心の奥の大切なもの



広い広い星の海。
途方もなく広い宇宙を漂い、あたしたちは無事に星に帰ってきた。





「ルーファウス達の作戦は失敗だ…」





ハイウインドから見上げた空を見て、クラウドは呟いた。
空には相変わらず…禍々しい色を纏ったメテオがぽっかりと浮かんでる。





「情けねえ話だがチビ〜っと期待しちまったぜ」

「散々邪魔しといて何やけど…。他に方法がある訳やないし…。ボクらが間違ごうったんやろか?」

「悩んじゃうよね…」





本音と弱音を吐いたのはバレットとケット・シー。
それを聞いたレッドXIIIも俯いてしまった。

うわあ…暗い…。
どよっ…とした空気が艇内に広がる。

それを感じ取ったあたしとティファは慌てて声を張り上げて、そんな空気を振り払おうとした。





「ああもう!暗いな!」

「そうよ!悩んじゃ駄目!考えるの!」

「おう!姉ちゃん達の言う通りだぜ。悩み始めたらキリがねえぞ!どんどんどんどん悪い方へ落ちてっちまうからな」





するとシドも加勢してくれた。
そんなシドの言葉を聞き、バレットは感心したようにシドを見た。





「随分前向きじゃねえかよ!で、何か考えたのか?」

「あ〜だこ〜だ考えたぜ。宇宙からこの星を見ながらな。脱出ポッドで海をプカプカ漂ってる時まで考えちまったぜ」





途方もなく広い宇宙。
それを見て何か考えたのはシドだけじゃない。

あたしも、色々考えた。

……まあ、クラウドは酔ってたけどさ。
海の上でプカプカしてた時なんて、もうピークだったよね。
口元押さえて「うぷっ…」って…。

…いやいや、クラウドもきっと思うことはあったはずだ!

現に、次に口を開いたのはクラウドだった。





「俺も…考えた。宇宙…星…海。広くて大きくて……俺なんかが動き回っても何も変わらないんじゃないかって」

「あ、同感!宇宙から見るとさ、本当にあたしなんてちっぽけな存在だよなーって思ったよ」





あたしはクラウドの言葉に賛同した。
だって本当にそう。

だってこの星でさえ、掌に乗るほど小さかったから。
その上に立ってるあたしたちなんてさ。

シドはそんなあたしたちの感想に頷きながら、でも首も振った。





「そうなのかもしんねえな。でもよ、俺様が考えたのは違うぜ。でけえでけえと思ってたこの星も宇宙から見ると小せえ小せえ。真っ暗な中にぽっかり浮いてやがるんだ。…とっても心細そうによ」





シドはそこまで言い、一度、煙草の煙を吐いた。
煙はゆっくり、静かに消えていく。

それが、何だか今はちょっとだけ寂しく見えた気がした。

シドは続ける。





「おまけに腹の中にはセフィロスっつう病気を抱えてるんだろ?だからよ、この星は子供みてえなもんだ。でっけえ宇宙の中で病気になっちまって震えてる子供みてえなもんだぜ。誰かが守ってやらなくちゃならねえ。ん〜?それは俺様達じゃねえのか?」





星はお腹にセフィロスという病気を抱えてる子供…。
それを守ってあげられるのは自分たち…。

ほあー…。なんか…すげー…。
なんか、妙に納得させられた気がした。

その言葉はどうやら皆にも響いたらいい。





「おう!シドさんよぉ!俺は感動しちまったぜ!で、どうするんだ?どうやってメテオからこの星を守るんだ?」





バレットが乗り出す様に、シドに尋ねた。

シドは目を閉じ、もったいぶる様に溜める。

わくわく…!
何言うんだ、何言うんだ!

その場の全員の期待がシドに集まった。

シドの答えは…!





