宇宙への夢を抱く



「おおー!なんだろ、あれ」





険しい険しいニブル山を越え、辿り着いた次の村。

その村の中心部には、とてつもなく巨大なものがそびえていた。
遠くからも見えたそれ。村に入って近くで眺めても、その迫力は相当なもの。

それは…世界一高く飛ぶ乗り物、ロケットだった。

そのロケットがシンボル。
この村は、そのままロケット村というらしい。うん、なんて覚えやすい。

だけど、そのロケットは錆び付き、傾いていた。





「ナマエ」

「…ん?」

「ティファが情報を集めてくれた。あれが艇長って奴の家らしい。行ってみるぞ」

「あーい」





見上げていると、クラウドに声を掛けられた。

艇長…って誰?
ってちょっと思ったけど、とりあえず皆に付いてきゃ何とかなる!みたいな癖がついてきちゃって…。

さほど気にせず、あたしはクラウドの背中を追いかけ、ひとつの民家を訪ねてみることになった。





「あれ、誰もいない?」





ごめんください、と扉を開け中を覗き込むティファ。
でも艇長さんのお宅、ごあいにくにも御留守だったらしい。

…っていうか、この大人数で押し掛ける意味ってあったのかな?

全員でお邪魔しちゃったもんだから部屋がぎゅうぎゅうだよ…。





「ナマエ、ナマエー!」

「ん、なに?ユフィ」





あーあ…なんて。
そんなことを考えていたら、ユフィにクイクイッと袖をひっぱられた。

…何か妙に楽しそうな顔してる。





「ちょっとこっち来てみなよ、いいもんみっけた」

「人ん家物色かい、ユフィちゃん」

「だーから、細かいこと気にすんなって!いいから来てみなよ。ナマエ絶対叫ぶから」

「叫ぶ?」





早く早く、と急かさる。
そのまま連れて行かれたのは家の奥。

というか抜けて、裏庭へ。





「おおおおおお!」

「ほーら、叫んだ」





裏庭に出た途端、ユフィの言う通り見事叫んでしまったあたし…。
隣で「やっぱりねー」といか言われて、何か若干悔しい思いをする…。くっ…。

でもこれは叫ぶ価値あり、だと思う。

あたしは目の前にある、それを見上げた。





「なにこれー、飛行機?」

「神羅のマーク、タイニー・ブロンコか…」

「って、クラウド!?」





ウキウキしながらユフィに尋ねたはずの質問。

でも何故か返ってきたのは、まさかのクラウドの声だった。

裏庭にいたのはあたしとユフィだけだったはず。
なのに…なぜクラウドがここに居る!?





「クラウドなにしてんの!?」

「俺が居たら何か問題あるのか…?」

「え、いやそーゆーわけではないけども…」

「…あんたとユフィを2人にすると何か仕出かしそうだからな」

「失礼な!」





仕出かすって何だよね?本当失礼な。

そうムスッとしたあたしを過ぎ、クラウドは裏庭に置いてあった小型飛行機、タイニー・ブロンコを見上げた。





「いいな、これ」

「クラウド、盗もうよ!神羅の物盗むのは大好きなんだ!」





するとタイニー・ブロンコの陰からひょっこり顔を出して物騒な事を言い出すユフィ。

…だけどあたしも飛空艇盗んじゃおっか?って言ったことある前科持ち。
つーことでその提案には「物騒な!」って突っ込めない。

というより…。





「ユフィ、ナイスアイディア。これ超乗りたい」





うん。乗りたい。これ、めっちゃ乗ってみたい!
そう欲望が顔出して思いっきり頷いてた。

いやいや。まあ半分冗談だけど。
…てことは半分は本気だったりして。

いやでもね。
もうあたしたちって完全に神羅の敵なわけじゃん?

だから今更神羅相手に何しようとどーってことないと思うんだよね。





「……見張っていようか?」





うんうん頷いていたら、後ろから犯罪の手助けを名乗り出る低い声。
振り向いてそこにいた人物に驚いた。





「ヴィンセント!?」





クラウド同様、いつの間にか裏庭にいたヴィンセント。

…元神羅組のお2人さん。
なんですか、神羅はそういう…人の背後にこっそり現れるの得意なの?そう言う教育でもしてるの?いや、どんな教育だって話だけど。





「およー?ヴィンセントってば、なかなかわかってんじゃーん!」





うりうりー、と肘でヴィンセントを小突くユフィ。

…そうだよ。
ねえ「見張ってようか」って言ったよねこの人…。
やる気満々だよ、ちょっと。こういうキャラだったのか、ヴィンセントって…。

いや、なんか意外で楽しいけどさ…。





「あははっ、ね、どうする?クラウド」





なんか危ない方向に纏まりつつある意見。

やっぱり決定権があるのはクラウドで。
あたしは笑いながらクラウドの顔を覗き込んで聞いてみた。

…その時だった。





「あの……何か?」





ビクッ!!!

