折れた翼は海に墜ちる
艇長シドと話した後、皆が居るそのシドの家に戻ってきたあたしとクラウド。
タイニー・ブロンコを貸して欲しいと言う申し出はあっさり断られてしまった経緯を皆に説明した。
「だからー、黙って取っちゃむぐぐぐ!」
シエラさんの前だと言うのに盗むことを口にしようとしたユフィの口を慌ててふさぐ。
ちょっとは考えんか!この忍者娘め!
あたしだって流石にそれ言っちゃマズイのくらわかるぞ!
まあ確かに、最終的にはそうするしちゃうかも…だけどさ。
それはそれだ。
「あ…クラウドさん。艇長、何か言ってました?」
その時、シエラさんはクラウドにシドのことを尋ねていた。
こんな大人数を快く迎えてくれたシエラさん。
嫌な顔一つしないで…良い人だなあ…。
「いや…」
「そうですか…」
クラウドが首を振ると、シエラさんは小さく俯いた。
…そういえば、シエラさんってシドの何なんだろう?
奥さんかな?いや、まあ一緒に住んでるっぽいし、そりゃそうか。
そう考えていると、噂をすればなんとやら…か。
ガチャリと扉が開いて、シドが帰ってきた。
すると、家に居た大人数に一瞬目を丸くする。
…ああ、やっぱり。
でもそれにはそんなに気にすることも無くて。
…目を向けたのはテーブル上、だった。
直後、シエラさんを怒鳴りつけた。
「ケッ!シエラよう。どうしてテメエはそんなに鈍くせえんだよ!客が来たら茶くらい出せよな、このウスノロ!」
「ご、ごめんなさい!」
いきなりの怒声。
今度はこっちが目を丸くする番だった。
怒鳴られたシエラさんは慌ててシドに頭を下げる。
も、物凄い怒鳴り方…。
亭主関白…?
その様子を見かねたクラウドが軽くフォローを入れた。
「俺達の事は気にしないでくれ」
「うるせぇ!ウダウダ言うな!客は、椅子に座っておとなしくしてろ!あ〜っ!腹が立ってきた!おい、シエラ!俺様はタイニー・ブロンコを整備しに裏庭に行ってるからな!客に茶ぁ、出しとけよ!わかったな!」
でもフォロー利かず。
シドはドスドスと裏庭の方に出て行ってしまった。
…正直、一同唖然。
ていうか…アレは、ちょっと…。
「シエラさん、可哀想」
「むっか〜!態度、悪いわよ!」
「なんか嫌な感じ〜!」
「確かにあれはない…かな」
順に、ティファ、エアリス、ユフィ、あたし。
やっぱり思っていたのはあたしだけじゃないみたいだ。
そりゃそうだ。
同じ女として良い気はしない。
女の人は大切に!でしょ、やっぱ!
「けっ、いけすかねえ野郎だ」
「なんて奴だよ…!」
「なんや、ごっつうキツイ人やなあ〜」
バレットやレッドXIII、ケット・シーも続く。
どうやら男から見てもやっぱりアレらしい。
や、まあ、誰の目から見てもキツイのは明らかか。
ヴィンセントは黙ってるけど、目がちょっとコワかった。
うん、あれは同じこと考えてると見た。
「悪かったな。俺達のせいで」
「とんでもない。いつもの事です」
クラウドが謝ると、シエラさんは首を振った。
いつものこと。
するとそれを聞いた皆は更にヒートアップした。
「いつもだって?そりゃひでえな!」
「それは酷過ぎると思う」
「あたしならぶん殴ってやるよ!」
「いっつもあんなにガーガー言われてますんか?たまらんなあ…」
「いつもあんなこと言われて黙ってんの?」
「……よく耐えてるな」
次々発せられる批難の声。
ちなみに最後はの台詞はヴィンセント。
あ、やっぱ同じこと考えてた…。
最初は意味不明だったけど、考えが読めてきてちょっと嬉しい。
でも…さっき話した限りはシド、悪い人には見えないけどな。
皆の印象は最悪になっちゃっただろうけどね。
……シエラさんへの態度はキツ過ぎと思うけど。
「どうしてシドは貴女にあんなに辛く当たるの?」
皆が怒りモードになっている中、そう優しく尋ねたのはティファだった。
流石はティファだ。
ティファ優しい!ティファ女神様か!!
