スラムの花畑



「暇だ……」





ボスン!
勢いよくベッドにダイブしながら呟いた。

超激安の家賃のマイホーム。
昨日、クラウドから貰った花が窓際の花瓶の中であたしを見てる。

することの無いあたしは、その狭い部屋の中でゴロゴロしていた。


アバランチの皆の衆は、伍番魔晄炉の爆破作戦に出向いてる頃だろうか。

普段、あたしはセブンスヘブンに入り浸る…っていうか、たまにティファに仕事、手伝わされたりとか…またはスラムの魔物退治なんかをしてる。

でも今日は特に依頼もないし。





「暇だ……」





もう一度呟いた。
うん、それくらい暇だ。どーしたもんだよ、これは。





「とりあえず、ちょっくら外出…してみます?」





自問する。大きな独り言。
うう…寂しいっ!

とにかくする事がない。
そんなあたしは何気なく外に飛び出して、気ままにスラムをぶらぶら〜っとした。
気の向くまま、行き先も考えず、そりゃもう自由に。

そして今、伍番街にいます。






「結構遠出してきたもんだなー。お?」





またも独り言。
いいもん!人少ないもん!
わけのわからない言い訳をして自分で納得。

そんな時、何だかスラムの中ではまず見ることのない、キラキラとした光を見つけた。





「…ここ、プレート壊れてるんだ」





光を追うと、見えたのは壊れたプレート。なるほど。

そのまま視線を下にずらしていく。
すると、その日光はある1つの建物の中に差し込んでいた。






「教会、かな…」





スラムの教会。そこに光は差していた。

なんとなく、好奇心だった。
あたしはそのまま、教会の扉を押していた。


キィ…
音を立てて扉が開く。





「あら?」






そして、ひょこっと中を覗いて見る。

すると中には先客がいた。

日の光が差す先にはスラムでは珍しい花畑が出来上がっていた。
その花に手を伸ばさていたのは、ピンクの良く似合うお姉さん。

可愛らしいリボンに、綺麗に編まれた髪を揺らして振り返ったそのお姉さんは、ふわりと優しく微笑んでくれた。

うお、美人だ。
あたし一応女の子なのにな。思わず、ドキッとした。





「こんにちは」

「え!あ、こ、こんにちは!」





お姉さんに微笑みながらそう言われて、慌てて返す。

とりあえず、いい人そうだ。
あたしは教会の中に足を踏み入れてみた。





「見たことない顔、だね。私、エアリス。貴女は?」

「あ、ナマエです」

「ナマエ、か。よろしくね」





にこり。
お姉さん…エアリスはまた微笑んでくれた。

……やっぱ美人です。

そんでもって、とっても愛想良く、気さくに話しかけてくれた。





「ナマエは伍番街の人?」

「ううん、七番街」

「七番街?」

「うん。ぶらぶら〜っとしてたら伍番街まで来ちゃったの」

「ぶらぶら…。七番街って六番街抜けてこなきゃ、でしょ?魔物いるのに、ひとりで?」

「腕っぷしにはちょっとだけ自信ありですから」





にししっと笑いながらそう言うと、エアリスも「ふふっ、強いのね」って笑ってくれた。

勘は当たりだな。やっぱりエアリスはとっても良い人そうだ。

宛もない、することもないあたしはエアリスに話し相手になって貰った。





「花、綺麗だねー。ミッドガルの中でなんて全然見ないのに」

「ここだけね、咲くんだよ。よく手入れしに来るんだ」

「へー。…そいえば同じ花だなぁ」

「なあに?」

「ううん!何でもないよ!」





ふと、ぽつりと呟いた。
ここに咲く花には見覚えがあったから。

窓際で揺れてたあのお花。
つまり、クラウドから貰ったそれと同じ花だった。

一輪でも綺麗だったけど、花畑ともなるとより一層綺麗だなあ。
そんなことを思った。


とってもほのぼのした時間。
なーんか、こーゆーのも良いなー。

穏やかに流れる時間が、落ち着く。

しかし、そんな時間は…次の瞬間ぶっ壊された。


ベギッ!ドーンッ!!!