裏庭に入ってきたひとつの女の人の声におもいっきり肩が跳ね上がったあたしは小心者です。

うん。そう、いつの間にか色々現れ続けたこの裏庭だけども…。
今度こそ全然まるっきり知らない声だったから、流石にそりゃヤバッと思うよ。

初めて聞く声なんだから当たり前だけど、勿論そこに立っていたのは知らない人。
大人しそうな印象の、白衣をはおった女の人だった。





「いや、何でもないんだ。見せてもらっていただけだ」





クラウドが軽く首を振りながら答えた。
そりゃ盗もうか考えてましたなんて言えるわきゃない。

それを聞くと、その人は「はあ…」と言いながら頷いた。





「私、シエラといいます。…もしそれが使いたいなら艇長に聞いて下さい。艇長はきっとロケットのところにいると思います」





女の人、シエラさんはそう教えてくれた。

また耳にした艇長さん。
まあそりゃここ艇長さんの家なんだから当たり前か。





「中に居た方達に聞いたのですが…貴方達は神羅の方では無いんですよね?」





中の方達…、それはここにいる以外の皆の事だろう。

戻ってきたら家の中に集団押し掛けてて驚いただろうなあ。
ちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。





「ああ。神羅の人間が来るのか?」





クラウドが尋ねるとシエラさんは「はい」と頷いた。





「宇宙開発再開の知らせが来たのかと思って。新社長のルーファウスさんがここへいらっしゃるそうなんです。艇長は朝からそわそわしてますわ」

「ルーファウス!!?」





出て来たまさかの坊ちゃんのお名前。
それにまたまた声をあげてしまった。

えええええ、あの金髪オールバックの坊ちゃん来るのか…!

……うっわー…。

…きっと、あからさまに嫌な顔をしてしまったに違いない。

でも仕方ない!
だってあたしはあの坊ちゃん苦手だもん!

理由?なんとなく!





「ルーファウスか…、面倒な事になりそうだな」

「…あ、やっぱり?」





でもクラウドも嫌そうな顔してた。

うんうん、やっぱ苦手だよね、あの坊ちゃん。
共感してもらえてなんとなく嬉しい。

仲間になって間のないヴィンセントは「…?」って顔してたけどね。





「クラウド…あたしあの坊ちゃん会いたくないよ。てことでさっさと出たいよ、この村」

「ああ…。さっさと用だけ済ませよう。ロケット…行ってみるか」





こうしてタイニー・ブロンコを借りるべく艇長さんのいるらしいロケットに行ってみることにした。

でもダラダラ大人数で行っても仕方ない。
中から選出された2人くらいで行くことに。

1人はクラウド。
もう1人は…。





「おおお!真下から見るとまた迫力!」

「……いいから、さっさと行くぞ」

「へいへーい」





うん。あたしです。

理由はロケット近くで見てみたい!

そんだけ。
うん、実にシンプルで良いよね。





「お前達、何だ?」





ロケットには、中に続く階段が設置されていた。
その階段を上り、見渡しながら中に足を踏み入れる。

わあ、ロケット入っちゃったー!
なんて内心喜んでいる。

でも何しに来たか忘れてない。

そこで見つけたのは、ゴーグルつけた貫禄のある男の人。
その男の」人はロケットに入ってきたあたしとクラウドを見るなり、ぶっきら棒に声を掛けてきた。





「艇長がここにいるって聞いてきたんだ」

「艇長だと?艇長とはオレ様の事だ!親から貰った名前はシド。みんなは艇長って呼ぶけどな。で、何の用でい?」

「このロケット、本当に宇宙まで飛んでけるんですか!?」





何の用、その問いかけに真っ先にあたしはそう聞いていた。
そしたらクラウドから「何しにきたんだ、あんた」的な視線をひしひし感じた。

でも、そこは見なかった振りだ…!

だってさ…いーじゃん!いーじゃん!
目的はちゃんと覚えてるけど、せっかく艇長さんに会えたんだよ?
だから聞きたいじゃないのさ!?こんな機会めったにないよ!?

飛空艇とか飛行機とか、ロケットとか!チョコボとか!
…あ、チョコボは違うか。

とりあえず、そういうの、結構あたしは好きなのだ。
なにより、ミッドガルに居たんじゃこんな機会きっとなかっただろうから。

するとクラウドとは対照的に、艇長は妙にあたしの言葉に食いついてくれた。





「お!嬢ちゃん、宇宙に興味あんのかい?若いのに感心じゃねえか!」

「いや、だって凄いことだなあ…って。飛空艇よりさらに高くだし」

「おうよ!飛空艇とくりゃハイウインドだ!ありゃ俺の名字を取ってんだぜ?」

「ええ!あ、だから艇長なのか!すごーい!じゃあアレに乗ったことあるんだ!」

「ったりめえよ!パイロットとしちゃ俺は神羅一、いや世界一だ!」

「おおー!世界一!でかいっすね!」

「夢はでかくなけりゃな!なかなか話のわかる嬢ちゃんだな。気にいったぜ!」

「やった!クラウド!気に入られた!」

「………。」





なんかこの人、熱いな!
こういうテンションは嫌いじゃない。

くるっと振り返ってクラウドにピースしたら、クラウドは何か若干引いているようにみえた。えええ!?なんで!?

