罪と罰と



パラシュートを使い、あたしたちはミッドガルに着地することに無事に成功した。

久しぶりのミッドガル。
昔は全然気にしなかったけど、外から帰ってくると独特のニオイがあるなって思った。

空気が違うって言うか。
でもそれも、懐かしいなあ…なんて、少しだけあたしは感じてた。





「ハイデッカーがみなさんを狙ろてますんや。そやから外は危険です。地下を通りましょ!ここが入り口ですわ」





ケット・シーの案内で、あたしたちは地下通路への入り口の前に集まった。

あのガハハ野郎…、ロクな事しないな、本当。
そういえば、いつだったか運搬船に乗った時、散々ルーファウスに嫌味を言われていた気がするような。

ミッドガルの爆発より個人の感情を優先するあたり、だいぶ無能だよね。
そう言う意味ではルーファウスって、結構やり手…だったのかもしれない。

いやまあ、あの冷酷な雰囲気はどうやったって好きになれなかったけどな。





「何人かは率先して宝条の元に向こうてください。大人数で動いても目立ってしゃーないですから。残りは囮として回り道しながら進みましょう」

「あ!はいはい!じゃああたし先に行くよ!言いだしっぺだし!」





入り口を開け、指示をくれたケット・シーにあたしはブンブン振る勢いで真っ先に手を上げた。

だって本当に宝条倒せばいいって言いだしたのあたしだもんね。
あんのひょろひょろ野郎にはお灸据えてやんないと気が済まないし。

だけど、ひとりで行くわけにもいかない。
というか、今回に限っては真っ先に頭に過った人物がいた。





「ねえ…ヴィンセント。一緒に行かない?」





あたしはその彼に声をかけた。
ちらっ、と赤い瞳がこちらに向く。





「…私がか?」





低い声でそう確認され、あたしは頷いた。

だって初めてヴィンセントと会った時、言ってたじゃん。
「お前達についていけば宝条に会えるのか?」ってさ。





「…えーと、よくはわからないけど…ヴィンセントは、宝条に何か言ってやりたいこととかあるんじゃないかなあ…って?」

「………。」

「違ってたら、ゴメン。でも…どうすかね…?」





黙っちゃった…。
ちょっと気まずい…。

少し引っ込み気味に首を傾げてみる。

でもヴィンセントは、しばらく何かを想い馳せた末…首を縦に動かしてくれた。





「…そうだな。ああ、行くとしよう」

「…うん!」





これでふたりは決まり。
他にも3チームくらいに分けて進む方向で話は纏まってる。

となれば、あとひとりくらいに来てほしいところだ。

じゃあ誰にしようか。





「…俺も行く。言い出しがナマエなら、俺はそれに真っ先に賛成したしな」

「ええ!?」





うーん、と悩むんでると、手が上がった。
手を上げたのはクラウドだった。

それを見てついビックリな声を出したらクラウドの瞳の色が変わった。
…なんか微妙に寂しそうっていうか…?アレなんで…!?





「…俺が行くと何か不都合がある、か?」

「え、いや…不都合とかでは…」





目が泳いだ。
いや別に不都合じゃない。そんなわけない。

ただ…、やっぱりアレですよ。アレ。
あたし的には…こう、クラウドは除外しようとしてたから…。

いやでも、やっぱそれって今更変なのかなあ…。

あたし、今まで散々クラウドと組んでたし…。動きやすいのは確かだし…。
ワンセット感があるのは否めないっていうか…。

だったらティファを誘えばいいんだろうけど…今回はやっぱヴィンセントは外せない気がする…。

そもそもティファはバレットと共にミッドガルに詳しいから他のチームのリーダー任されてるみたいだし…。





「クラウド、ナマエのこと任せたわよ?ちゃんと守ってあげてね」

「……わかってる…」





その時、ティファがクラウドを肩をポン、と叩いてるのが見えた。

…って、なに言ってんのティファさん!?
それあたしが言おうと思ってた台詞なんですが!

なにそれ!お姉ちゃんが妹心配する的な!?





「…どうした?」

「いやもう…なんか、頭痛くなってきた…?」

「……。」





ふらふらと頭を抱えたらヴィンセントは何か言いたげっぽい目であたしを見てた。

でも、結局これでもう決まりみたいで…先発メンバーは決まった。

…ええい、もういい!
今は宝条を止めることが先決なんだから!

