樹海に眠る神殿



「ねえ、ナマエ。昨日、どうだったの?」





がさがさ、草木の音が響く中。
にっこり笑ったエアリスに、そう耳打ちされた。





「昨日…?」

「そう。ケット・シーの事とか、色々あっただろうけど…、一緒に回ったんでしょ?」





なぜかエアリスはとっても楽しそう。
昨日から思ってたけど、なんでこんなに楽しそうなのか謎だ…。

けど、あたしはおそらくエアリスが望んでいるであろう返事を答えた。

だって紛れもなく、それが本音だったから。





「うん。楽しかったよ」





そしたらやっぱり想像通り。
エアリスは嬉しそうに笑みを深くした。





「本当に?何か進展、あったの?」

「進展って何さ…。エアリスが期待してるよーなことは何もないです!ていうかあるわけないの!」

「もう、またそーやって言う」





エアリスは口を尖らせた。

いやいや…そうやって言うも何もあるわけないだろ。
なんでエアリスはこんなに勘違いしてるんだか。

なんか、ため息が出た。





「だって無いものはないし」

「…本当、ネガティブ」





そしたらエアリスも溜め息をついた。

だって…そもそもむしろ、だし。
…あたし、可愛い気も何もないですからね。

ただ…クラウドは、信じてくれるって言ってくれた。
一緒に行動する仲間としてこれ以上の幸せってないよね。

だから、ちょっとでも今が続いて欲しいって…それだけ願ってる。
それで、いい気がする。うん、それがいい。





「ナマエ!エアリス!何してるんだ、早く来てくれ」

「はーい!ほら、いこ!エアリス!」





森の先、足早に前を進んでいたクラウドに呼びかけられ、あたしは走り出した。

その時、エアリスは何か言いたげな顔をしてたけど、まーた勘違いが続くだけだろうから、あたしは見ない振りをした。










「…本当に、あった…」





そして深い深い森の中。
ひたすら進んで進んで…見上げたのは、いつからあるのかわからない、古い建物。





「どうやら、情報は本物だったみたいだな」

「…うん」





クラウドに頷いた。

昨日、ケット・シーがスパイだったと知った。
その翌日の、つまり今日の朝、ケット・シーは約束通り古代種の神殿の場所を教えてくれた。

タイニー・ブロンコでずっと東に進んだ先に在る大陸の…森の中。

そしてその情報は、本物だったみたいだ。





「…ここ…古代種の神殿…私、わかる」

「エアリス…」





その神殿を見上げて、真っ先に駆けだしたのはエアリスだった。

エアリスは耳を澄ませて目を閉じる。
…何か、感じてるみたいに見えた。

平々凡々なあたしには、やっぱりさっぱりだけど…。





「エアリス、何かわかるのかな?」

「みたいだね」





隣からそう聞いてきたレッドXIII。
うん、やっぱり誰から見てもエアリスが何か感じてるように見えるらしい。

ここに来ることを決めたのは、古代種であるエアリス。
そしてリーダー、クラウド。あと昨日エアリスと約束した通りのあたし。
この面子を見て、パーティを組むことの多かった理由で戦闘のバランスからレッドXIII。

他の皆はケット・シーの見張りとか、装備の確認を頼んでる。





「感じるの…。漂う…古代種の意識。死んで、星と一つになれるのに意志の力で留まってる…未来のため? 私達のため?不安…でも、喜んでる? 私、来たから?ごめんね…わからない。早く、ねえ、中に入りたい!」

