北の大空洞



大昔、この星に災厄が衝突した。
その際、星は大きな傷を負い、クレーターを残してしまった。

それからいくつもの長い年月が流れた。
しかし、その傷は今なお、癒えてはいない。

その場所の名は…北の大空洞。

あたしたちはハイウインドからその場所に降り立った。

最終決戦の地、北の大空洞。
旅の、あたしたちの旅の終着点に。





「うわあー…、足場悪いね…」





目の当たりにしたあたしの第一声はそれだった。

人など、まず近づくはずも無いであろう場所。

ゴテゴテした崖の塊。
自然だけで作り上げた地形であり、道なんかあるはずが無かった。

つまり、足場なんか悪くて当然の話…というね。
いや、それでもうげーって思っちゃうのはやっぱり人間の性だと思うんだ!

現にクラウドも足場には気を使っていた。




「足場、危ないな」

「あ、ね!本当、危ないよね!」





おお、共感してもらえたぞ。
なんかちょっと嬉しいよ。

まあ…進めないわけではないんだけどね。 
自分で言うのもなんだけども、運動神経はそこそこある方だと思うのね。

それでも面倒だし、おっかないけどさ。

だから壁面に手をついて、慎重に行こう心がけた。

ここまで来て足挫きました、とかあり得ないからね。





「ナマエ」

「え?」





その時、目の前に手が差し出された。
腕を追って顔を見れば、そこには金髪と青い目。





「クラウド?」





クラウドが手を差し伸べてくれていた。
その行為にあたしはぽかん、間抜けな顔をしてしまった。

これは…ええ、と…?

浮かんだ考えはひとつ。

え、これってもしかしてそういう?





「必要なんて、ないかも知れないけど…」

「え?」





手を差し出したままのクラウドはきょとん、とするあたしを見て眉を下げて小さく苦笑した。





「…支えたいっていうか…」

「…!」

「、駄目か?」

「…クラウド…!」





きゅーん!!

すんごいありきたりな表現だけど、そんな感じ。
すんごくすんごく胸がときめいた。

や、やっぱりそういう意味だったのか…!

もうやだ、クラウド…!
クラウド好きだ…、大好きだ…!

ナマエちゃん、脳内フルスロットルですよもう!





「ううん!駄目なわけない!ていうかお願いします!」





差し出してくれた手に自分の手を重ねると、クラウドはしっかりと握って引いてくれた。






「ありがと、クラウド」

「いや」





握ってもらったまま、ぴょんと跳ねて着地する。

後ろを歩いていて追いついたユフィとかにそれを見て「いちゃつくなよなー!」とか、ちょっとからかわれたけど。
でも今は…何だか、それすら、愛おしかった。

入り組む道は険しく、いくつも分岐している。
その都度にチームを分け、さまざまなルートを辿りながらあたしたちは最深部を目指していた。

あたしはいつも同様クラウドと一緒に組んでる。
改めて思う。やっぱり戦闘の相性はとってもいい。

…でも今は動きやすさだけじゃなくて、その意味…前とは少し変わってるのかな?





