黒猫の正体
「そっかー…。ジュノンのキャノンが無くなってたのはミッドガルに運んだからだったんだね」
はー…なるほどねー…。
ケット・シーが教えてくれた情報に、ぽん!と手を叩いた。
「せや。あの大砲はヒュージマテリアの力で動いてます。でもヒュージマテリアはロケット作戦でつこてしもたから。せやから移動させたんです。マテリアの……いや魔晄の力が最大限に集中できるミッドガルに。ルーファウスはあれでセフィロスを倒すつもりなんですわ」
エアリスのやろうとしていた事を知ったあたしたちは、とにかくセフィロスを倒さなきゃならないと再確認したところでハイウインドに戻ってきた。
でも、その戻る途中…急に大きな地震に襲われた。
その震源は…海中から現れたウェポンにあった。
なんだか急にドタバタ騒ぎだよ、まったく…。
そう思っていた矢先、またまたトラブル。
突然ハイウインド内にブザー音が鳴り響いた。
「どうしたい!?」
「怪電波です!」
「どっからだ?」
「この……人?…から出てます!」
シドがクルーの人に確認を急ぐと、クルーの人はケット・シーを指さした。
…この…人…。
一瞬迷ったのも頷けた。
人って言っていいか悩むもんね…。
注目を集めたケット・シーは、デブモーグリ共々、急にバタバタと艇内を暴れた。
「おっ!のわっ!ちょっと驚いてコントロールが乱れてしまいました。しもたなぁ〜…ウェポンが海から出てきてミッドガルに来よるんです」
現れたウェポンは、まっすぐミッドガルに向かって歩いてきているらしい。
やっぱ魔晄炉が集中してて星に害ありまくりだからかな…?
まあ、よくわかんないけどさ…。
ウェポンの動きはだいぶゆっくりだ。
でもなんせあのデカさだから一歩一歩の歩幅が半端ないんだよね…。
辿りつくまで、そう猶予は無さそう。
「…新兵器でなんとかなるんだろ?」
そんな中、クラウドが冷静に聞いた。
ミッドガルに移動させたジュノンのキャノン。
その名もシスター・レイ!…らしいけど、まあその辺りはどうでもいい。
アレの威力、半端無かった記憶がある。
あれは確か…ティファ達が神羅に捕まっちゃった時だ。
今と同じようにウェポンがジュノンに攻めてきて、でもあのキャノンで沈めてたもんな…。
それを考えれば、今回も大丈夫そうな気がする。
でもケット・シーは不安そうに項垂れた。
「準備が間に合うかどうか…」
「おい!マリンはどうなるんだ!?」
「マリンちゃんは安全な場所にいますわ。エアリスさんのお母さんも一緒です」
マリンの身を案じたバレットがケット・シーに詰め寄る。
マリンはエアリスのお母さんと無事な場所にいると、ケット・シーはすぐに答えた。
それを聞いて、バレットは安堵したように頭を掻いた。
でも、その行動はケット・シーの感に触れたようだった。
「バレットさん!!何ですか、今のポリポリってのは!マリンちゃんが安全やったら後はどうなってもええんですか?」
今度はケット・シーがバレットに詰め寄る番だった。
少し、驚いた。
こんなに強い口調のケット・シー初めて見たから。
「前からアンタには言いたいと思っとんたんですわ!ミッドガルの一番魔晄炉が爆発した時、何人死んだと思ってますのや?」
「……星の命の為だったんだ。多少の犠牲は仕方なかった」
持ち出されたのはアバランチの活動について。
それを聞いて、正直あたしも…ドクン、と心臓が波打ったのを感じた。
「多少?多少って何やねんな?アンタにとっては多少でも死んだ人にとっては、それが全部何やで…星の命を守る。はん!確かに聞こえは、いいですな!そんなもん誰も反対しませんわ。せやからって、何してもええんですか?」
「神羅の奴にどうこう言われたかねえ…」
たぶん、キツイ言葉だったと思う。
責められたバレットは吐き捨てるように言い返した。
「………どうせ、ボクは…」
その一言に、ケット・シーは背を向けた。
酷く重たい。
その空気にクラウドとティファが間に入り、鎮めようとした。
きっと…クラウドとティファも…、痛かっただろうから。
「…やめろよ」
「ケット・シー…。バレットは、もう、わかってる」
ティファもアバランチで、クラウドは…雇われていて正式ではないけど…手を貸した。
