頼り頼られて



「……。」





ぶるりと体が大きく震えた。

ティファが買ってきてくれた、可愛くて、それでいて機能性も高いコート。
だけど…それを着てもまだ寒い。

アイシクルロッジを出て、更に北へ。
あたしたちは…最果て、ガイアの絶壁を目指して大氷河を進んでいた。





「……。」





でも、黙々と。
喋る気すら起きない。

遠くではユフィが「だ〜っ!たまんないよっ!」とか叫んでるのが聞こえる。…すげーよ、ユフィちゃん。




「見渡す限りの大雪原か…。もの凄い寒さだ。あまり長くここにいると凍えてしまうな…」





アイシクルロッジで貰ったと言う地図を確認しながらクラウドが言う。
でもやっぱり、あたし今は返事する気も起きない。





「………。」





…さ、寒すぎる…。

ミッドガルでぬくぬく育ったあたしには、この寒さは体験した事のない異常なもの。
いやミッドガルどうこうって話でも無いのかもだけどさ。

ああ…。やばい。
体、ガタガタしてきた…。

いっくら押さえても止まんない震え。
つま先が氷みたく冷たくて、そこから固まってくみたいに足が動かなくなってく。





「……っ…」





へた…と、力が抜けて、雪の上に膝をついた。

目に映るのは、相変わらず雪、雪、雪。
まーっしろけっけな世界。

あれ…、皆は…どこ行ったんだろ…。
さっきまで前歩いてたのに。

て…、え?
もしかして、こんな悠長に考えてる場合じゃない?
あたしってば今、もんのすごーい…大ピンチ…?





「…ふ…う」





でも焦んなかった。
て言うか、考える気力が無いって方が正しいのかもしれない。

なんか…ぼーっとするって言うの?

ねむ…い。





「…っナマエ…!」





あ…クラウドが呼んでる。

でもふわふわしてる…。ああ、これ夢かなあ…。
クラウドが出てくるなんてなんていい夢だー…。





「ナマエ…!ナマエ…!…くそっ…」





なんか、あったかい夢だった。
でも、そこでぷっつり。

その先はよく覚えてない。

ただ…次に映った光景は…。





「あー!やっと起きた!」

「皆ー!ナマエ起きたよー!」





レッドXIIIとユフィのドアップだった。





「…っう…?」





レッドXIIIとユフィが、バタバタどこかへ走ってく。

…あ、れ、あたし…。
ふたりのそんな背中を見ながら、ゆっくり体を起こす。





「…毛布…。どこ、ここ」





はた…と、辺りを見渡す。
そこは温かみのある木の部屋だった。
その部屋の一角に設置してあるベッド。
あたしはそこに寝かされていた。





「………ほ?」





完っ全に、ハテナが踊ってる。

あたしたち…大氷河、歩いてたよね?
ガタガタして…。うん、あのすっごい寒さ、超覚えてる。

でも…それ以外がぱっとしない。

…うん。あたし、どうなったんだ?





「目、覚めたか?」





その時、ユフィ達が出て行った扉の向こうから声がした。
見たら、そこにいたのはプレートを抱えたクラウド。





「あ、クラウド…」

「これ、貰って来たから飲んでくれ。体、あったまるから」

「え、あ、ありがと…?」





クラウドはベッドに腰掛けると、持っていたプレートをあたしに差し出してきた。

プレートの上にあったのはコーンスープ。
わあ、すっごい美味しそうなんすけど…!食べていいんすか!

あたしは欲に従順なのです。
だからすぐ頷いて、すぐにスプーンに手を伸ばしてた。





「わあ、おいしー…!」

「…よかったな。もう、平気そうか?」

「ん?」





はふはふとスープをすするあたしを見て、クラウドはと安堵するように息をついた。
あたしはスプーンをくわえたまま、首を傾げる。

…そういえば欲に負けてそのまんま忘れたけど、ここどこだ。

とりあえず状況くらい聞こうと、いったんスプーンを置いた。





「あの…ここ、どこ?」

「ここは…絶壁のふもとにある小屋だ。ホルゾフって人が一人で住んでる」

「ホルゾフ、さん…?」

「ああ。あんたは…大氷河を歩いてる途中で倒れたんだ」

「え…!」





あたし…倒れたの…?
聞かされた事実にちょっとビックリ。

いやでも、そう考えれば色々話はつくかも…?

前後、なんかぼんやりしてるし…。
さっきのユフィ達の「ナマエ起きたよー!」とかも…それなら納得だ…。





「倒れた時、たまたまホルゾフが通りかかってな、このままじゃマズイ、自分の小屋が近くにあるからそこに運べって。声をかけて貰った」

「はー…なるほど。それは、ご迷惑おかけしてすみませんでした」





ぺこ、と頭を下げた。

なるほど…。あたしが足引っ張ったわけか。
やべえ…すんごく申し訳なさすぎるんですけど…!