「ああ、行こう」





中に入りたがるエアリスを見て、あたしたちは恐る恐る神殿の中に足を踏み入れた。

階段を上って、入り口をくぐる。するとそこは小さな部屋だった。
松明の明かりだけがゆらゆら揺れてる祭壇の間。

でも、そこにあった光景にはっとした。





「あっ!ツォン!」





エアリスが声を上げた。

黒のオールバックのスーツの男。
何度か見かけたことのあるタークスのツォン。

何故か彼が、祭壇の前に蹲っていた。
だけど…それだけなら良かったけど、見えてしまった。

彼の腹部から、血が流れてる。

う…。ちょっと目をそむけたくなる…。
それくらい、深い傷だった。





「くっ……やられたな。セフィロスが…捜しているのは…約束の地じゃない…」

「セフィロス?中にいるのか!?」





苦しそうな声で話すツォンが発したセフィロスの名前。
クラウドが聞き返すと、ツォンは腹を押さえて顔を歪めた。





「自分で…確かめるんだな…。くそっ…エアリスを…手放したのがケチ…の……つき初め…だ…。社長は…判断をあや…まった…」





ガン!とツォンは床に拳を叩きつけた。
でもエアリスは、それを見て首を振って否定した。





「あなた達、勘違いしてる。約束の地、あなた達が考えてるのと違うもの。それに、私、協力なんてしないから。どっちにしても、神羅には勝ち目はなかったのよ」

「ハハ…厳しいな。エアリス…らしい…言葉だ。キーストーン…祭壇に…置いて…み…ろ」





エアリスの言葉に小さく笑うツォン。

なんか、それがどこか懐かしんでるようにも思えて、ちらっとエアリスを見ればエアリスは顔をそむけてた。

…もしかして、な、泣いてる…?

一瞬どうしようか悩んだ。
でも思い切って、声を掛けてみた。





「エアリス…だいじょぶ?」

「ん…大丈夫、だよ」





エアリスは指で軽く目尻を拭った。
そして耳元で、そっと教えてくれた。





「…ツォンはタークスで敵だけど子供の頃から知ってる。私、そういう人、少ないから。世界中、ほんの少ししかいない、私の事、知ってる人…」

「…エアリス…」





それを聞いて、なんだか少し、悲しくなった。

短い言葉だけど、それがエアリスの歩いてきた道をそのまま表してるみたいで。

だからあたしは、ツォンの傍にしゃがむ。
そして、腹部に手をかざした。





「…ケアル」





唱えると、淡い光が傷を包んだ。
ツォンはそれを見て目を丸くしてきた。





「…私は敵だぞ」

「うん。そうですね」

「ならば…」

「でももしここで死なれたらきっと後味悪いです。眠れなくなったらどーしてくれんですか?」





真顔で聞く。

いやでもこれ本音だ。
だって、もし今後この人の訃報なんて聞いた日には…。
ああ、あの時か…ああ、あの時…!って、ぐるんぐるん頭ん中回りそうだ。そんなの絶対やだ。

真顔のあたしに、ツォンは言葉を詰まらせていた。





「どう…と言われてもな、」

「理由なんて、そんなもんです。ケアルだし。無理しなきゃ傷は開かないだろう程度だから。あ、それにタークスに恩を売っておくってのも悪くないかと」

「…なに」

「ね、クラウド。良いと思わない?」





くるっと振り向いてクラウドにニヤリと笑いかけた。

するとクラウドは一度目を見開き、小さく息をついた。





「…恩か。それもそうだな」

「でしょー?」




呆れの溜め息もつかれたけど、口元が笑ってて、わりと肯定意見。
だから、にしし、と笑った。

クラウドはツォンの傍に歩みより、手元に転がるキーストーンを拾い上げた。





「彼女は変わってるな…」

「…ああ、そうだな」





その際聞こえた会話。

変わってるな、そうだな、って…。
なんだそのやり取り。若干凹むぞ。

でもその時、後ろから優しく肩を叩かれた。
振り向けばエアリスの笑顔。





「…ナマエ、ありがとう」

「…ん?」





小さな優しい囁き。
ちょっとだけ首を傾げて、でもあたしも笑った。





「…いくぞ」





拾い上げたキーストーンを手に、クラウドが言う。

その言葉に、頷いた。
それを確認すると、クラウドは祭壇にキーストーンを置いた。





瞬間、急に目の前の景色が変わった。












「なんだこれええええええ!!!!!」

「…うるさいぞ」





クラウドに怒られた。

でも今回は反論させてもらいたい。
だって、これは、ちょっと叫びたなるでしょ…!?





「だってだって!?なにこれ迷路!?あ、頭痛くなってきた…」





景色を指さして、頭を押さえた。

キーストーンによって開かれた先の道。

積み上げられた真白い石段。絡む蔦。
まさに古代と言う言葉を漂わせる印象のそこは…とんでもない大迷宮でした。





「言葉が…思いが…たくさん、ここにある」

「クンクン……ここいい匂いするよ。コスモキャニオンと同じ星の匂いするよ」





あたしが嘆く一方で、また何かを感じてる様子のエアリスと鼻を鳴らしてその匂いを確かめてるレッドXIII。

…えらく皆さん、前向きですね…。
あれ、あたしが後ろ向きなだけなのか?