こうして、あたしはクラウドとヴィンセントと一緒にミッドガルの地下に潜りこんだ。

クラウドはアバランチの作戦の時に来た事あるみたいだけど、あたしは来るの初めてだった。
普通、こんなとこ通らないもん。
でもだからこそ今の時点では有効な手段ってわけだが。





「…ナマエ。誘ってくれたこと…感謝しよう」

「え、…うん?」

「…長き時が過ぎても騒動を巻き起こすのは宝条という訳か…」

「へ?」





道は酷く入り組んでいた。
一応見渡す事は出来るため、ちゃんと道を決めてから進む方が得策だろう。

クラウドが道を確認してくれている途中、隣に立っていたヴィンセントがボソッと呟いた。

きょとん。
いきなりの台詞に顔を覗き込むと、目があった。





「ナマエ……私の体はな…、宝条が改造を施したのだ」

「…は!?」





突拍子もなく、物凄く突然に物凄いカミングアウトをされた。

ななななななななっ…?

確かにヴィンセントって色々凄い姿に変身することあるけどさ…!
カオスとか凄いよね。羽はえてグワアッて…なるし。

あれが、宝条の…改造…?

ヴィンセントは、静かな声で語り始めた。





「老いもなければ…そう、不老不死、とでも言うのだろう」

「ふ、不老不死…」





老けないし、死なない。
驚いたけど、でもこれについてはそれほどでもなかった。

ヴィンセントって、怪我しても恐ろしいほど回復早いし。

事実、宝条ってそれなりの年齢じゃない?
なのに何か因縁っぽいものがあるって考えると…不老ってのも、ね。





「…この体は、私の犯した罪への罰だ」

「…罪?」

「…傍観する罪…。見ている事しかしなかった罰だ…」

「…それって、えーと…ルクレツィアさん…って人の話?」





ニブルヘイムの神羅屋敷。
そこでヴィンセントと初めてあった時の事を、色々思い出した。

棺桶の蓋がいきなりバーン!!て…アレ、本当、心臓止まるかと思ったよね。
…まあ、そこはいいか。

その時、言っていた女の人の名前。
それが確か、ルクレツィア。

セフィロスの母親…なんだっけ。ヴィンセント談。
その辺りはよくわかんないけどさ…。

ルクレツィアさんの名前を聞いてみると、ヴィンセントは否定をしなかった。
肯定もしたわけじゃないけど、多分正解なんだと思う。





「彼女が幸せなら…、私は構わなかった。だから…見ている事しかしなかった」

「……。」

「しかし結果、彼女を恐ろしい目に遭わせた…」

「…それに、セフィロスとか宝条が…関係してる?」

「………。」





また無言。
でもヴィンセントの無言は、もう肯定ってことでいいんだろうな。





「えへへ、珍しいねー。ヴィンセントがこんなに色々話してくれるの」

「……そうだな」

「へへ、なんか嬉しいよ。まあ、まだ正直なところその話、意味不明な部分が多いけど。ヴィンセントもさ、愚痴とか言っちゃえばいいのに。あたしでよければいくらでも聞くよ?お代はガンのレクチャーで」

「…フッ…。…愚痴など無い…。これは…私の罪なのだから。だが…お前は面白いな。自然と…口が動いた」

「うーん、よくわかんないけど…誉められてると思っとくよ」





ふふふっ、と笑った。
ヴィンセントも、ちょっとだけ笑ってくれた気がする。

フッ、と溢した小さな笑みのあと、ヴィンセントは少し離れたところにいるクラウドを見据えた。





「…ナマエ。お前はクラウドが己を見失った時、傍にいたのだろう?」

「え…?あ、うん…いたよ」





そして、少し小声になって始まったのは…あの時の話。

北の大空洞。
竜巻の迷宮の中で見たセフィロスの幻影とクラウドの自我崩壊。





「…私はその場にいなかった。だからよくはわからないが…」

「…?」

「傍で崩れていくあいつに…どうしてやることも出来なかった。酷く恐ろしかったのだろう?…そして自分には何も出来ないと喪失したか」

「……。」





今度はあたしが黙る番だった。

肯定もしない。でも否定も出来ない。そんな肯定。
さっきのヴィンセントもこんな感じだったのかな…?





「…あいつが幸せならば…それで構わない、か?」

「……あたしは…、」

「…お前はまだ、遅くない。…いや、そもそも色んな意味で私とは違うな…。私が言えることは…」

「…?」

「…あまり深く考えるな。それがお前らしい」

「…え」



「ナマエ!ヴィンセント!」





その時、クラウドの声が聞こえた。
道が確認出来たみたいだ。





「…?何か、話してたのか?」

「ううん!なんにも!」





戻ってきたクラウドに聞かれ、あたしは首を横に振った。
クラウドは少し気にする様な顔をしていたけど、すぐに「そうか…」と頷いた。

しっかし…どういうことだ。
全っ然、わかんない…のは、やっぱりあたしの頭の問題か…?

