空駆けるハイウインド



朝陽が輝く。
空は、鮮やかすぎるほどに青々としている。





「……まぶし」





眩しさに目を細めて、空を仰ぐ。
そしたら、改めて…やってきたんだなあ…なんて思いが、ふっと心に沸いた。

そう。遂に…決戦の朝はやってきた。





「そろそろ時間だ」





クラウドが岩から腰を上げた。
その声を聞いて、あたしは空からクラウドに視線を移した。

クラウドは、真っ直ぐにハイウインドを見上げていた。





「でも、まだ…!?」





クラウドの言葉にティファが声を上げる。

…まだ。
それは、他の皆のことを指していた。

あたしとクラウドとティファ。
それ以外の皆の姿は、ここには…無い。





「いいんだよ、ティファ」





戸惑うティファにクラウドは首を振った。





「少なくとも俺達は、ひとりぼっちで行かなきゃならないって訳じゃない」





な?と、あたしたちはクラウドに同意を求められた。

皆は、自分の中に答えを出したんだろうか。
その答えに従うのが、一番いいこと。これは強制ではないのだから。

だから、来ないという道を選んだのなら…それは仕方ないことだもんね。

あたしとティファは顔を合わせ、頷いた。
それを確認したクラウドはハイウインドに再び向き直った。





「よし!それじゃ、行こうか!」





クラウドのその言葉を合図にするように、あたしたちはハイウインドに向かって歩き出した。












「3人だと飛空艇、広すぎるね。やっぱり、ちょっとだけ寂しいな」





乗り込んだ飛空艇の通路。
そこを見渡したティファは、小さな苦笑を浮かべた。




「うん、ちょっとね」





そんなティファに、あたしも眉を下げて頷いた。

当たり前だけど、艇内はシン…としてる。

前だったら、クルーの人とかも合わせて10人以上は乗っていた。
だからそんな場所にいきなり3人じゃ静かにも感じるのも当然と言えば当然の話。

ハイウインド、おっきーもんね。





「心配するな。大丈夫だ。俺がみんなの分も大騒ぎしてやる」





そんなあたしたちを見て、クラウドは任せろと言わんばかりに胸を叩いた。

おお?なんだかクラウドにしては意外な珍しい発言が聞けてしまった。
だからつい、あたしはちょっとだけ笑った。





「あははっ!クラウドが?」

「ああ。ナマエも手伝ってくれ。騒ぐの好きだろ?」

「お、了解です!ボス!」





はーい!と手を上げた。

そうだね。
無駄に元気なのはあたしの取り柄だもん!

