壊れて消えそうな心



神殿の外。
あたしたちは、じっと眺めていた。

古代種の神殿が、どんどんどんどん…小さな塊になっていくのを。

目を離すことなく、ずっと見つめてた。





「あれが、黒マテリア…」





しばらく待つと、落ち着いた。
あたしたちは神殿のあった跡地を覗き込んだ。

大きな窪みが出来ていて、そこにぽつんと落ちている黒いモノ。
クラウドが今呟いた通り…たぶんあれが黒マテリアなんだろう。

…本当に名前の通り真っ黒だ。
あんなちっちゃいマテリアがこの星を滅ぼしちゃうなんて…。

考えたら、ぶるっと体が震えた。





「よし、取りに行くか」

「ええ」

「あ、あたし、ここで待ってるよ」





崖の様になっている神殿の跡地を覗き込んだクラウドとそれに続くエアリス。
そんなふたりにあたしはブンブンと首を振って遠慮した。





「ナマエ、どうかしたの?」





柔らかい色の髪を揺らしてエアリスが首を傾げた。
クラウドも同じような目でこっちを見てる。

あたしは「あ、あははは…」と苦笑いを浮かべた。





「いやなんか不気味だしさ…いいでしょ?」

「ナマエ残るの?だったらオイラも、ここでお座りしてるよ」





するとレッドXIIIがあたしの傍に座って賛成してくれた。

ちょっと嬉しい。
いや、だって本当おっかないもん…!

でも、そんな彼を撫でながら思う。
お座りって君…なんか可愛いなあ…なんて。

ちょっとにやにやしてると、クラウド承諾するように頷いてくれた。





「わかった。すぐ取ってくる」

「あ、うん。頼みました。…あ、そーだ。クラウド、PHS貸してよ」

「PHS?」

「ティファ達に連絡入れとくからさ。報告した方がいいよね?」





そう言って手を差し出せば、クラウドはポケットからPHSを取り出してくれた。
それを受け取ると手を振りながら下に降りて行くクラウドとエアリスを見送った。

レッドXIIIに合わせて屈み、PHSのボタンを押す。

数回のコールを待って、第一声は明るく務めた。





「もしもーし!」

『もしもし?ナマエ?』

「いえっさー!」





耳に届いた愛しのティファの声。
待ちわびてたその声に、ちょっとテンションがあがった。





『良かった、無事で。様子どう?』





真っ先に心配をしてくれたティファは優しい。
ティファには見えないけど、あたしは頷きながら返事をした。





「うん。黒マテリア、手に入れたよ。…ケット・シーのおかげで、ね」

『そう…』





ケット・シーの名前にティファの声は少し寂しそうなものになった。
でも、どこか安心してる…そんな、複雑な声。

皆も思う事は、たぶん…なんとなく、一緒なんだろう。

やっぱり…複雑なもんは複雑だ。





『あ、ちょっと待って。ユフィが代わってって騒いでるの。だから代わるね』

「え、ユフィ?うん、わかった。代わって」





ぼんやりケット・シーのことを考えてたら、向こうはユフィからせがまれたとか。
了承して交代を待っていると、…物凄いハイテンションで『ナマエー!!!』って響いてきた。

み、耳が…ちょっとキーン、とした、よ…。

けど…元気な声には自然と頬が緩んだ。





「はーい。なあに、ユフィ?」

『ねね!神殿の中さ、マテリアあった?』

「…君の頭ん中はそればっかか」

『いーじゃん、べっつに』





いきなりマテリアかよ、お前。

ふん、ともはや電話の向こうで開き直ってくるユフィ。
いやうん、もういいけどね。





「あったよ、黒マテリアが」

『や。それ以外で』

「あれ?さすがのユフィちゃんも黒マテリアは嫌?」

『だって星ぶっこわすんでしょ?そんなのはいらないって!』





究極の破壊魔法メテオ。
マテリアハンター、ユフィちゃんもそれは流石にいらないらしい。

ああ、よかった。
ユフィもその辺の分別はついてるんだね!

変に安心。
いやま、それもそうか。





「他のもあったから後で見せるよ」

『お、やりっ!じゃあ待ってんねー!気をつけてよ!』





最後にはちゃんと心配してくれるユフィ。
そんな君が好きだよ、あたしは。

一先ず報告の任務は終了。
あとは軽く言葉をかわし、「後でね」とPHSを切った。





「ユフィ、またマテリア?」

「うん。そ。本っ当、懲りないよねー」





切った後、会話を察したらしいレッドXIIIに聞かれてまた笑った。
それから、ふと…下に降りて行ったクラウド達に目を向けた。

電話しながらも、ちょっとだけクラウドとエアリスの会話は聞こえてた。

こっちが黒マテリアを持ってればセフィロスはメテオを使えないとか。
使うには一人の人間の持つようなエネルギーじゃ発動出来なくて、どこか特別な…約束の場所とかじゃないと使えないとか。

それを聞いて思うことは一つ。
…聞けば聞くほど、なんか凄いマテリアだ…。

出来れば触りたくないなあ…。うん、絶対触りたくない。
心の中で物凄い拒否反応。

そんなチキンなあたしとは違い、クラウドは黒マテリアをその手に拾い上げていた。

さっすがクラウド。
まじ尊敬です。さすがボス!