深く考えるなって…。それがお前らしいって…。
あたしが馬鹿ということですか!そりゃないぜ!ヴィンセント!
…いや、承知してますけどね…!

って、こんなとこでぼーっしてる場合じゃない。
だから今は一刻を争う事態なんだっての。





「急ごう」





あたしは先に足を進めた。














「あ、来ちゃった!」





地下を進んでいくと、あたしたちは螺旋トンネルまで辿り着いた。

このトンネルを抜ければ地上に出れる。
あともう少しだ!ってとこ。

そこで、ひとつの高い声が響いてきた。





「あ」





声の方に振り返って、近づいてくる足音に目を凝らす。
すると暗がりのトンネルの奥から見えた金色のショートヘア。





「イリーナ!」





それを見つけて、あたしは思わず……人に指さしちゃ駄目だけど、指さしてしまった。





「どうするんですか、先輩!もう、命令なんて無視していいと思うんですけど」





指さして叫んだ彼女の名前。

そう、それはタークスのイリーナだった。
…ていうか今この子、「先輩」ゆーたな…。

ということは、おのずと後ろからやってくるわけで。





「よう、ナマエ」

「……。」

「レノ…、ルード…」





赤髪とスキンヘッド。
イリーナの後ろからレノとルードも歩いてきた。





「…タークスか」

「うん、…ヴィンセントの後輩じゃない?」





こそっ、と笑いながらヴィンセントに耳打ち。

なんかそういう見方すると、すごーく変な感じだけども。
でもそう言うことになるんだよな、この人ら。





「さて…、仕事だ」

「あんまり気乗りはしないが、と」

「私達に与えられた命令はあなた達を発見次第……殺す事。もう会社はボロボロだけど命令は命令なの。タークスの意地と心意気!受け取りなさい!」





まあ、タークスがこんなとこに現れたってことは、考えなくてもそう言うことですよねーって想像はつく。

神羅はもうボロボロ。
それでも命令は命令、かあ…。

でも、レノが言ったけど、そう言われちゃうとあたしもノリ気じゃない。

こんなとこで余計な時間と体力つかいたくないってのもある。
…と、同時に、実際タークスの面々とは、こう…妙な関係だよなあ感も否めないから。

落ちてくる火の粉は払うけど、向こうがノリ気じゃないなら、こっちだって受けて立つ理由なんかないもんね。





「ねー…クラウド」

「ああ…」





たぶんクラウドも同じようなこと考えてたんだと思う。
だから名前呼んだだけで、すぐに「わかってる」みたいな返事が返ってきた。

ウータイとかでは、利害の一致とは言え一緒にコルネオ追いつめたしね。

クラウドはタークス達に向かって首を振った。





「…やめておこう」

「な、情けをかけるつもり!?タークスを嘗めないで!」





クラウドにイリーナは怒鳴った。
でもすぐ、そんなイリーナの肩をレノが押さえた。





「待て、イリーナ、と」

「せ、先輩!まさか命令違反を…!」

「神羅も、もうおしまいだ。こんな事態になっちまっちゃな、と」

「先輩…」

「イリーナ、お前も立派にタークスだったぜ、と」





イリーナは押し黙った。
ルードはレノの声をいつもの通り、静かに聞いてる。

俯いたイリーナにレノは小さく笑い、目をこっちに向けた。





「ナマエ」

「…なーに?」





目があった。
レノはニヤッと笑った。





「お前って本当、なんか存在が面白いよな、と」

「ああ!?」





ぶち。
今、頭の中でそんな音を聞いた。確実に聞いた。

存在が面白いってなんだ!

こんにゃろおおお…!
最後の最後までええ…!





「あんたねえ!いつもいつもいつ…っ」

「楽しかったぞ、と」

「も、………え、」





ひひっ、と。
まるで新しいオモチャでも見つけた様な子供みたいな。

そんな笑い方を、レノはした。

…それは、気に食わないけど…。
でも…まあ、そんなに嫌な気分でもない。





「じゃあな!お互い生きてたら…。命あってのものだねだぜ、と」

「覚えておきなさい!タークスの意地と心意気…!」

「仕事は終わりだ…」





それぞれの個性を見せながらタークスの面々は背を向け、その場から去って行った。

足音が遠ざかって、姿が奥に見えなくなる。





「…ナマエ」

「…うん」





クラウドに呼ばれ、頷く。





「……行こう、宝条…止めなきゃ」





その背中を見送って、あたしたちは前に歩き出した。



To be continued


ここ飛ばして宝条のとこいっちゃおう予定だったんですが…。
タークスの最後は飛ばさない方がいいのかなあ…と思って、やっぱり入れました。

…あとカオスは宝条関係ないみたいですが、この時はヴィン自身が気付いてないので気にしちゃいけません。(笑)



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