あたしもクラウドの真似をするように、胸を叩いた。





「よーし、やかましいって言われるくらい騒いじゃうよ!うるさいって思ってももう遅いからね!」

「頼もしいね、ナマエ!」

「おうよ!任せてティファ!」

「それに、パイロットは俺だ。今までみたいに安心して乗っていられないからな。寂しがっている暇なんてないぞ、きっと」

「あ。それにその方が酔わないもんね〜!」

「言ってくれるな、ナマエ」

「あはは!嘘嘘!頼りにしてます、クラウド!」

「ああ、頑張るよ」





飛び交う冗談と笑い。
結構、なんだかんだで調子出てきた。

そうだね。
ひとりっきりじゃないんだから。

3人なら、大丈夫。
誰かがいるって、こんなにも心強いって思えた。





「よーし!やったるぞー…ぉぉおおおお!?」

「ナマエ!」





気合い入れて拳をガッと真上につき上げたら、急に足場が揺れだした。

いきなりビックリ。
気合の声が変な奇声に早変わりだ。

そこに咄嗟に差し出された手。
ふらついた体をクラウドが支えてくれた。





「く、クラウド…」

「大丈夫か?」

「うん、ありがと」





助けてくれたクラウドを見上げてすぐお礼を言った。

なんかいつかみたい。
アレだね、ロケットが発射しちゃった時。

…ていうか、本当にその時みたい…。
だって響いてくるのは…大きなエンジン音。





「動き出した……」





手を放すと、クラウドが艇内を見上げて呟いた。

…ハイウインドが…、動きだした…。

揺れる機体に、頭にはまさか…という考えが浮かぶ。
それに煽られるように、あたしたちは慌ててブリッジに走り出した。

するとそこには、3つの影が伸びていた。





「バレット!シド!」

「レッド!!」





クラウドとあたしはその影を呼んだ。

その声に「おう」と振り返ったのはバレットとシド。
レッドXIIIはオレンジの毛を揺らしながら「ナマエ〜!」と駆け寄って来てくれた。

あたしはそんなレッドXIIIを受け止める様に、ふわふわの頭に手を伸ばした。





「どうして声掛けてくれなかったの!?」





ティファが驚いた表情で3人に聞いた。

その意見は確かにだ。
だって、戻ってきてるなら教えてくれたっていいのに!

何故にコソコソと?

そう思いながら返事を待っていると、頭を撫でていたレッドXIIIはシドにくるっと振り返った。





「だって…ねえ、シド」

「なあ、レッドXIIIよう」





よくわからない疎通をし合うふたり。
その表情はにへらにへらしている。つーかバレットも、だ。

シドは何かを思い出すように空を見上げ、ぶはっと噴き出した。





「あーんな気持ちよさげーにおねんねされてちゃあなあ。しかも誰かさんと誰かさんは随分と仲良しなことで」





誰かさんと誰かさん。

そう言ったシドは今、とってもオッサンな顔をしていた。わかりやすく言うとニヤニヤ。
そしてそんな彼の手は祈るような形を作っていた。や、別に祈ってるわけじゃないだろうが。

そんでもってレッドXIIIはゆらゆら嬉しそうに尻尾を揺らしてあたしを見上げていた。





「たく、お前らの趣味は理解出来ねえよ」





バレットのその一言で完全に察した。

………。

…ああ、やっぱりそういうことなのね!?
ていうか、むしろ皆が察した…って感じ?