いや、誰かが持たなきゃ駄目だけどさ。





「……。」





クラウドは黙ったまま、手にした黒マテリアをじっと見つめていた。
それに気付いたエアリスは、クラウドに対して小さく首を振った。





「セフィロスは、違う。古代種じゃない」

「ああ。約束の地は見つけられない筈だ」





セフィロスは古代種じゃない…。
だから約束の地は見つからない。メテオは唱えられない。






「…が、私は見つけたのだ」





でも、その直後。
クラウドの声に答えるように…静かな低い声が響いてきた。


…ぞわり…。
その声に、耳から背筋を這う様な…酷い寒気が走った気がした。

そして、クラウドとエアリスの傍に…突如現れた、銀色。





「…っ…」





その姿を見た瞬間、ぶわっ…と鳥肌が立ったのを感じて、息をのんだ。

それは…たぶん恐怖。
それを感じると、無意識に体が強ばる。


あ…れ…。

クラウドとエアリスが危ない。
そう思うのに、あたしはまるで麻痺にでもかかったみたいに、動けなくなった。

奴が来た。現れたのに…。

…セフィロス。
目の前に現れた彼を捉え、クラウドとエアリスは目を見開いてた。





「私は古代種以上の存在なのだ。ライフストリームの旅人となり古代の知識と知恵を手に入れた。古代種滅びし後の時代の知恵と知識も手に入れた。そして間もなく未来を創り出す」





酔いしれるように、セフィロスは語る。

ライフストリームの旅人…古代の、知恵と知識…?
未来を創りだすって…、一度メテオで壊して…。

固まって動けない分、目と耳が冴えて。
あたしはぎゅっと自分で自分の手を握り締め、過去の英雄の姿を見つめてた。





「そんな事、させない!未来は貴方だけの物じゃない!」





動けないあたしとは正反対。
エアリスは前に出て、セフィロスに強く噛みついた。

でもセフィロスは、それを何とも思っていないように笑ってる。





「クックックッ……どうかな?」





その笑いすら、やっぱり…どこか恐ろしさを感じる。

でも、あたしが動けない本当の理由は…セフィロスじゃないの、わかってた。

目の端に映った、金髪。
それが、ぐしゃり…自らのグローブによって、乱される。





「さあ、目を覚ませ!」





そんな彼に、セフィロスが呼びかけた。





「だ、黙れ!う……うるさ……い…」





セフィロスの呼びかけに、頭を抱えたクラウド。

そう、クラウドだ。
それが、あたしが動けない本当の理由。

クラウドは、セフィロスが現れた瞬間、また様子がおかしくなった。
…あの壁画の間で見た、あの時に似てる。


……怖い……。


それを見たら、変な汗が伝って、体が動かなくなったんだ…。





「さあ、クラウド…良い子だ」

「う……あ……ぁ……」





クラウドは呻きながら、ゆらゆら、歩きだす。
まっすぐ、セフィロスに向かって。





「クラウド!」





エアリスが止めようと声を掛けても、そんなの届いてないとでも言う様に。

クラウドはセフィロスに手を伸ばす。
黒マテリアを握っている、その手をまっすぐに…。


それを見て、ドクン、と心臓が音を立てた。


…ちょっと待ってよ。
クラウド?なにするの?

クラウド、クラウド…!

頭の中で呼びかける。

…あたし、馬鹿…?
なにしてんの?そんなんじゃ意味ない。

でも、喉が渇いていて、声が出ない。

だめ…。声、出さなきゃ。
はやく…!