そしてあたしは…。
あたしはアバランチじゃない。
でも…どんなことしてるのかは、なんとなくわかってた。
「私達がミッドガルでやった事はどんな理由があってもけして許されない。そうでしょ?私達、忘れた事ないわよね?あなたの事だってわかるわ。あなたが会社を辞めないのはミッドガルの人達が心配だからよね? 」
バレットもティファも、神羅を恨んでた。
詳しい事情も知らなかったし…二人が何をどう思って…どんな辛い思いを抱いてるのか知らなかったから…。
それがわからないのに、口を出すのは気がひけて…。
でも知ってたのに、止めなかったのは…事実。
「よし!行くぞ!俺達の手でウェポンを倒してやる!」
あたしがそんなことを思ってると、クラウドは拳を握りしめてそう言った。
あたしたちの手で…ウェポンを倒す…。
神羅の通常装備の武器じゃ、まったく歯なんて立ってなかったけど…。
それを思い出したように、シドが煙を吐いた。
「クラウドよう…あんなバケモノに勝てるのか?少しは勝ち目ってのがあるんだろうな?」
「そんな事はわからない!しかし、だからと言って放ってはおけない!」
ちょっと放心状態だった。
でもクラウドの言葉聞いて、そうだよねって思えた。
「そう…だよね…」
罪滅ぼし…ってわけじゃないけどさ、このまま見てるだけなんて、嫌だもんね。
だからあたしはクラウドの顔を見て、頷いた。
「うん、そうだね!クラウド!手伝うよ!あいつ倒そ!」
「ナマエ…、ああ!行ってくれ!ミッドガルへ!」
ともかくミッドガルへ。
ハイウインドは一直線にミッドガルへと飛んだ。
あたしたちは甲板に出て、早る気持ちを少しでも抑えた。
でも、上空付近に辿り着いた時…変化があった。
「やばい!はようここを離れるんや!」
「え、ケット・シー…?」
「でっかいのが……でぇぇぇっかいのが来るで!」
ケット・シーが避難を呼びかけ、ハイウインドは大きく旋回する。
その直後…キャノンが、大きく煌めいた。
そして光線は真っ直ぐに…ウェポンの体を貫いた。
うあ…。
それは圧倒と感心の光景だった。
「すごい!ウェポン突き破っちゃった…!」
「そうか!狙いはセフィロス!北の果てのクレーターだ!」
神羅…凄いじゃん…!
あたしがそうやって少し感心してると、クラウドは突き抜けた光線をそのまま見つめていた。
北の果てのクレーター…。
ガイアの絶壁は、あれ以来…謎のバリアが張って、近づくことが出来なくなってた。
近づくと、ハイウインドがはじき返されちゃうから。
…ルーファウスは、それを狙った…?
だけど結果としてウェポンも倒した。
ぐらり…と崩れて、海に沈んでいくウェポンの巨体。
でもキャノンが放たれたのとほぼ同時に…ウェポンも。
ウェポンもミッドガルに向かって光弾を放っていた。
「…あっ…」
思わず…零れた。
ミッドガルの中心…神羅ビル。
神羅ビルの最上階に…光線は直撃した。
あっという間。
一連の光景を、あたしたちはただ見てる事しか出来なかった。
…最上階って、社長室…?
じゃあ…ルーファウスは…。
「…クラウド…」
「大空洞…。…あの場所がどうなったか見に行こう」
クラウドはしばらく光に包まれた最上階を見つめ、目を移すとシドに北に行くように頼んだ。
ハイウインドはまた北に戻った。
北の果て。大きな大きなクレーターへと。
「セフィロスのエネルギーバリアがなくなっている…」
北に行くと、覆っていたはずのバリアは消えていた。
…と言うことは、あのキャノンはウェポンを突き抜けた上に、バリアも破壊した。
…侮りがたし、神羅カンパニー…。
なんて言ってる場合じゃないんだけどね…。
「…底、見えない…」
北の大空洞…。
前に雪原を通って来た時は絶壁だったけど。
甲板の上から見たそこは、真っ暗で何が何やら…って感じだった。
「シド!飛空艇ごとあの中に行けるか?」
「あ〜ん?俺様の弟子がパイロットなんだぜ?何処だって行けるに決まってるじゃねえか!」
「そうだな、悪かった」
自信満々に胸を叩くシド。
へえ…このまま、この中入れるんだ…。
ということはだよ…?
もう、セフィロスと戦いに行くって事じゃん…!
遂に、遂に…本当に来たんだ…!
来ちゃったんだ…!