ちらっと見たらティファはまたクスクス笑ってる。
クラウドは少し照れくさそうに頭の後ろを掻いていた。

うー…わー…。

なんか、なんとも言えない気分になった。





「ね?ありえなくない、って言ったでしょ?」

「…レッド」





うー、ん…とコメントに困ってると、さっきからずっと嬉しそうなレッドXIIIに鼻でツンツン、と手を突かれた。
そんな鼻を撫でれば、擦り寄ってくれる。

確かに、レッドXIIIはずっと言ってくれてた。

ずーっとその度、あたしは否定してたね。
でも、もうその必要も、意味もなにもないわけで…。





「はは、物好きだったみたいです」





だから頷きながら、そう笑った。

なんかもう、色々すがすがしかった。
開き直っちゃってもいいかもくらいに。

お前らの趣味はわからない、ねえ…。

あたしの趣味はまっとうだと思うけど、クラウドの趣味は確かにだ。
バレットの言葉、クラウドに関してだけは全くだと思う。

すると、後ろから肩を叩かれた。





「心外だな、ナマエ」

「え?」





肩に触れていたのいたはクラウドの手。
心外、などと言いながら彼の顔はどこか楽しそうなのは何故だろう。





「まあ、何と言われてもいいけどな。魅力がわからないならそれでいいさ」

「は…?」

「それに、教えてやるほど親切でもない」

「……へ?」

「おいおい。別に興味ねーからいいけどよ。そりゃ惚気か、クラウドよお」





だったら余所でやれってんだ、って言いながら煙草の灰を捨てたシド。





「さあな?」





ぽかん、とクラウドを見上げると、クラウドはそう言って笑った。

え、えっと…何の話ですかそれは。

わけがわからない。
でも、それを聞く間もなく、また次の出来事は起きた。





「…あ、」





騒がしくなってきたハイウインドの中に、そんな喧しさとは無縁な静かな足音がひとつ。

反応して、皆が振り向く。

そこに見えたのは、揺れた赤。
バサッ…と赤いマントがなびいた。





「ヴィンセント!」





彼を瞳に映すなりクラウドは目を見開いた。
するとその本人ヴィンセントは赤いマントの奥で訝しい顔をした。





「何だ、その驚いた顔は。私が来てはいけなかったのか?」





そんなことは言っていない。
クラウドは慌てて首を横に振った。

そして、本音を溢した。





「いつも冷めてたから…。関係ないって顔してただろ?」

「冷めて?」





クラウドの本音は、当の本人には意外だったらしい。
今度はヴィンセントが目を開く番だった。

いや、まあ冷めた顔…ってのは納得だからクラウドに一票ではあるんだけど。

ヴィンセントは珍しく小さく笑った。





「フッ……私はそういう性格なのだ。悪かったな。時に、ナマエ」

「うん?」

「…少し、雰囲気が変わったか」





ヴィンセントは笑みのまま、あたしに視線を向けて来た。

あたしは微笑み返しながら首を傾げた。





「そう…?」

「何か、いい方向に風向きが変わったのだな」




ヴィンセントは鋭いなあ。
それともあたし、わかりやすいのだろうか。

曖昧な言い方。
でも、優しい声だった。





「風向き…。うん、そーかも」

「そうか。それは何よりだ」





ヴィンセントはそう頷いてくれた。

…ありがと、ヴィンセント。
なんだかんだ、ヴィンセントにも色々お世話になった気はするんだ。

だから、笑みにお礼を乗せた…その、直後だった。

今度は艇内にブザー音が鳴り響いた。
あれ……これ、いつかも鳴ってた怪電波?





「帰ってきたみてえだな。神羅の部長さんがよ」





バレットがフン、とどこか嬉しそうに鼻を鳴らしながらブリッジの入り口を見た。

これって変化だよね。
たとえ神羅でも、あの人のことは認めてきてるって変化だ。

つまり、答えはあの人の登場。





「あの〜、ボクも本体で来ようと思たんですけどいろいろ、やらなあかん事があって……」





おずおず、っと現れたのはデブモーグリに乗った黒猫。

人間さんの方では来る気もあったのか。
でも確かに神羅の重役は彼を残して…もう。

そうなると、彼にやることがたくさんあるってのは納得だ。





「ほんで、ミッドガルの人達ですけど一応避難してもろてますのや。すんませんけど、この作りモンのボディで頑張らせてもらいます!」





ぐっ、と意気込むようにガッツポーズしたケット・シー。

やる気いっぱいで凄く頼もしい。
でも器用だな。避難活動しながら、大空洞行くとか。

どっちも相当体力使うと思うんだ。
その覚悟は称賛に値するっていうか、うん。やっぱざっくり凄い。

だからあたしはそんな彼を歓迎した。





「うん、よろしくね!ケット・シー!おかえりなさい!」

「もちろんですわ!おおきに、ナマエさん」





うん、普通に嬉しかった。
だから、たぶん大袈裟に見るくらいに喜んだ。





「さて……、全員揃ったな」





その時、ブリッジの揃った顔ぶれを見渡し、バレットがギミックアームに手を当てながら言った。

でもそれを聞いて、あたしは足元にいてくれてるレッドXIIIと顔を合わせた。





「…一応、あとひとり」

「ユフィ、いないよ」





たったひとりだけ、姿がない。
それは、いつも一緒に馬鹿騒ぎする忍者娘。

それを言うとバレットは首を振った。





「あいつは……来ねえだろ、きっと。でもよ、俺達のマテリアを盗んでいかなかった。それだけでも良かったんじゃねえのか?」





そう言われて、少し首をひねった。

うーん…。
来ねえ、と断言しちゃうのもどうなんだろう…。
確かにユフィはあの性格だし。一番来なさそう…てのはわかる。

でも、そう言う意味で考えるなら、ああ見えてそこまで薄情でも無いと思うんだけどな。ユフィって。

まあ…ウータイに帰って、自分の中に見つけた答えが戦いじゃなかったんなら…仕方ないことなんだけど。





「ひっどいな〜!!」





そんな風に考えてたら、タン…と静かに、上の方から何かが降ってきた。

お、おお…?
全員の視線がそこに集まる。

身軽に着地した誰か。
ショートの髪を揺らしながらすっと立ちあがって、ピシッと抗議した。





「船酔いに負けないでここまで来たんだよ!最後の最後に抜けちゃって美味しいとこ、ぜ〜んぶ持ってかれるなんて絶対嫌だからね!」

「ユフィ!」





ふん!と踏ん反り返る彼女の名前を声に出した。
ああ、良い意味でも、悪い意味でも、やっぱりこの子はこの子だ。

でもちゃんとここに帰ってきてくれた。
それが嬉しくて、ふっと顔がほころんだのが自分でも凄くよくわかった。





「おかえり、ユフィ」





そんなユフィに対して、一番に優しい声を掛け迎えたのはクラウドだった。

思わぬ優しい歓迎にユフィは目をパチパチさせてた。
だけど、本当一瞬だけ。

ユフィはすぐに笑みを浮かべ、クラウドを覗き込んだ。





「おろ〜……クラウド優しいねえ。何かあった?」





にやり。
ユフィの顔はそんな感じだった。

…む!!!?

