現実を生きる決意
全員が集まったハイウインドのオペレーションルーム。
その視線を集めているのは金髪の彼。
無事に復帰を果たしたクラウドは、まずあたしたちに頭を下げた。
「皆…すまなかった。何て言ったらいいのか…」
「もういいよ、クラウド。謝ってばかりだからね」
それは誰もが思っていたことだった。
クラウド、本当に謝ってばっかり。
皆の思っていたことを代表するように優しく声を掛けたレッドXIIIにクラウドは頷いた。
あれから。
ライフストリームに呑みこまれたミディールから一時避難したあたしたちは、揺れが収まったと同時にクラウドとティファを探しに行った。
ふたりは…流れ着いた様に、外れの場所で気を失っていた。
倒れてた時は本当、心臓止まるかと思った。
でも…ちゃんと息してるってわかった時は、ホッとして腰が抜けたくらいだった。
「皆、聞いて欲しいんだ」
そして…、クラウドは教えてくれた。
わからなかった自分のこと。
失っていた真実。
色んな事実を、話してくれた。
「俺は元ソルジャーなんかじゃない。皆に話した5年前の出来事や、ソルジャーとしての話は俺自身が創り出した幻想だったんだ。大見得きって村を出たのにソルジャーになれなかった俺…。それを恥じた弱い俺は親友だったザックスから聞いた話…更に自分で見た事を混ぜ合わせて幻想の自分を創り出した…。そしてその自分を演じ続けていたんだ」
クラウドは本当にティファの幼馴染みで、本当のクラウドだった。
ソルジャーは魔晄を浴び、体内にジェノバ細胞を埋め込まれた人間。
宝条の言っていたセフィロス・コピー計画というのは、それとまったく同じやり方でしかなかった。
違いは、心の強い人間はジェノバに打ち勝ちソルジャーになる。
でも心の弱い人間はジェノバに負けて自分を見失ってしまう。黒マントがその例。
クラウドは…後者だった。
だからセフィロスや宝条はクラウドを作り出したと言った。
あたしたちはそのまま…意味を鵜呑みにしてしまっただけだったみたいだ。
「ジェノバ細胞とセフィロスの強い意志。そして俺の弱い心が生み出した人間。それが皆が知っていた俺…クラウドだ。……俺は幻想の世界の住人だった」
自分を見失ったクラウドは、偽りの自分を演じ続け、あたしたちと旅をしていた。
「でも、もう幻想は要らない…。俺は俺の現実を生きる」
クラウドは強く言い切った。
あたしはそんなクラウドの話を黙って聞いていた。
そして、その表情をただただ見ていた。
それは誰が見てもよくわかる変化だった。
クラウド…顔つきが変わった。
なんて言うんだろう、すっきりしたって言うか…?吹っ切れたっていうか…?
上手く説明は出来ないけど、凄く良い方向に。
「ひねくれ者のクラウドくんね!」
「それじゃ今までと変わんねえぜ!」
その時、ティファがクラウドに笑みを向け、バレットがすかさず突っ込みを入れた。
それを見て、ああ、ティファはやっぱり凄いなあ…なんて思った。
クラウドは、ティファと一緒にライフストリームの中で本当の自分を取り戻した。
ティファに任せたのは、きっと正解だったんだろう。
本当、ティファって憧れだ。
「ところでクラウドさん、これからどないするんですか?まさか、船から下りるなんて言わんといてや」
クラウドの真実がわかったところで、話は今後の事に移った。
尋ねたのはケット・シー。
クラウドはケット・シーを見ると、迷わず否定を口にした。
「…メテオが降ってきてるのは俺のせいだ。だから俺に出来る事は何でもやるつもりなんだ」
「おう!星を救う戦い、続けるんだな!」
「バレットがよく言ってただろ?」
「おう、アレだな!」
バレットがドン、と胸を叩いた。
ああ、なるほど。予想はついた。
あたしと同じように何が言いたいかわかったらしいティファはクスッと笑ってる。
他の皆は完全にきょとんとしてたけど。
「ナマエ、わかるの?」
「…ん?まあね。バレットの口癖だったから」
隣にいたレッドXIIIに聞かれて、あたしは頷きながら笑った。
「なになに?」と興味深々に聞いてくる彼に答える様に口を開けば、見事に声が重なった。
「俺達が乗った列車は途中下車は出来ないんだ」
「私達が乗った列車は途中では降りられない」
「俺達が乗っちまった列車はよ! 途中下車は出来ねえぜ!」
「あたしたちが乗っちゃった列車は途中下車出来ない」
重なった声に、全員が笑った。
ああ、いいなあ。いいなあ。この空気…。
クラウドとティファが戻ってきてくれて、自然と笑えるって言うか。