「………………考え中でぃ」





ガクッ…
たぶん漫画ならそんな感じ。

なら溜めるな!
という文句も通り越し、皆の期待は呆れたように散っていった。

…あーあ…。
だーめだ、こりゃ。

あたしは「はは…」とつい呆れ溜め息をついてしまった。

でもその時、何かが耳に届いた。





「…あ、星の声…!」





届いた何か。
それを思い出して、ぽん!と手を叩いた。

そうだそうだ、これ、星の声だ。
前にコスモキャニオンでブーゲンハーゲンさんに教えて貰ったっけ。

気付くと、皆もその不思議な音に耳をすませてた。

そんな中、レッドXIIIがハッとしたようにクラウドに駆け寄った。





「クラウド!じっちゃんに会いに行こうよ!コスモキャニオンへ!きっと何か為になる事を教えてくれると思うんだ!」

「…コスモキャニオンか…」





確かに…あの人なら色々知ってそうな気がする。
初めて会った時も「ほー…」としか言い様がないくらい色んなこと教えてくれたし。

クラウドは頷き、次の目的地は決まった。









「ホーホーホウ。ワシの知識が必要になったらいつでも歓迎じゃ」

「ああ、だから来たんだ」

「ご無沙汰してます、ブーゲンハーゲンさん!」

「ただいま、じっちゃん!」





ブーゲンハーゲンさんは快くあたしたちを迎えてくれた。
ちなみのブーゲンハーゲンさんの部屋を訪れたのは、レッドXIIIと面識のあるクラウドとあたし。

そういや…他の皆は面識無かったんだっけか。
プラネタリウム見せて貰った後は、そのままギ族の洞窟に直行しちゃったし。
まだ出会う前だったヴィンセントとシドに至ってはコスモキャニオン自体初訪問かもだ。

でもティファはやっぱりいいのかなあ…。
あたしはなんとなーくその辺が気になってた。
「いってらっしゃーい」なんてイイ笑顔で手振られちゃったからノリのままに3人で来ちゃったけど…。
まあ話聞いたらすぐ戻るけどさ…。

久々の再会、レッドXIIIは嬉しそうに尻尾を振ってた。





「どうしたらよいか……道を見失ったか?そういう時は各々自分を静かに見つめるのじゃ。何か忘れている物が…何か心の奥に引っかかっている物がある筈じゃ。それを思い出せ…。きっとそれがあんた達の捜している物じゃ」

「そんな事言われても…思い出せない。ナマエ、何か気になるか?」

「え!…ええーと…急に言われると…」





急にクラウドに話を振られて若干テンパッた。

気になる事…気になる事…?
「ううううー…」と唸って一生懸命考えた。

だってここで思い当たんなかったら完全に途方に暮れちゃうもんね。





「んー…そーだなー…、…しいていうのなら…」

「…?何か浮かんだのか?」





少し考えて、頭に浮かんだもの。
いや…浮かんだと言うのとはちょっと違うんだけど…。

首を傾げるクラウドに、あたしはゆっくり説明した。





「ええと…浮かんだ、じゃないんだよね…。ずっと毎日、いつもいつも考えてはいたんだけど…」

「…何を?」





ちゃんと、思い浮かべる。
それは…優しい笑顔だ。

明るくて。
柔らかくて…あったかくて。

「ナマエ」って、いつもいつも…凛とした声で呼んでくれた。





「…エアリスのこと」

「…!」





そう伝えると、クラウドの表情が変わった。
レッドXIIIも同じように。





「…エアリス…。ああ…そうだな…。思い出したんじゃない。忘れていたんじゃない。そんなのじゃなくて…、何て言うか…エアリスは、そこにいたんだ。いつも、俺達の側に。あまりに近すぎて、見えなかった」

「あ、うん…!そんな感じ…!」

「…オイラもだよ、オイラも同じだ」





たぶん、皆に聞いても同じ答えが返ってくると思った。
エアリスは、ずっとずっと…見守ってくれてるんだと思う。





「セフィロスのメテオを止める事が出来るのは自分だけだと言っていた」

「…エアリスがやろうとした事…オイラ達には無理なのかな?」

「そもそもさ…エアリスはあの祭壇で何してたんだろ…。祈ってたみたいに見えたけど…」

「そうだ!!」





エアリスは何をしようとしていたのか。
また唸りながら考えてると、クラウドが急に大きな声を上げた。

な、なんだ…?
ビックリして目を瞬かせた。





「俺達はそんな事も知らないんだ。エアリスは何をしていたんだ?何故逃げもせずにセフィロスに…」





それを聞いて、あたしとレッドXIIIは顔を合わせた。

確かに、あたしたち全然知らない。
メテオを止めようとしてたのはわかるけど、じゃあ具体的にどうやって?

だけど…エアリスはもういない。
答えを聞くことはできない。

…だったら調べなきゃ。





「そうか…。あの場所にもう一度、だね?」

「あそこって古代種の都っぽいし、何か手掛かりありそうだもんね!」





だんだん道が見えてきた。

おお!
なんかイイ感じに纏まってきたよ!
皆にも朗報が届けられそうじゃん!

