霞んだ背中



「あ!発見!さっきの壁画の部屋だ!…て、ぐえ!」





奥に進み、見つけた壁画の部屋。
一番乗りで足を踏み入れたら、ぐいっとフードをひっぱられた。
首が締まって、なんとも無様な声が飛び出す。

なんだ、なんなんだ…!
どうしてフードひっぱるの…!

そう思いながら振り返ったら、そんな文句言えないくらい…鋭い青い目がありました。





「先に行くな!セフィロスがいるんだからもっと慎重に動け!」

「あ…!ご、ごめん!」





あああああ、何かクラウドが怖い…!

でもクラウドの言ってる事は正論だ。

だからあたしは反省気味にすごすごと下がった。
そしてエアリスの傍に駆け寄って壁画の間を見渡した。

…人影は…ない。
でも間違いなく、セフィロスはここにいたはずだ。





「何処だ!?セフィロス!」





クラウドが叫んだ。
その、刹那…。





「…冷たいな。私はいつでもお前の側にいる」





クラウドの叫びに答えるように、聞こえて来た静かな低い声。

何度か聞いたことがある。
聞くたび、何故だか背筋がぞっと震えるのは、なんでだろう。

あたしはエアリスと手を握った。
レッドXIIIが威嚇するように唸る。

目の前に突如…セフィロスが現れた。





「全く、素晴らしい。知の宝庫…」





現れたセフィロスは壁画を見ながら、うっとりする様に目を細めた。





「お前の言ってる事は意味不明なんだよ!」





そんな様子にクラウドが強く言い返す。

…そ、そうだそうだ!意味不明だ!まったくだ!

うんうん、と加勢。
いや、実際にはかなりビビってて何も言えてないんだけど…。

セフィロスはクラウドの声など気にする様子はなく壁画を指でなぞった。





「良く見ておくがいい」

「何を!」

「古代種の知の与える物。私は星と一つになるのだ。……母さん…もうすぐだよ。もうすぐ…一つになれる」





何か、酔う様に…セフィロスは壁画に触れたまま囁く。

か、母さん…?
星と、ひとつになる…?





「星と一つになるって、どうするつもり?」





強い口調でエアリスがセフィロスに尋ねた。
するとその切れ長の青い目がエアリスを映す。





「簡単な事だ。星は傷が出来ると治療のために傷口に精神エネルギーを集める。傷の大きさに比例して集まる。エネルギーの大きさが決まる。…星が破壊されるほどの傷が出来たらどうなる?…どれほどのエネルギーが集まる?」





セフィロスは薄く笑う。

あたしはそれを聞きながら考えてた。
ブーゲンハーゲンさんに聞いた生命学を思い出しながら。

精神エネルギー…。
ライフストリームと呼ばれる命の流れ…。
それは、星の命…。

星が傷ついて…その傷をいやすためのエネルギーがそこに集まって…。





「フッフッフッ。その傷の中心にいるのが私だ。エネルギーはすべて私の物だ。星のすべてのエネルギーと一つになり、私は新たな生命、新たな存在となる。星と交わり…私は…今は失われ、かつて人の心を支配した存在…神として生まれ変わるのだ」





神、様…?

な、何言ってるんだこの人…。
言ってることが壮大すぎて…ますますわけがわからない。

エアリスは今度、セフィロスが言った星を破壊するという方法について問いかけた。





「星が破壊されるほどの傷?傷つける?星を?」

「壁画を見るがいい。最高の破壊魔法……メテオ」





最高の破壊魔法…メテオ?

破壊って事はそれがあれば星を傷つけられる…ってこと?
それを使えば、星が壊れる…?

なにそれ。…なんだそれ。
だって…途方も無い話じゃないか…。





「クックック…」





また、薄い笑いが響く。

…本当、ぞっとする。
…嫌いだな。

そう思った瞬間、カッ…と辺りが真っ白い光に満ちた。





「…っ」





驚きと眩しさでとっさに目を閉じる。





「…あ、れっ…?」





次に目を開いた時、目の前にいたはずのセフィロスの姿は消えていた。
きょろきょろ、と見渡してもどこにもいない。





「…レッド、わかる?」

「…わかんない」





鼻の利くレッドXIIIに聞いてみると、彼は首を横に振った。

完全に消えた…?
そんないきなり?