「入り口は消えたな。どのみち進むしかないぞ」

「うん…、いや、そりゃここまで来て戻ろうとかは言わないけどさ…」





クラウドの言う通り入り口は…ない。
あるのは先のわからない入り組んだ道だけ。

でも…こう、あれよ。
むっずかしー問題とかを目の前にすると、ブン投げたくなるじゃん…!
自慢じゃないけど、あたし頭使うの得意じゃないから…!

完全に茫然としてるとエアリスに励まされた。





「ここ、いろいろ大変だと思うけど…投げ出さないで!頑張ろう、ね!」

「…よし!頑張れ、クラウド!」

「…完全に任せっきりだな、ナマエ」





エアリスの励ましをそのままクラウドに向けて流したら、軽くじとっと睨まれた。

だってだって…あたしじゃ通った道すら分からなくなりそうなんだもん…!

あたしがガックリ項垂れると、レッドXIIIが「大丈夫?」って聞いてくれた。
感動して「レッドー!!!」ってあたしは抱きついた。
ちょっとビクッとされたけど…。そろそろ慣れて!レッドXIII!

そんな様子に、エアリスは相変わらずの優しい微笑みでクラウドの肩をトン、と叩いた。




「いいじゃない。ナマエ、クラウドのこと、頼ってるんだから」

「なっ…」

「ね?ナマエ」

「え?うん、そりゃもちろん」





笑みがこっちに向いて、そう聞かれる。

頼りにしてるかって、そんなの当然だ。
あたしが頷けば、エアリスはまたクラウドに視線を戻した。





「ほら、ね?」

「……進むぞ」





クラウドは一言だけそう返すと、一足先に迷宮を進みだした。

おおと…置いて行かれないようにせねば。
そう思ってレッドXIIIから離れ、立ち上がる。

その際、何気なくエアリスの顔を見れば…彼女は何故かクスクス笑っていた。





「…エアリス?」

「ふふっ。もう、あなた達って、やっぱり、本当可愛い」

「は…?」





可愛いって、なにが?
きょとんとすれば、エアリスはまたクスクス笑ってた。


こうして、どんどん進んでいく迷路の中。

うん、あたしはあれだ。
思った通り、もうすでにどこをどう歩いて来たのか…さっぱりわからん。

だから、前を進んでいくクラウドの背中がいつもに増して頼もしく見えるよ!

…まあ裏を返せば、逸れたらあたしここで死ぬ…!
と言う危機感に襲われて、絶対見失ってたまるか!…みたいな話でもあったりする。





「ねむねむ」

「うん!やっと、会えたね。ごめんね。待っててくれたんだ」





だいぶ進んだんじゃないだろうか。
そう思い始めた頃、人っ子一人いなかったこの神殿の中に見つけた誰か。

…いや、誰か…でいいんだよな?