ティファの言葉に、シエラさんは悲しそうに目を伏せた。
「私がドジだからしょうがないんです。私があの人の夢を潰してしまったから…」
そう言ったシエラさんの顔、さっきロケットの中で見たシドの顔と被った気がした。
夢ってのは、たぶん宇宙に行く話のやつだろう。
シドも似たようなこと言ってたっけ。
シエラさんのせいで、おじゃんだとか何とか…。
シエラさんは、訳を詳しく教えてくれた。
「ロケット打ち上げの日…。私は酸素ボンベのテストで満足のいく結果が得られなくて、発射のカウントが始まっても点検を行っていたんです。あの人は、私を助けるためにエンジンの緊急停止スイッチを押して…。それ以降、宇宙計画縮小が決まってロケット発射は中止になりました。私のせいで、あの人の夢が逃げていったんです…。だから…いいんです。艇長がどう思おうと、私はあの人に償わなくてはなりません」
シドはシエラさんを助けて、夢が遠のいた。
なるほどなあ…。
さっきのシドの話とシエラさんの話、これで繋がった。
でも、シエラさんの不安が的確なものだったら、シドは宇宙で死んでいたかもしれない。
だけどシドはシドで逃げていってしまった夢への未練が解けなくて…。
ううん…。
どっかで何かが絡まってるみたい。
なーんか歯がゆい…。
そんな話の後、裏庭の扉が開く音がしてシドが戻ってきた。
そして、また怒鳴った。
「シーエラッ!ま〜だ茶を出してねえな!」
「ご、ごめんなさい」
シエラさんはまた頭を下げて、カチャカチャと食器に手を伸ばした。
…あー…。うー…。
ワケは分かったけど、やっぱりこれはちょっとなあ…。
亭主関白はやっぱり嫌だよねえ…。
そう思って「はあ…」と息をついた時、だった。
「うひょー!」
ばーん!
謎の奇声と共に開いた家のドア。
いきなりすぎてビクッと肩が跳ねた。
ちょ、何事だ!?曲者か!?
でも聞き覚えあったその奇声。
バッと振り向けば…目に入ったのは太っちょ。
……ああああああ!!!
「うひょ! 久しぶり!シドちゃん、元気してた?」
「よう、太っちょパルマー。待ってたぜ!」
そそいつはいつかの神羅ビルで見たパルマーだった。
シドはガバッと椅子から立ち上がり、手を広げてパルマーを迎えはじめた。
…そういや、コイツ、宇宙開発かなんかの統括だったような気がする…。
「で、いつなんだ?宇宙開発計画の再開はよお?」
「うひょひょ!わし、知らないな〜。外に社長がいるから聞いてみれば?」
「ケッ! 相変わらずの役立たず太っちょめ」
「太っちょって言うな〜!」
あたしたちの存在など目に入っていないかのように話を進めるシドとパルマー。
ああ…。相変わらずこのうひょうひょ気になる…。
やっぱりなんかド突きたくなる…!
…でも、そんな衝動をグッと堪える。
だって今のパルマーの台詞、そっちの方がよっぽどだもの。
今コイツ、社長来てるって言った…!!!
「…クラウド…、ルーファウス来ちゃったってよ…!」
「…ああ」
嫌だー!っていう意味を込めてクラウドに耳打ちした。
するとクラウドも同感だ、みたく頷いてシドを追いかけるように扉に手を掛けた。
「…様子、見てくる。皆はここにいてくれ」
クラウドは外に出ていった。
その背中を見送ると、また聞こえてきたうざい声。
…やっぱりド突きたい。でも耐える。
「うひょ!お茶だ!わしにも頂戴。砂糖と蜂蜜たっぷりでラードも入れてね」
お茶の準備をするシエラさんの後ろでそう注文するパルマー。
でもその注文に絶句した…。
…お茶に砂糖と蜂蜜とラード!?
うっぷ…想像するだけでキモチワルイ…。
うえええ…と顔を歪めると、下からレッドXIIIが心配するかのように覗き込んできた。
「ナマエ…顔、青いよ」
「だってレッド…聞いた?今の」
いやいや、ありえないよ、それは。
なんだその気色悪い三拍子。
こってこってじゃないか…!ああ、きもい…!
ゲーッてしたら、エアリスも小さく苦笑ってた。
「ふふ、まあ…確かにね。でも、あの人、私たちのこと覚えてないのかな?」
「でも、それならそれで好都合じゃない?」
ティファも入ってきて、そう言った。
…確かに。
覚えてられてもそれはそれで面倒な事になりそう。
パルマーは本当にシエラさんから砂糖、蜂蜜、ラード入りのお茶を受けとりゴクゴクと飲み干していた。うっぷ…。
そしてコップを返すと同時にこう言った。
「うひょ。タイニー・ブロンコは裏庭?あれ、持っていくからね」
……!