ユフィの台詞は、台詞こそクラウドに向けているものの、視線は何故かあたしの方を見ていた。





「こりゃ〜、あとでじっくりだね〜」





ユフィちゃん、変わらずニヤニヤ。

うーわー、厭らしい…!
すんごくそう思った。

逃げられないな…あれは。
まあもう…逃げることも無いけど。

あたしはハイハイ、と降参するように両手を上げた。
あーあ、根掘り葉掘り聞かれそうだなー…。

…覚悟しとかないと。
そう思いながら、やっぱりどこか色んな意味で嬉しさの方が勝っていた。





「ま、今はいっか。じゃ、あたしは通路の指定席で待機…ウッ!…ウップ!」





やっぱりユフィに乗り物は大敵らしい。
ユフィは口を押さえて、しゅばばばば!っと凄い勢いでブリッジを出て行った。

でも、ユフィが来たことで皆の心境はガラリと変わったと思う。
あたしも、胸がいっぱいになった気がした。





「クラウド!」

「ああ」





笑ってクラウドの顔を見上げれば、クラウドも嬉しそうだった。

これで…全員が揃った…!





「みんな、ありがとう」





クラウドは皆に頭を下げた。

多分、クラウドもティファも、あたしと同じようなこと考えてるんだと思う。

クラウドとティファがいてくれたら全然平気。3人なら大丈夫!
…そう言ったけど、でもやっぱり皆がいてくれた方が嬉しいに決まってる。





「お前のために戻って来た訳じゃねえ!俺の大切なマリンのため。それと同じくらい大切な俺の…俺の気持ち…ってのか?俺はよ……今、ここにはいねえ…」





そう言葉を返したのはバレットだった。

それは、ここにいる全員の想い。
ここにはいないけど、大切な仲間の彼女のこと。





「……ここにはいないけどオイラ達にチャンス、残してくれた……」

「このままって訳にはいかねえよな」





レッドXIIIとシドが続けた。

…皆で思い出す。
ピンクの似合う、笑顔の似合う…彼女。

水の祭壇で…。
全員で見送った…彼女のことを。





「……エアリス、最後に微笑んだんだ」





クラウドが自分の拳を強く握り締め、見つめた。





「その笑顔、俺達が何とかしないと…張り付いたまま、動かない」





祈ってた。
祭壇で、じっとひとりで、祈りを捧げていた。

瞼が開いて、ゆっくり上げられた透き通った緑色の瞳…。

あの一瞬、エアリスと目があった。

覚えてるよ。
エアリスは確かに、微笑んでいた。





「皆で行こう。エアリスの想い…、星に届いた筈なのに邪魔されて身動き出来ないでいる…エアリスの想い、解き放つんだ!」





クラウドの声に、全員で頷いた。

ふっ…とシドが煙草の煙を吐く。
そしてハイウインドのハンドルに近づき、挙手を尋ねる様に手を上げながら皆を見渡した。





「気が変わったって奴、いねえよな?」





それは、最後の確認。

でも、誰も手を上げることは無かった。
それを確かめたところでクラウドはシドを見た。





「頼む、シド」





シドも頷き返し、両手でハンドルを握った。





「じゃ、何だ。クラウドさんよ、いっちょ決めてくれ」





あたしは隣に立つクラウドの横顔を見つめた。
皆の視線がクラウドに集まる。

クラウドは一度瞼を閉じ、深呼吸を一つした。

静かな空気が場を包む。

そして、青い目が開かれた。





「俺達の最後の戦いだ!目標は北の大空洞。敵は…セフィロス!!行くぜ、みんな!」





その瞳はまっすぐと…前を見つめていた。



To be continued


prev next top



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -