ボディーガード



「ねえ、エアリスのリボンについてるそれって…もしかしてマテリア?」





花の手入れを続けるエアリス。

そんなエアリスにあたしは何気なく尋ねた。
エアリスのリボンの中で光る、淡い白について。

するとエアリスは頷いた。





「うん、そうだよ。ナマエ達も持ってるんだね」

「持ってるよ!あたしは雷と回復だけだけどね」

「今はマテリアは珍しくもなんともない」





ニコニコと会話してるとクラウドにスパン!と言い切られてしまった。

…まあ、確かに。マテリアは多少値は張るものの、ショップでも気軽に手に入るアイテムだ。
珍しいものではない。

しかし、エアリスはリボンに優しく手を触れながら、小さく呟いた。





「私のは特別。だって、何の役にも立たないの」

「…役に立たない?使い方を知らないだけだろ?」

「そんなこと、ないけど…でも、役に立たなくてもいいの。身に付けていると安心出来るし、お母さんが残してくれた…」





エアリスは、どこか遠くを見つめながら優しく微笑んだ。

お母さんが残してくれた…か。
あまり深く掘り下げる必要はない会話かもしれない。





「ね、色々、お話ししたいんだけどどうかな?せっかくこうして会えたんだし…ね?ナマエも、暇だーって言ってたよね?」

「うん!すっごい暇!」

「ああ、構わない」

「じゃ、待ってて。お花の手入れ、すぐ終わるから」





エアリスのお誘いに頷く。
もちろんですよ!お姉さん!的な感じだ。

するとエアリスは嬉しそうに笑って、再び花に目を移した。

けど、すぐに顔を上げてクラウドを見た。





「あ!そう言えば、クラウドにはちゃんと名前、言ってなかったね。ナマエが散々呼んでたから、知ってるかもしれないけど…一応、ね!私、花売りのエアリス。よろしくね」





なんだか律儀だわ、エアリス。

確かにあたしが散々「エアリス、エアリス」とクラウドの前で呼んだあとだ。
若干今更な感じもするけれど、自己紹介って大切だよね。

そんな律儀なエアリスに、こちらも散々呼んだあとであるクラウドも言葉を返していた。





「俺はクラウドだ。仕事は…何でも屋だ」

「は?」

「はぁ…何でも屋さん」





クラウドの口から出てきた職業に思わずエアリスときょとん、と目を丸くしてしまう。

そして、直後……ツボった。





「あはははははっ!なにそれ!何でも屋って!」

「何がおかしい!」

「いや、ちょっと…あはっ!ああ、そっか。バレット達手伝ってたのもそういう事かあ…。何でもするんだね」

「…ああ。…おい、いつまで笑ってる」





笑ってしまったあたしにクラウドの機嫌は斜めになってしまったようである。

あたしは慌てて首を振った。





「違う違う!おかしくて笑ってるんじゃないんだよ!それ、良いアイデアだなあっと思って」

「良いアイデア?」

「うん!あたし、モンスター退治とかしてるって言ったでしょ?何か似てるな〜って。いいなあ、あたしも何でも屋開業しようかなあ」





モンスター退治…って言っても、ごくたまに、顔馴染みの人が頼ってくるだけの小さな仕事だ。
つまり暇な時は多くて…、ま、だからセブンズヘブンに入り浸りになってるんだけど…。

だから何でも屋って超いいじゃん!ってね。





「あ!そうだ!それかさ、クラウド、あたしの事雇ってよ!」

「はあ?」

「クラウドの助手!ってことで、ひとつ!」





ニーッと笑いながらクラウドにそう言ってみた。
すると凄い変な顔を返された。なんか、地味に傷つきますよ、クラウドさん。
だけど、クラウドは話した感じ、悪い奴じゃなさそうだし。いいアイディアじゃない?