見え始めた光にテンションが上がってると、あの独特な、ブーゲンハーゲンさんの笑い声が聞こえてきた。





「ホーホウホウ。ワシも乗せていってもらおうかのう」

「じじ、じっちゃんも!?」

「何もそんなに驚かんでもいいじゃろ…。ワシだってたまには外の世界に出てみたいんじゃ」





同乗を希望したブーゲンハーゲンさんにレッドXIIIがオーバーリアクション。

いやでも気持ちはわかる。
まさかの…!って感じだよね。





「何故かのう、こんな気持ちになったのは久しぶりじゃ…」

「きっと星がさ、星がじっちゃんを呼んでるんだよ!」





星が呼んでる…ね。
セフィロスは星にとっては間違いなく害あるもの。

そんなセフィロスと戦おうとしてるあたしたちを、星はどんな風に見てるのかなあ。

なんか漠然と、そんな風に考えた。
此処来ると星のこと考えちゃうんだよね。なんとなく。





「そうだ、ブーゲンハーゲン。もう一つ、頼みがある。俺達の手元にヒュージマテリアってのがあるんだ。デリケートな物だから何処か静かな場所に…」





話がだいぶ纏まってきたところで、クラウドはヒュージマテリアの事をブーゲンハーゲンさんに頼んでいた。

確かに下手に持ち歩くのはアレだな。
どっかにぶつけて「ぎゃー!欠けちゃったー!」…なんてことには、まあ…マテリアだし、そんな簡単にはならんだろうが…。

静かな場所に置こうってのは懸命な判断、だよね。





「ホーホーホウ。それなら、この上がいいじゃろ。どれ、早速行ってみるか」





それを聞いたブーゲンハーゲンさんはご自慢のプラネタリウムを指さした。

操作方法も教えるからついてこい、という具合にプラネタリウムにクラウドを連れていく。
でもその時、クラウドがこっちに振り返った。





「…ナマエ、来ないのか?」

「え!な、なんで!?」

「え、いや…前に見た時、気に入ってただろ…?見たいってついて来るかと…」

「あ、ああ…」





なんでしょう…。
なんかね、あの空間ってむちゃくちゃロマンチックなわけだよ。

ブーゲンハーゲンさんもいるとはいえ、そんな空間に、なんかクラウドと入るのは気が引けた。
…くそ、やっぱティファを連れてくるべきだった…!





「あ、えと…一回見たら出たくなくなっちゃいそうだから我慢する!皆、待たせてるし!」

「…そう、か?」





わーお。
我ながらへんてこりんな言い訳だと思った。

でもクラウドは深く追求することなく、「すぐ戻って来る」とプラネタリウムに入って行った。
あたしは「いってらっしゃーい」とヒラヒラ手を振った。





「…ナマエ、なにその理由」

「…本心だよ」





そうだよ、本心だよ。
だってアレ本当凄いもん。出たくないなーとは思うはずだもん!嘘はいってねーよ!

…と言いつつ、一緒に残ったナナキくんの視線が妙に痛かった。





「ナマエ、クラウドとティファが帰って来てから元気になったね」

「え?そりゃそーでしょ。あたし、クラウドもティファも大好きだもん。嬉しいに決まってるさ。レッドも嬉しいでしょ?」

「うん。そうだね」





レッドXIIIは頷いた。
「ナマエが元気になって良かった。オイラ、ナマエが笑ってるの好きだよ」と、つけ加えて。
…良い子だよ、本当にこの子は。





「…でも、じゃあなんで今ついていかなかったの?」

「…理由聞いてた?」

「だってなんか不自然だったよ?」

「そんなことないったら」





うーん、と首をひねるレッドXIII。

でも、ちょっと思い出した。
こないだヴィンセントに言われたこと。





「でもま、なーんにも心配いらないけど、心配してくれてるならありがとう」

「…ナマエ」





本当に…もう何もないから。
クラウドがいて、ティファもいて。
クラウドの仲間でいられて。戦闘では色々任せてくれて。

悩みなんか、ぶっとんだ。

だから気にかけてなんてくれなくていいけど、それって悪い気なんかするわけない。
だって、嬉しいものは嬉しいし。

戻ったらユフィにもお礼を言おう。鎮静剤でも持って。


そんなことを考えながら、あたしはクラウドとブーゲンハーゲンさんを待った。



To be continued


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