「クラウドッ!」





恐怖を払って、絞り出すように、叫んだ。
すると届いたのか、クラウドの肩がビクリと揺れた。





「…ナマエ、…」





でもその時、切れ長の青い目が、ギン…とこちらを睨んだ。

クラウドと同じ色の、綺麗な青。

でも、全然違う。
恐ろしいほど冷たい。

そして、頭の中で《邪魔をするな》と響いた気がした。





「…っ…!」





物凄く冷たいまなざし。
思わずギクッ、と肩が跳ねた。





「さあ…クラウド」





セフィロスは、クラウドに手を伸ばす。





「うあ…あ…」





…クラウドは、その差し出されたセフィロスの手に…手渡してしまった。
絶対に渡してはいけないもの、黒マテリアを。





「…ご苦労」





黒マテリアを受け取ったセフィロスは一言だけ。
薄く笑い、どこかに飛び去っていった。

瞬間、クラウドがまた頭を抱えて、崩れた。
うずくまって、唸ってる。

震えるその肩を、エアリスがそっと叩いた。





「クラウド、大丈夫?」

「……俺はセフィロスに黒マテリアを…?お、俺は何をしたんだ…。エアリス、教えてくれ」

「クラウド…しっかり、ね?」





混乱する様なクラウドに、エアリスは優しく声を掛ける。
でも、クラウドの混乱は回復しない。

そして…普段のクラウドからは想像つかないくらい…怪しく笑いだした。





「ウヘヘヘヘ……俺は何をした!」

「クラウド……あなた、何もしていない。あなたのせいじゃない。」





エアリスは、変わらず落ち着いて首を振る。
でもクラウドには、やっぱり聞こえてないみたいで…。





「俺は!俺はーーーっ!」





それどころか叫んだまま、いきなりエアリスを突き飛ばした。
そしてあろうことかそのまま馬乗りになって…エアリスに拳を立てた。





「…っクラ…!」





その様子に、あたしは流石にハッと体の緊張がほどけたのを感じた。
同時に、さっ…と血の気が引いたのも。





「ナマエ!」

「…レッド…っ、うんっ…!」




そしてその時、レッドXIIIがガタガタしてるあたしを心配そうに見てくれていた事に気がついた。
事の重大さに慌てて一緒に溝に飛び降り、クラウドとエアリスの元に走った。





「クラウドッ!」





あたしは後ろからクラウドにしがみついた。





「やめて…!クラウド!」

「クラウド!なにしてるんだよう!」





目いっぱい力を込めて何とかエアリスから引き離そうとする。

でも所詮、あたしの力なんてたかが知れてる。
男の人のクラウドの力に敵うわけがない。

レッドXIIIも手伝ってくれるけど、手加減なしのクラウドにはとても…。





「こりゃあかん!えらい時に来てしもた!」





それでも力を込めて引き離そうとしていると、上から聞こえたあの黒猫の声。
あたしはハッとして、顔をあげた。





「ボク、ケット・シー2号機です〜。よろしゅう頼んます〜!」





そこにいたのは、やっぱり、そうだった。
新しい…ケット・シー…!

ケット・シーはそのまま、上から急いで指示をくれた。





「ナマエさん!このままじゃあかん!早いとこ眠らせるんや!」

「え…、眠らせる?」





あたしたちじゃ抑えきれないのは目に見えてる。

それなら、眠らせる…。


そっか…!


あたしはアドバイスをくれたケット・シーに頷いて、クラウドの腕に手を伸ばした。
腕を掴んで、バングルから緑の球を外す。




「…スリプル…!」





封じるのマテリア。
それを自分のバングルにはめなおし、急いで唱えた。





「…うっ…」





効果はすぐに現われた。
意識を手放したクラウドは、ぐらりと崩れ落ちる。





「わっ…クラウド…!」





ふんっ…と、あたしは何とか踏ん張った。
だって、そのまま倒れ込ませるわけにはいかないから。

せめてそっと横たわらせようと、クラウドの体を支えて地面に寝かせた。





「エアリス!」





そして、慌ててクラウドが突き飛ばしたエアリスの体を起こす。
傍ではレッドXIIIがケアルを唱えてくれていた。





「ナマエ…レッドXIII、…ありがとう…」

「ううん、ごめんね、助けるの遅れて。……エアリス?」






お礼を言われたから、そんなのいいよ!って意味を込めて首を振った。

でもそしたら、エアリスの白い手があたしの腕を掴んできた。

…なに?
そう思って、あたしはエアリスの顔を覗き込む。

すると、エアリスは真剣な顔をしていた。





「…ナマエ。クラウド…怯えてた」

「…えっ?」

「ナマエには…どう見えた?」





どうって…。
そう聞かれて、一瞬迷って戸惑った。

…どう、か…。

でもすぐに答えた。
だって、思った事は…あったからだ。





「クラウドが…消えちゃいそうに、見えた」





…答えて、自分でも改めて確信した。

そう…たぶん、あたしはそれが怖かったんだと思う。
だから急に動けなくなった。

様子が変わって、怖かった。
でもなにより…何故かクラウドが、消えちゃいそうに見えた。

あたしは振り向いて一度、気を失ったクラウドを目に映して、ちゃんとここにいることを何となく確かめた。





「…ナマエ、怖がらないで」

「え…?」





眠ったその姿に安心をおぼえていると、腕に触れたエアリスの手に、少し力がこもったのを感じた。





「…私も、思ったよ。クラウド…壊れてしまいそうだった」

「……エアリス」

「でも、大丈夫。クラウド、今、ちゃんと…ここにいるから。クラウドが壊れてしまわない様に。…お願い。ナマエ…ちゃんと、クラウドの事…見てて」

「え…?」





真剣な目。
でも安心もくれるかのように、天使みたく…エアリスは優しく微笑んだ。





「…大丈夫…。ナマエは自分、信じて…。自分の見てるクラウド、信じてて」

「…エア、リス?」





正直、エアリスの言ってる事、ちゃんとは分からなかった。

それに今は、頭がいっぱいだったから。

だからまず、あたしはPHSで再び皆に連絡を入れて、皆に迎えに来てもらうことにした。
そして事情を説明し、古代種の神殿からそう離れていない集落…ゴンガガ村へ向った。



To be continued


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