乙女の祈り



「忘らるる都…久しぶりね」

「だね…」





ブーゲンハーゲンさんを連れ、やってきたアイシクルエリア。

忘らるる都には大半の皆が降りた。

知らぬ間にいくつかの改造が施されていたらしいハイウインドを確かめてるシドとか、逆スパイ続行中のケット・シーとか数人は残ってるけど。

あたしはティファと一緒にその風景を眺めてた。
…相変わらず神秘的っていうか、不思議な場所だ。





「ねえ、ナマエ?」

「んー?なーに?」

「クラウドと、何か話してない?」

「え?」





いつみても不思議な感覚になる景色。
ぽーっとしてたら、いきなりティファにそう聞かれた。




「何かって…なに?」

「…聞いてないの?」

「だからなにを?」

「やっぱり…聞いてないのね。もう、クラウドったら…」

「あのー。ティファさーん?」





あれ、なんか置いてかれてない?
なんか一人で話を進めちゃってるティファお姉さん。もしもーし!

完全に置いてけぼりをくらって茫然としてるあたしに、しばらくして気がついたティファは「あ、ごめんね」と頭を撫でてくれた。

…なんなんだ。こりゃいったい。

話って何なの。
ていうかクラウドって…むしろ聞きたいのはこっちなんだが。

あたしはニヤっと笑ってティファを軽く肘で小突いた。





「ティファこそさー、どうなのどうなのー?」

「どうって、なにが?」

「…へ?」





そしたらまさかの真顔で返された。
一体何の話してるの的な。

ええ!?
そんな反応されるなんて思った無かったから逆にこっちが困惑してしまった。

アレ!?そんな進展してない系ですか!?

それってどうなんだよ…。
まったく、こんな美人を目の前にしてなにしてるんだ、あの人は。





「…駄目だなあ、クラウド…」

「ええ、本当…って言いたいところなんだけど、なんか私達…たぶん今、話噛みあってないよね…?」

「え?」





例えるなら、ぽやーっと頭にお日様マークだ。

まあ確かに話の流れがよく分かんない事になってるのは、そうだね。

たぶん、ティファはあたしの話してることわかってないし、あたしもティファの話してることわかってない。
そんな中でも確定されてるのはクラウドが駄目な奴だっていう…、あれ。なんかクラウドが少し可哀想に思えた。

だって彼は今、ブーゲンハーゲンさんと一緒にこの土地を一生懸命調べてくれてるのに。

ああ、なんかゴメン…クラウド。
視界の端に映った彼の姿にこっそり謝った。





「この部屋に渦巻いている古代種の意識はたった一つの事を訴えているのじゃ」





あたしたちがそんな事をしてる間に、ブーゲンハーゲンさんはいくつかの手掛かりを見つけてくれたらしい。

あたしたちは一か所に集まり、詳しくその話を聞いた。





「星の危機……もう人の力でも終わりのない時間の力でもどうしようもないほどの星の危機。そんな時が訪れたらホーリーを求めよ、とな」

「…ホーリー?」





初めて聞く単語が出てきた。
ホーリー…これまた何か神秘的な響きな…。

クラウドが聞き返すと、ブーゲンハーゲンさんは頷いた。





「究極の白魔法ホーリー…。メテオと対をなす魔法じゃ」

「え!そんなのあるんですか!?」





びっくりして、ちょっと食い気味に声を出してしまった。

でも…メテオに対をなすって…。
だってそれ、まさにあたしたちの求めてるものじゃないか。
あたしたちっていうか、この星含めてまるごと?

だけど、そんな簡単なものでもないらしい。





「メテオから星を救い出す最後の望み。ホーリーを求める心が星に届けば、それは現れる。ホーホーホウ。メテオもウェポンもすべて消えてなくなるじゃろう。もしかしたら、わしらもな」

「俺達も!?」

「それは星が決める事じゃ。星のとって何が良いのか。星のとって何が悪いのか。悪しき者は消えてなくなる。それだけの事じゃ。ホーホーホウ。わしら人間は、どっちかのう」





全ては星次第…ってことか。
うう…。でも魔晄とかガンガン吸い上げて、それで生活しちゃってる時点で良いものではないような…。

けど、抗うにはそれしか無さそうなのも確か。





「ホーリーを求める…、それはどうやるんだ?」

「星に語りかけるのじゃ。白マテリアを身に付け…これが星と人を繋ぐのじゃな。そして星に語りかけるのじゃ。願いが星に届くと白マテリアが淡〜いグリーンに輝くらしいのじゃ」





