拭えなくても、振り払えるように
「キーストーン?」
「ええ、古代種の神殿の位置までは掴めなかったけど…。神殿の中に入るためにはキーストーンっていうのが必要らしいの」
ゆらゆらゆらゆら。
波に揺れるタイニー・ブロンコ。
西の大陸まで迎えに来てくれたのはティファと操縦係のシド。
またまたグロッキーになているユフィはさておき、あたしたちはティファから別行動中に集めてもらった情報の話を聞いていた。
「キーストーン…。石…?」
「本当に石みたいよ?古代種の神殿には究極の破壊魔法が隠されてるとか…。まあ全部言い伝えレベルの話みたいだけどね」
「ふーん…」
言い伝えレベル…。
まあそりゃそうだろうな、とどこかで思った。
だって究極の破壊魔法って…なにって話だし。
言い伝え、としか言いようがないのも仕方なく感じる。
でも、あたしたちはそういう細かいものにすがっていくしかないのも事実。
「おら、そろそろコレルエリアの岸が見えて来たぞ」
「え、ほんと!」
そうしていると、シドの声がしてあたしは身を乗り出した。
言われた通り、見えて来たコレルの大陸。
古代種の神殿の鍵キーストーン。
キーストーンは、ある武器職人所持していたらしいが、すでに譲ってしまった後らしく、今所持しているのはゴールドソーサーの園長ディオだとか。
うーわー…。よりによってあの海パン男かよー…。
…なんて思ったのは内緒の話。
つまり、次の目的地はゴールドソーサーだ。
「はっはははははは、久しぶりだな少年よ!」
ゴールドソーサー闘技場の展示室。
そこを訪ねれば、奴はいた。
キーストーンも見つけた。
しかし…あの冤罪の一件のせいでこの園長、あたしは苦手なんだ…。
よって、あたしはなるべく関わらない様、園長の視界のすみっこでこじんまりすることを決め込んでいた。
だって話はクラウドがつけてくれてるもの。
「これを貸して貰えないか?」
「はっはははは、残念だが、貸し出しは禁止だよ。ふ〜む。しかし、話によっては譲らない事もない。君達には、借りもあるしねえ」
でも冤罪の件はバギーの事と言い、色々な面で結果オーライぶりを発揮する。
今回もそうだ。
ディオさんは、クラウドが闘技場に参加して自分を楽しませてくれればキーストーンを譲ってくれると言った。
一件、めんどくさっ…と思ったものの。
よく考えればそんなもん、我らがリーダー元ソルジャーのクラウドにとっては朝飯前だ。
つーことで、あたしたちはこんなにすんなりで大丈夫なのかと心配になるほどあっさりキーストーンを手にすることが出来た。
闘技場で戦うクラウドのイケメンっぷりを存分に堪能できたあたしは二重の意味で大満足だったりして。
…でも、やっぱり世の中ってそう上手く出来ていないもの。
「あっ、お客さん。申し訳ございません!」
さあ、用は済んだ!とゴールドソーサーを出ようとロープウェイ乗り場に向かえば、突然係の人に頭を下げられた。
何事だ、とロープウェイを見れば立入禁止だと言わんばかりのロープが張られてる。
えーっと、これはつまり…。
なんとなく想像はつくけど…。
係の人は申し訳なさそうに、話を続けた。
「ロープウェイが故障してしまいまして」
「……と言う事は?」
「申し訳ございません!修理が終わるまでここから出られないのです」
係の人はまたも深々と頭を下げた。
ああ、予感的中だ。
うん。張られたロープ見た時点でなんとなく予想ついてたよ。
「ゴールドソーサーって、これしか外に繋がって無いんだっけ?」
「確かな」
確認程度にクラウドに聞けば、首を縦に振る。
ゴールドソーサーと外を繋ぐのはこのロープウェイのみ。
つまりは閉じ込められてしまったわけで。
そんな状況で一番落ち着いた対応をしてくれたのは、黒猫のヌイグルミだった。
「しゃあないな〜。時々あるんですわ。せや!ここのホテルに泊りましょ!ちょっと、顔きくんですわ。話つけてきます」
ぽりぽりと頭を掻きながら、思いついたように再びゴールドソーサーの中に跳ねていくケット・シー。
ヌイグルミなのに顔が利くって…なんだ。
って一瞬思ったものの、ああ、そっか。ケット・シーに出会ったのはゴールドソーサーだった。
彼はゴールドソーサーの内情に色々詳しいっぽい。
となると、確かにケット・シーに任せるのがここは一番なのかもしれない。
「よし、クラウド!ケット・シー追いかけよっか!」
「ああ…。…でもなんかナマエ、喜んでないか…?」
「ええ!?そんなことないヨー?」
「………。」
なんだか怪訝な視線が返ってきた。
く、クラウド視線が若干痛いですよ…。
くそう…。ばれたか。
…だって実際のところ、こんなスイスイと物事進んだわけだし。
ちょっとくらい遊んでっちゃ駄目かなー?なんて考えてたあたしにとって、ロープウェイの故障は嬉しい誤算だったりするんだもの…!