「ふふっ、ナマエってば、面白いのね。カワイイ」





すると、そんな様子を見ていたエアリスはクスクスと笑っていた。

あたしからしてみれば結構真面目に言っていたけど、周りからしてみれば愉快に見えたらしい。
思わず首をかしげた。


そんな時だった。

カチャ…
教会の扉が開く音。

反射的に振り返ると、そこには黒いスーツの若い、赤い髪の男が入ってきた。

………誰ですか。
んん…よくわかんないけど、とりあえず。いー感じはしませんな。

クラウドも不審に思ったのだろう。
クラウドは近づこうとした。





「クラウド!構っちゃ駄目!」





しかし、エアリスはそれを止めた。

そして、あたしとクラウドの手を引き、こう聞いてきた。





「ねえ、クラウド。ボディーガードも仕事のうち?何でも屋さん、でしょ?」

「…そうだけどな」

「ナマエもお願い。クラウドの助手、なるのよね?」

「いや、俺は了承してな…」

「うん!なる!」





小さく笑いながらそう聞いてきたエアリスの言葉を否定しようとしたクラウド。

でも、そのクラウドの言葉を遮ってあたしは大きく頷いた。

すると、クラウドも諦めたらしい。呆れたように溜め息をつかれたが。
まあ、いい。よし!心のなかでガッツポーズ。





「ここから連れ出して。家まで、連れてって」





それが、エアリスからの依頼。

何でも屋さんになって、初めての依頼!記念すべき依頼ね!
再び、今度は気合いのガッツポーズ。……やっぱり、もちろん心のなかで。





「お引き受けしましょう。しかし、安くはない」






クラウドは引き受けた。

報酬を持ち出されると、エアリスは少しだけ考える素振りを見せ、すぐに閃いたようにこう言った。





「じゃあねえ…それぞれにデート、1回!」





エアリスは悪戯するような、とても可愛らしい笑みだった。

デート。
そう言われて、女の子なのにちょっとテンション上がっちゃったあたしは変なのだろうか。

でもさ、だってさ!エアリスみたいな美人さんとデートとか超ハピネスじゃない!?
あたしはそれでいい!凄く楽しそうだ!
自分がよければいいじゃないか、と一人で解決。

クラウドは小さく苦笑いしながらも、それを承諾した。


あたしは腰のホルダーに手を伸ばしながら、クラウドと共にエアリスの一歩前に出る。

クラウドは、そのスーツの男に向かって口を開いた。





「何処の誰だか知らないが…知らない…?」

「…クラウド?」

「そうだ…俺は知っている。その制服は…」





クラウドは何か思い出すように頭を抱え、ブツブツと呟き出した。

あたしは不審に思って、クラウドの横顔を覗く。

すると、そんなクラウドの様子にスーツの男が呟いた。





「…お姉ちゃん、こいつ、何だか変だぞ、と」

「黙れ!神羅の犬め!」





クラウドがスーツの男に声を張り上げた。

しんら…神羅!?
コイツ神羅の人間なの!?

あたしがそう目をパチパチしていると、スーツの男の後ろから青い制服…神羅の兵士がぞろぞろと続いてきた。
うわ、まじで神羅じゃないですか。





「レノさん!殺っちまいますか?」

「考え中だぞ、と」





神羅兵がスーツの、レノと呼ばれた男に聞く。
スーツさんは偉いらしい。

それにしても殺っちまうとは…なんて物騒なこと言うんだぞ、と。
……いかん。移った。

そうあたしが自分の中で阿呆な事を繰り広げていると、エアリスが叫んだ。





「ここで戦って欲しくない!お花、踏まないで欲しいの!出口、奥にあるから!」





あたしたちはエアリスに導かれるまま、教会の奥の方へと駆け出した。

教会の奥の屋根には大きな穴が空いていた。
瓦礫を上手く渡っていけば天井から外に行けそうだ。

でも、何でエアリスが神羅に追われてるんだろう?
そう疑問を抱いたものの、今は考えてる暇も聞いてる暇もない。
とりあえず、逃げるの最優先!





「いたぞ!あそこだ!」





神羅側も、見逃してくれるつもりは無いらしい。意地悪だな!





「どうしよう?」

「捕まるわけにはいかないんだろ?それなら、答えはひとつさ」





不安を見せるエアリス。
おおお、なんだかクラウドが頼もしい!





「きゃー!流石ボス!頼もしいっす!」

「誰がボスだ。ナマエ、先に行け」





あたし、クラウドの部下だし。
でも「ボス」って言ったら睨まれた。……ちっ、駄目か。

出口へと続く道は瓦礫に邪魔をされる他にも、足場が崩れてる所まで。
あたしはとりあえずクラウドに言われた通り、崩れた足場をジャンプして飛び越える。
そして振り向くと、クラウドも続いて飛び越えてきた。

残るはエアリスのみ。
しかし、エアリスは自信がないのか首を横に振る。





「エアリス!大丈夫だよ!早く!」

「でも…」

「大丈夫だ。俺が受け止めてやる」




クラウドがそう言って手を伸ばす。
おおお!なんか格好いい!
お兄さんと似た顔でそーゆー事言わないで欲しいもんだ。

クラウドの言葉にエアリスも覚悟を決めたのか、頷いて、踏み切ろうとする。

しかし…神羅はそれを許さない。





「古代種が逃げるぞ!撃て、撃て!あ、撃つな!」





スーツの赤髪男、言ってること可笑しいだろ!?
撃てゆーたり撃つなゆーたり!

結果…構えた銃は発砲されてしまい、エアリスの足場を襲った。





「きゃあっ…!」

「あっ!エアリス!」

「エアリス!」





それによりバランスを崩してしまったエアリスは、あたしが手を伸ばしてもまったくの無意味で…下の方に落ちてしまった。





「うわああ!?エアリスー!?こらー!神羅ー!そこの赤髪スーツ!女の子追いかけ回すなんて嫌われるぞ!」

「余計なお世話だぞ、と。威勢良いな、あんた」





コンフュ並みのパニックを起こしていたあたしはスーツに叫んだ。

見たところエアリスは掠り傷程度で無事みたいだけど…、あたしの叫びも虚しく神羅兵がエアリスを捕まえようとエアリスに寄ってきてしまう。





「うわあああ!?クラウドどうしよ!?」

「くっ…、あれは…?」

「あれ?」




今から降りたって到底間に合うはずはない。

あたしが焦ってクラウドにすがると、クラウドは屋根裏の方で何か見つけたみたいだ。

そこにあったのは……樽。





「樽がある。これを押してやれば…」

「あ!なるほど!なら早く!」





クラウドは急いで屋根裏に駆け上がり、神羅兵目掛けて樽を落とした。





「ぐえっ!」

「ありがとう、クラウド!」





クラウドのセンスは抜群だった。

樽は見事に神羅兵に直撃。
エアリスは隙をついて逃げてくる。





「エアリス!こっち!」

「ナマエ!」





さっき受け止めると言ったのはクラウドなのに、あたしになって申し訳ないが…、あたしは崩れた足場を踏みきったエアリスを手を伸ばして受け止め、クラウドのいる屋根裏に走った。

そのまま屋根裏の道を伝い、あたしたちは無事に教会の外へと逃げ出したのだった。



To be continued


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