深海の魔晄炉



水中トンネル。
海の中に作られているソレは、いくつもの魚たちの泳ぐ姿を見事に一望できる。

そう、それはまるで…。





「おおー。まるで水族館だねー」





結構上機嫌。
そんな声で、あたしは景色に感心した。





「ナマエ!ナマエ!見てみなよ!あそこ、イルカ!」

「ああ!本当!」





グイグイ腕を引いてくるユフィと一緒になって、このトンネルを楽しんでいる。

凄いな!イルカってこんなとこも泳いでるもんなのか。
まじ水族館!此処通るの楽しいね!
だがしかしだよ神羅カンパニーさん。これって金の無駄遣いじゃね…?
感動と同時にそんな感想も覚える本音。

ええそうです。別に遊びに来たわけじゃないですから。





「ナマエ、ユフィ、早く行こう。こうしてる間にも神羅は動いてる」

「あ、はーい」

「ちょっとくらい息抜きしたっていいじゃんよー!クラウドだってあたしの気持ちわかんだろ!」





先を指すクラウドに返事をすると、そんなあたしとは対照的に少し抵抗をみせるユフィ。
あたしの腕を更に引き寄せながら息抜きを要求する姿は何だか笑えた。

その理由は、ここに来る前の事にある。

あたしたちは今、海底魔晄炉を目指しているところ。
この水中トンネルはその途中にある通路だ。

メンバーはクラウドとあたし、ユフィとレッドXIII。
シドが散々「お守じゃねえか!」と嫌がったあのメンバーだった。





「しっかしさー、クラウドが乗り物弱いなんて思わなかったよねー。船とかバギーとか平然と乗ってたし。凄い親近感沸いたよ」

「自分がソルジャーだったと思ってた頃は忘れてたんだよ。兵士はトラックの移動が多かったからな…。あれは最悪だった…。一度酔ってしまったら何をやってもどうしようもないし、辛いところだよな…」





はあ…と一緒に溜め息をついてわかり合うユフィとクラウド。

乗り物酔いとは無縁だと思われていたクラウドは、実は乗り物酔いの筋金入りだったとか。
だから前は、ユフィとあたしが揃うとうるさいからパーティは組ませない的な事を言ってたけど、今回はハイウインドに乗って居たくないという気持ちが痛いほどわかるため妥協してくれたらしい。
…まあ、魔晄炉だからマテリアあるんじゃない?なんて物欲もあるかもなのだけど。

レッドXIIIは「ナマエが行くならオイラも行くー」とか何とか…。
何この子、超可愛い…!だからあたしも「レッドー!」って抱きついて返した。

つまるところ、一緒に笑おう作戦が継続中ってことなのか…。
もうクラウドとティファが帰ってきてくれた時点で本当に色々すがすがしいから何でもいいんだけど。
まあ、騒ぐのは楽しいからあたしは大歓迎だ!

クラウドも、もともとレッドXIIIとあたしとパーティを組むことが多かったからその辺は特に了承に時間はかからなかった。

だけれども…あたしには一つ引っかかる部分があった。





「ねー、クラウド。ティファは良かったの?」

「え?」





ちょいちょい、とクラウドを突いてそっと小声で尋ねてみる。
するとクラウドは何故か不思議そうな顔をしてきた。





「なんでティファなんだ?一緒に来たかったか?」

「え、まあ、ティファ大好きだから居てくれたら居てくれたであたしは嬉しいけど…、いや、いいならいいんだ」

「…?」





ティファは留守番組だ。
たぶん食料の調達とかしてくれてる。

やー、ティファのご飯は美味しいから今晩も楽しみだなー!

…って、いや…楽しみなの。確かに楽しみなんだけどね…。
…そう言う事じゃないだろうと。

あっけ無いクラウドの反応を見て、顎に手を当てて考えてみた。
ふむ…。傍にいたいもんかと思ったけど、大切な人を戦わせるのは引けるもんかな…?