でもそんなのお構いなしに、シドは熱くロケットについて語ってくれた。





「長くてくだらない戦争中に神羅カンパニーがいろんな技術を開発したのは知ってんだろ?今は魔晄屋だが、昔は兵器開発会社だったからな。そんな中でよ、ロケットエンジンが出来ちまったんだ。で、完成したのがこの神羅26号だ」

「へえ…、そうだったんだ」

「おう。パイロットには俺が選ばれた。いよいよ迎えた打ち上げの日。何もかもが上手くいってた。ところがあのノロマのシエラのせいで打ち上げはおじゃん」

「…シエラ?」





シエラって、確かさっきの女の人だ。
打ち上げがおじゃん…?

あたしは首をひねった。
その話を口にする時、シドが歯を食いしばったのがみえたからだ。





「それがケチの付け始めよ。神羅は宇宙開発計画を捨てやがった。あれだけ、これからは宇宙だ!な〜んて言って希望持たせてやがったクセによっ!魔晄エネルギーが金になるとわかったらもう終わりだ。宇宙計画なんて誰も見向きもしねえ」

「ああ…うん、まあ、今は確かに完全に魔晄、ですね」

「かね、金、カネだぁ? オレ様の夢をソロバン勘定だけで棒に振るない!見ろい…この錆だらけのロケットを。こいつで、オレ様は宇宙へ飛び出す最初の男になる筈だった。今じゃ、毎日ちょこっとずつ傾いてらあ。この分だとこいつが倒れるのが先か、オレ様がおっちぬのが先かってくらいだ…。…今回の、若社長が来るって話だけがオレ様に残された最後の望みさ…」





つまり、この人はこのロケットの作戦に物凄く愛着を持っていた…ってことか。

で、ここにてルーファウスの話。
ルーファウスの名前が出てやっと、クラウドは口を開いた。





「ルーファウス、来るって?」

「おう!きっとよ、宇宙計画が再開されるって話にちげえねえ。やっぱり若い社長に限るぜ!夢があっていいやね」





若社長…、夢がある…。
そう嬉しそうに語るから、なんとなく言いづらくなっちゃったんだけど…。

正直、あのルーファウスが宇宙とかに興味ある様には見えない…。
世界を恐怖で支配する…とか何とか演説しちゃうような奴だしなあ。

ちらっ、とクラウドを見ればクラウドも首を振っていた。
多分違うだろうな、って顔だ。

そして、やっと当初の目的にこぎつけることに。

あははは…楽しかったけど、思ったよりシドの話は長かった。
妨害しちゃってゴメンねー…。胸の中で謝っておいた。





「…ところで、小型の飛行機があんたの家にあるだろ?」

「タイニー・ブロンコか?それがどうした」

「あれを貸して貰いたいんだが」

「ああ!?な〜にバカな事言ってやがるんだ!あれは大切なもんなんだ。貸せねぇよ」





しかし、一瞬も悩むことも無く却下される。
そ、即答ですか…。

一応あたしも聞いてみる。
ほら、今ちょっと仲良くなれたし?





「どうしてもですか?」

「たりめえだ!」

「どうしても、どうしても、どーうしても!?」

「何度言われても貸せねえよ!」





しかし惨敗…。
ううう、結果変わらず…。

たぶん粘っても駄目そうだな、これは。





「ナマエ、仕方ない。戻るぞ」

「…うんー」





ロケットの外に出たクラウドを追いかける。

てことはやっぱ盗人大作戦ってことかな…?
ぶっちゃけ後で聞いた話ユフィとヴィンセントだけじゃなくてバレットやエアリスも「頂いちまおう」「貰っちゃおう」テンションだった。

ティファは「貸して貰えないか」で、レッドXIIIは「勝手に乗っちゃマズイかなー」とか。

ケット・シーは「こんなもん取ったらえらいことになるで!」って。
…うん、彼が一番良識的っぽい。

ヌイグルミが一番良識あるって一体…。
半数以上が盗もうベースなあたしたちって、物凄ーく物騒な集団だなあ。
いや、あたしも物騒サイドだけど。


ともかく、皆が待たせてもらってる艇長さんの家へ。
あたしとクラウドは再び戻る事にしたのだった。



To be continued


シド登場!
歴代シドで一番好きです、7のシドは。


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