ともかく、あたしたちは今ヒュージマテリア大作戦の真っ最中なわけで。大作戦は今まで通り続行決定。
出発に備え、皆はそれぞれ、いつもの指定場所に戻って行った。
「ナマエ」
さーて、あたしもいつものブリッジに戻るかー…と足を動かせば声を掛けられた。
皆が出ていってプシュッ…と音を立てオペレーションルームの扉が閉まる。
残ってるのはあたしと、呼び止めて来た人のふたり。
あたしは笑って振り向いた。
「ん?なーに、クラウド」
声でわかった。クラウドだった。
目が合うと、クラウドはゆっくり歩み寄ってくる。
あたしはそれに合わせて、首だけ振り返った体をちゃんと向きなおした。
うん、あんなにうつろな感じだったのに、今はちゃんとしっかりしてる。
本当良かったなって心から改めて思ったのを感じた。
「その…悪かった。ガイアの絶壁では、凄く迷惑かけたな…」
「そんなの全然気にしなくていいよ!あたしもごめんね。なーんも出来なくてさ」
「そんなことない。あんなに呼びかけてくれただろ?」
クラウドが行方不明になってから、ミディールにかけてまで胸の中に渦巻いてた不安。
クラウドは、あたしのこと…もう呆れてどうしようもなくなっちゃうかな。失望されちゃったかなって…ずっと引っかかってた。
でもクラウドは…ちゃんと話しかけてくれたから。
なんだか胸がすっとして…安心した。
本当、あたしって単純だと思う。
「ヒュージマテリアの件も聞いた。相当頑張ってくれてたって」
「別にフツーだよ。何か暴れたかっただけだし」
「暴れ…」
「ふふふふー」
笑いを取る様に、妙な感じに笑った。
そしたらクラウドも笑ってくれたから、どうやら任務は成功したらしい。
「次の作戦は俺も参加するよ」
「お。クラウドリーダーの復帰だね。クラウドの代わりシドがやってたんだけどさー、もう根を上げてたよ?だああ!誰が何のマテリアつけてんのかさっぱり分かんねえよ!みたいな」
思い出したら何か笑えてきた。
それなりに結構上手くやってくれたとこもあったけどね。
そこはまあ、流石オトナです。
「なあ、また…手伝って貰って良いか?」
「ん?」
ちょっとだけぽけっとした。
クラウドが誘ってくれたから。
でも、すぐ頷いた。
だってそのために頑張ったんだしね!
「うん。最近新しい技編み出したんだー。神羅なんか一瞬で叩きのめしちゃうからね!」
「ああ、期待してる」
うん。良い感じ。とっても自然だ。
あたし、こういう風にクラウドと話してたよね?
まあ…付け足すとすれば「ボスの為に頑張るよ!」とか言ってた気がするけど…。
でも…そういう、クラウドの為…みたいな台詞は、あまり言えなくなっていた。
いや、使わない方がいいな、と思った。
クラウドの役に立ちたいなって気持ちはある。
心の中では物凄く、思ってる。
でも言葉にするのはなんとなく抵抗があった。
なんか、無責任っぽい気がしたから。
「さーて、じゃあブリッジ行ってるね。だいたい皆そこにいるからさ」
そろそろ皆のとこに行こう。
ハイウインドの操縦とか格好いいよねーとか話してたらシドが「なんならちょっくら教えてやってもいいぜ」とか言ってたし。だから操縦見に行きたいし。
そう思って「お先にー!」と手を振った。
「あ、ナマエ…っ、」
でも、また呼び止められた。
自動ドアが開く寸前。
あたしはもう一度振り返った。
「なに?」
「…いや、俺…」
「……?」
「実は、ライフストリームの中で…」
「ライフストリーム…?」
首を傾げる。
何か言いかけたクラウドは、言葉を探してるみたいに見えた。
でも、すぐに黙ってしまう。
流れた沈黙を、あたしは大人しく待った。
でもしばらく待つとクラウドは、首を振った。
「いや…悪い。何でもない」
「へ?なに?」
「ううん、本当に何でもないんだ。次は海底魔晄炉だってケット・シーが言ってたよな。ブリッジ、行こう」
「え、う、うん?」
言いかけて、やめられた。
…なんだ。この中途半端な感じは…。
なんか物凄く気になるんですど…。
でも多分ちょっと問い詰めたくらいじゃ教えてくれ無さそう。
…言わない方がいいと思ったのなら、それを無理に聞きだす必要もないか。
そこはクラウドを尊重しよう!
そう思って、特に考えることをやめ、あたしたちはブリッジに向かった。
次に目指すはジュノン。
最後のひとつ、海底魔晄炉へ。
To be continued
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