その言葉には、真面目に反応した。
タイニー・ブロンコを持っていく…。
神羅の狙いもあの飛行機ってこと…?
その言葉通りパルマーは裏庭の方に歩いて行った。
って、のままじゃ神羅に持ってかれちゃうじゃないのさ…!
「あたし、クラウドに教えてくる!」
とりあえずクラウドに伝えた方がよさそうだ。
ってことでパルマーの事は皆に任せ、あたしはクラウドを追いかけて外に出た。
「クラウド!」
「…ナマエ」
外で様子をうかがっていたクラウドの肩をそっと叩きながら声を掛けた。
その時、ちら見をすると確かにルーファウスがいた。
…相変わらず冷たい目…。
やっぱ何か苦手だな…あの坊ちゃん….
まあ、そんなあたしの感想は良いとして。
見るに、ルーファウスはシドと何か言い争っていた。
…と言うよりはシドが一方的に文句言ってるのか。
でも今はそんな場合じゃない。問題はタイニー・ブロンコだ。
神羅に取られるくらいならさっさと盗むべきっしょ!
取ったもん勝ちだよ!そんなもん!
「あのね、パルマーがタイニー・ブロンコ持ってっちゃうって」
「ああ、ルーファウスも同じような事を言っていた。裏庭に行くぞ」
「…うん!」
頷いて、あたしたちは急いでシドの家に戻った。
裏庭に着けば、タイニー・ブロンコはまだそこにあった。
でも動いてる。エンジンが稼働してた。
プロペラが回り出し、今にも飛び上りそうな状態になってる…!
「ナマエ!クラウド!」
「止まらないの!」
ティファやエアリスが焦ってる。
…一方で、その時目の端っこに何かピクピクしてるのが見えた様な…。
ちょっと目を向けると、パルマーが庭の端っ子で伸びてた。
…皆にブッ飛ばされでもしたのか…?
いや。別にどうでもいいけど…。
あんな奴より今はタイニー・ブロンコのが重要だし。
「構うな!乗り込め!!」
もう止まらない。
それを判断したクラウドは皆に向かって叫んだ。
それに従い全員が乗り込む。
でも、どうみても明らかに定員オーバー。
それでもちゃんとタイニー・ブロンコは浮き上がった。
おおお!すごい!ちょっと感動。
機体は高く飛び上がり、民家を越えて行った。
「んああああ!?」
すると、まだ何か話しているシドとルーファウスが見えた。
シドは飛び上がったタイニー・ブロンコを見て驚いた声を上げた。
「おい!てめーら!」
そして、とっさの判断で追いかけ駆け出し、飛び乗ってきた。
…なんで!?
でもそんな疑問抱いてる場合じゃない。
だってこっちは命がけだんもの!
ルーファウスは兵に命じて「撃ち落とせ!」と銃を放ってきた。
それにはギョッとせざるを得ない。
「うわああああ!?やっぱ冷酷ー!!」
「ナマエ!伏せてろ!」
叫んだらクラウドに注意された。
いやいや!あの坊ちゃん、まじ何なんだ!
人が乗ってるでしょ!思いっきり!見えてるでしょ!
なのに普通に発砲ですか!?
と思ったところで銃声は止むはずも無く。
けど、なんとか人には当たらなかった。
…でも人には、という部分が重要ですよ。
カン、という金属音。
弾は…尾翼に弾が命中してしまった。
ガクン、と大きく機体が揺れる。
「シィィーット!!尾翼がやられてるじゃねえか!」
「不時着か…」
「さあ、でっけぇ衝撃が来るぜ。チビらねえようにパンツをしっかり抑えてな!」
少しずつ高度が落ちていく。
シドのお下品な言葉に「ぱん…」と溢しつつ…。
でも今はでっけぇ衝撃とやらに備えた方が身の為っぽい。
…って、どう備えろっていうんだ!?
実際パンツなんて押さえてる場合じゃなくない!?
とりあえず、ぐっ…と機体にしがみつく。
うああああ…!こええええ!!!
そうビビりながら映ったのは真っ青な海。
バシャーーーーン!!!!
大きな水しぶきが跳ねた。
「こいつはもう飛べねえな…」
海に落ちてしまったタイニー・ブロンコ。
その機体を見つめながら、シドは肩を落とした。
「ボートの代わりに使えるんじゃないか?」
そんなシドを知ってか知らずか、そう言ったのはクラウド。
…なんか前向き!ていうかリアリスト…!
でも確かに、飛べないだけでエンジンとかはかかるから、ボートにはなりそう。
「ケッ!好きにしろい!」
もうヤケクソだ!みたいに返すシド。
…ところで今更何だけど。
なんでシド、こんなナチュラルに混じってるんだろう…?