なんか軽く混乱。
ていうか妙に心臓がバクバクして、緊張した。
でもその時、変な声が響いてきた。
「ちょっと待ってくれ!スカーレット!ハイデッカー!どうなってるんだ!?」
あ、いや…変な声っつーと語弊があるか…。
とりあえず、ダレですか…!?
そう思って振り返った。
喋ってるのは黒猫。
でも何か違う。
そう言葉使いが全然違う。
いつもの「ナマエさ〜ん、おおきに〜」ていうあの喋り方こそケット・シー。
なのに誰だ!なんだその標準語!
しかも何かあたしたちじゃなくて、誰か別の人に話しかけてるみたい。
スカーレット…ハイデッカーって…。
これには皆もポカーン…としてた。
すると、いつも会議の様子を逆スパイして流してくれる時の様に…神羅の重役たちの声も聞こえてきた。
『わからねえ。社長と連絡がとれない!』
『社長やない! シスター・レイの方や!』
『キャハハハハ、何だよリーブ、おかしな言葉を使うねぇ?』
『そ、そんな事はどうでもいいんや!魔晄炉の出力が勝手にアップしてるんや!』
『!、ちょ、ちょっとマズイよ、それ!あと3時間は冷やさないとダメ!リーブ、止めなさい!』
ええと…。
聞いてると、物凄く大変な事が起こってるのは伝わった。
キャノン…シスター・レイ…いや、魔晄炉の出力が上がってる。
それは誰かが魔晄炉本体を直接操作に切り替えて、勝手にいじっているから。
その誰か…とは。
『止めろ、宝条!キャノン、いや、それどころかミッドガル自体が危ないんだ!』
『クックックッ…。ミッドガルの一つや二つ安いものだ』
『宝条!宝条…!!』
『セフィロス…見せてくれ。さあ…もうすぐだ。クックックッ…科学を超えて行け…。お前の存在の前では科学は無力だ…。悔しいが認めてやる。その代わり…見せてくれ。クックックッ……』
止めるリーブの声を無視して魔晄炉の操作をしてるのは宝条…。
宝条が、セフィロスに力を送ろうとしてる…。
…なに考えてんだ、あのマッドサイエンティスト…。
もう、狂気…としか言いようが無かった。
「おい!ケット・シー!何とかしろ!」
一部始終を聞き終わり状況を把握すると、バレットがケット・シーに向かって声を張った。
「どうしようもない…。宝条が勝手にやってる事だ……?…?…?ア、アレッ!?いや…事、なんや……」
しどろもどろ。
ケット・シーはそこでハッとしたように口調を改めた。
でも、もう遅い。
バレットは黒猫の小さな肩を叩いた。
「もう、とっくにバレてるよ。リーブさん!今更正体隠してもしょうがねぇだろ?」
そう。今のでやっとわかったケット・シーの正体。
リーブさん…だったんだ…!
混乱の中の失態に、ケット・シーは「やってしもーた…」と額を押さえてた。
でも今はそれどころじゃない。
「魔晄炉、止められないのか?」
「……止められへんのや」
クラウドが聞くと、ケット・シーは首を振った。
その様子にバレットがまた声を張り上げる。
「お前、神羅の人間なんだろ?どうして無理なんだよ!」
「………。」
バレットが詰め寄ると、ケット・シーは顔を逸らして黙った。
その態度は、シドにも火をつけてしまった。
「てめえ、ここまで来て俺様達を裏切ろうってんじゃねえだろうな!」
「信じろ…と言っても無駄か…」
「っこの大馬鹿野郎!俺様の言ってる事がわからねぇのか?神羅もクソも関係ねえ!男なら…いや人間なら、この星を救ってやるんだ!って気にならねぇのかよ?」
「アカンのや!魔晄炉を止めたら大変な事になるんやで!」
ケット・シーは弾けた様に言い返した。
大変な事…。
流れてるならそれを断ち切っちゃえばいいだけの話にも聞こえる。
でもケット・シーの声からして切羽詰まってるのはわかった。
「何でだ?バルブを閉めればいいんじゃねえのか?」
「そや、魔晄炉の汲み出しパイプのバルブを閉めるのは簡単や…。でもな、魔晄炉はエネルギーが地中から抜け出す道を開けたんや。一度開けたら出るモンが枯れるまで塞ぐ事は無理なんや…。どんどん湧き出るエネルギーを無理に塞いでしまうとやな…」
――――…爆発する。
それは、壱番魔晄炉が爆発した時とは桁違いの大きさの大爆発だとう言う。