メテオを呼ぶのに黒マテリアが必要だったように、ホーリーにも呼びかけるための白マテリアがある。
黒と白。これまた正に、対だね。

でも、そこまで聞いて…わかった。

クラウドも察して、肩を落としてしまった。





「……終わりだ。白マテリアはエアリスが持っていた…。でも…エアリスが死んでしまった時に祭壇から落ちて…。…だから…終わりだ」





初めて会った時、エアリスに尋ねた。
エアリスの髪を束ねるリボンに光っていたマテリア。

あれが白マテリアだった…。

覚えてる。
エアリスが目を閉じて、拍子にリボンがほどけて…。

静かに音をたてながら、祭壇から落ちて沈んだ。





「……。」

「………。」

「……。」






皆黙り込んでしまった。

空気…お、重い…。

でもそうは思っても気の利いた言葉は浮かばない。
だって、黙るしかないくらい、手立ては無くなってしまったから。





「ホーホーホウ!ホーホーホウ!ホーホーホウ!」

「!?」





だがしかし、そんな沈黙をぶっ壊したのはあの独特なブーゲンハーゲンさん。

急に大声出されてビックリだわよ…。

レッドXIIIが「じ、じっちゃん…?」と恐る恐る声を掛かると、ブーゲンハーゲンさんは地面にあった文字に目をつけた。





「古代文字じゃ」

「読めるのか?」

「まったく読めん!」





…おお…なんという潔さ。

ハッキリすぎるくらいハッキリ読めんとか言われて、こっちもこっちで少し反応に困るけど…。
クラウドも「こんな時に冗談は…」と頭を抱えた。





「わしは古代種じゃない。こんなもんは読めんわい!でもな、こんな老いぼれでも目は悪くなっておらん。よ〜くその文字の下を見て見ろい」





ブーゲンハーゲンさんが指さした先を全員で覗き込んだ。

そこにあったのはチョークで書きなぐったメモ書き。
こっちはちゃんと今の言葉だった。


【カギを】【オルゴールに】


読めたのはこの2つ。





「きっとここを発見した学者が解読を試みた跡じゃ…。たった二つの単語を解読して力尽きたのじゃろう。恐らくあそこにあるのがオルゴールじゃな。あそこに鍵をさすんじゃろうよ」





見れば少し離れた場所に、確かにあった。
何かを挿す為にあるような装置っぽいものが。

でも今度は今度で問題だ。
鍵なんか持ってないぞ、あたしたちは。

そう思ってまた唸る。

でもその時、レッドXIIIがバレットに声をかけた。





「ねえ…バレット。オイラ達、潜水艦でヒュージマテリア探しに行った時さ…」

「ああ、アレだろ?俺もそうじゃねえかと…」

「…なんだ?」





意味深に話しだすバレットとレッドXIII。
クラウドが尋ねれば、教えてくれた。





「あのさ、クラウドやナマエが宇宙に行ってた間、オイラ達は撃沈した潜水艦探しに行ったでしょ?その時、何か変なモノ見つけたんだ」

「変なモノ?」

「おう。潜水艦についてた解析装置によると数千年前の何かだって言うんでな、一応回収はしといたんだが。ありゃ鍵っぽかったな」

「今どこにある?」

「ハイウインドだよ」

「……持って来て貰うか」





話を聞いたクラウドは、ポケットからPHSを取り出した。











「あ!ヴィンセントー!」

「…待たせたな」





待つこと数十分。
見えた赤マントにあたしは「おおーい!」とブンブン手を振った。

それに気付いた彼は軽い身のこなしでストン、とあたしたちの元までやってきた。

抱えているのは、お目当てである古代種の鍵。





「なんかパシリみたいだよね。ゴメンね、ヴィンセント」

「…構わない。特に何をしていたわけでもない」





ハイウインド居残り組だったヴィンセント。

彼がハイウインドに残ったのは、本当になんとなくだったらしく、まあこの任務には打って付けだったというわけだ。

クラウドはヴィンセントから鍵を受け取ると、ブーゲンハーゲンさんに渡した。





「わしが鍵を挿してこよう。お前達はここにいるんじゃ。そして何が起こるのかをしかと見ておくんじゃ。ホーホーホウ!」





ブーゲンハーゲンさんは鍵を手に、ぷかぷか浮かんで鍵を挿しに行ってくれた。

…にしても、あの球体はマジでなんなんだろう…。
超気になるよ…。あたしも乗れるのかな?