だから聞いてみる。
「シド、こんなとこ居ていいの?」
「あん?別にいーだろ。神羅とは切れちまったし、村は飽きちまった」
「…奥さんは?シエラはいいのか?」
あ、そうだ、シエラさん…。
クラウドが聞くと、シドはギンと目を見開いて大きく首を振った。
「奥さん?笑わせるない!シエラが女房だなんて鳥肌が立つぜ!」
思いっきり、すごい勢いでの否定された。
て…あれ、奥さんじゃなかったのか。
予想外れちゃった…。
けど…それでも尽くすところを見ると、相当責任感じてるのかな…?
んー、でもあるいは…。
まあ、それは勘…だけど。
だって、情がなきゃ、尽くすって…なかなか出来ないだろうし。
「お前らはどうすんだ?」
「セフィロスという男を追っている」
ぼーっと空を見上げながら色々考えてた。
その間、クラウドはシドに旅の目的を説明していた。
するとそれに妙にシドは食いついた。
「何だかわからねえが……面白そうじゃねえか!俺様も仲間に入れろ!」
「え!?」
何故だか楽しそうにそう言うシド。
そのテンションについ驚きが漏れた。
だって良いのか!?そんなノリで!?
まあ…あたしの同行もぶっちゃけノリって言うか、その場の流れみたいなもんだけどさ。
全体的にシドの加入に関しては皆どっちでもよさそうだ。
あたしはさっき話して妙に波長があったと言うか…だから賛成サイドではある。
「ああ、いいだろう」
クラウドは少し考えると了承した。
シドはパイロット。メカニック。
今、ここにバギーは無いものの、この間のように機械に関して知識が欲しい時が今後あるかもしれない。
でも今のあたしたちの中にそっち方面で特別詳しい人はいないから…。
シドが仲間になってくれれば、そういう点で頼りになりそうだ。
クラウドの判断はそういう部分もあるらしい。
「この時代、神羅に逆らおうなんてバカ野郎のクソッタレだ!気に入ったぜ!よろしくな、クソッタレさん達よ!」
「クソッタレ…」
シドは豪快に笑った。
うん、口はめっちゃ悪い。
普段クールなクラウドも流石にクソッタレ発言には顔を引きつらせていた。
…やるなあ、シド。
それを見てあたしは妙な関心を覚えたよ。
「で、何処へ行くんだ?ルーファウスの奴はセフィロスを追って古代種の神殿に行くってほざいていたが」
「本当か?!」
しかも有力な情報を提供してくれる。
今度はクールなクラウドの目を見開かせてみせた。
…本当にやるなあ、シド。
「古代種の、神殿…」
それを聞き、エアリスは呟いた。
シドが言ったその地名に一番難しい顔をしていたのはエアリスだった。
まあ、そりゃそうだろう。
古代種の神殿。これほどあからさまに気になる名前もそうそうないよね。
「あのクソ息子は見当違いの方向って言ってたからここからかなり離れたところじゃないのか?」
「…そうか。情報を取るためにとにかく陸地を捜そう」
見当違いの方向。
…あまりにも大まか過ぎて全然わかりません。
クラウドの言うとおり、情報を探すしかないだろうな。
そう意見が纏まりつつある中、よよよ…と震えながら挙げられた手が一つ。
「………エヘ。西へ行くっての、どう?ぜ〜んぜん理由なんかないけどね。もう、ぜ〜んぜん!」
それは、タイニー・ブロンコでの飛行および不時着の衝撃により酔いが回ってるユフィの手。
そんな顔面蒼白で、どっからどうみても怪しげな笑顔を作ってる。
…うん、なんだろうねえ…。
むっちゃくちゃ怪しい。
「…ユフィ、何か企んでない?」
「た、企んでるって何だよ!失礼だな!…うぷっ」
怪しいと感じているのはあたしだけでは無い様で。
エアリスに指摘され一瞬威勢よく言い返してたけど、酔いに負けてまた項垂れる。
ティファはそんな背中を優しく撫でいた。ティファは優しいなー。
…まあ、誰がどっからどう見てもユフィが怪しいのは明白。
クラウドも一瞬迷いを見せたものの、しばらく考えた結果…頷いた。
「まあ…行ったことのない方角ではあるな。西、行ってみるか…」
「お!そーこなくっちゃ!…うっぷ」
酔いながら喜ぶユフィ。
あーあ…ユフィ酔いも、西へ行くのも…色んな意味で大丈夫だろうかねー。
ともかく、新しい仲間シドを加えて。
タイニー・ブロンコは波の上を進みだした。
To be continued
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