こんなんじゃ、全然だめじゃん…。
…あとでそのホルゾフさんって人にもお礼言わないとなあ…。

ぱちぱち、という暖炉の音を聞きながらそんなことを考えてると、クラウドは首を横に振った。





「いや…そんなに気にしなくていい。正直、俺達もいつ倒れてもおかしくなかったくらいだ。小屋があったのは、運が良かった」

「…そう?」

「ああ。…自然をなめてたな」





そう顔を歪めたクラウドの意見には正直、まったくその通りだと思った。

今まで色んなとこ旅してきたけどさ…。
…というか、してきて何とかなってたからかな?
それが油断を生んだのかもしれない。

でもやっぱり改めて自然って凄いんだなあ…って思った。





「それで…ルーファウス達もここに向かう計画を立ててるらしい」

「へ?」

「ケット・シーが教えてくれた」

「ええ?なにそれ?あはははっ、それじゃ逆スパイじゃん!」





ルーファウス達も、ここに来る。
いいのかなー、こっちにそんな情報流しちゃって。

こっち的には物凄く有り難いけど。

なんか可笑しくて笑ってしまった。





「でも出発は明日になりそうだと。だから俺達も明日出発しよう。とりあえず今日はここに泊まらせてもらうことになったから。だから、ゆっくり休んでくれ」

「え、いいの?」

「アイシクルロッジから絶壁まで1日で行くのは無謀だって止められたんだ。皆も疲れてるしな」

「そっか」





そう頷いて、あたしはなんとなく窓の外を見た。

びゅうびゅうと風と雪が吹き荒れてる。
はー…、あんなの歩いてきたのか…。確かに頑張ったな…。
いや、倒れたけども。

けどそれを見ながら、ちょっと考える。

セフィロスは、こんなの越えて行ったのかな?
あちこちにいる黒マントたちも…セフィロスを追って?

黙って、じっと窓を見てたあたしをクラウドは不思議そうに見てた。





「…どうした?」

「ううん。この先にセフィロスが居るんだなーって思って」





あたしがそう言うと、クラウドも窓の外を見た。

この雪の向こう。
絶壁を登った先には、クレーターがあって…その先に。





「…そうだな。そこで…決着をつける」





雪を見つめるクラウドは、目を細めた。

もうすぐ決着をつける。

セフィロスと…戦うんだなあ。
あの英雄と名を馳せたセフィロスと。

なんか改めて、すんごい話。
ちょっと前のあたしだったら、そんなの本当に想像もしなかったような話だよな。





「…なあ、ナマエ」

「はーい?」





さて、そろそろスープ飲もっかなーと。
そう思ってもう一度スプーンを掴んだら、名前を呼ばれて綺麗な青がぶつかった。

ぱくっと一口。
それからあたしはにっこり、笑顔を浮かばせた。





「…感謝、してる」

「は?」





いきなり貰ったのはお礼の言葉。
その言葉にきょとんとした。

なんのお礼ですか…?
わけわかんなくて、ぽけ…っとしてるとクラウドは困ったように頭を掻いた。





「…なんて言えば、いいんだろうな」

「なにが?」

「…いや、難しい話じゃないんだ。ただ…」

「ただ…?」





はむっ、とまたスプーンを咥えながら続きを待つ。
…本当においしーな、このスープ。

とと…どっかに遊びに行くな、あたしの頭!
軽く頭をふるうと、その時クラウドは静かに呟いた。





「俺のこと、信じてくれて…感謝してる」

「…え…?」





信じてくれて…?
その言葉に、スプーン咥えたまま…目がぱちくりだ。





「ど、どしたの。唐突に」

「…戦いに行く前に、言っておこうと思っただけだ」

「はあ…」

「俺…たぶん、結構あんたに…励まされてるから」

「あたしに?」





…励まされてる、とな…。
それはとってもとっても名誉なお言葉ですが…。

自分の顔を指して確認すると、クラウドは頷いた。

そこで実感。
うわ…、何かやばい。





「え、えへへ…なんか照れるなあー」





うん、なんか照れる。でも…凄く嬉しいぞ。
だからヘラリとにやけてしまった。あたしキモ…!

でも、励まされてるのは…お互いさまなんだよね。





「でも、先に言ってくれたのクラウドじゃん?」





そうだよ。ゴールドソーサーで言ってくれた。
ゴンガガでだって。

信じてる、って言ってくれたから。





「…でも…返してくれた」

「クラウド…」

「だから、な…」

「…んー…まあ、頼りにしてるからねえ」

「…俺を?」

「今の流れからして他に誰が?」





そう、にししし、とふざければクラウドもふっと小さく微笑んだ。
…あたし、クラウドがこーやってたまに小さく顔を綻ばすの、凄く好きだ。

だから、最近ずっと考えてる…。
どうしたらクラウドの不安を消せる?とか、クラウドのために出来る事、考えてる事が多い。

あたし…やっぱこの人の事…すごくすごくすごーく大好き。





「うん…ずっと前から、頼ってるよ」





ぼそっと、呟く。

うん、そう。
ずっとずっと…たぶん、ウォールマーケットくらいから…ずっと。





「…何か言ったか?」

「んーん!なーんも!」





小さくて、クラウドには届かなかったみたいだけど。

いや、届かなくていいけど別に。むしろ助かった?
だってなんか妙に自分の中ではこもった台詞だったから…恥ずかしいし。

だからあたしは首を振って笑った。





「ま。こっちも結構、頼りにしてるんだからさー。だからあんま弱気にならないでくださいなって話よ!」





伝える勇気は、ない。
だって、可愛さの欠片なんて、あたしにはこれーっぽっちも無いんだもん。
クラウドの隣に立てる自信、欠片も持ってない。

でも、クラウドは、仲間として…信じてくれてる。頼ってくれてる。

それがわかる。それはわかるから。
それが嬉しいから。

だから、それを裏切りたくない。
あたしもクラウドのこと、信じたいと思う。


ま、それが凄く心地よくて…壊したくないって言うのも、きっと…あるんだと思うけど…。
ってなんかグルグル回るから、難しい事考えるのやめとこーっと…。

とにかく今は…。





「…明日、がんばろーね」

「…そうだな」





目の前にある事に全力投球!

あたし、そんなに器用じゃないもんね。

でも、良いじゃないか!
悪くないでしょ、そーゆーの。

なーんて。
あたしでも…この人の力になれたらいいなって…笑いながら…本気で思った。



To be continued


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