…どこ、行ったんだろ?
そう思いながらもう一度、見渡してみる。





「何処だ!セフィロス!」

「て…え、あっ、クラウド!?」





すると突然、セフィロスを探してクラウドが走り出した。

え、ええ、ちょ…!
クラウド周り見えなくなってない!?

驚いて、でも慌てて追いかけるとクラウドはある壁画の前で足を止めた。





「なに、これ?」





それに合わせて、あたしも足を止める。

そして目の前に描かれたその壁画を見つめた。

…なんだろ、これ。
なにか、大きな岩…?
なにかが降ってくる…?

あたしはクラウドに意見を聞いてみた。





「ねえ、クラウド。これ、何かな?」

「……。」





でも、返事は返ってこなかった。

…あれ?
目線をクラウドに向けて、もう一度声を掛けた。





「ねえ、クラウ……ド?」





もう一度、声を掛けて時…目に映った彼を見て心臓がドクン…と波打った。

でもそれは、いつもみたいなドキドキじゃない。

脳裏に過ったのは…セフィロス。
セフィロスを前にした時と同じような…そんな感じだった。





「クックックッ…」





クラウドの口から洩れる、笑い。
肩を震わせながら、怪しく笑ってる。





「…黒マテリア。クックックッ……メテオ呼ぶ…」

「……クラウド…?」





ぶつぶつと、何かクラウドは呟いてる。
なんだか、漠然と怖くなった。






「クラウド!しっかりしなさい!」





エアリスの強い声がした。
エアリスはクラウドに強く呼びかける。

固まってるあたしに、レッドXIIIとエアリスが駆け寄ってきてくれた。





「クラウド……俺…クラウド……どうやるんだ…」





エアリスの呼びかけを聞くとクラウドは頭を抱えた。
そしてぶつぶつ、まだ呟き言い続ける。

どうやるんだって……何が?
何…言ってんの…?

意味が、わからない。





「……思い出した。俺のやり方」

「えっ…?」





小さく聞こえたその言葉。

俺のやり方…?
思い出したって…?

その瞬間、クラウドの雰囲気がガラリと変わった。





「…クラウド」

「ん?どうした、何か変か?」





エアリスがもう一度呼びかければ、顔を上げたクラウドは…いつものクラウドだった。
心配そうに自分を見るあたしたちの目を不思議に思った様子を見せる。

エアリスは首を振った。





「……何でもないから気にしないで!ね!」





そのまま、あたしとレッドXIIIは同意を求められた。





「えっ…」

「あ…う、うん!」





レッドXIIIが慌てて頷く。

あたしはその時、はっとした。

エアリスがそっと、クラウドには見えない様に手を握ってくれたから。
握ったままエアリスはあたしに、もう一度聞いてくれた。





「ねえ、ナマエ?」





…このまま続けよう。
そう言う意味だってすぐわかった。





「あ…う、うん!なんでもないよ!」

「そ!逃げちゃったね、セフィロス」





あたしは頷いて、エアリスに話を合わせていく。
エアリスは話の方向を変えるように、クラウドに笑いかけてた。





「……気にするな。あいつの言ってる事はわかった。これがメテオだな?」





クラウドは、目の前の壁画を見つめる。

…正直、エアリスがいてくれて助かったと思った。
あたしじゃ、どうしていいか…わかんなかったし…。
何もなかったように接するのが一番だと教えてくれたから。

あたしはもう大丈夫と合図するようにエアリスの手を離した。
うん。もう大丈夫。





「何か落ちてくるのかい?」

「うーん…ていうかメテオって、何?」





その証明に、壁画を見上げたレッドXIIIにすぐさま返す。

メテオについては、エアリスが教えてくれた。





「……魔法ね、これは。セフィロスの言ってた通り究極の破壊魔法メテオ。宇宙を漂っている小さな星を魔法の力で呼び寄せるの。そして……衝突。この星、完全に壊れちゃうかも…」

