決着を…、」

「…決着!?」





うわ言のように、クラウドが呟いた。

セフィロス…決着…。
まだいる…。笑ってる…。

クラウドの言葉を繋ぎ合わせていくと、一番しっくりくるのは…まだ、セフィロスはいるってこと。

もしかして…クラウド、ひとりでセフィロスと戦ってるの…?
クラウドの中にいるジェノバが、何かを感じてる、とか…?





「っクラウド…!」





クラウド…、戦ってるんだ。
そう思ったら何かしたくなって、あたしはギュッとクラウドの手を取り握りしめた。

すると、急に目の前がカッと光った。





「…ッ!?」





本当に一瞬の出来事。
一瞬で、いきなり一面の景色が変わった。

え!?なに!?

驚いて辺りを見渡す。
そこは、黒い世界だった。

なにも無い。ただの黒い世界。
あたしは何故か、そんなところに立ってた。

でもそこにはあたし以外にもふたつ、呼吸があった。





「クラウド…セフィロス…」





対峙するふたり。
あたしは、その両者の名前を呟いた。

あたしから見えるのは、クラウドの背中と、彼を射抜く視線で見つめるセフィロス。

肉体が滅んでなお、精神だけで残ってる。
まだホーリーが動かないのは…セフィロスの精神が抑えつけているから…。





「ナマエ…」

「え…、」





互いに剣を向け合うふたりを見つめていると、クラウドに名前を呼ばれた。





「…見ててくれ。あんたに…見てて欲しい」

「……………。」

「俺は、胸を張って…ナマエの隣に立ちたい」

「……クラウド」





…そうか…。
この戦いは…これは本当の意味での、クラウドの戦いなんだ。

自我を取り戻して、現実を見ると決めたクラウド。

…でも、クラウドはセフィロス・コピーのひとり。
ずっとずっと、劣等感にさいなまれてきた。

そんな過去との決別。
変わろうとする、最後の決着。

……それを、見ていて欲しいと言われた。





「…わかった。見てる。ちゃんと見てるよ。クラウドのこと」





そう返すと、クラウドは背を向けたまま頷いた。

あたしは、祈るように手を組んだ。

クラウド…、クラウド…。
心の中で、何度も唱えて見守る。

クラウドは大剣をギリ…と握り、セフィロスに向かって走り出した。





「セフィロースッ!!!」





まるで、咆哮。

クラウドは頭上に剣を掲げた。
目を閉じ、意識を集中させて剣に闘気を込めていく。

そして、思いっきり踏み出し、大剣を大きく振り回した。
幾度も幾度も、セフィロスに叩きつける刃。





「……終わりだ」





超究武神覇斬。
飛び上がり、最後に叩きつけた一撃はセフィロスを討った。

ぐらり…、セフィロスの体は大きく揺れる。





「クラウド!」





決した。

その瞬間、あたしは急いでクラウドの元に走った。
クラウドは手を広げ、あたしの肩の手を置いてくれた。

そしてふたりでセフィロスを見つめた。

また、鋭い視線とぶつかった。

セフィロスの額からは、血が伝っている。
染みていくように…その顔を赤く染め上げていく。

そのまま強くこっちを睨んでる。

…徐々に、倒れていく。
同時に、赤い光がセフィロスの体を包む。

光の中に、溶けていく…。





「……………。」

「………………。」





あたしとクラウドは、その光景をじっと黙って見つめていた。

静寂が包む。
その静寂の中で、さっき言いかけたこと…わかった気がした。

…貴方は…。
貴方には、愛が枯渇していた…。

セフィロスは…神になろうとした。
世界のすべてになろうとした。

ジェノバを母さんと呼んだ。
…でも、本当のお母さんは…ルクレツィアさん。
そして…お父さんは、宝条博士。

セフィロスは両親を知らなかった。

母はジェノバ。
自分は特別な存在。でも…モンスターと変わらない?
そうやってセフィロスは、ずっと悩んでいたのかもしれない。

ひとりで、ずっと。

その想いはどんどん歪んで、もっと特別になろうとした。

それって…悲しい事だと思った。
どんなに力を得て、世界を支配しても…それは、幸せなのだろうか。

世界の特別より、ひとつの特別さえあれば…。
どんなにちっぽけでも、見つけた…自分の特別で唯一。

大切な人が…大切な人達が、自分を好きと言ってくれた。自分も思えた。
手を差し伸べて、声を聞いて、助けてくれる人…。

ありふれてるけど、それって凄く幸せなことなんだ。





「……クラウド」

「…ナマエ…?」





あたしはぎゅっと…クラウドの腕に抱きついた。

セフィロスは…そういう唯一の存在が、あったのだろうか。
もし…なにか欠片でも、少しでも歯車違っていたら…、何か変わったのかな。
そう思ったら、なんだか…やりきれない気持ちになった。

もちろん、セフィロスのしたことは許せない。
クラウドやティファの悪夢の発端、そしてエアリスを…。
許せる日なんて、きっとこない。

だから、クラウドの腕を強く抱きしめた。

大切にしたい。
そういう思いが、強くなったから。

そんな思いを噛みしめたその時だった。

急に足元からが光で満ち始める。
青い光が帯になって、あたしたちを照らし始めた。





「…クラウド、これ…」

「…ライフストリーム?」





満ちた青い光はセフィロスの赤い光を吸収するように溶けあった。
それは…命の流れ、ライフストリーム。

ライフストリームはあたしたちを照らすように柱を天に築き始めた。

見上げると、柱の奥から手が伸びてくる。
白い、綺麗な優しい手。

あたしとクラウドは、その優しい手に向かってゆっくりと手を伸ばした。



To be continued


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