「ナマエー!早く行こーよ!」
「あ!待って、ユフィ!」
つーことで、同じようなテンションのユフィと一緒にケット・シーを追いかけるべく、ホテルの方へとダーッ!と駆けて行ったのであった。
「わー、雰囲気あるねー。このホテル」
ケット・シーの案内で連れてきてもらったこのゴールド・ソーサー内のホテル。
前にインフォメーションボードを見た時から気になってたけど、このホテルの名前は『ゴーストホテル』だ。
その名にふさわしく、おどろおどろしい雰囲気が売りの建物。
「なーんだ、ナマエビビってないね?」
「いやむしろ楽しい。よく出来てるなーって思っちゃう」
「ちぇ、ヴィンセントの時みたいな反応すると思ってたのに」
「…だってあれはガチな雰囲気だったじゃん」
怯えるどころか、むしろウキウキしてるあたしを見て、ユフィはつまらなそうな顔をしていた。
まったく、この子は…。
そもそも、あたしは別にホラーは苦手じゃないのだ。
肝試しとか「やろうぜ」タイプだ。
でも、誰が見てもガチそうなのは嫌だよ、そりゃ。
ヴィンセントのは、普通死体が入っているであろうものがドカーン!といったんだから、アレは正常な反応だと思うよ、あたしは!
いやしかし、ヴィンセントはこのホテルがよく似合うな。
ここで働けるんじゃないだろうか…?
いや、まあ…ここに残られても困るからそれはさておき。
作り物だとわかってれば、これはどういう仕組みなんだと考えたくなるに一票だ。
「クラウドさん、どうやろう。この辺でここまでのまとめ、やってもらえませんか?ボクは途中参加やからよぉわからんとこあるんです」
振ってきた首つり人形を見ながらふざけて「きゃー!」なんて遊んでると、ケット・シーのそんな提案が聞こえた。
合流しては別行動、また合流しては別行動。
そんな調子を繰り返してるあたしたちだけど、今はちゃんと全員がロビーに揃ってる。
「おっ!賛成だぜ!」
「それはいい考えだ」
ケット・シーの提案に同じく途中参加…というか最近仲間になったばかりのシドやヴィンセントは乗り気で賛成する。
まあ確かにシドはいまいち状況わかってなさそうだしな。
「俺は最初からいるけど良くわからなくなっちまった。クラウド、何がどうなってんだ?まとめてくれ」
と、思ったらガチで最初っからいるバレットも賛成してた。
ふとした疑問だけど、あたしは最初っから組で良いのかなあ?
でもまあ確かに、こうやって宿に揃ってゆっくり話をしたのって、よく考えたらカーム以来の様な気もする。
あたしは首つり人形から離れ、癒しを求めてレッドXIIIの傍にしゃがんだ。
ううん、このふこふこの赤い毛は本当に癒しだ…!なんて彼を撫でまわしながらクラウドを見上げる。
クラウドは「ふう…」と息を吐き、落ち着きながらひとつひとつの事柄の整理を始めてくれた。
「俺達はセフィロスを追いかけている。セフィロスは約束の地を目指している筈だ」
「約束の地だぁ?」
正に「なんだそりゃあ」的なニュアンスの声を上げるシドにクラウドは頷く。
…うん。やっぱりシドはそんな反応ですよね。そりゃそうだ。
「魔晄エネルギーに満ち溢れた豊かな土地。…これは神羅の考え方だ。実際にはどんなところなのか何処にあるのかすらわからない」
「セトラの民は約束の地へ帰る。至上の幸福が約束された運命の土地。…古代種も約束の地、何処にあるか知ってるわけじゃない。求めて、旅をして、感じるの。ああ、ここが約束の地だ、ってね」
クラウドの説明に補足するようにエアリスが付け加える。
それを聞き、クラウドはエアリスに目を向けた。
「エアリスも…わかるのか?」
「多分、ね」
エアリスは小さく頷いた。
セトラの民…古代種か…。
見事な凡人のあたしにはなかなか未知なお話だ。
話に口を出す余裕も無いほど、ついていくだけで精いっぱい。
お馬鹿な頭が本当恨めしいよ…。
でも馬鹿なりに、エアリスの力になれたらな…とは思うんだけど。
「セフィロスが世界のあちこちを歩き回ってるのは、約束の地を捜してるのね」
黒い綺麗な髪を耳に掛けながらティファが呟く。
エアリスはそれを肯定しつつ、首を振った。
「それだけじゃない、きっと。他にも捜してる物がある」