「ねえ、クラウド」

「…なんだ?」





青い目を見つめて、見上げた。

…重ねて、触れた、掴んだままのそのクラウドの手。

その感触に意識を集中した。

あたしより大きい、男の人の手。
それを確かめて、少し…思った。





「この先に、セフィロスがいるんだよね」





ゆっくり聞いた。
そのために来てるのに、馬鹿げた質問だと思う。





「ああ…。そうだ」





でもクラウドはちゃんと頷いてくれた。

最終決戦。今日で旅は終わる。
そんな場面だけど、皆、緊迫した空気なんて作ること無くいつも通りの顔して前に進んでいた。

足場に文句言って、モンスターを煙たがって。

斯く言うあたしもそうなんだけど。
だからクラウドの手できゃーきゃーしてるわけだし。

でも、それはたぶん…。
決定的にいつもと違う理由があることは…、きっと全員がわかっていた。





「……怖いか?」





少しの無言を作ったあたしにクラウドは控え目に尋ねてきた。

何故控え目なのか。
だってそれは誰も口には出さない言葉だったから。

装ってるんだ、必死に。

皆、怖気づかないように、必死に気持ちを押さえてる。





「うん。まあ、流石にね」





あたしは笑って答えた。

本当は、聞くまでも答えるまでも無い質問。
でも、クラウドは聞いてきたし、あたしもそれに答えた。





「そうか。俺も怖いよ」

「だよね」





そりゃ…怖いに決まってる。

英雄と謳われた男。
あんなメテオなんて呼んじゃうくらい、とんでもない野望と精神力を持ってる相手。

だけど、自分自身で戦うって決めた。

でも…少しだけ、少しだけなら。
愚痴を溢すことも、そんな恐怖を軽くする材料に変わるかもしれない。





「…クラウド」

「ん?」

「今、モンスターの気配無いし。現れたら、すぐ放すから…、だから、」

「…………。」

「もう少し手、繋いでても…いい?」





クラウドはグローブしてるから、直接体温は伝わってこないけど…。

でも、ここにちゃんといる。クラウドが傍にいる。
クラウドがいてくれれば、それだけで凄く安心出来る気がした。

だから、重ねた状態の互いの手を見つめて聞いた。





「…駄目ないわけ、ないだろ?」





小さな声でクラウドは、すっぽりと包み込むように握り直してくれた。

きつくなったぬくもり。
それがすっごく嬉しくて…単純だけど、安心して頬が緩んだ。





「えへへ…、やった」





締りがない、完全間抜け面しちゃった思う。

そこから先、クラウドはモンスターの気配が無くなる度に、手を差し出しては握って歩いてくれた。

優しすぎるほど大好きな手。
あたしはそのぬくもりを欠片でも逃したくなくて、ぎゅっと握りしめてた。

そして…しばらく歩き続け、別れた皆とも合流した末…遂に、辿り着いた。





「ここが、星の中心……?」





クラウドが先を見下ろした。

そこは、青い世界。
ライフストリームが満ちる、星の体内…。

あたしたちはそこに、遂に辿り着いた…。

見つめるだけなら、凄く綺麗。
でも同時に何か…、上手く説明出来ないけど…見ていると不思議な気持ちになる…。

あたしたちは皆、ライフストリームにいつか還るからなのかな…?





「いよいよね」

「遂に、来るとこまで来たって感じ?」





グローブをキュ…と締め直すティファの言葉に、ユフィが「はーあ」という溜め息を混じらせた。

本当に、間近だった。
獣の様な勘はないけど、肌がざわつく感覚がある。

それくらい、ひしひしと。

もう…本当に、ここまで来ちゃったんだなって漠然と思った。





「平気か?ナマエ」





青を眺めていると、クラウドが気遣う様に声をくれた。
あたしは振り向いて頷いた。

もう、ここまで来たら進むだけ。
逃げる気なんかサラサラない。

覚悟はもう、とっくに出来てる。





「大丈夫。いつでもOKだよ」





そう答えたら、クラウドは頷いた。
そして皆に振り向き、ひとりひとりの顔を見渡した。

バレット。ティファ。レッドXIII。ユフィ。ケット・シー。ヴィンセント。シド。
そして脳裏に浮かべた、…エアリス。

皆と出会った時から今までを思い出すかのように。

クラウドはひとつの深呼吸のあと、口を開いた。





「よし、行こうよ、みんな」





最後の覚悟を決めたクラウドから出てきたのはあまりに優しい口調の台詞。

それを聞いたシドは呆れたようにガシガシと頭を掻いた。





「カーッ!またかよっ!止めてくれよ、その気の抜けた言い方。行くぜ!!くらい言えねぇのかよ!」





自分を取り戻したクラウドは、優しい言動が特に目立つようになった。

あたしは好きだけど、今回に関してはシドの言う事も言えてるかもしれない。
ここは一発、がつん!と気合いの入る一言も欲しいところだ。

言い直しを求める期待の視線がクラウドに集まった。

それにクラウドは微かな照れを見せる。
でもすぐに拳を握り締めて、期待に応えるように言い切ってくれた。





「行くぜ!」





だからあたしたちも力強く「うん!」「おう!」と、大きく返して応えた。

抱える想いはそれぞれにあれ、めざすものはただひとつ。
星の中心という名の、セフィロスの御座へ。



To be continued


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