それなら仕方ない。ティファのぶんまであたしが頑張るよ。
あたし、クラウドとティファの応援団長に就任したからね!…って、ひとりで勝手にだけど。





「ねえ、でもさ…ジュノンのキャノン、無くなってたよね?どうしたのかなあ?」





あたしがひとり納得したところで、レッドXIIIがそう首を傾げた。

ああ、そういやそうだったっけ…。
それを聞いて思い出した。

ここに来る途中に通ったジュノン港。
前に来た時は存在感あり過ぎたキャノン砲が忽然と無くなっていた。





「普通に考えれば…どこかに移動させたかだな」





クラウドが腕を組み、考えながら答える。

どこかってどこだろう。
お世辞にもいいと言えないあたしの頭じゃ考えても無駄そうだからすぐ投げたけどさ。





「とにかく神羅は確実に動いている。それは間違いないな。だから急ごう」





クラウドはそう言って先に歩きだした。

確かに、それは間違いないよね。そりゃそうだ。

あたしは多分コレが終わったらまたハイウインドに戻らなきゃいけないとか思って渋ってるであろうユフィの尻を引っ叩き、クラウドを追いかけた。

「ナマエには乗り物酔いの辛さがわかんないんだー!」とか叫んでたけど気にしなません。
だってそれはごもっとも。全然わかんないもんはわかりませんよーだ。


そうして進んだ先にて…そりゃ結果論だと言われればそれまでだけど、さっきまで魚なんかで騒いでいた自分を呪いたくなった。





「ああー!ゲーセンキャッチャー!」





ユフィがそう叫んだのは、アームの取り付けられた機械のこと。

トンネルを抜け辿りついた魔晄炉内部。
そこでは今まさに神羅がそのアームを使ってヒュージマテリアを取り出しているところだった。

うわあああ!ちょ!?間に合わなかったじゃん!?
たぶんさっき見かけた潜水艦に運ぶつもりなんだろうけど…。

「なにやってんだよ!てめーらは!」ってシド辺りに怒られるよ!
んで自分のこと棚に上げそうだ。それは何か腹立つな…ってそんなこと考えててる場合じゃないっつの!





「クラウド!どうしよう…!?」

「く…っ、追うぞ!」





運ばれていくヒュージマテリアを追い、クラウドは走り出した。
あたしたちも慌ててそれを追うと、そこには真っ赤な潜水艦があった。

やっぱりそれで運ぶつもりか!

思った通り、アームは真っ赤な潜水艦の中にヒュージマテリアを納める。

そしてそんな真っ赤な潜水艦の前には真っ赤な髪の奴がひとり。





「レノッ!」





見覚えのある後姿に奴の名前を叫んだ。
すると驚いた顔して振り返るタークス野郎。





「ナマエ!?クラウド!?」





レノはどうやらここの指示を任されていたらしい。

タークス出すとは神羅もやる気満々じゃん。
…というか、あたしたちが邪魔しまくるからやっぱり警戒したのかな…。

クラウドは驚くレノに大剣を向けた。





「俺達に渡すか、ルーファウスに届けるか……どうする?」





クラウドの放った脅しにも似た文句。
それを合図にあたしもソードを握り、ユフィやレッドXIIIも武器を構えた。

その様子を見たレノは軽く舌を打った。





「いつもならナマエにデートでも申し込むところだが…残念ながらそんな暇はないか…、と。今はヒュージマテリアが最優先だ、と!」

「ああ!レノ!待て!」

「っナマエ!ちょっと待て!」





相変わらずわけのわからない台詞を残してレノは走って行く。
それを追いかけようとしたらクラウドの声とガシャンガシャン…と何だか嫌な機械音が聞こえてきた。





「な…」





現れ出たのは、人を余裕で捕まえられそうなアームが特徴のメカ。

あ…やば…。

時すでに遅し。
機械は完璧にあたしにロックオン。

アームがあたしを捕らえようとウィン…と音を立てて向かってきた。





「…え…っ」





だけど、伝った変な汗を感じたら、その瞬間目の前に映った。

光った刃先と、金色。
ザンッ…という音が響いて、大剣があたしに襲いかかろうとしていたアームをもいだ。





「大丈夫か、ナマエ…?」

「クラ…」





ぐるっと円を描き、背中に剣を納めると、振り向く彼。

…クラウド…助けてくれた…。
ぽかん、としてるとその時、反対側から聞こえてきた。





「ナマエー!」

「とどめさせー!」

「えっ…!」





見れば、レッドXIIIとユフィがもう片方のアームを破壊していた。

残るは本体のみ。
もがれた腕に、最後の足掻きだとでもいう様にレーザの準備に入ってる。

おおと…そうはさせるもんか…!
…機械なら、よおっく効くよね…!