「黒マテリア…だな」
クラウドの静かな声が、ロビーに響いた。
…黒マテリア。
それは先程、キーストーンを譲ってもらった時に園長から教えてもらったものだ。
なんでも、ニブルヘイムなんかで見かけた黒マント達がその黒マテリアを探しているとか。
「黒マントもわからないわ。数字の入れ墨がある黒マントの人達。何人いるのかしら?」
ティファが難しい顔のままそう溢す。
すると『イレズミ』と言う言葉を聞いた瞬間、撫でていたレッドXIIIがビクッ…と小さく跳ねたのに気がついた。
あたしはポンポン、と頭を撫でながらレッドXIIIの顔を覗き込んだ。
「ん?レッド、どうかした?」
「…ナマエ、オイラの入れ墨は13なんだけど…」
13のイレズミ。
あんまり気にしてなかったけど、言われてみればレッドXIIIの左前足にはXIIIの文字がある。
クラウドはレッドXIIIのそのイレズミを見つめ、目を細めた。
「そのイレズミはどうしたんだ?」
「……宝条にやられたんだ。他のは戦士の魔除けだけど数字だけは宝条がやったんだよ」
「最低でも13人!?」
おずおずと答えたレッドXIII。
それを聞いてティファは驚いた声を上げた。
13人…か。
確かに、そんなに居るとなると、なんか色々面倒そうだ…。
でもそう思っていると、レッドXIIIは俯いて伏せてしまった。
あたしは変わらず、ポンポン…と頭を撫で続けた。
…なんか不安そうだったし。
「…あのね、黒いマントの人達は宝条に何かをされた人達だと思うのね。セフィロスとの関係…それ、良くわからないけど。だから、セフィロス本人だけ追いかければいいんじゃないかな?」
エアリスが言う。
そう問題はそこだ。
黒マントも気になる。セフィロスも気になる。
じゃあどうすりゃいいのか、って話だ。
とすれば、エアリスの言う通り、やっぱりセフィロスを追うのが一番なんだろうな。
するとそのままエアリスは俯いた。
そして言いにくそうに「それにね…」とぽつりと溢す。でもすぐに噤み、首を振った。
「……ゴメン、何でもない!私、疲れちゃった。部屋、行くね」
「え、あ!エアリス!?」
エアリスはそのまま階段を上って2階の部屋に駆けて行ってしまった。
急なその行動に驚いて声を掛けたけど、振り返らない。
「おっ!終わり?あたしも寝るよ!」
「え、ちょ!ユフィー!?」
すると、それを見たユフィも2階にさっさと上がっていってしまう。
エアリスはともかく、ユフィはなんというゴーイングマイウェイ。…流石だあの子。
でも、そんな感じで漂い始めるお開きの雰囲気。
それにケット・シーは納得がいってないようだった。
「何やねん、急に!もう、おしまいですか?黒マテリアの話は、どうなったんです?」
「話したって何もわからないさ」
そんなケット・シーにクラウドは肩をすくめてそう返す。
一方、あたしはすっかりヌイグルミに感心しちゃっていた。
てって、と軽くケット・シーに近づき、その頬をつつく。
「ケット・シーはヌイグルミなのに真面目だねーえ」
「いや真面目と言うか…ナマエさんは気になりませんか?」
「うーん…。クラウドの言う通りさ、今考えてもわかんないと思うから。特にあたしの頭じゃ。ぱっぱらぱーだし」
「…自分でそんなこと言わんといてください」
そう返せば、ぽりぽり、と頬を掻いて、ちょっと笑われた。
だからあたしも笑い返す。
うーん、やっぱりとっても可愛らしいよなあ、このヌイグルミ。
「クラウド…オイラ、ナンバー13だ。オイラもおかしくなっちゃうのかな?」
その時、とぼとぼ…と落ち込みながらレッドXIIIがクラウドの足元に歩み寄っていた。
…ナンバー13。
あの黒マント達と同じナンバー。
宝条博士は、あの通り…どうみても色々ヤバイ。
第一印象の時点でこの人絶対ヤバいよ…って思ったし。
…まあ、あの黒マントの人達の様子を見て…不安になるのは無理が無いだろう。
あたしもレッドXIIIの立場だったら、きっと凄く怖い。
そんなレッドXIIIの傍に、ティファがそっと屈んだ。
「宝条が何をしたのかわからないけど、今まで大丈夫だったんでしょ?」
「でも…」
「弱気にならないで」
「でも、オイラ…」