だいぶどうでもいい事を考えていると、鍵は無事にささったらしい。

噛みあった鍵と穴。
回り出したオルゴールは、神秘的な旋律を奏で始めた。

そして…。





「…滝…?」





ザパッ…という音が響き、ある一点に滝の様に水が注ぎ始めた。

掻きわけてその中に入れば…水をスクリーンにして、ある映像が映しだされる。

それを見て、あたしは息をのんだ。





「……エアリスだ…」





映し出された彼女の名前を呟いた。

投影されるイメージ。
そこに映っていたのは…優しいピンク色。

あの時の、最後に祈りを捧げていたエアリスの姿だった。

少しだけ、目を逸らしたくなった。
だってあの時…凄く怖かった。

でも逸らさないで見続けた。

瞼を閉じたエアリス。
ほどけたリボン。

その中から、落ちた白マテリア。
祭壇を跳ねて、ぽちゃん…と水の中に消える。

でもその時、白マテリアは…。





「ホーホーホウ!淡〜いグリーンじゃ!」





水の中で、輝いていた。
淡い淡い、美しい緑色に。

つまり…エアリスは既に唱えていた。
そして…その祈りは、星に届いていた。





「……エアリス。エアリスは既にホーリーを唱えていたんだ。…俺がセフィロスに黒マテリアを渡してしまった後…、夢の中のエアリスの言葉…セフィロスを止める事が出来るのは私だけ…。その方法が、秘密がここにある…そう言ってたんだ。それが…ホーリー」





クラウドは映像を前に静かにそう言った。
クラウドの手は、握りしめられて…少し、切なげに揺れていた。





「自分の持っている白マテリアの意味。白マテリアを自分が持っている意味。自分がすべき事…。エアリスはここで知った。エアリスは俺達に大きな希望を残してくれた。けれどもそれはエアリスの命…、エアリス自身の未来と引き替えに…」





クラウドはスクリーンを見上げた。
そしてひとつ、大きな深呼吸をする。

ひとつ置かれた間の後、優しい声でエアリスに語りかけた。





「ごめんよ…エアリス。もっと早く気付いてあげられなくて。…一言も言葉を交わす事なく俺達の前からいなくなってしまったから…。突然だったから、俺は何も考えられなくて…。だから気付くのが遅れてしまった…。でも、エアリス…俺、わかったよ。エアリス…あとは俺が何とかする」





そう言ったクラウドの横顔は、大きな決意をした様な…。

とっても優しくて。
とってもとっても…。

その時、ティファがクラウドに言った。





「俺・た・ち・でしょ…?」





そしてそう微笑む。
それに釣られた様に、皆も笑った。





「エアリスが俺達に残してくれたもの…無駄には出来ねえぜ」

「無駄にしちゃいけないよね」

「せっかく残してくれた希望…それに賭けてみなきゃねっ!」

「大切な人が残してくれた希望…、それを育むのが、私達に出来る精一杯の事か…」





エアリスが残してくれたものは、道に迷ったあたしたちに希望をくれた。

でも…ひとつだけ、気がかりだった。
だって…エアリスはもう祈ってたんでしょ?





「…ナマエ…?」





あたしはゆっくりスクリーンに歩み寄って、映るエアリスの姿を見つめた。

クラウドが掛けてくれた声が背中に届く。

…なんで?
同じように唱えられたメテオは、もうあんなに近くまで来てるのに。

エアリスは…、エアリスの想いは…?





「なんでホーリーは発動してないの?エアリスの想いは星に届いたんでしょ?だったら、もう現れてたっておかしくないよね?」

「…邪魔しとる者がいるんじゃよ」





答えてくれたのは、ブーゲンハーゲンさん。

邪魔してる者…。
それってつまり…。

そんなことするの、ひとりだけだ。





「……あいつか……。あいつしか考えられないな」





クラウドが低く呟く。





「…セフィロス。どこにいるんだ?」





ぎり、と強く手を握りしめ、因縁の相手を浮かべた。



To be continued


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