少し疑問に思う。
人にも見るけど…、人?ってちょっと首を傾げてしまう様な、そんな存在。

エアリスはその存在に嬉しそうに駆け寄った。





「エアリス…。あの、そのお方は…?」





エアリスの反応を見る限り、敵では無いみたい。
でも、何者なのか、エアリス以外にはわからない。

だから聞けば「あ、うん」とエアリスは教えてくれた。





「彼らは古代種の精神体。ず〜っと長い間、星に還らずこの神殿を守り続けてる」

「せ、せーしんたい…?」

「長い年月は彼らから言葉を失わせた。ううん、最初から言葉は要らなかった。神殿に留まった者達の目的は一つだったから」





???????
まさにハテナオンパレード。

ちらっとクラウドに助けを求めてみる。





「何が何だかわからないって顔してるな」

「…はい、まさに」





ご明察です。
だって、わかんないものはわからないんですもの。

だから大人しく、精神体…とやらと話すエアリスをじっと見ていた。





「ねえ、教えて!脅えているの…?セフィロスが神殿にいるから?それとも、他の事?」





意味はわからなくとも、単語くらいは覚えようと努力する。

すると出て来たセフィロスの名前。
そこで改めてツォンの言葉を思い出した。

…そっか。
この神殿の中、セフィロスがいるんだよな…。





「古代種の知識がいっぱい。ううん、知識なんかじゃない。そう…意識…生きてる心…。何か、言いたがってる。ごめんね、わからないの」





奥へ奥へ進むことに、古代種の意識に触れていくエアリス。

精神体の次は、不思議な光の井戸。
エアリスはそれを覗き込むと、耳を澄ませていた。





「えっ?な〜に?……危険? 邪悪な…意識?えっ?見せる?見せてくれるの?」

「エアリス?」





井戸の、向かいにしゃがんでエアリスを見る。
エアリスは顔を上げると、あたしたちの顔を見渡した。





「見せてくれるって。ほら…見て、始まるよ」





そう言われ、あたしとクラウド、レッドXIIIも井戸の水を覗き込んだ。

すると浮かび上がってきた…光景。





《ツォンさん、これは? これで約束の地がわかるんですか?》

《……どうかな? とにかく社長に報告だ》





どこだろう?
たぶん、この神殿の中のどこかにあるのであろう、壁画の部屋。

それを調査するツォンとイリーナ。

…想像するに、少し前の出来事…かな。





《……イリーナ、この仕事が終わったら飯でもどうだ?》

《あ、ありがとうございます。それじゃ、お先に失礼します》





おや。部下に気を配る上司だ。
ツォン、良い奴じゃないか。

こういうのとか、ウータイの一件とか見てると…色々思う。

神羅だって…あたしたちとは敵対してるけど、完全な悪じゃない。
コレルとかの話を聞いてると、その手段には抵抗を覚えるけど。

…そもそもあたしはプレートの上に住んでたわけだし…、お父さん社員だったし。

じゃあ…ケット・シーも…。

立場の違い…。
そんな言葉が過った。





《これが約束の地? いや、まさかな…》





残ったツォンが壁画を見ながら呟く。

その直後…映った光景に、あたしたちにも緊張が走った。





《セフィロス!!》





響いたツォンの声。
それは、隣で一緒にそれを見ていたクラウドの声とも重なった。

浮かぶ、銀色の糸。なびいた、漆黒のロングコート。

背後に現れたセフィロスに、ツォンは目を張った。

セフィロスは口を開き、しばらくふたりの静かなやり取りが続いた。





《お前が扉を開いたのか。ご苦労だった》

《ここは……何だ?》

《失われた知の宝庫。古代種の知恵…知識。私は星と一つになるのだ》

《星と一つに?》

《愚かなる者ども。考えた事もあるまい。この星のすべての精神エネルギー。この星のすべての知恵…知識…私はすべてと同化する。私がすべて…すべては私となる》

《……そんな事が出来るというのか?》

《その方法が……ここに》





その瞬間、セフィロスがツォンを刀で貫いた。

その光景に、うっ…と顔を歪めた。
だからさっきツォンは倒れていたのか…。
繋がったけど、正直見たくはなかったな…。

そもそも、襲いかかってきたとかならともかく、ツォン今何もしてないし…。

理不尽すぎる…。
やっぱり助けといて…良かったかも。




《お前達には死あるのみ。しかし、悲しむ事はない。死によって生まれる新たな精神エネルギー。やがて私の一部として生きる事が出来る》





セフィロスは、薄く笑った。

精神エネルギー…それって、コスモキャニオンで教えてもらった生命学?
でも、私の一部って…なに。

セフィロスの言葉は、相変わらず意味がわからない…。
…だからこそ、余計に怖いのかもしれない…。

映像は、そこで消えた。





「見えた?」





見えていたものが消えると、エアリスに聞かれる。





「…見た」

「オイラも、見えたよ」





レッドXIIIとコク、と頷く。
するとクラウドが立ち上がった。





「……壁画の部屋は何処だ?」

「もうすぐ、ね」





エアリスが道の先を見て答える。





「セフィロスがいるんだな?あいつが何を考えようとここで終わりだ。俺が倒す!」





因縁の相手、か…。
ここで、決着つくのかな?

クラウドが決意するように、ぐっと拳を強く握りしめたのが見えた。


To be continued


少しずつシリアスモードに移行…てか増やしていきたいなー。

ていうか元々FFはシリアスな話ですが…。


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