「星を呼ぶ?…隕石をぶつけるってこと!?」





ビックリして、思わずでっかい声が出た。

隕石を呼ぶ…。そんな魔法があるの…?
あたしが「サンダー!」とか言ってるのとは、まったく比べ物にならない規模じゃないか…。

でもそう言えば…ティファに聞いた気がする。
伝説レベルの話だけど…究極の破壊魔法があるって話を聞いた、とか。

…これの、ことだったのかな…。

そんな風に無い頭で色々考えていると、部屋の奥の方に何かがあるのに気がついた。





「ん?あれ、なに?」





指をさすと皆もそっちを見て、それを全員で覗き込んだ。

ピラミッド状の何かが浮かんでる。
その下に文字が書いてあって、エアリスはそれを読み上げた。





「……何か書いてある。…ク、ロ、マ……テ、リ、ア」

「黒マテリア!?」




クラウドが声を上げた。
あたしやレッドXIIIも驚きを隠せなかった。

これが黒マテリア…!?
いきなり見つけたキーアイテム。

でもそんなもの、どうすればいいのかわからない。





「ちょっと待って。私、聞いてみる!」





エアリスは耳をすませ、古代種の意識に語りかけ始めた。
しばらく待つと驚いた様な顔で振り向いて、あたしたちにも教えてくれた。





「この神殿その物が黒マテリアだって」

「…はい?」





完全に間抜けな声が出た。

…あ。やばい。ごめん、エアリス。

そんな思いっきり間抜けな顔をしてしまったあたしにもわかるように、エアリスは丁寧に教えてくれた。





「つまりね、この大きな建物自体が黒マテリア、なんだって」

「……へ?」

「このでかい神殿が?これが黒マテリア!?それじゃあ誰にも持ち出せないな」





マテリアって、こういう小さな玉のことを言うんじゃなかったのか…。
完全に概念が覆された感じだ…。

でも、クラウドが言う様に建物なんか持ち出せない。
なら使うことも出来ないじゃないか。なんだ、心配して損したかも。

そう少し安心を覚えていると、エアリスは困った様な表情を浮かべた。





「う〜ん、難しいところね。ここにあるのは神殿の模型なの。この模型には、仕掛けがあってパズルを解いていくと、どんどん模型が小さくなるんだって。模型、小さくなると、神殿自体も小さくなる。どんどん、折り畳まれていって、最後には手のひらにのるくらいにまで小さくなるの」

「つまり、この模型のパズルを解けば黒マテリアは小さくなって持ち出せるようになるわけだな?」

「ええ!?それじゃ駄目じゃん!?」





なんだ!安心して損したじゃん!?
手のひらに乗るって…それじゃあ普通のマテリアと一緒だ。

ショックを受けていると、エアリスは神殿の模型を見つめた。





「ううん…まだ、続き、あるの」

「え?」

「…パズルを解くのは、この場所でしか出来ないんだって。だから、パズルを解くと、その人はこの神殿、いいえ、黒マテリア自体に押し潰されちゃうの」

「押し潰される…?!」





押しつぶされちゃうの、なんて…エアリスの言い方は可愛らしいが、それってとんでもないことだ。
だってそれはマテリアひとつと引き換えに…誰かが犠牲になる、ってことで。





「なるほど…。危険な魔法を簡単に持ち出せないための古代種の知恵か」

「それなら安全だね。誰にも持ち出せない」

「うん、放っておいてもいーんじゃないかな?なーんか物騒だし…」





レッドXIIIの傍にしゃがんで「ねー」と頷きあう。

いや、だってあたし潰れたくないよ…。
皆が潰れちゃうのだって絶対御免よ!

けど、クラウドは首を振った。





「ダメだ。持ち出す方法を考えよう。だって、そうだろ?セフィロスにはたくさんの分身がいるじゃないか。あいつら、命を投げ出して黒マテリアを手に入れるくらい何でもない。この場所はもう安全じゃないんだ」

「あ…そっか…」





確かに…。盲点を突かれた。

あの黒マント達がセフィロスに黒マテリアを届けようとしてるって、どっかで聞いたな。
…と、言うことは、確かにここは安全じゃない…。

セフィロスは黒マントの人たちの命なんて、きっと欠片も気にしないんだろうな…。
あの人たちの事、仲間だとかも思って無さそうに思うし…。

そうなると、じゃあ…どうすればいいのか。
うーん、と頭を悩ませた……その時。





プルルルルル………





緊張感も何もない、電子音が響いてきた。

…ちょっとビックリ。

クラウドはPHSを取り出し、通話に出た。





『もしもし〜 クラウドさん。ボクです。ケット・シーです〜』





少し漏れて聞こえた陽気な声。

…ケット・シーだ。

でも、聞こえ辛い。
それに気づいてくれて、クラウドはスピーカー設定にしてくれた。





『話、聞かせてもらいましたよ! ボクの事忘れんといて欲しいなぁ。クラウドさんの言うてる事はよぉ、わかります。この造りモンの身体、星の未来のために使わせてもらいましょ』