「おわあああ!?」

「きゃっ!!」





いきなり天井から何かが花畑に降ってきた。

あたしとエアリスは驚いて声を上げた。
しかし…エアリスと比べると何て可愛くない悲鳴…。

若干落ち込んだが、落ち込んでる場合では無さそうだ。

何故って?
降ってきたのは…人、だったから。





「ナマエ、人だよ。男の人」

「あ、本当だ…て、クラウド!?」




まじまじと男の人の顔を覗き込む。
その顔を見て驚いた。

まだ一度しか会ってないけど、あたしはこの男の顔だけは忘れないかんね。

そう、降ってきたのはクラウドだった。





「知ってる人?」

「え?まあ、一応」





クラウドを見て反応したあたしにエアリスが尋ねてきた。

エアリスは「ふうん…」とだけ言うとクラウドに向き直り、呼び掛け始めた。





「もしもし?もしも〜し!」





エアリスが呼び掛け始めると、クラウドに少し変化があった。

ぴくっ…と動く。
そして、ゆっくりと目蓋を開いた。青い、あの瞳が見える。





「クラウド!」

「……ん?あんたは…ナマエ?」

「うん。どうしたの?ビックリしたなあ、もう!」





クラウドはゆっくりと体を起こす。

あたしと目があって、簡単に言葉を交わした。
意識ははっきりしてそうだ。

何より覚えててくれたのは少し嬉しいかもしれない。

次に、クラウドはエアリスに目を向けた。
エアリスは首を傾けながらクラウドに尋ねた。





「大丈夫?ここ、スラムの教会。伍番街よ。いきなり、落ちてくるんだもん。驚いちゃった」

「…落ちてきた?」

「屋根と、花畑、クッションになったのかな。運、いいね」





エアリスがそう微笑むと、クラウドは今自分の座り込んでいる場所を見た。

そして慌てて立ち上がった。





「あんたの花畑?それは悪かったな」

「気にしないで。お花、結構強いから」





エアリスはそう言うと、花の手入れを始めた。

手入れをしながら、あたしとクラウドを見比べる。

んん?思わず首を傾げた。





「どしたの?エアリス」

「ううん。名前、クラウドって言うんだね」

「…ああ?」

「…また、会えたね」





クラウドを見てそう言ったエアリス。

今度はあたしがクラウドとエアリスを見比べる番だった。





「え?エアリスもクラウドと知り合いなの?」

「……。」

「うーん、…覚えてないの?」





考えるクラウドにエアリスは少しだけ拗ねたような声で言う。

でも、クラウドの方も思い出したみたいだった。





「…ああ、覚えてるさ。花を売ってたな」

「あっ!嬉しいな〜!あの時は、お花、買ってくれてありがと」





クラウドが思い出すと、エアリスはパアッと笑顔を見せた。

おお、可愛らしい笑顔だ。

クラウドとエアリスが知り合いだとは。
世界ってやっぱ狭いなあ。

クラウドとティファが幼馴染みって聞いた時もそんな事思った気がするが、今回は使い方間違ってないはずだ。うん。

クラウドがエアリスから花を買った、か。
エアリス、お花売ってるのかー。

……ん?
そこまで聞いて、ふと気づく。





「あれ?じゃあ昨日のあの花、もしかして…」

「ああ、あんたにやったアレがそうだ」





聞いてみると、クラウドは頷いた。

ああ、なるほど!
だから花畑の花と同じなのか!繋がった!なんかスッキリしたな。

でも…やっぱ世界って狭いなあ。
しみじみそんな事を考える。

すると、それを聞いたエアリスは言った。





「あ、昨日のお花、ナマエにあげたのね?」

「ああ」

「ふーん…。ふたりって、どういう関係なの?」

「どういうって…」





クラウドと顔を見合わす。
どういうって、どういうことだ。

あたしはザックリこう言った。





「んー。顔見知り?」

「顔、見知り?」

「ねえ?」

「…そうだな」





クラウドに同意を求めると、クラウドも頷いた。





「だって昨日会ったばっかだもん。最初はさー、あたしのマイヒーローにそっくりー!とか思ったんだけどね?何か色々と違うみたいでさあ」

「マイヒーローって?」

「あたしの初恋のお兄さん」

「初恋?クラウドが、その初恋の人に似てるの?」

「うん!似てるって言うかそっくり?もう記憶喪失にでもなってるんじゃないかってくらい、そっくり!ドッペルゲンガーか!」

「………おい」

「おわっ!」





エアリスとの会話の真っ最中、クラウドにいきなりフードを掴まれて引っ張られた。





「ぺらぺらと何の話をしてるんだ、あんたは。俺はあんたの英雄じゃないと言ってるだろ」

「わかってるよー。似てるって話じゃん。ていうかフード引っ張らないでよ!首絞まっちゃうじゃん!」

「…ふふっ、顔見知りじゃなくて、充分、仲良しじゃない」





すると、そんなあたしたちの様子を見たエアリスは、そう言いながら笑ったのだった。


To be continued


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