ティファの励ましの言葉にも、レッドXIIIは俯いたまま。
すると、それを見てティファは表情を硬くし、急に声を張り上げた。
「しつこいわよ、レッドXIII!ウジウジしないで!不安なのはあなただけじゃないのよ!」
その急に張り上げられた声に、あたしはビックリして目を見開いてしまった。
怒鳴られた当の本人のレッドXIIIもビクッとし、あのクラウドでさえ驚いた顔をしていた。
「ティファ…?ど、どうしたの?」
普段のティファからはあまり想像のつかない鋭いその口調に、あたしは肩を叩きながら声を掛けた。
それに気づいたティファは「あ…」とハッとしたような顔を見せた。
「ご…、ごめんなさい…っ。私も疲れてるみたい…。私も、もう休むね…」
「あ、ティファ…待って!」
そして、エアリス達を追う様に階段を駆けて行こうとする。
あたしはそれを止めるように、ティファの腕を掴んだ。
「ナマエ…?」
「ティファ…どうしたの?」
もう一度聞いた。
…なんだろうか。
だって、不安なのはあなただけじゃないって…ティファも不安ってことじゃないの?
なんにせよ、ちょっと様子が変なのは確か。
でも、ティファは首を振ると微笑んだ。
「ううん…本当に何でもないの…。ごめんね…。本当に疲れてるだけ」
「…そう?」
「うん。おやすみなさい」
「…おやすみ」
ティファは階段を上がっていった。
ティファ…絶対何か悩んでる気がする。
でも、聞いてもやっぱり教えてくれない。
今日は、色々とすれ違う日だな…。
お開きになって良かったかもしれない。
あるんだよねー。
こうやって、すれ違って何しても上手くいかない日って。
「…オイラ…」
現に、レッドXIIIはまた俯いてしまった。
たぶんティファの事を怒らせてしまった…とでも思ってるんだろう。
でも、生きてるんだもん。
不安があるのは、仕方ない事なんだから。
「ほーら、落ち込まない!」
むぎゅっとレッドXIIIの顔を両手で挟む。
うん。あたしは頭良くないから、どうしたら不安を拭えるのかとか、そーゆーのはわからない。
でも馬鹿は馬鹿なりに。
だから拭えなくとも、振り払えるように。
少しでも空気を明るく変えられたらな、って思う。
「ナマエ…」
「ティファ、言ってたじゃん。ちょっと疲れてただけだよ」
「……。」
「でもいい?レッドXIII。ティファの言ってた通り、ウジウジすんのは感心できないよ。不安なのはわかるけど、不安は不安しか呼ばないの。ドツボにハマってくだけ。笑う門には福来る!つーことで、わ・ら・え!」
にこおっと大袈裟で間抜けなくらい笑顔を作って促す。
でもこんくらいが丁度いいか。おバカさん見てると笑えてくるじゃん?
その役目、このあたしが買いましょう!ってね。
「…うん、そうだね。オイラ、笑うよ…」
「そうそう!」
「ありがと、ナマエ!」
「よし!」
ポンポン、
また頭を優しく撫でたら、レッドXIIIは少し表情をほころばせた。
うん…。こうやって、大好きな誰かが笑って…嫌な気になる人はいないよね。
暗い雰囲気より明るい方が気持ちいいもんだ。
「……ナマエ?どうかしたか?」
そんな考えが過って、エアリスやティファが駆けていった階段に目を向ける。
すると傍にいたクラウドが声を掛けてくれた。
抱えてる悩みとか、思う事とか。
それぞれ違って、よくわからない。
だから笑うきっかけだけでも、作りたいなあって…。
「んーん。馬鹿は馬鹿なりに、何が出来るか考えないとって思っただけ」
「…馬鹿って、自分の事言ってるか?」
「あの…いちいち確認しないでよ、虚しくなるから…。ま、暗い空気、吹っ飛ばせればいいなあ的な?あたしの取り柄は無駄に弾んでることくらいだし」
思ったままに、にししっと笑う。
そうそう、無駄に元気に騒ぎまくる!…って、短所にも聞こえるけど…。
いやいや、長所だよね!これ!
「そんなこと…ないだろ」
するとクラウドは首を振った。
「…ん?」
「それだけじゃ、ないさ」
「え?」
でもそれは、なんとなく優しいもので。
あたしは首を傾げた。
To be continued
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