とどめを任されたあたしは慌ててソードを握りなおし、はめたマテリアに触れて唱えた。





「サンダガ!!!」





響いた稲妻。
それによって不発に終わったレーザーが奴の中で爆発した。

よっしゃ!
…て喜びたいところなんだけど、既に赤い潜水艦の姿が無いところを見ると急がなきゃやばい。

となれば、残ってる選択肢は追いかける、だ。





「向こうの潜水艦に乗るぞ!行こう!」





クラウドの声に頷き、あたしたちは喜ぶ間もなくもうひとつ潜水艦の元へ走った。





「うへえ…、何コレ。ボタン多過ぎるでしょ…」





中にいた神羅兵ものして、あたしたちは潜水艦の奪取に成功した。

でも問題はこっからだ。
潜水艦なんて乗るの初めてだし、もちろん運転なんかしたこともない。

モニターやらボタンの多さに絶句した。





「オイラの足じゃ動かせないよ〜、ナマエ」

「うん…。まあ、そりゃそうだよね」





一緒にモニターを覗き込んでたレッドXIII。
そりゃ君の足じゃ動かせないよね…。むしろ動かせたらビックリだよ。





「どうしよ、クラウ、…ド」





こうなったら頼みの綱はクラウドだ!
そう思ってクラウド何とかしてー!なテンションで振り返ったら…またも絶句させられた。

そこにいたのは真っ青な顔した二人組。





「ナマエ…すまない…、俺、もう限界なんだ…」

「え。ちょ…え?」

「この狭さ、揺れ、エンジン音…」

「ええ!?ちょちょちょ、クラウド!?」





背中を向けてガタガタブルブルしてるユフィはいつもの事だから、まあともかく。
まさかの頼みの綱、クラウドまで座り込んでしまったこの状況。

ちょっと待て!あたしにどうしろって言うんだ!!
すまないじゃないよ!クラウド!?





「クラウド、そんなに弱いの…?」

「…格好、悪いよな…」

「いや、別にそんなことはないけど…」





うずくまってしまったクラウドに合わせる様に、あたしは膝をついた。

ハイウインドの中の様子見てるとユフィよりはマシなのかと思ってたけど、実際そうでもなかったらしい。
引っ切り無しに歩き回ってたり、なるべく上を見る様にしてたのは気がついてたけど、結構頑張ってたんだ、アレ…!

やっぱりあたしには酔いの辛さってのはわかんないからな…。
三半規管丈夫なのね!ふはははは!

…でもね。
でもさ…このメンバーってこのミッションにおいては最低最悪のメンバーじゃない!?
あたしが一番まともとかあり得ないよ!?本当このままじゃどうにもならんだろ!





「ナマエ!どうするの?」

「どうするったって…レッド、根性で運転してみない?」

「無理に決まってるでしょ…」





唯一まともに会話できるのはレッドXIII。

でもやっぱり彼に運転を任せるのは無理か…。
「オイラにやらせるならナマエがやるべきでしょ…」って冷たい目線返されちゃったよ、おい…。

でもさ、バギーの運転も出来ないあたしが潜水艦なんて滑稽すぎるだろう…!
シドにハイウインドの操縦について色々聞いたりもしたけど正直ちんぷんかんぷんだったしな…!

つまり…バギーのこと考えたらやっぱり一番適任なのはクラウドだ。


………。


考えること、0,5秒。
よし、これしかない。





「クラウド、運転してみなよ!」

「え…?」

「ていうかして、って方が本音ではあるんだけどさ…」





あはは、と苦笑い。

でも理由はそれだけじゃない。
0,5秒のわりになかなか良いアイディアだと思うんだ。





「運転してた方が案外酔わないって!ね!だからお願い!」

「……。」





このとーり!と頭を下げる。
でも本当、どっか別のトコに意識持ってといたほうが酔わないと思うんだ!

するとクラウドは少し考えた末、頷いてくれた。





「そうだな…、動かしてる方が気が紛れる」

「クラウド…!」





やったよ!クラウドがやる気になってくれたよ!

クラウドは壁に手をつきながらゆっくり立ち上がる。
そして何とかシートまでやってきて、レバーを握った。





「…ナマエ」

「ん?なに?」





お!いよいよ発進か!と思ってると、その前にクラウドがあたしに手招きをしてきた。
大人しくクラウドの隣までやってくると、「どしたの?」と首を傾げる。





「いや…、そこにいて貰っていいか…?」

「へ?」

「その、安心するんだ…」

「…は?」

「…っ、だから、まだ酔いが回ってるから…もしもの場合、な」

「もしもって…、あたし、何か出来る自信ないんすけど…」





ていうか自信あったらそこ座ってるし…。

まあ、辛いのに頑張ってくれてるクラウドに完全に押し付けるのもどうかとも思うしな…。
それくらいなら引き受けるべき、か。





「おし、わかった!ここで見てるよ!でも頑張ってよね!クラウド!」

「ああ…わかってる。ありがとう…」





あたしが頷いたのを確認すると、クラウドはレバーをグッ、と握りしめた。





「いくぞ!」





ぐん…、と揺れる。
潜水艦が動き始めた。



To be continued


乗り物酔いのふたりがマジで可愛すぎる件。(笑)

本当、この面子って最低最悪のメンバーですよね。
私はいつもこの3人で突っ込むがな…!

電話のこと考えるとヴィンもやばそうだけども。


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