「…セフィロスに黒マテリアは渡せない。でも、神羅にも渡せない」

『でもなぁ、クラウドさん。どないしょうもないんとちゃうか?』





昨日の夜の事を考えれば、ケット・シーの提案に抵抗するのは当たり前だ。

…でも、あたしは、なんかモヤモヤしてた。
信じていいのか、わからない気持ちもあるのも正直な気持ちだけど…。
でも、なんか…、完全に疑う気持ちにもなれないって言うか…。





「あの、さ…クラウド」

「…なんだ?」

「任せて、みない?」

「…!」





恐る恐る提案すると、クラウドは少し驚いた顔をしていた。
足元でゆるっ…とぬくもりを感じて下を見ればレッドXIIIもあたしを見上げてた。





「でも…ナマエ、ケット・シーは…」

「わかってる…。わかってるけど…でも、一応…今まで一緒に戦ってくれた…わけじゃん…?」





語尾は自信無さ気に小さくなってく。

だって、マリンのこととか…。
そーゆーの考えちゃうと、やっぱあれだし…。

でも、さっき思った。
立場の違い…ってさ、やっぱ、あるような気がするんだよね…。

何より、人質を卑怯な手だと言っていた。

上手く説明できない。
…うーん、と唸ってると、クラウドは…頷いてくれた。





「わかった…仕方ない」

『よっしゃ!ほんな、任せてもらいましょか!みなさん、はよう脱出して下さい!出口のとこで待ってますから!』





クラウドはPHSを切り、「出口に行こう」と歩きだした。










「お待ちどうさん!!ケット・シーです〜!」





出口であろう扉の前までやってくると、何とも明るい陽気な声がして、思わず目をぱちぱちさせてしまった。

いや、それなりに落ちた気分であたしたちは歩いてた。
なのにテンション高いな…!みたいな。

だって、人形だって言っても…一応、サヨナラ…なわけだし。





「後の事は任せてもらいましょ!ほんな、みなさん、お元気で」





ぼってぼって、とデブモーグリが歩きだす。
それを見ながら、エアリスはクラウドを突いた。





「…ほら、クラウド…何か言ってあげなきゃ」

「……苦手なんだ」

「ん〜、ようわかりますわ〜、ボクも同じ様な気持ちですわ」





苦手だと呟くクラウドに、ケット・シーも頬を掻く仕草。

…あたしは、その様子をただ見てた。
だって、あたしも…苦手だ。いや、得意なんて人もいないんだろうけど…!

こういう時って、何言えばいいんだろうな…。





「ナマエさん」

「えっ?」





でも考えてたら、逆に向こうから声をかけられた。

ええと…!
ど…どんな顔すればいいのかも、悩む。
でもきっと、ケット・シーがこのテンションなのだから、暗い顔するのは頂けないよね…?

だからなるべく笑うことに努めて猫を見た。





「ん、なーに?」

「いや、さっきの電話…声、届いてたんですわ」

「声?」

「ナマエさんの言葉、聞こえました」





そこまで言うと、背を向けられた。
小さな背中の赤いマントが揺れてる。

さっきの電話の声…って。





「一緒に戦ってくれたって…、真っ先に任せてくれて、嬉しかったです」

「え…っ」

「おおきに!ナマエさん!皆さんも、スパイのボクの事信じてくれて、おおきに!ほんまに、ほんまに……行ってきます!」





跳ねていく、ケット・シー。

人形だから。ヌイグルミだから。
だから自分が適任。

そうは言っても、あたしは手を伸ばして…、止めたい衝動にかられた。





「ナマエ」

「…クラウド」





一瞬、伸ばしかけた手。
でえもクラウドに肩を叩かれて、ピタッと止まった。





「ここは危険だ。外に出るぞ」

「…行きましょ、ナマエ」

「…うん」





ケット・シーがパズルを解けば、ここは潰れてしまうから。

……ありがとう。
目一杯の感謝をこめて、心でつぶやく。

こうして、あたしたちは古代種の神殿を後にした。



To be continued


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