だったら…答えは一個だ。
「だったら、宝条を止めればいい!」
「…ナマエさん…」
たっ、と前に出てあたしはケット・シーを見た。
…リーブさん。
エアリスを助けに行く時、会議を盗み聞きして…その時知った。
重役の中でたったひとりだけ、他の奴とは違う印象を受けた。
そっかそっか。
ケット・シーの正体…リーブさんだったなら納得だよね。
…ゴールドソーサーで言ってた事は、たぶん本音だったんだ。
あの時は信じていいかわかんなかったけど、今ならわかるよ。
「宝条なんてひょろひょろの奴じゃん!あんな奴、止めるくらいわけないって!」
「ああ、そうだな。宝条は俺達が止める」
…クラウド。
クラウドは、賛成してくれた。
それを聞くと、皆も。
ケット・シーはそれに頷き、ハイデッカー達の説得に移った。
『クラウド達が来てくれるそうや。邪魔しないでくれよ!』
『ガハハハハハ!馬鹿な事を言うな!お前に命令される覚えなどないわ!治安維持部門は総力をあげてあいつらを撃退してやる!あ、あいつらのせいで俺は…俺はなぁ!』
『そんな個人的な事を…』
『社長は死んだ!俺は俺のやり方でやる!ガハハハハハ!』
『キャハハハハ!ハイデッカー!例の新兵器、使うわよ!』
『おい!待て!!』
声しか聞こえないけど、どうやらガハハとキャハハは協力する気なんてサラサラ無いみたいだね。むしろ真逆。
ケット・シー…リーブさんは申し訳なさそうにあたしたちを見渡した。
「クラウド…、…ナマエ……みんな!すまん…。…でも!でも、来てくれるよな!」
仲間の頼み。
ここで首を横に振るわけなんか、無かった。
「もっちろんだよ!」
「もちろんさ!」
全員が頷いた。
ハイウインドはまたミッドガルに舵を取った。
行ったり来たりなんか慌ただしい。
大変な状況だってのは、わかってるけど。
でも、なんか心の中は…少し嬉しかった。
だって…仲間って、改めて感じた気がしたから。
「わ…、たっか!」
「怖いか?」
甲板から真下に広がるミッドガルを見た。
するといつの間にか隣に立っていたクラウドにそう聞かれた。
ラジオによると、ミッドガルは厳戒態勢。
スラムからの交通機関は完全封鎖されてる。
でもあたしたちは空にいるから。
地上が駄目なら空からいけばいい。
パラシュートを背負って、こっからダイブするわけだ。
「うーん、楽しみ半分、怖さ半分かなあ。スカイダイブとか楽しそうだけど、着地の不安はあるよね?パラシュートどっかに引っかかったらどうしよう!的な」
「…俺が先に降りるよ。そうすれば、着地の手助けくらいしてやれる」
なんて良い人だろう、この人。
改めて感動した。
でもねクラウド…それじゃ駄目だよ。
ううん…言う相手、絶対違うと思うんだけどなあ…。
最も、あたしがトラブルメーカーだから悪いのかもしれないけどさ…。
「大丈夫だよー。実際は3対1って感じ?3は楽しみの方ね」
「1は恐怖なんだろ?」
「…いや、まあ…?ていうか皆そうだと思うけど…」
「じゃあ、先に行くから。少し経ったら来てくれ」
「……うーん」
あたしの曖昧な返事のあと、クラウドは飛空艇から飛び降りた。
皆も順々に、どんどん飛んでいく。
「よ…、と」
あたしも手すりに手を掛け、その上に立ち上がった。
うーん。普段なら絶対こんなこと出来ない。
ていうか一生のうち、最初で最後かもね?
そう思うとまたちょっとテンションが上がった。
まあ本当、クラウドは心配してくれたけど好奇心の方が遥かに勝ってるのは事実だ。
だって、別に高所恐怖症とかじゃないし。
「…そんじゃ、行ってきます!」
ハイウインドに別れを告げて、タン…と足場を蹴った。
ひゅん、と落下していく。
近づいてくる、おっきなピザ。
「…ただいま、ミッドガル」
向こうは全然歓迎してくれてないと思うけどね。
でもあたしはミッドガルで生まれ育ったから。
空の中で、故郷に帰りを知らせた。
To be continued
インタ版はウェポンと戦うけど、オリジナルは戦わないので、ハイウインドに乗ったままにしちゃいました。
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